030 先輩冒険者
黒い森から出てきた3人を確認した俺は、魔物がいると思われる方向に走っている。
3人組の間をすり抜けて、俺は黒い森に走る。
ー 出ます!ー
マサユキが叫ぶ。
3mほど先の黒い森から角熊が出てきたのが見えた。
俺はスピードを落とさすに角熊に向かっていき、そのまま横なぎで剣を振った。
ガンと鈍い手ごたえを感じる。角熊の鼻を捉えたようだった。
おれはスピードをそのままに、角熊の横を抜けて、振り返った。
ー ヒロシさん、そのまま左回りで、角熊の後ろに入ったら、足を狙ってください ー
ー サトルさん、ヒロシさんが射線から外れたら、ファイアーボールを目にっ! ー
マサユキの指示が飛ぶ。
俺は、角熊の右側に回り込み、剣を振り上げる。
その時、ファイアーボールが角熊の顔に当たった。
両手に持った剣を、思い切り左足に叩き込み、そのまま振りぬいた。
ー サトルさん、ファイアーボールを同じ場所に! ー
マサユキの指示とは異なり、ファイアーボールが角熊の目の前で辺り、下草を燃やし始めている。
ー この女!なにしてくれとんのじゃぁ!!!! ー
サトルの怒鳴り声が聞こえてきた。
ー くっ!ヒロシさん、そのまま、こちらに来てください ―
マサユキの言葉を聞き、火を避けながら、マサユキの元に向かう
ー ヒロシさん、サトルさん、角熊が逃げていきます ―
マサユキの声を聞き、走りながら後ろを振り向くと、角熊が足を引き釣りながら、黒い森へ引き返していく。
足を止めて、角熊を見る。
ー もう大丈夫のようです ー
黒い森に入って、姿が見えなくなると、マサユキの声が聞こえた。
「ふぅ・・・」
思わずため息が漏れた。
俺は、ゆっくりと、サトルとマサユキの元に歩いていくが・・・
サトルが女と口論になっていた。
「女!何すんねん!なんで邪魔したんじゃ、ボケ!!!!」
サトルが叫んでいる。
「あんた、馬鹿なの?
剣士が引いた時に魔法を放つのが基本でしょう。
あれじゃ、あたっちゃうじゃないの!」
女が叫び返す!
その間で、マサユキと、男二人が宥めている。
「阿保!!!ど阿保っ!!ワシらのやり方に口出すんは阿保や!!!」
サトルが唾を飛ばしながら女に怒りをぶつけている!
「サトル!やめろっ!!!!」
俺は、大声で叫んだ!
「「!」」
サトルとマサユキがキョトンとしている。
普段、大声など出さない俺にびっくりしたのだろう。
他の3人も黙ってしまった。
「ヒロシ、すまんのぉ・・・カッとなってしもうて」
少々、時間をおいて、頭を搔きながら、サトルが謝ってきた。
「いや、いいんだ。先ずは何があったかと、何者なのかを確認しよう」
サトルを見ながら答える。
「俺たちは、サンライズというパーティーだ。何があった?」
俺は一呼吸おいてから、3人に向かって話かけた。
「先ずは、お礼を言わせて。助けてもらって有難う。私たちは、Cランクパーティーの“強き意志を持つ者”よ」
女が俺を見つめて、話を始めた。
女1名、男2名の3人パーティー。
女の名前は“エレン”、このパーティーのリーダー的役割だという。
皮鎧に短剣を差している。
赤毛で目が少々吊り上がっており、見た目がきつく見える。年齢は20歳。かなりの美人だ。
1人の男は、エレンと同じ赤毛で、名前は“サロン”、20歳で、エレンの弟だそうだ。エレンに顔立ちが似ている。中肉中背、端正な顔立ちをしている。金属製の鎧を身に着けて、片手剣を下げ、剣士といった雰囲気だ。右手に槍を持っている。
もう1人の男は、名前は“ボラン”、20歳、こちらも中肉中背、金属製の鎧を身に着けて、片手剣を下げ、同じく剣士といった雰囲気だ。サロンの友人だそうだ。
3人パーティーを見ていると、エレンお嬢様を守る、2人の騎士といった雰囲気に見える。
冒険者と言われても、ピンとこない感じだ。
エレン達3人は、朝から黒い森の辺りで、穴猪を探していたそうだ。
昼くらいに、大きな穴猪を見つけた。
藪に隠れて、エレンが土魔法で穴猪の足元に泥濘を作り、動けなくした。
サロンとボランは、動けなくなった穴猪を槍で突いて倒した。
3人で大きな穴猪だった為、持って帰るのは難しいと判断し、皮と魔石を持ち帰るために、仕方なく解体に入った。
そこに血の匂いを嗅ぎつけた、角熊が現れた。
そのまま、穴猪を置いて逃げればよかったのだが、警戒していたボランが驚いて、槍で角熊を刺してしまった。
怒った角熊に追いかけられて、俺たちを遭遇した。
一通りの話を聞いて、俺は口を開く。
「それで、何故揉めていたんだ?」
サトルとエレンに確認した。
「そや、2発目のファイアーボールを撃ちだそうとした時、この女がワシの腕を下に押したんや!」
サトルが青筋を立てながら話す。
「当たり前じゃないの!
