034 冬支度
「おはよう。マサユキ」
「おはよう御座います」
マサユキは先に起きていたようで、部屋のテーブルに座っていた。
マサユキとのやりとりで起きたのか、サトルが目を覚ました。
「おはよーさん」
ベッドから上半身を起き上がらせて、右手を上げる
サトルの目は半開きだ。急にサトルは、身体をビクッとさせる。
「うわっ!さっむー!めっちゃ、寒いやんけ!!」
サトルは両手で自分を抱きしめて震えている。
ー 確かに急に冷え込んできたな。もう少しで冬を迎えるのか… ー
「確かに寒いな」
「寒いですね。ムランがデパ位の気候でしたら、相当寒くなるかもしれません」
マサユキが答えた。
「マズイやん。ワシ、寒いの苦手やねん。マサユキ、どの位寒いん?寒さでタオル凍るん?」
サトルが歯をガチガチさせながら、話す。
「ははは、寒い時でしたら、体感で-20℃位でした。夜はもっと冷え込んでいました。
川も凍りましたし、毎年何人かは、外で寝てしまって凍死者が出ていました」
マサユキが笑顔で話す。
「それ、ダメなヤツやん。
しかも、ワシら、ムランに着いて、宿屋、冒険者ギルド、森しか行ってないやん。
着てるもんも、デパのまんまやん。
絶対死ぬやん」
サトルは震えながら続ける。
「なぁ、服とか買ったほうがええんちゃう??
そうしないと死ぬで!」
「そうだな、今日は狩を早めに切り上げて、買い物にするか?」
「そうしよ!そうしよ!生きるためにそうしよ!」
「わかりました」
サトルとマサユキが同意する。
俺達は北の森に向かう。
血袋を開けながら森を進む。
マサユキが気配を感知しつつ、爪兎を見つけては、狩っていく。
サトルは、この1ヶ月の間に新しい魔法を作り上げた。
弾丸。
この世界の考え方なら、土魔法で弾を作り出し、加勢魔法で撃ち出す、そんな感じだろうか。
サトルは、ピストルから、弾を撃ち出すイメージだと言っていた。
まだ、サトル自身にイメージが定着していない為、一回毎の発動に時間がかかる。
ただ、使っていくうちに時間が短縮されると考えていた。
「そろそろ、上がって、服を買いにいかないか?」
「そやな」
「そうですね」
サトルとマサユキが答える。
まだ日は真上までは来ていない。
日暮れが早くなってきてはいるが、この時間に帰れば夕方まで時間とれる。
狩った、爪兎は12匹、サトルが4匹、俺が8匹。
前衛の俺が逃した爪兎を、サトルが弾丸で狙い撃つ。
このやり方にしてから、効率が上がった。
1日あたり、40匹前後は狩れている。
1か月前は、20匹弱、爪兎を狩始めた頃が10匹弱。
爪兎は、1万から2万ドンで買取だが、平均は1万2千ドン。
毎日、40万から50万ドンを稼いでいる。
マサユキが立て替えていた、デパからムランの旅費はかなり前に返している。
そう、金はある。
俺達は、朝宿屋の女将に聞いた、ムランの3層で1番人気の服屋に向かう事にした。店は3層の南東にある。
「ここだよな?」
「ここやろな」
「ここですね」
サトルとマサユキが答える。
ー ゴスロリ ー
「なぁ、ゴスロリだよな」
「ゴスロリやな」
「そ、そうですね」
サトルとマサユキが答える。
店は、ゴシック建築のような作りをしており、屋根も壁も黒い。
看板は、灰色の背景にエプロンドレスと、ゴスロリ風のドレスが描かれている。
ー この世界の店は、何故こんなにクセが強いんだ ー
ー 嫌な予感しかしない ー
「なぁ、店主なんだが、生意気少女のイメージしかないんだが…」
「そやな、代わる代わる服を着せられて、″あなたにはコレがお似合いよ″って、勝手にタキシードみたいんに決まってしまうイメージしか持てん」
サトルは呟く。
「私も入り難い店だと思いますが、宿屋の女将さんのオススメですから、折角ですし見て行きませんか?」
普段は大人しいマサユキだが、義理を重んじる所がある。
ー 入りたくない……でもマサユキの言う通りだ ー
