004 スライド
(ドクン)
世界の揺れを感じたと同時。
目の前が上からモザイクのように黒く染まっていく。
一瞬で染まったように思えるが、スローモーションのようにも見える。
黒く染まった世界にノイズが走る。
青白く人型の輪郭を作る。
今朝見たばかりで忘れていない。
全身黒のシルクハットに燕尾服、両手を杖に置き、それは改札の間に立っていた。
ーまた゛調停者゛かー
゛調停者゛と本日2回目の接触だった。
前に1度、゛調停者゛と接触している為か、澤田浩志は少し恐怖は感じるが、逃げたいとは思わない。
゛調停者゛には贖えないと本能的に理解出来る。
従うしかないのだ。ただ、これから何が起こるか不安になる。
「やぁ、澤田浩志さん。そんなに畏まらなくて大丈夫だよ。僕は敵じゃないよ。」
前回と同じように少し高い音質で優しく語り掛けてきた。
今回の接触で理解した。
ー これは現実だ! ー
心の中で叫んだ。
「だから、言ったじゃないか」
゛調停者゛は少し笑ったような口調で嗜めた。
「備えは十分みたいだね。良かった」
゛調停者゛は安心したといいたげに杖から右手を離して、掌を上にして、こちらに差し出した。
「ああ、サバイバルグッズも用意した。使えるか分からんが金も持った。ああ、少しなら食料もあるし…ん、喋れる…」
言葉に出して答えながら、喋れる事に戸惑った。
「喋れるのに驚いているみたいだね。前は君が僕にリンクしてくれたから思念が通ったんだよ。君の能力の一つの様だね」
―そうか、心を読まれているわけじゃなかったのかー
少しほっとしながら、そう心の中で考えた
「あ、何か言ったのかな。強く思ったり、僕に話かけるように思念を送ってくれないと、聞き取り難いんだよ」
゛調停者゛は困ったようにそう答える。
「いや、いいんだ問題ない」
そう軽く答えた。
「実は・・・」
゛調停者゛は、俺の答えを遮るように話を始めた。
「備えってい言うのは、君の心の問題だったんだ。この世界に強い未練があるとスライド出来ない。僕はこの世界に介入は出来るが、未練のような強い意志がある人間をスライドする程の力は持っていない」
゛調停者゛は一呼吸入れてから続ける。
「君、澤田浩志さんが新しい世界へ興味を持ってくれるのを待っていた。案外早く切り替わってくれたみたいだね。あ、だからって、君が用意したサバイバルグッズだっけ?それは利用できるようにするよ」
「君の未練は体に現れていなかったかい?」
゛調停者゛はそう質問してきた。
「ああ、そういえば朝から頭痛が酷かったんだ」
俺はそう答えた。
「そうそう、それだよ。君の未練だね」
゛調停者゛は軽く答える。
「そうか、まぁ、たった1人で違う世界に行くんだ。サバイバルグッズを持ち込めるのは有難いな」
ほっとしたように答えると予想外の答えが返ってきた。
「いや、君を含めて3人がスライドするよ。スライダーは3人」
゛調停者゛は右手で三つの指を立てて、にべもなく答える。
「同じ世代にスライダーは3人が限界、普通は1人だよ。というか、3人は初めてだよ。だって、こんなにバランスが崩れてしまっているから。乖離しているしバランスが崩れているし、もう調停は難航したよ」
゛調停者゛は人差し指と親指をコメカミらしき場所に押し付けながら、頭を下げる。
と、その時、ジっとノイズが走る。
「3人か」
そう繰り返す。
「そう、スライダーは3人」
゛調停者゛が改めて繰り返す。
そう答えるとジジっとノイズが走る。
「ああ、そろそろ介入も限界に近づいてきたみたいだ。」
゛調停者゛が一呼吸おいて話を続ける。
「重要なことを2つ言うよ。」
゛調停者゛が右手の指輪を二本たてた。
「一つ目、君の能力は身体が強化されている。多少の攻撃は受け付けないし、筋力は大幅に上がっている。二つ目、君の身体は30年分若返る。
あぁ、終了のようだ。新しい世界での活躍を期待し‥る・・よ・」
答え終ろうとするタイミングで強いノイズが走る。もう、終了のようだ。
と、同時に聞きたい事を思い出した。
「あ、俺、持病の薬持ってないんだけど、あっちに売ってるか?」
気になっていた事を口走った。
「だ..じょ..ぶ…だ..わか..」
最後まで聞き取れないが、゛調停者゛がそう答えた。
― 理由はわからんが大丈夫のようだな。異世界、どんな世界か・・・ ー
それを聞き終えると、意識が遠のいた。
意識を取り戻すと・・・そこは・・・
駅の改札だった。
― ?!あれ ー
見知らぬ風景を期待していたが、そこは見慣れた改札だった。
― もう少し時間があるのか、少し準備に時間がとれるかな ー
改札を抜けて、駅の出口に向かう。
― ああ、そうだ、家に帰る前に異世界の勉強でもするか ー
コートのポケットからスマホを取り出し、画面を見ながら駅の出口を出た。
駅を出た瞬間、下にさげた頭に抵抗感があった。
そこにとても柔らかい膜があり、それに向かって歩いてる感覚。
直ぐにスマホから目を離し前を向く。
膜のようなモノがパチンとはじけて肌に纏わりついてきた。
音が一瞬消えて、また戻る。
それと共に熱風の様な風を感じる。
その時だった・・・
「ぎゃぁ、このタイミングかいっ!ワシ、完全に油断しとったわぁぁぁあああああ!!」
隣から男の叫び声が聞こえた・・・
ー 確かに・・・このタイミングは油断したな ー
少し苦笑しながら隣を見るのだった。
序章が長くなってしまいました。
4話はちょっと長すぎですが・・・ようやく異世界に行きました!
よかった。もう少し先になったらどうしようかと・・・焦っていました(笑)
まだ投稿しはじめたばかりで、見ていらっしゃる方もいないかなって思ったりしています。
趣味がてらゆっくり投稿していければなと思います。
次話から本編ですが、暫くは異世界感ないです(-_-;)