006 情報共有
一頻り笑いあった後、サトルの顔が真剣になった。
「なぁ、ヒロシ、先ずは”調停者”の情報共有してから、次の行動に移らんか?」
「そうだな、夜になる前に安全な場所の確保が必要だな」
ー 3人目が居るはずだが、いつ来るかわからない、先ずは安全確保が優先だな・・・ ー
「せや、もうこんな時間や」
サトルが右肘を曲げ人差し指を上に指した。
太陽が真上に上がっている。
ー 日本だと11時から13時って所か、同じ感覚なら18時位までが行動時間って感じか。野宿のの準備に2時間とすると、移動は短くて3時間か。スマホは日本時間であてにならんな ー
「ああ、昼だしな。それにしても、ここは暑いな、日本の6月か7月位かな?」
立ち上がりってコートを脱ぎ座り直した。
「どうやろ、場所にもよるからのぉ、それに周りを見てみぃ、木ばっかりや、都会よりも涼しい筈や」
サトルは座ったまま、上着を脱ぎながら、顎を突き出す。
「早速なんだが、俺が知っている情報を教える」
俺はサトルに話始めた。
サトルは俺の話を「そかそか」、「ほーほー」と相槌をうって聴いている。
一つ、“調停者”に最後にした質問、(薬は持っていかなくても大丈夫)をした時。
「ほんまか!!!それは…」
サトルは目を見開いて、大声で叫んだ。
「どうした?何か問題があるのか?」
「ちゃうわ、逆や逆!有難いわぁ、詳しい事は後回しや」
俺の能力、“調停者”から聞いた内容を全てサトルに伝えると、サトルが自分の情報を話始めた。
サトルが、“調停者”聞いた内容は薬の件以外は一緒だった。
サトルの能力は、攻撃魔法と回復魔法らしい。
「今んとこ、ヒロシの能力が一番役に立ちそうやなぁ」
「いや、攻撃を受つけないと言われても、さすがに態々攻撃されなくないしな。身体強化も実際に何が変わったのかわからないな」
「そうやなぁ〜〜」
間延びした相槌をうったサトルが、腕を組んで下を向いた。
何か考え事をしているらしい。
「サトル、持ち物の確認をしないか?備えよって言われたんだよな?俺みたいに間違って何か持ってきたか?」
サトルは頭を上げた。
皮鞄を開いて、こちらに見せた。
「いやなぁ、前の世界も嫌やし、未練なんてサラサラ無くぅてのぉ、だからって、“調停者”も信じられん。だからパソコンとタバコ、ライター….しかないんじゃ….スマンのぉ」
サトルは、皮鞄を地面に置いた後、膝に両手をついて頭を下げた。
ー まぁ、俺も最初は夢だと思っていたしな ー
「もうこちらに来てしまったんだから、今更どうしようもないさ。俺の持ち物は….」
サトルの前にビジネスバッグを置いて、チャックを開けた。
•マルチツールナイフ 16機能
•1L 水 ペットボトル
•空の折り畳み水タンク 10L
•ファイヤースターター
•カロリースティック 8箱(4本入り)
•マヨネーズ 500g×2本
•ワイヤレスイヤホン
•皮袋??
「皮袋があるが、入れた覚えがないな。なんだこれは?」
ずしりと重い皮袋を開けてみると銀色の硬貨が入っていた。
「もしかして!」
ジーンズの後ろのポケットを摩ってみると…財布が無い。カードも入っていた筈だが無くなっている。
「“調停者”だが、キッチリ両替してくれたみたいだ」
「ホンマか?!」
サトルも慌てて皮鞄を開く。
中から皮袋を出して紐を緩めて俺にも見える様に開いた。
中に金色の硬貨が見える。
「まぁ、直ぐ使えるものでもないが、現地通貨があるのは、有難いな」
「そやな、“調停者”いうんは、気が利くか、利かんのかわからんなのぉ、どうせなら、食べもんが良かったわ」
「それんしても、マヨネーズかぁ、こら良いもん持ってきたのぉ〜」
サトルはマヨネーズを手に取り見ている。
「そうだろ、カロリーが高くて持ち運びしやすい。前の世界に居たら高脂血症が怖いが…何があるか分からんからな、駅のコンビニで携帯食料として買ったんだ」
その後、ビジネスバッグの小さいポケットを探ってみたら、少し紙屑が出てきた。
ー 紙屑は焚きつけにでも使うか ー
「なぁ、カロリースティックを半分、マヨネーズ1本もてないか?サトルの食料にしてくれ。」
「パソコンは捨てていくから大丈夫や。逆にすまんのぉ、水さえあれば、1人なら1月位はもったんちゃう?」
「まぁな。でも、道があるって事はどこかの人が住んでいる場所に繋がっているだろう。2人で半月も保てば、何とかなるんじゃないか。」
サトルはパソコンを取り出した。
「そ、や、な….(バキッ)」
パソコンを一気に折ってしまった。
そのままサトルが立ち上がった。
つられて立ち上がる。
「ホンマなら埋めていきたいが、しゃあないな。」
折れたパソコンをそれぞれ反対方向に投げた。
マウスも木に叩きつけるように投げた。
「パソコンを隠して置いていけばいいんじゃないのか?」
サトルの背中に向かって問いかける。
「うーん、魔法世界の技術レベルがわからへん。
パソコンがオーバーテクノロジーみたいんで、使われてる部材やマテリアルが産業革命みたいなもん起こすかもしれんしな。
前の世界の技術的なもんは捨てた方がよろしいかもしれへん」
クルリと向き直して俺の目を見た。
「どうせここじゃ使えんしの」
小さく呟く様に喋った。
ー そもそも“調停者”の言う通り、違う世界(魔法世界)なんだろか? ー
「なぁ、もし日本の田舎に転移してたら、勿体なくないか?」
冗談めかしく言ってみた。
「あか〜ん!!異世界確定しとらんかったあぁぁあああ!!」
サトルはしゃがんで頭を抱えた。
ー 若返ってる時点で確定じゃないか…?.ー