031 スカウト
「ねぇ、私達のパーティーに入りなさいよ!
その方が絶対いいわよ!
私達、“強き意志を持つ者”は、Cランク候補に挙がっているのよ!
ヒロシ達が入ってくれれば、Cどころか、B、いやAだって夢じゃ無いわ」
俺達3人の後ろから、エレンがスカウトしてくる。
エレンの後ろには、サロンとボランが付いてきている。
ー 何故ついてくる!狩が出来ん!!ー
角熊の襲撃を退けた後、俺達は爪兎狩を続けようと、黒い森を後にした。
エレン達は、俺達についてきて、スカウトを続けている。
血袋で誘き寄せて、マサユキの気配感知、思念伝達を使う方法は、あまりにも不自然。
その為、爪兎狩が出来ず、こうして街に向かって歩いている。
「だからさ、聞いてる?
ねぇ、絶対に後悔しないから!
土魔法と風魔法が使えるから、サトルさんの火魔法と組み合わせれば、絶対に強くなれるのよ!」
エレンが何かを思いついたように続ける。
「そうだ!
ヒロシさんをフォローする形で、サロンとボランが後ろにつくのよ。その後ろから、サトルさんと私が魔法援護するのが、いいわね!
パターンが広がるわっ」
エレンは延々と話しかけてくる。
もう、3時間程だろうか。
「どう?聞いてる?」
エレンが俺の肩を掴む。
「俺達は誰とも組む気はない、サトルもマサユキも同じだ。俺達は3人で1人なんだ。増えても減っても弱いんだ」
俺は振り向いて、エレンの目をじっと見る。
「そや、ワシらは一つや」
「はい、その通りです」
サトルとマサユキが腕を組んで答える。
その言葉を聞いた瞬間、エレンの顔色が一気に青褪めていく。
両手をワナワナさせて、若干震えている様に見える。
顔をひくつかせながら、口を開いた。
「男が趣味だったの……」
「「「…。」」」
俺達は一瞬思考が止まった。
「ちがう!!!」
「ちゃうわ!!!」
「違います」
俺達は全力で否定した。
「バカバカしいな」
そう呟き、振り返り街の方向に歩き出した。
その時、マサユキが止まった。
サトルと俺に近寄り、囁いた。
「50m先に、爪兎がいます。
恐らく……5匹です。
どうしますか?」
「このまま進むと、ぶつかるか?」
「はい。間違いなく、見つかります」
マサユキの答えにサトルが続ける。
「参ったのぅ、あの2人にワシらの戦い方見せたら、怪しむやろな。
でも、やるしかない。どうやって誤魔化すかいな」
提案もなくサトルが答える。
ー サトルも良案が無いのか。珍しいな ー
「ゆっくりですが、爪兎が向かってきています。いずれ見つかります」
マサユキが囁く。
「仕方ない、出てきた所で俺が対処する。爪兎に襲撃させよう。
2人は少し後ろを歩いてくれ」
「わかったわ」
「わかりました」
サトルとマサユキが答える。
その時、カチッと頭の中で音がした。
ー丁度良かった、リンクした ー
「いきなり止まって、どうしたのよ?」
エレンが不思議そうに聞いてくる。
「いや、マサユキが嫌な匂いがしたというからな。でも何でもなさそうだ」
俺は適当に誤魔化し、また歩き出した。
ー 30mです ー
ー 15mです ー
ー 3m、出てきます ー
マサユキがタイミングを教えてくれた。
その瞬間、爪兎が3匹飛び出してきた。飛び上がり、俺の顔を目掛けて、爪を振りかぶっている。
2匹は俺の横を通り過ぎようとしている。
恐らく、他の5人を牽制して、加勢させない為だろう。
飛び上がった1匹を、殴りつける。
そのまま、拳を振り抜き、2匹目を殴り抜き、地面に叩きつける。
3匹目は間に合わず、爪を俺の首筋に立てた。
しかし、防御力が上がっているおかげで、この程度ならば、かすり傷しか負わない。
3匹目は地面に降りると、スグに後ろを向き逃げて行く。
俺は剣を抜きつつ、後ろを向いた。
サロンとボランが前に出て、4匹目と5匹目の攻撃を剣で受けている所だった。
俺はスグに近寄り、右手のボランの爪兎から地面に降りた瞬間に蹴り上げた。
左手の爪兎を見ると逃げようとしている。
そのまま、サロンの元まで駆け寄ると、爪兎は見えなくなっていた。
ー 終わったな ー
ー そやな ー
ー はい、3匹とも気絶しているだけです。すぐに止めを刺しましょう ー
ー わかった ー
ー 了解や ー
マサユキの指示に俺達は答えた。
サトルとマサユキは、ナイフを取り出し、爪兎に歩いていく。
俺はナイフをマサユキの収納空間に預けてある為、剣を持ったまま歩いていく。
爪兎を見ると、ピクピクしている。
首を両手で掴み折った。
その時、頭の中でカチリと音がした。
「一瞬………。爪兎を…しかも素手で……」
エレンは驚いた表情を唾を飲み込み、呟いた。
仕留めた爪兎は、俺たちが貰うことにして、また歩き出す。
結局、エレンのスカウトが止むこともなく、俺たちは街に到着してしまった。
まだ日も高いが、冒険者ギルドに向かった。
「マリーさん、こんにちは。爪兎3匹を買取お願いします」
俺は爪兎をマリーさんに渡した。
エレン達は、金髪の受付嬢のメイヤさんに、何かを買い取って貰っていた。
買取を待っていると、エレン達が終わったようで、こちらに向かって歩いてきた。
「今日は有難う。お礼に奢らせてくれない?命を救って貰っておいて安いお礼だと………」
エレンの話の途中でカウンター奥のドアがバンと開きザザンが出てきた。
「おお、サトルじゃねーか。上がりか?いっちょどうだ??」
りばあしを刺す手つきでザザンが会話に割り込んできた
「イヤや!お前弱いからの。イヤイヤヤ!…あっ!!うーん。やってもええで!」
サトルが一呼吸おき続ける。
「ワシ、魔法覚えたいねん。ザザンが教えてくれるなら、やってもええ!」
ー サトルは相変わらず好条件を持ち出すな ー
少々感心した。
「俺が魔法なんか使えるかよ。うちのギルドだと、そこのエレンだけだ!」
ザザンがエレンを指し答える。
ー マ、マジか、ウザ女のエレン、一択なのか… ー
サトルを見ると、頭を抱え、エレンは突然の事でキョトンとしている。
「なぁ、ザザン。ワシも人は選びたいねん。他をオススメしてくれんか?」
サトルは気を取り直しザザンに尋ねる。
エレンの額に青筋がたっている。
「サトル、あのなぁ、魔法なんて貴重なスキルもってるやつなんざ、そうそういねえよ。
この辺りだと、(お前がコテンパンにした)リヤルドのメンバーに居るくらいだぞ。
お前が魔法使えるのが、普通じゃねーんだ」
ザザンは溜息をつき、続ける
「リヤルドは、お前と違って、紳士で人徳もあるし、それに男前だ。
しかも、お前のふざけた態度を寛大に許すだろう。お前みたいに小さい人間じゃないからな。
でもな、お前は頭下げるのが嫌だろ?」
ザザンは、この時とばかりにサトルをdisりながら、教えてくれる。
サトルは無言で頭を抱えた。
「なぁに?魔法が教えてほしいのかしら?」
エレンが腕を組んで微笑えみながら、続ける。
「いいわよ!今日のお礼にわたしが教えてあげるわ!」
サトルにビシッと指差す。




