038 遭難
「ヒマやなぁ〜」
サトルが酒場のテーブル突っ伏して呟く。
「そうですね」
マサユキが答える。
このやり取りも何度目だろうか。
ここ数日、雪が舞っている。
多少積もってはいるが、狩りに行けない程度ではない。
「仕方ないさ、この間みたいなトラブルは勘弁して欲しいからな」
先日、冒険者からの襲撃に遭ってから、雪の日は狩りには行かない事にした。
無用なトラブルは避けたい。
「そやなぁ〜、でもヒマやなぁ〜」
サトルは、顔も上げずに呟く。
「あ、夕方になったら、ザザンを捻ってくるかのぉ〜」
サトルは、雪で狩りに行かない日は、ザザンと″りばあし″をしていた。
ザザンも仕事があり、夕方にならないと暇にならないらしい。
「それまでヒマやなぁ〜」
ー 夕方まで何回言うかな? ー
俺はクスリと笑った。
夕方になり、サトルは冒険者ギルドに向かっていった。
サトルを見送りながら、空を見ると、どんよりとしており、風が強くなっていた。
雪も強くなっているようだった。
「今日は吹雪くかもしれませんね・・・」
マサユキが呟く。
「そうだな。サトル・・・雪が強くなる前に帰ってくればいいが・・・」
俺とマサユキは、部屋で待つことにした。
サトルが帰ってきたら、いつも通り、宿屋の酒場で食事をするつもりだ。
「サトル、遅いな・・・」
俺は、窓を開けて外を見る。
猛烈な勢いて、雪が部屋に入ってくる。
俺は慌てて窓を閉めた。
「そうですね、遅いですね。それに吹雪いていますし大丈夫でしょうか?」
マサユキが答える。
既に3時間ほど経過しているが、サトルが帰ってくる様子はない。
いつもならば、暗くなって暫くすると、帰ってくるのだが、1時間ほど遅れている。
「何かあったの・・・・」
マサユキの声を遮り、ダダダダッ、ダダダダッ、ゴンッと、部屋の外から音がする。
足音の様だが、音の具合から、転んだようだった。
その時に、部屋の扉が乱暴に叩かれた。
「ワシや!ワシや!大変や!!!」
サトルが部屋の外で叫ぶ。
慌てて、マサユキが閂を開けて、扉を開けた。
その瞬間、サトルが転びながら、部屋に入ってきた。
「どうしたっ?????」
「大変やっ!エレン達が、森に行ったまま帰ってきてへん!!」
サトルは、手で起きようとしながら、こちらに顔を向けて、叫んだ!
「なんだとっ!もう、北の門が閉まってる時間だぞっ!」
俺は大声で、サトルに答えた。
「ええ、この時期に野営は・・・」
マサユキが言いよどみながら答える。
脂汗が浮いてきている。
「そや、マズい・・・マズいでっ・・・。なぁ、どないしよ。エレンが死んでまう。ど、どないしよっ」
サトルは泣きそうな顔になりながら、俺たちに喋かける。
サトル、マサユキ、そして俺も、エレンをからかってはいるが、好きだった。
表裏が無く、思ったことを直ぐに口に出してしまう、しかし、憎めないのがエレンだ。
「とりあえず、冒険者ギルドに行かないか?」
俺は焦っているのが自分でも判った。
「そやなっ」
「そうですね」
サトルとマサユキが答える。
2人は真っ青な顔をしている。
俺たちは、持っている服をすべて着込み、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに向かう途中で、サトルに経緯を聞いた。
サトルやザザン、他の冒険者たちが、“りばあし”をしていたところ、冒険者ギルドに衛兵がやってきた。
通常ならば、受付嬢が対応するのだが、冒険者がトラブルを起こしたと考えたザザンは、挨拶だけを済ませて、奥のギルド長室に通した。
10分ほどすると、衛兵とザザンが出てきた。
その時に、ザザンは冒険者の3人が北門から森に行ったが、北門から帰ってきていない事を告げられたそうだった。
衛兵は北門の担当で、今日は、その冒険者3人以外は北門を通らなかったそうだ。
