029 駆け出しの冒険者たち
「ヒロシさん、サトルさん、気配を感じます」
マサユキが右手で制する。
カチッと頭の中で音がする。
ー リンクした ー
ー わかったわ ー
ー はい ー
サトルとマサユキに思念伝達が繋がった事を伝える。
ー この方向に魔物だと思います。数は…3です。この大きさですと、爪兎だと思います。距離は50m程。 ー
そう言いながら、マサユキが左側の先を指差す。
マサユキの気配感知もレベルが上がり、半径50-60m程度まで範囲が広がった。
収納も2m立方になった。
ー 了解、じゃあ、俺の方で対応する ー
そう言うと、マサユキが指差す方へ、剣を抜きながら慎重に歩き出す。
多少は開けた場所で立ち止まる。
ー こちらに気がつきました。来ます! ー
ー わかった ー
マサユキに返事をしながら、重心を落とし、両手に持った剣を右手で持ち、左手を手首に添え、横に構える。
出てきたのは、爪兎。
見た目はウサギに似ている。
しかし、両手に鎌の様な大きな爪が1本生えている。小さな爪がその下に生える。
目は血のように赤い。
爪兎は、両足で跳ねる様にこちらに向かってくる。
3匹が連携しているようだ、前に2匹、その後に少々離れて1匹いる。
十分に引きつける。
剣が届く距離…前の爪兎が飛びあがった瞬間。
左に見える爪兎を薙ぎ払う。
前の爪と首に剣が当たり、鈍い衝撃を感じる。
その横にいる爪兎が、剣筋にいるため、剣をそのまま、2匹目の胴体に叩きつける。
剣を振り抜いて、2匹を地面に叩きつける。
3匹目は危険を感じたようで、右手方向に進路を変えて、スピードを殺さないように逃げて行った。
ー 終わったな ー
1匹目は全く動かない。2匹目はピクピクしている。
ー ありがとさん… ー
ー お疲れ様でした ー
サトルとマサユキが答える。サトルは元気が無い。
カチリと頭の中で音がした。
サトルとマサユキが前にでていく。
失血死させる為に手に持ったナイフで首を裂いていく。
「今日はこれで8匹か」
俺はポツリと呟いた。2人の耳には届いていない。
まだ、日は高い。
「まだいけそうだ。あと10匹位どうだ?」
「そうですね、まだ血袋も残っていますし、頑張りましょうか」
マサユキが血の入った袋を持ちながら、言葉を返す。
「そやな…」
サトルがしょんぼりしながら呟く。
冒険者登録して30日が経った…
俺達は、ムランの北の森に居る。
冒険者登録した翌朝、俺達は冒険者ギルドに向かい、依頼を確認していた。
俺達は、暫く依頼を眺めていた…
急にサトルがポンと手を叩く。
「なぁ、ワシ思うねん。このEランクの爪兎とFランクの薬草採取って一緒にできるんちゃう?」
サトルが常設依頼の板を指差し続ける。
「やり方にもよると思うんやが、多分肉食の…爪兎を血の匂いで誘き寄せるやん。
来るまでは薬草取るやん。
近づいてきたら、マサユキが気がつくやん。
倒すやん。
で、ワシら金持ちやん!っちゅう作戦や」
サトルが胸を張りながら答える。
薬草は、1束で500〜1000ドン。
爪兎は、1〜2万ドン。
ー まぁ、やって見なくちゃわからんか・・・ ー
「やってみるか!だが、マサユキ、爪兎は肉食なのか?」
「爪兎は雑食ですが、肉を好みます。鼻も良いです。これは確かに良い作戦だと思います」
マサユキは顎に手を置き答えた。
「サトル、爪兎が肉食だって知ってたのか?」
「いや知らん。デパで爪兎で襲われて(・・・・)死人が出とるって聞いてたからの。それに森の肉食なら鼻が頼りやろし、手負いの獲物は狙い易いからのぉ、寄ってくるわけや!」
サトルは、腕組みし、胸を張って答えた。
「そうですね。マリーさんに聞いてみましょうか」
「そうだな」
マサユキの提案に答えた。
冒険者ギルドの受付嬢マリーさんは、冒険者登録の件以来、対応が非常に良い。
マリーさんに確認したところ、森の浅い場所には、安い薬草が生えているそうだ。
同じ場所に爪兎も潜んでいるが、数は少ないとの事だった。
深い場所の方が稼ぎは良いとの事。
