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不思議な出会い



 夜の真っ暗な小学校で1人ぼっちなマメは、うずくまってめそめそ泣いていた。



 なんでこうなちゃったの…。

 そう思いながら、マメは昼休みでの話を思い返していた。



 「なあ、明日学校で肝試し(きもだめし)しねぇ?」

 そう話していたのは、たっつんという愛称(あいしょう)で親しまれているクラスメイトだ。一緒にいるのはボーダーの服が好きなシマシマくんと(はじ)っこが好きなハジくんだ。

 「なんだぁ。急に、肝試しって。」シマシマくんが大きい声でいうのでたっつんが「しっ!」といって止めた。

 「うちの学校、夜になると怖いお化けが出るっていってたろ。」

 「うん」たっつんの言葉に2人は真剣な顔でうなずく。今朝方、上級生からお化けのうわさを聞いたのだ。

 「オレらでさ、たしかめるんだよ。」

 とたっつんはワクワクした顔でいうと、ハジくんは不安そうな顔でいう。

 「だって、ほんとうに出たらどうするんだ?食われちまうんだろ。」

 「おれらなら大丈夫だって。みんな一緒なら怖くねぇって。」


 その会話が何となく聞こえていたが関係ないと思っていたぼくに、唐突(とうとつ)

 「なっ、マメも行くよな?」

 という声が向けられた。

 たまたま近くにいたからなのか理由はよく分からなかったけど、小学校2年1組の同じクラスの子たちと仲良くなりたかったぼくはチャンスだと思い、ついていくことに決めた。


 「お母さんや先生には絶対にいうなよ」とたっつんたちに強く念を押されていたけれど、夜の学校に忍び込んだのがバレたら怖いし、本当にお化けが出たらと思うと心臓が飛び出してしまいそうな気持ちだ。


 それでも声をかけてもらえたのがどうしようもなくうれしくて、この時はちょっと浮かれてた。


 そして、ついにこの時がやってきた。


 ぼくらは学校に家が1番近いハジくんの家に泊まるふりをして、うまく合流した。


 昼間の明るくてにぎやかな学校と違って、夜の学校は(しず)かで暗くて、自分が思っていたよりもはるかに不気味な感じだ。


 懐中電灯(かいちゅうでんとう)をもった、たっつんは「お化けってどこにいるんだろうな?」

 といいながら、なにくわぬ顔でぐんぐんと校内を歩いていく。


 「見つけたらいってなぁ。これでつかまえっから。」

 とシマシマは手に持った虫取りあみをゆらゆらとさせた。


 ぼくはビクビクしながら必死に2人の後に続き、不安そうな顔をしたハジくんと時々顔を見合わせた。



  ―そう、あれはちょうど音楽室の近くに来た時だった



  ガタガタ

  キイキイ

  パタパタ



 という音がした。とびらや窓が突然(とつぜん)ゆれだしたのだ。


 そして、


  フフフフフ


 という不気味な笑い声まで聞こえてきた。


 「うわああああっ」

 怖くて、ぼくは悲鳴(ひめい)を上げだ。

 「まずいよ!たっつん!」

 「おおおおばけだ!食われるぞ!」

 ハジくんとシマシマもあわてて、声を上げる。不気味な声がだんだんとこちらに近づいてくる。

 「逃げるぞ!早く!!」

 そういう、たっつんもさすがにまずいと思ったようだ。

 ぼくたちはたっつんの言葉で、一目散(いちもくさん)に逃げだした。


 しかし、あろうことか逃げる途中で思いっきりつまずいて転んでしまったぼくは、あっという間に3人に置いて行かれてしまったのだ。

 

