009 初野宿 -2-
まだ、夕方というには早い時間、カロリースティックのマヨネーズ乗せを頬張る。手っ取り早くカロリーを摂る。
サトルは革靴からタバコを取り出し、箱からつまみ出したタバコを咥えた。使い捨てライターで火を点けゆっくりと吸い込んだ瞬間…
「ごほっ、ごほごほごほごほ、う~ぇぇぇええ、気持ち悪!!なんやこれ、くっさ!!おーぇ、おぇぇぇえええ」
サトルは涙目になりながら吐いている。
「大丈夫か?」
「気持ち悪いわ」
「若返って肺もキレイになってるし、タバコを受け付けないんだろ」
「おぇぇええ、そうみたいやな。こんなもん………、 いらーーーーーーーーん!」
サトルは持っていたタバコを箱ごと焚火に投げ捨てた。
ー 見ていて飽きないヤツだな ー
「そや、この世界の言葉って、どないなっとるんやろな。ワシらの言葉は通じるんやろか?勝手に翻訳してくれるんやろか?」
持っていた吸殻を焚火に投げ入れた。
「ここは、魔法世界らしいから、都合良く翻訳魔法みたいなものがあると良いんだがな」
「あとは文字やなぁ、言葉がベースになっとるやろうから、そっちも何とかせんとな。
やっぱ、文化とか、随分と違うんやろうなぁ。」
サトルはふぅと溜息を吐き話を続けた。
「うわっ、考えれば考えただけ不安になるわっ」
「こちらに来る前は、考えもしなかったが、言葉の違いか… 大きい問題だな…… 」
2人は顔を下にむけて、一緒に大きな溜息をついた。
暫し沈黙の後。
「サトル、魔法が使えるか試してみたらどうだ?」
「いやぁ、実はなぁ、来た時に回復魔法を試してみたんよ、どうも上手くいかんわ」
「もしかして、俺が水を汲みに行ってた時か?」
ー そういえば、ヒーとか、ホイとか、ミリとか、喋っていた、あれか ー
ふと、先程の場面を思い出した。
サトルは不貞腐れたような顔をしながら、顔を横に向けた。
「そや、いい歳したオッサンが、呪文呟くとか恥ずかいやろ。ワシは47なんよ、シュール過ぎて痛いオッサンみたいやん。なんや、悲しくなるわ」
「あ、いや、サトルは若返って、10代だ!大丈夫だろう、いや大丈夫だ!」
ー スマン、見た目は20代だ ー
少し焦りながらサトルに忖度した。
「それにしても、怪我をしていないのに、回復魔法って発動するのか」
真面目な顔に戻り聞いた。
「いや、倒れるまで疲れてたやろ?疲労回復に効くかなと思ってな。出来たら便利やん」
機嫌の直ったサトルは人差し指を立てた。
ー それ、エネルギーの等価交換みたいなものがあったら、回復と同時に疲れていくんじゃないか? ー
「あ、そや、そや、忘れとった」
ポンっと握った右手で左手を叩いた。
「ステータスゥーーーー……オーぺン!」
「「……………。」」
「いきなりだな、それで、何か出たか?」
「いかんわ。何にも出てへん。今のは溜めがありすぎたんやな、小洒落た感じでオーペンいうてもうたし」
「もう一度や、ステータスオープン」
「「……………。」」
「ステータスオープン、ステータスオープン、ステータスオープン、ステータスオープン、ステータスオープン、ステータスオープン……」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
サトルは肩で息をしている。
「はぁ、はぁ、ワシとした事が間違うてたか・・・・やっぱり定番は、プロパティィィイイイイ!!!」
「そ、それで…何か、出たか?」
サトルは膝を崩して、両手を地面についた。
「ド定番無視やん。シュールやん……」
顔を下にむけて、ぼそりとつぶやいた。
ー また拗ねてしまったか……… ー
「サトル、前の世界じゃ、攻撃魔法に男のロマンを感じなかったか?魔法の攻撃は憧れるよ。目指すのは攻撃魔法じゃないか!!」
サトルはピクり、と動いて、勢いよく立ち上がった。
「そやな!そやそや!やっぱり、漢は攻撃魔法や!ヒロシはわかっとるのぉ、コノコノぉ〜」
サトルはニコニコしながら、肘を突き出してグニグニしている。
ー 機嫌は直ったみたいだな ー
2人は川に向かって歩き始めた。
魔法の影響がわからない為、幅が狭い川ではあるが焚火跡よりは何かあってもマシだと思われる。
途中、振りやすそうな棒を2本拾っておく。棒程度ではあるが、武器の代わりにはなるだろう。無いよりはマシだ。
密度が高い棒が良いが、そこまで都合良く落ちてはいなかった。
1本長めの方はサトルに渡した。サトルはそれを杖として使っている。
「よっしゃ、攻撃魔法の定番は火魔法やな!ここは、どーーーんと、火魔法でいくでっ!!!」
川に並んで立ったサトルが興奮気味に話す。
「川の方に向けてくれよ!火事になったら困るからな」
「そやな、わかったで」
満面の笑顔で、ヒロシに向かって、親指を立てた。
ー ご、ご機嫌だな ー
サトルは一呼吸置いて、ゆっくりと両手開きながら、前に突き出す。
「なんや、ちょっと、緊張するな」
そう言うと、サトルは真面目な表情に変わる。
「よっしゃ、いくで!」
「ファイヤー」
ポッと、右手の人差し指からライター程度の火が一瞬出た。
「「……………。」」
サトルは本日2回目の膝を崩し両手をついた。
がっくりと顔を下に向けた。
「……………。」
凹んでいるのが良くわかる。
「ショボ過ぎるやろぉぉおおおおおお」
突然、手をついたまま、天を仰ぎ、叫んだ!
やる気の無くなったサトルと共に焚火跡に戻ってきた。サトルは肩をガックリと落としながら歩いてた。
サトルは焚火跡に戻ると、座り込み、体育座りをした。
向かいに俺が座り、胡座をかいた。
「多分だが、魔法は使っていくに従って、強くなるんじゃないか?」
「そやな、そうかもしれんが、゛調停者゛が仰々しく、攻撃魔法なんて言うから、期待してもうた」
「そうだよな、俺も身体強化と言われたんだが、そこまで変わったと思えない」
そんな話をしていると、空が赤みを帯びていた。
ー この世界にも、夕焼けはあるんだな。いつぶりかな、夕焼けを見るのは… ー
そんな事を考えていると、パチリと焚火が弾けた。
野宿・・・続きます