また、薬草採取しながら、爪兎を狩るのは、止めた方が良いとアドバイスしてくれる。
爪兎はスピードの速い魔物らしく、対処が遅れると、命を落とす事もあるそうだ。
駆け出しの冒険者が周辺を警戒しながら、薬草採取など、器用な真似は出来ないからだそうだ。
ただ、俺達にはマサユキが居る。
気配を感知出来るマサユキは、大きなアドバンテージになる。
結局、俺達は、薬草採取しながら爪兎を狩る事にした。
が………
薬草は安過ぎた。
森の浅い場所で半日程採取しても、3人で1束程度。
爪兎は全く出てくる気配は無かった。
それから、俺達は徐々に森の深い場所に入って行き、爪兎狩のみに切り替えた。
爪兎も森を進むに従い、血袋に誘われて襲ってくる。
最初のうちは、爪兎狩に手古摺ったが、すぐに慣れた。
そうやって、今日も爪兎狩を続けていた…
「なぁ、ワシ、爪兎のトドメをさす以外に仕事ないかのぉ」
先程仕留めた爪兎をマサユキに渡しながらサトルが呟いてきた。
「仕方ないさ、森の中で火魔法は使えないからな。火事はシャレにならんからか」
サトルは火魔法以外使えない。
火魔法は、止まっている状態ならば当たる。
しかし、爪兎は、常に動き回る為、相性が悪い。
森の中で火魔法が外れれば火事になり、逃げ遅れば危険だ。
「そうやけどなぁ…他の魔法の使い方がわからんしのぉ」
サトルはしょんぼりしながら呟く。
この所、他の魔法が使えないか、サトルは試しているが、使える様子がない。
これまでに、風魔法、土魔法等、多様な魔法がある事は小耳に挟み、わかっていたが、サトルは使えない。使い方を聞きたいが、魔法使いに会った事が無かった。
因みに、今まで怪我をしていなかったので、回復魔法は使っていない。
少なくとも疲労回復には使えないみたいだ。
「なぁ・・・・・。今更だがザザンに魔法の事を聞いてみるか?″りばあし″の貸しがまだ残っていたんじゃないか?」
「あ、そやった!今まですっかり忘れとった!帰ったらザザンに聞いてみるわ!」
サトルは明るい表情で手をポンと叩いて答える。
「さて、もう少し奥まで行こうか!」
俺達は森の奥に入って行った。
30分程歩くと、少々開けた場所に出る。
すると目の前の森の雰囲気が変わった。
森が、薄暗く、陰気な感じがする。
まるで、ここから先はレベルが違うと言わんばかりの感じを受ける。
「なぁ、森の雰囲気が暗くないか?」
「そやな、嫌な感じがするわ。多分やが、ギルドで言っとった、“黒い森”ちゃうかな。
血袋閉じひんか?少し戻った方が良い思う。
明らかに、ワシらが入っていいとこや無いと思うわ」
サトルが真剣な顔で答える。
黒い森については、冒険者ギルドで推奨ランクCと聞いていた。
棲んでいる魔物もランクが高くなる。
「そうですね、今の所、魔物の気配は感じません」
マサユキが血袋を収納しながら答える。
俺達は振り返り、歩き出そうとした瞬間だった。
「待って!後ろ、人が来ます!」
マサユキが突然叫ぶ。
俺達は再度振り返り、黒い森を向く。
「2人…後から1人、全部で3人来ます」
ー 敵か!? ー
頭の中でカチッと音がする。
ー リンクした ー
ー わかったわ ー
ー はい ー
サトルとマサユキが答える。
ー 走っています。40m あります。あ!その先15m魔物です!爪兎じゃない! 1匹です ー
マサユキの声に焦りが見える。
ー 多分冒険者が、仕留め損なったんやろ! ワシら爪兎の血がついとる!こっちが追われるかもしれん!迎え撃つしかないわっ! ー
サトルが頭の中で叫ぶ。
ー これはっ!恐らく、角熊ですっ! ー
マサユキが焦ったようにさけぶ
ー わかった!最悪、火魔法を頼む! ー
サトルに答えながら、重心を落とし、右手に剣を持ち左手を手首に添える。
サトルとマサユキが後ろに下がった。
ー 出てきます!! ー
マサユキが叫ぶと同時に男女が黒い森()から飛び出してきた!
その直後にもう1人男が飛び出してきた。
それを確認すると、俺は魔物がいるであろう方向に走り出した。
「大丈夫かっ!!」
咄嗟に声が出てしまった。