 …どうしよう。


 1人でいるところに、お化けが(おそ)ってきたら、たちまち食べられてしまうかもしれない。


 怖い。怖いのに体が思うように動かなかった。


 ああ、もうだめだ。


 怖くて、不安で、もう前に進むこともできなくて、マメはうずくまってめそめそ泣いていた。


 なんでこうなっちゃったの…。


 そう思いをめぐらせていると、


 …あっ。


 ふと、お化けがあらわれた時のために戦えそうな物をカバンに入れてきたのを思い出した。


 取り出したのは、ハサミと30センチある長いものさしだ。


 これでどうにかなるかは分からないけれど、何もないよりはマシだ。



 ――その時、また


 ガタガタ

 キイキイ

 パタパタ


 という音とともに、


  フフフフフ


 という笑い声が近づいてきた。



 ……くる。



 お化けが向かってくる。



 思わず、息を飲む。心臓がバクバクとうるくなった。


 ハサミとものさしを強くにぎりしめる。



 ―すると、とつぜん


 黄色くてふにゃふにゃとした何かが、パッと目の前にあらわれていった。



 「おーばーけぇーーー!」



 「うわああああっ」


 おどろいたマメはその何かに向かって持っていたハサミをなげた。


 しかし、ハサミは運悪く壁に当たって()ね返り、自分へと向かってくる。


 「うわああああっ」



 つぶった目を離すと、ハサミは目の前をフワフワと浮かんでいた。


 なんで?

 その奇妙(きみょう)な光景に目をパチパチさせる。



 「ねぇ、さっきのどうだった?」

 「怖かった??」


 お化けとは思えないくらい楽しそうな明るい声がする。

 そこには、さっきの黄色くてふにゃふにゃした何かがいる。それは、下に降りて人の姿へと変わった。


 「だれなの?」

 「お化けなの??」


 フフフフフ


 「私の名は聞いただけで恐ろしいぞ」


 「え!?」

 名前を聞いたつもりじゃなかったけど、恐ろしい名前と聞くとなんだか体が固くなる。


 「その名は…」


 「もやし!!!」


 もやし…。え、もやし!?


 「どうだ!恐ろしくて声も出ないだろう」

 すっかり自分と同じくらいの男の子になった黄色いふにゃふにゃは、どこか自慢(じまん)げだ。


 でもその名前は、白くてひょろひょろしていて、ちょっと弱そうだ。あと安そう。


 思ってたよりも全然こわくない名前に少しほっとする。


 「ねぇ、その…もやしは、怖いお化けなの?」

 ぼくは思い切って聞いてみた。


 「フフフ。ここにいるお化けたちの中では最強に怖い。そして最強に面白いし、とても楽しいぞ。あまりに最強すぎて、周りのお化けからは人前には出ていくなって言われるんだよねぇ。」


 怖くて、面白くて、楽しい?と思ったけれど、反応する間もなく、もやしは


 「そうだ!ねぇ、マメは肝試しするんでしょ?」

 と、いった。


 「そ、そうだけど…みんな行っちゃったし」


 「じゃあ私と肝試ししようぞ!

  決まり!いえーーい!!」


 いや、絶対肝試しするテンションじゃない。


 人の話を全然聞いてくれないもやしは、そういって姿を消した。


 黄色くてテンションの高いお化けとのやり取りで、気持ちが落ち着いてきたマメの体には自然と力が入り始めた。


 とりあえず、出口を目指してゆっくりと歩みを進める。

 でも、まだ油断はできない。うわさに聞いたお化けは「食べる」らしいからだ。


 ―すると、


 近くの教室のとびらが突然ガラッと開いた。


 「うわあっ」

 思ったよりも(おどろ)かなかったのは、それがもやしの仕業(しわざ)であるという確信があったからだ。


 そして、開いたとびらからはたくさんのふぞろいなチョークがフワフワと浮かんで出てきた。


 襲いかかってくるのかもしれない。と、姿勢を構えると、


 チョークは予想外にぐるぐるとまわりだし、


 星のマーク☆をつくり、うさぎの形、飛行機の形など、次々にいろんな形に変わった。


 それはまるで今年みた打ち上げ花火みたいだ。


 「フフフフフ。どうだ怖いだろう」


 また、音楽室からなんだかよく分からない無茶苦茶(むちゃくちゃ)な音楽が聞こえてくると思ったら、変な歌も聞こえてきた。もやしだ。


  きょーうのおやつもドーナッツ♪

  あしーたのおやつもドーナッツ♪

  あなが空いていて持ちやすいぞっ♪


 そういえば、最近、家庭科の授業でみんなでドーナッツ作ったなぁ。あの時数が足りなくなって大騒(おおさわ)ぎになったっけ。


 そのあとも、

 壁の向こう側からピースサインの手が出てきたり、人体模型(じんたいもけい)が出てきて変なダンスを(おど)り、ついでにもやしも出てきて踊り、最終的には自分も一緒に踊った。


 いや、これ絶対肝試しじゃない!

