036 襲撃者達 -1-
「今日は降っていないな。雪も多少積もっているようだが、大丈夫だろう」
窓を開けて、外を見る。
昨晩は雪が降っていた為、今日も続くようなら休みにしようかと話をした。
多少積もってはいるが、大した雪では無かったようだ。
「うわっ、寒っ!外の空気は寒いの」
マサユキも目を覚ましたようだ。
「おはようございます。雪が止んで良かった」
マサユキはベッドから上半身を出して座っている。
「ああ、準備したら出るか」
俺たちは準備を整えて、いつものように北門に向かっていく。
昨日降っていた雪は、10㎝ほど積もっていた。
町中が雪を纏っている。
北門につくと、冒険者の数が少ないようだった。
冒険者の姿が疎らに見える。
― いつもの1/10程度だろうか?いや、もっと少ない。何かあったのか? ー
「なぁ、冒険者が少なくないか?」
「そやな、なんでやろ? マサユキ知っとる?」
サトルがマサユキに問いかける。
「わかりません。何があったんでしょうか・・・あ、エレンさん達がいます」
マサユキが指さす方向にエレンの姿が見えた。
俺たちは、大八車を引きながら、エレンの元に向かっていった。
ただ・・・、後ろから見ていても、機嫌が悪いのがわかる。
「サロン、おはよう」
一番話しやすい、サロンに話かける。
「あ、皆さん、おはようございます」
サロンが返すと、つづけて、ボランも挨拶する。
「皆さん、おはようございます」
2人の挨拶を聞いたのか、エレンがこちらを振り向いた。
その顔は鬼の形相である
― サトル、絶対に地雷は踏むなよ ―
「や、やぁ、エレン、おはよう」
多分、俺は引きつっていただろう。
「ふんっ!おはよ!」
エレンが怒っているのがまるわかりの挨拶だ。
「なぁ、また、何かあったのか?」
エレンに聞こえないように、サロンに聞いてみる。
「ええ、実は、冠猪をずっと狙っているんですが、なかなか狩れなくて・・・」
サロンが困ったように呟く。
「1ヶ月位追っかけていないか?」
「いえ、もっと前からです・・・」
サロンが頭を押さえながら話す。
エレンは、ずっと、冠猪が狩れない事に怒っているようだ。
Cランク相当の魔物を狩り、どうしてもCランクに昇格したいそうだ。
「そうか・・・ところで、今日は冒険者が少なくないか?」
「そうですね、昨日の雪で、罠が判らなくなるからでしょうね。
街でこの程度の雪でも、森に入れば、罠を隠すのには十分です。
それに雪は音を消します。多少深い所まで入るのでしたら、今日は諦めて明日入るでしょう」
サロンが人差し指を立てて答えてくれた。
―そうか、確かに・・・雪は消音するんだった。音が無いだけでも森は危険だからな・・・ ―
「そうなんや、雪で薬草も見えんから、それもあるんかいな?」
サトルがサロンに尋ねる。
「はい、それもあります」
サロンが答える。
― ほとんどの冒険者が、罠を使い、ついでに薬草を取るからな・・・今日は休むのは当然か・・・ ―
「そうか、有難う」
「皆さんも気をつけてください。では!」
サロンが右手を振り、エレンと共に離れていく。
「さあ、俺たちは、自分の仕事をするか」
北の森の入り口付近で、いつものように大八車を収納して、入っていく。
人の気配がしないことを確認してから、血袋を取り出し開ける。
そのまま、俺たちは森の奥に進んでいく。
それから、数時間程度狩を続けていた。
― そろそろ、昼頃だろうか ―
「休憩にしないか?」
「そやなぁ」
「そうですね」
サトルとマサユキが答える。
「それにしても、今日は爪兎が随分と多いな」
「そやなぁ、何か知らんが、妙に多かったのぉ」
既に28匹の爪兎を捉えており、この時間としては、普段の1.5倍ほどだった。
俺たちは昼食を済ませて、再び爪兎狩を始めた。
1時間ほどで、全部で40匹ほどの、爪兎を手に入れた。
大八車に乗せることを考えると、このくらいが丁度いい。
時間は早かったが、俺たちは帰ることにした。
北の森の入り口で、周囲に誰も居ないことを確認してから、大八車を収納から取り出し、その上に
爪兎を置いた。
俺が大八車を引きながら、その後ろで落ちないように、サトルとマサユキが見張っている。
歩き始めてすぐだった。
「ヒロシさん、森を出たところに誰かいます。5人です」
マサユキが俺に話かけた。
それを聞くと大八車を停め、後ろを振り返る。
「多分冒険者だと思うが、こんな時間だ。何かあったのかもしれんな」
「怪我でも、しとるんのかもしれん。行った方がいかもしれんの」
サトルが返す。
俺達は、大八車を引き、森を出た。
5m程先にに4人の男達が、ニヤニヤしながらこちらを見て立っていた。
3人は筋骨隆々でプロレスラーのように見える。
1人は小間使いのようで、小さく痩せている。
ただ、冒険者のように見えるが、冒険者ギルドで見た記憶はない。
ー 怪我人も居ないし、嫌な予感しかしない ー
頭の中でカチッと音がした。
ー リンクした ー
ー OKや ー
ー 了解しました ー
「よぉ、えらい荷物じゃねえか!俺達が護衛してやるよ!」
リーダーらしき男が話かけてくる。
ー ああ、護衛の押し売りやな。悪い方のスカウトや!どうするん? ー
ー 適当にあしらうが、襲撃してきたら、俺が対処する。何かあったら、迷わず魔法でサポートを頼む ー
ー わかったわ ー
俺達が思念伝達で話をしていると、リーダーらしき男が、剣を叩きながら、続ける。
「一昨日、ここのギルドに移ってきたんだがよ、毎日えらい量の獲物を持ってきてるじゃねえか!
