033 サトルの考察
俺たちは、冒険者ギルドの訓練場を後にして、宿屋に戻ってきた。ムランに到着してから、定宿にしている。
冒険者ギルドを通り抜けると、ザザンが待ち構えており、サトルに“りばあし”をやろうと誘っていたが、サトルが見事にスルーした。
「ああ、おかえり」
恰幅の良い女将が出迎えてくれる。
「ああ、また今夜も頼む」
「あいよ。じゃぁ15000ドンだよ」
女将に金を渡して、木札を受け取り、部屋に向かう。
ずっと宿を使っているせいか、気を利かせて同じ部屋を用意してくれている。
部屋に着くと、俺は閂をして、マサユキが窓を開ける。
サトルはベッドに座る。
「まだ飯には早いな」
「そやな、ちょっと寝てから、酒場で飯と酒はどや?」
「いいですね。そうしましょう」
サトルの提案にマサユキがのる。
ふと、目が覚めると、開け放たれた窓が夕焼けにそまっている。
― この世界の夕焼けは、本当に奇麗だな ―
「さて、飯にしないか?」
サトルとマサユキに声をかける。
まだ寝ていたようだったが、俺の声で目を覚ましたらしい。
俺たちは、部屋を出て、階段を下りて宿屋の1階にある酒場に行った。
既に、人が入っており、話している者や“りばあし”をやっている者などが居る。
空いているテーブルを見つけ、いつも通りに飯と酒を注文する。
「なぁ、ワシ、魔法の事を考えていたんやけどな・・・・」
サトルが話始めた。
「ワシな、“調停者”から、“攻撃魔法”と“回復魔法”が使えるとしか聞いておらんねん。
今日、エレンから聞いた属性っちゅうんは、全くの初耳なんよ。
属性って後付けちゃうかなーって考えてたんよ」
サトルの考察はこうだった・・・
魔力は、エネルギーとして存在している。
それは器のようなもので、持っている者と持っていない者がいるのだろう。
器に溜まったエネルギーは、何かをイメージすることで変化して放出されるのではないか。
ただ、器から取り出す際に、本人が判りやすい様に詠唱を利用しているにすぎないのでないかと。
属性も同じでイメージしやすくするための分類にすぎないのではないか。
「エレンが土魔法よーーーって、言って、泥濘を作り出したやろ?あれって、もし手で作ったらどうやるん?」
人差し指を立てて喋る。
俺とマサユキは、顔を見合わせると、サトルは話をつづけた。
「泥濘を作るには、スコップで土を緩めて、水を入れて、こねくり回すんちゃう?
それって、土魔法と水魔法が合体しちゃってるやん。
あの魔法は、無意識に合成してるんちゃうかなって思ってん。
まぁ、結果的にああなるようにイメージしただけやろうけどな」
サトルは話し終えると酒を一飲みして続ける。
「どういう理屈かっちゅうのはわからんが、こしたらこうなる!っていうのを体系化したんじゃないんかと思ったんよ」
「そうか、確かにサトルの言う通りかもしれんな」
「魔力がどういうエネルギーかっちゅうんは、わからんけどな!でもまぁ、昔の人がそこに空気がある事を証明できないのと一緒で、未知のエネルギーなんやろな」
「サトルさん、私の空間魔法と鑑定能力はどうなんでしょうか?」
マサユキがサトルに質問した。
「そう、それやっ!マサユキは自分の中で、魔力を感じるんちゃうか?」
「はい、感じています。恐らくこれだろうというのが判ります」
「そやろ、多分やけど、空間魔法と鑑定能力は魔力が駄々洩れなんちゃうかと考えたんや。空間魔法なんかは冷蔵庫にコンセント刺しっぱなしみたいなもんちゃうかなって」
サトルはコンセントを刺す仕草をしながら、マサユキに答えた。
「ほう、そうですか、鑑定能力はどうなんでしょうか?あれは必要な時だけ見れるのですが?」
「あれはボリュームかなと思うとる。気配感知は魔力を使って未知のエネルギーを薄く展開してるんちゃうかなって。鑑定の時には収束して、魔力を使うんちゃうかなって」
「ふむ、そういうことですが、鑑定能力のレベルが上がっていって、別の使い方として使えるようになったと・・・そういうことですか?」
マサユキは顎を摩りながら喋る。
「そや。」
サトルはこくりと頷き、酒を一口飲む。
サトルは話を続ける。
「でな、思ったんやけど・・・鑑定能力が気配感知になったように、使い方を変えれば、違って見えるものが出てくるんちゃうかなって。それで、さっきの闇魔法のお話や!」
「「闇魔法?」」
俺とマサユキが同時に答えた。
「そや、重力がどうのこうのって言うとったやろ?あれな、空間魔法か鑑定能力の使い方が変わったものちゃうのかなって思ってんねん。
ただな、気配感知と同じで、使っていって出来るようになるものかもしれん。
だから、いろいろな経験をせいって“調停者”が言ったんちゃうかなと」
サトルの言葉に、俺もマサユキも頷く。
「ただな、解せん事もたっくさんあるんや・・・
例えばヒロシに魔力が無い事、魔力がないから思念伝達は魔法じゃないっちゅう事、鑑定能力もそや!
なんで鑑定魔法じゃなく鑑定能力なのかっちゅうとこが解らん。魔力がどうして溜まるんや!とかとかや!」
そう言うと、サトルは腕組みして、天井を見た。
「なぁ、サトル、俺達は違う世界から来た。
元の世界の知識を使って分析した先は……新しい魔法ができてしまう事はないか?」
「十分にあり得る事や、ワシらはこの世界の常識もないからの。
こっちの世界の連中が出来ないと思っとった事が、実は出来ます!ってなるかもしれんな」
サトルが続ける。
「ただしや、エレンの魔力は、ワシより低いと思うねん。
それが基準だとしたら、大した力は無いんちゃうかなって思うねん。
マサユキ、エレンの魔力は見たん?」
「ええ、凡そですが、サトルさんの⅓程度です。もう少し低いかもしれません」
マサユキが答える
「そんくらいやろな。エレンが普通位なら、新しい魔法が出来ても、威力もソコソコやろ。
詠唱みたいなもんにイメージを定着せなアカンから、簡単には出来んと思う」
サトルは天井を向いたままだ。
俺達は無言で酒を飲む。
「なぁ、俺達は、この世界の人間とは、関わらない方がいいと思うか?」
「そやろな」
「そうですね」
サトルとマサユキが答える、サトルが続ける。
「でも、無理やろうな。生きていくんには、繋がりが必要やからな」
「ああ、そうだな」
「ええ、そうですね」
マサユキと俺が答える。
「これからの事を考えると、滅入る!久しぶりに″りばあし″でもしないか?」
「お、ええね!たまには、いいやん」
サトルはサムズアップする。
「私、借りてきます」
マサユキが笑顔に変わり、カウンターに向かう。
俺達3人は交代しながら、″りばあし″を子供のように楽しんだ。