前衛が完全に下がった時に魔法使いは攻撃するの!
詠唱に時間のかかる、攻撃魔法を使うんだから、常識でしょ!」
エレンがサトルに食いつくように叫ぶ。
一息ついて話を続ける。
「だいたい!あんな大きさの火魔法を、発動してからコントロールするのに、どれだけ集中してるのよ!
前に出すだけで、終わりじゃないの!」
今、サトルのファイアーボールはバスケットボール並みになっている。それを20発は撃てるらしい。
止まっているモノならば、外れる事はない。
しかも、詠唱などしない。
一瞬でボールを作り、その状態で狙いをつけるだけだ。
ー エレンの話だと、魔法は詠唱が必要でコントロールが難しい事になる………。俺達は彼等の常識と違う可能性がある ー
俺は脂汗が出てきた。
「この女!ワシは…」
「サトル、ちょっと話がある!」
また熱くなったサトルの肩を掴み、こちらを向けた。
「サトル、冷静になってくれ。彼女の話が本当なら、詠唱しないで、簡単にファイアーボールを当てるのは異常な事かもしれんぞ!」
サトルの耳に口を寄せて、強い口調で囁く。
サトルは、俺の顔を見遣り、ハッとした顔をする。
俺達は異世界から来ている。
調停者の話から、俺達は強い能力を持っている可能性が非常に高い。
危険な存在と判断されるかもしれないし、懐柔して不本意な戦いを強いられるかもしれない。
理不尽なトラブルに関わらないように気を付けている。
その為に他の冒険者とは最低限の接触に抑えて、情報が漏れる事を避けてきた。酒場でこの世界について聞き耳を立てて情報収集していた程だ。
「とにかく、冷静になれ!お前らしくない」
もう一度、サトルに囁く。
サトルは、目を瞑り、ふぅと息を吐いた。
「すまんの、そやったな」
サトルは納得したように呟いた。
俺の手を退けて、俺の肩をポンポンと叩き、エレンの前に立ち直る。
「戦闘で血が昇っとったわ!エレンさんの言う通りや!すまんかった!」
サトルは頭を下げて、大声で詫びた。
エレンは何が起こったのか、わからず一瞬キョトンてする。
「ま、まぁ、いいわ。わかってもらえて。もっと基本から学ぶべきね!」
エレンは腕を組みながら、頭をコクリコクリとしながら喋る
この光景を見て、マサユキとサロン、ボロンがホッとしている。
「それにしても、あんなに早い詠唱は初めてみたわ。
それに火の大きさも中級位だし、センスいいと思うわ。
まさに実践向きよね」
エレンがビシッとサトルに指差し喋る。
ー サトルは詠唱していない。戦闘の混乱で勘違いしている。有難い勘違いだな ー
「アリガト、ゴザイマス。ウレシイデス。」
冷や汗をダラダラ流しながら、視線を躍らせて、サトルはおかしな言葉で返す。少々顔が青い。
「それに、あの体捌きもすごいわね!あんなに軽い身のこなしなのに、角熊にダメージを与えるなんて!」
今度は俺に指差す。
「私達と同じくらいの年なのに…ランクはいくつなの?」
「ああ、Fランクだ」
「「「はっ?????」」」
俺が答えると、エレン達3人があっけにとられた顔をした。
「ちょっと待って頂戴、私たちは新人に助けられたってこと?」
エレンが頭を抱えながら喋る。
「ああ、1ヶ月前に登録したばかりなんだ」
「あーーーん、もう、それ以上言わないで・・・ショックすぎわ・・・はぁ~~~~~~っ」
エレンは頭を抱えて盛大にため息をついた。
「!」
エレンは何かをひらめいた。
「ねぇ!私たちのパーティーに入らない!!!!」
エレンがビシッと俺たちを指さし叫ぶ。
「いやや」
「断る」
「遠慮します」
俺たち3人はきっぱりと断った。
「なんでぇ~~~」
エレンが泣きそうになりながら、俺にしがみついてくる。
エレンは少々空気が読めないようだった。