お前ら、Fだろ?
危ないからからな、俺達、Dランク様が守ってやるよ」
俺は大八車を離し、大男達の1.5mまで歩いていった。
「護衛などは、要らん。俺たちは勝手にやっている」
「わかんねぇヤツだな。俺達の傘下に入れて守ってやるって言ってんだろ?
ちゃんと分け前もくれてやるよ。
お前ら、実力分かってねぇだろ?」
リーダーらしき男がわからないといった風に、両手を上げながら喋る。
ー 挑発するか… ー
ー 気いつけてな ー
ー 気をつけて下さい ー
考えたことが漏れてしまったが、サトルてマサユキが答える。
「豚の言葉はわからなくてな!消えてくれないか?」
俺の言葉に大男3人が憤怒の顔に変わった。
「てめえ、ふざけんな!!!!」
リーダーらしき男が一歩踏み出し、殴りかかってくる。
身体強化のせいか、遅く見える。
ふと、残りを見ると、剣を抜いている。
ー 俺だけで対処する ー
リーダーらしき男の拳を避ける。
避けながら、突き出した腕を掴み、襟を掴むと、払腰をした。体制が崩れているせいか、足が高く上がってしまった。
後の人間に対処する必要がある為、襟を離し、腕を引いた。下は土だが、所々に石が出ている為、そこに落とした。肋骨が折れただろう。
残りの大男は、1人が振りかぶり、他は後ろに居る。
取り囲み、襲わないのは、人相手に慣れていないのだろう。
1番前の男の懐に入り込み、顎にアッパーを斜めから入れる。
体が落ちる前に左に移動する。
左手の男も、丁度振りかぶっている。懐に入り込み、同じくアッパーを入れる。
ついでに、体を回転させて、左手に回り込み、後頭部に右手で裏拳を入れる。
右手に居た男は中段に構えていた。
恐らく、混乱しているのだろう。動けないでいる。
俺は左側に飛び込み、手刀を右手に入れる。
剣を落とした所で、左で襟を持ち、右腕で相手の右腕を抱え込み、腕を折る。
小男が1人少し先に佇んでいる。
俺は走り近づくと、ナイフを突き出してきた。
サイフを避けて突き切った所で、手首を掴む。
そのまま、左手で襟を引き、前に倒そうとしながら、腕を掴み、肘関節が来まった所で、腕を折る。
腕を折られていない、3人は意識を取り戻している。
但し、1人は肋骨が折れている為か、呼吸がおかしい。
3人とも顔面蒼白だ。
全員、得物を持っていない事を確認すると。
おもむろに、剣を抜き、骨の折れていない1人の片腕に向けて振り下ろす。
すでになまくらになった剣は、ガコンと音がするだけだった。
恐らく骨が折れたのだろう、剣を落としてしまった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁあああ」
最後の1人が叫びながら逃げて行った。
俺はゆっくりと、リーダーらしき男に近寄ると、胸をおさえて、粗い呼吸をしながら逃げようとしている。
それを合図に全員が逃げようとしている。
ー 人殺しはしたくない。このまま逃そう ー
ー そやな、ワシも人は殺したくないわ ー
ー 私も出来るなら、人殺しはしたくありません ー
頭の中でカチリと音がした。