 と思ったが、おかげでちょっと楽しかった。


 こんな肝試しならなんだかいいかもしれないとさえ思えてくる。

 

 それに、あのお化けは「人を食べる」なんてことしないだろう。だって、ただ楽しく遊んでいるようにしか見えないのだから。


 「あっ、出口…」

 いつの間にか入ってきた下駄箱のところまで来ていた。もやしがあらわれてからは、時間があっという間だったような気がする。


 「私はここまでだ」

 そうもやしがいった。

 もやしは、学校の外には出られないらしい。


 「安心するんだぞ。夜は暗いだけで、実はそんなに怖くないんだ。

  マメ…気をつけて帰るのだぞ。」

 ともやしはやさしい声でいう。

 「また会える?」

 ぼくは、なんだかちょっとさみくなってきいた。

 「私は昼間は姿が見えないだけで、ずっとここにいるのだぞ。」


 「そっか。」

 会えないわけじゃない。それでも、今日みたいな日はこないんだ。そう思うと悲しいし、さみしかった。

 まだ一緒にいたい。でも、帰らなくちゃ。お母さんも心配しているかもしれない。

 もやしに手をふると、暗い夜道をゆっくりと進む。


 ―ふと、遠くからかすかにもやしの声が聞こえた気がした。


 気のせいかな?そう思いながら、学校の方角をみる。

 「マメ、忘れ物ー!」

 明るいもやしの声が飛んできた。いや、飛んできたのは声だけでない。もやし本人もだった。もやしの手にはあの時のハサミがある。

 マメは目を丸くして、

 「それより、もやし、出られないじゃなかった?」

 と、学校の外にいるもやしに驚いてきいた。

 「あ、ほんとだ。なんか出れた。」

 「なにそれ。」

 軽い調子のもやしにマメは拍子抜(ひょうしぬ)けして笑った。この感じがもやしらしい。


 「このままマメの家行っちゃおうかな〜」

 「えー、お母さんになんて言おう…」

 というが、マメの口元は上がっていた。

 「大丈夫。私は(かく)れるの得意だぞ。」

 「そっかぁ。」


 真っ暗な夜道を月明かりのように光る男の子とともにマメは並んで歩き出した。




 月曜日、教室に入ってすぐに

 たっつん、シマシマ、ハジくんが驚いた顔でこちらを見た。


 「お前…無事(ぶじ)だったんだな」

 たっつんがいった。

 すると、ハジくんは

 「ごめん。その…逃げるのに夢中で…。もうダメかと思って…。」とおどおどとした声でいう。

 「置いていってごめんなぁ。」「わるかった。」

 とシマシマもたっつんも申し訳なさそうにいった。


 「いいよ。だって、ちっとも怖くなかったもん。」


 怖かったよりも楽しかったという気持ちが大きかった。

 それは全部もやしのおかげだ。

 3人はぼくが笑ってそう言ったのが意外だという顔をしている。


 「なぁ。お化けは?お化けはどうだったんだぁ?」

 「やっぱり、食べられそうになったのか…?」

 というシマシマとハジくんの質問に、ぼくは笑顔でいった。

 「ううん。怖いお化けは、いなかったよ。」

 ウソは言っていない。だって、もやしは怖いお化けじゃなかったのだ。

 「へぇ。」

 「じゃあ、あれは何だったんだろうな。」

 「お前、意外と度胸あるんだな。」

 3人は感心していった。

 「そうかなぁ。」

 本当は最初すごく怖くて泣いてたことも、もやしのことも今はナイショにしておこうと思う。



 「お前…じゃなかった。えっと、マメだから、マメっ子!」

 「今日からお化けハンター隊員3号な!」

 とたっつんがぼくを指さしていった。


 「ちなみに隊長はたっつんだからなぁ!」


 いきなりの命名には驚いたけど、

 じわじわとうれしさこみ上げるのを感じる。


 3人とちょっぴり仲良くなれたようなそんな気がした。




 「なぁ。うちの学校、よるに怖いお化けが出て、食べられちゃうって話知ってる?」

 マメがいるところよりも上の階の廊下(ろうか)でそう話してるのは、6年生の男女だ。


 「ああ、あれね、知ってる知ってる。

 でも(うそ)だよ。食べられたって話、全然聞かないし。」



 「それさ。一体だれが言い出したんだろうね?」




 

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