その後は誰も北門を通らず、門を閉めたが、気になった為、冒険者ギルドを訪れたのだった。
3人は、女1人、男2人で容姿を確認したところ、エレン達で間違いないとの事だった。
ザザンは、その場に居た冒険者に、エレンが定宿に戻ってきているか、確認にやった。
確率は低いが、他の門から帰ってきている可能性もあった為、確認にやったのだった。
小一時間ほどして、使いにやった冒険者が帰ってきたが、やはりエレン達の姿は無かったそうだ。
主人に確認したところ、宿代は1週間分払われており、帰ってこないことを心配していたそうだ。
その話を聞いて、サトルは慌てて、俺たちの宿に戻ってきたそうだ。
「まずいな・・・今日は吹雪く・・・」
冒険者ギルドに行く途中で、つい呟いた。
20分ぐらい走った所で、冒険者ギルドに到着した。
窓は閉まっているが、薄暗いが、光が漏れている。
俺たちは、ギルドのドアを開けて、中に入っていった。
ギルドの中には、ザザンと数名の冒険者たちが居た。
ザザンは腕を組んで、目を瞑って、座っていた。
他の冒険者達も椅子に座って、腕を組んでいる。
誰もしゃべっている者は居なかった。
「エレンが帰ってきていないのは本当か?」
その声に、ザザンと他の冒険者がこちらを向いた。
「ヒロシか・・・。ああ、今、街の中を探させている」
ザザンが呟いた。
「そうか・・・」
そう言い、俺たちは席に座った。
座ると同時に、サトルとマサユキに向けて、話始めた。
「この吹雪の中で、一晩越せると・・・思うか?」
「間違いなく・・・無理です・・・・」
マサユキが、悲しそうな顔をしながら、答える。
「何とかならへんか・・・エレン達・・・助けてやりたいんや・・・・・」
サトルも蚊の鳴くような声で答えた。
俺たちは、無言で腕を組み、目を瞑った。
エレン達に会った時の事、スカウトしてきた事、機嫌が悪いとそっけない態度を取ったり、時には理不尽に怒ってくること、それが、頭の中に浮かんできた。
「あいつらよぉ・・・焦っていたんだよなぁ・・・」
ザザンがポツリと呟き話始めた。
エレン達は、Cランクに上がるために、冠猪を狙っていた。
ここ数カ月の間、1度だけ捕まえられたが、角熊に襲われて、逃げ帰ってきた。
― ああ、あの時か ―
エレン達は、どうしてもランクを上げなくてはいけない理由があるらしく、冒険者ギルドでザザンを見掛けるたびに相談していた。
ザザンもエレン達の実力は評価している。しかし、エレンは周りが見えない所があり、それを心配していた
。エレン達には、経験を積ませて、地道に実力をつけさせようと考えていた。
そうしていると、探し回っていた冒険者達が帰ってきた。
やはり、エレン達は見つからなかったそうだ。
「今日は解散だ・・・」
ザザンが呟くように喋った。
その言葉に冒険者ギルド内は静まり返った。
皆解っていた。捜索は出来ないことを。
― 助けてやりたい ―
俺は、テーブルに肘を置き、頭を抱えて叫んだ。
その時、頭の中でカチッと音がした。
リンクした。
― 俺は・・・助けてやりたい・・・ ー
― わしもや・・・ ー
― 私もです・・・ ―
サトルとマサユキが答える。
― 危険だぞ ―
― わかっとる ―
― はい ―
サトルとマサユキの決意に満ちた声が頭に飛び込んできた。
― でも、彼女たちを死なせたくありません ―
マサユキが続けてそう答えた。
― そや、死なせたくないんや ―
サトルが続けた。
― わかった。行こう・・・ ―
俺は、そうつぶやく、と同時に席を立ちあがった。
釣られて、サトルとマサユキも立ち上がる。
「俺たちが探しに行く」
沈黙の中で、俺はそう呟いた。
プライベートがちょっと忙しくなってしまいました。
描いている時間が取れなさそうです(´;ω;`)
少々、このお話の後、少し書き溜めたら、再開します!
スミマセン・・・・