サトルも俺もこういう時のマサユキの提案は断り辛い。
「そうだな、いくか?」
「そやな」
「行きましょう」
サトルとマサユキが答える。
俺は扉を開けて、店に入って行った。
店は掃除がいく届いている感じで、全体的に明るい。店内を見渡すと、窓が広いようで十分に採光できているようだ。
その奥に、50代位の髪はロマンスグレー、やや細身の男が座っていた。口髭を生やし、眼は細め。
グレーのタキシードのような服を着ている。
見た目は、執事のようにも見える。
「いらっしゃいませ」
店主らしきその男が、立ち上がり優しい声色で喋る。
ー 良かった。比較的普通だな ー
「今日はどういった、ご用件でしょうか?」
店主は俺達に近づきながら喋る。
「ああ、すまないが、冬服が欲しくてな」
「畏まりました。では、どういった服にされるか、こちらで、お聞かせください」
店主が近くのテーブルへ、誘う。
この世界では、下着以外、服を自分で作るか、オーダーメイドが一般的。
俺達は自作出来ないので、オーダーメイドする。
「先ずは、マサユキはどうする?」
「そうですね。動きやすく、暖かいものにして下さい」
マサユキは完全に後衛の為、防具は着けていない。
デパに居た時と同じ服装のまま、麻の上下を重ね着していた。
「ふむ、でしたら、羊毛のセーターに皮のコートはいかがでしょうか?」
マサユキは店主の提案の通りにする事にした。
「次ら俺でいいか?」
「ええで」
こういう場面でのサトルは面倒な事を言うので、先に済ませてしまう。
「俺は、皮鎧をつけたまま、防寒になるものがいいんだが」
店主は顎に指を置き答える。
「ふむ、でしたら、中にはセーターを着て頂き、皮鎧の上に皮ベストを着るのはいかがでしょうか?」
店主が答える。
「ああ、それでお願いする」
「ほいっ!じゃ、ワシやな!」
サトルが手を挙げる。
「ワシはローブや!」
サトルは、ビシッと店主を指差す。
「取り扱っておりません」
即答だった。
店主は、溜息混じりで一呼吸置き、続ける。
「ローブを作るには、死蜘蛛の糸を使用致します。1層で取り扱っておりますが非常に高価なものでございます。
それに…祭司や謁見に着るもので御座います…
冒険者とお見受けしますが、ローブでは動きづらいかと思いますが?」
サトルはその言葉にシュンとしてしまった。
「ワシ、ローブ着れると思っとった」
サトルは、聞こえるか、聞こえないかという位で呟く。
ー サトルは諦めていなかったのか!デパの武器屋で歩き辛いと納得していなかったのか! ー
サトルはムランに着く頃には、杖に飽きてしまっていた。俺はローブも諦めたと思っていたのだ。
「サ、サトル、似たようなモノにしたら良いんじゃないか?」
「そやっ!なら、皮で長っいコートがええ!」
サトルが気を取り直し、店主を指差す。
「皮のコートは重いだけで御座います」
店主は即答だった。
その後、サトルを説得して、俺と同じくセーターに皮のベストにする事で納得した。
店主の好意でマントを新調する事にしたのが、決め手だった。
ただ、今までのマントは、木に引っかかるなど邪魔だったらしく、腰位まで短くするらしい。
ー 邪魔なら、着けなくていいんじゃないか? ー
俺がそんな事を考えていると、横のサトルはウキウキしている。
一通り話終えて、それとなく店の外観について聞いみた。
この店は店主の母親が始めた。
女性専門の洋服を作っていた。
母親は、可愛い服を作るのが好きだったらしく、ゴスロリ風の洋服を作っていたそうだ。
店主が店を任せて貰えるようになり、男性向けの洋服を作り始めた。
「母の洋服は、特定の女性には熱狂的に、支持されておりました。残念ですが、一般の方には受け入れて頂けませんでした」
店主は遠くを見ながら、懐かしむ様に呟く。
ー 当たり前だ! ー
俺達が店を出る頃には、空が赤くなってきていた。
日が短くなっている。
冬も近いのだろう。




