025 危険回避
街道を歩いて戻ると、畑が見えてきた。少し先に建物が見える。
ここまで来る間に、幾つかのグループを見かけたが、無視するように歩いてきた。
畑を抜けて、簡素な木作を抜けて宿場に入る。
通り沿いに何軒か宿屋があるが、昨晩泊まった宿屋に向かう。
日は傾いているが、夕方と言うには少々早い。
宿屋のウエスタンドアを押して入っていく。
奥のカウンターに歩いて行く。
「いらっしゃいませ。あれ、今日も泊まりですか?」
15歳位の金髪の整った顔立ちの女の子が出迎えてくれる。宿屋の1階は、酒場になっており、カウンターから声を掛けてきた。
「ああ、今夜、空いてるかな?」
「大丈夫です。一部屋でいいなら、3人で15000ドンですよ」
「それで構わないよ、食事は、後で食べに来るよ。釣りはいらないから」
俺達はカウンターに銀貨を2枚置く。
「ありがとうございます!木札です!」
嬉しそうな顔をしながら、木札を差し出してきた、
それを受け取り、サトルとマサユキと共に2階の部屋に向かった。
俺は部屋に入ると関をする。
「「「はぁぁああ〜」」」
3人はベッドに腰を下ろし、同時に深い溜息きを吐いた。
「アレ盗賊やろな?」
サトルが口を開く。
「間違いないですね」
マサユキが答える。
「どうするかな?」
「ちょっと作戦を考えんとな」
サトルが答える。
「そうだな」
「ちょっと休みませんか?冷静さを失っているかもしれません」
マサユキがそう提案すると、俺達はベッドに寝転がった。
俺は目を瞑り、右腕を両目の前に置く。
眠っていたようだ、30分程休んだだろうか、窓から差す日差しが柔らかくなった気がする。
横を見ると、サトルとマサユキは目を覚しているようだ。
「だれか死ぬかもな…….」
俺は寝転んだまま呟くが、聞こえていない様で、誰も答えない。
「なあ、メシ食わんか?ワシ腹減っとるみたいや」
サトルが天井を向いたまま、ポツリと喋った。
俺もマサユキも腹が減っていた。3人で酒場に向かった。
酒場には、早い時間のせいか、俺達しか居なかった。
俺達は食事を注文し一通り食べ終わると、ツマミと酒を注文した。木の実のようなモノと、エール(上面発酵の麦酒)のようなモノがテーブルに並べられた。
その頃には、酒場には賑わっていた。
「どうするか?」
「盗賊がいたかもしれません、と話をしても、この宿場の方は、動かないと思います。少々残酷な言い方ですが、被害が出ないと」
マサユキは、困った顔で答えた。
「そやな、盗賊の確証はないです。仕事を休んで討伐しましょう。何人居るかわかりません。って言っても、誰も動かんわなぁ。しかも、ワシらココの人間やないし信用されへん」
サトルが腕組みしながら、答える。
「はい、私もそう思います」
マサユキがコクリと頷く。
「そうか…そうだな、街道が安全になるのを待つで良いか?暫くの間は、この宿場に留まる事になるが…」
「そら、仕方ないと思うで、後は情報収集やな」
サトルは腕を組んだまま、天井を見る
「そうだな、何かあれば、宿屋の主人も教えてくれるだろうし、酒場だって、もっと緊張感があるだろうしな」
俺は、右手の親指を後に向けた。
酒を飲み干し、ツマミを空にすると、部屋に戻り、眠りについた。
翌朝、酒場に向かうと、30代半ばあたり、金髪で細身の男がカウンターで暇そうにしている。
この宿屋の主人だ。
宿屋の主人に、仲間が怪我をしたので、暫く留まる事を伝えた。誰も怪我等していないが、小さな宿場に留まる理由もない為、嘘をついた。
それから3日経った。
この3日間、朝は宿屋の主人か女の子に変わった事がないか確認する。
昼間は部屋でダラダラすごし、夜は酒場で聞き耳を立てていた。
今日も夕方になり、酒場に向かった。
ただ、いつもと雰囲気が違った……
酒場全体が緊張感に包まれている。
いつもは、″りばあし″をしたり、酒を飲み騒いでいる客達が、ヒソヒソと話している。
俺達3人は、カウンターに向かった。
「何かあったのか?」
カウンターに立つ、宿屋の主人に聞いてみる。
「え、あ、はい。実はムラン側の街道に盗賊が出たらしいんです」
宿屋の主人が困った顔をしながら、悲しそうに答えた。
ー ああ、被害が出たか ー
額から汗が落ちた。
俺達は詳しい話を聞いた。
今朝、商人がこの宿場を出て街道を進んだ、先にある林で待ち伏せにあったらしい。
5人のパーティーだったそうだが、1人が這う這うの体で宿場に戻ってきたそうだ。
盗賊は少なくとも、10人はいたそうだ。
話を終えた後、空いているテーブルに座った。
「なあ…どうしようか?」
「そやなぁ……」
「そうですねぇ……」
サトルとマサユキが答え、俺達は腕を組み、考えこむ。
サトルがハッと顔を上げた。
「なぁ、明日は誰も行かんと思うねん。ただ明後日からは話が違うんちゃう?」
「「?」」
俺とマサユキがキョトンとした。
「あ、すまん、すまん、ワシはこう思うねん…」
サトルが自分の考えを喋り始めた。
明日は情報が錯綜して、ムラン側への出発は躊躇うだろう。力のある者は、強引に行くかもしれない。
明日は、盗賊の情報が周辺にも伝わっていないから、宿場には、旅人が訪れる。情報が伝わったとしても、この宿場での待機する旅人が居る可能性もある。
当然、この宿場は旅人が増える。
「そこでや、明日はムラン側に行く人間に声を掛けるんや、人数が集まったら、そのまま行く。集まらなんでも、明日到着した人間を誘って、明後日向かう」
サトルは人差し指を立て、話を続ける。
「賊は10人はいるらしいからの、15人位見積もってええやろ。その3倍強もおれば、大丈夫ちゃうかなぁ。うーむ、そやな、50人位集まったら、出発なんてどやろ?」
サトルは腕を組んで聞いてきた。
「いいですね。私はいいと思います」
マサユキが頭をコクリと下げて答える。
「そうだな、それがいいな。明日宿場の回りで声をかけてみよう」
俺達は、宿屋の主人にも声を掛けて欲しいとお願いした。銀貨を置いて、部屋に戻り、眠りについた。
翌朝、同じ宿屋に泊まっていた、5人が話に乗ってきた。俺達と5人は宿屋を回り、声を掛けた。
宿場のムラン側で待ち合わせたのだか、俺達を含めて28人しか集まらず。
解散となったが、それぞれが、宿屋で声を掛ける事となった。
翌朝、集合場所に集まると…
100名程が集まっていた。
昨日、声を掛けきれなかった者、昨日到着した者も酒場で話を聞いて集まったらしい。
俺達は出発する事にした。
相当な人数ではあるが、無駄口をたたく事もなく、歩いていく。
馬車を使う者も、馬を引いてもらう。
俺達3人は一番前を歩く。
昼頃だろうか、前回、マサユキが気配を感じた辺りまで来ていた。
俺は緊張しいる。
背中に冷たくなる。
カチッと頭の中で音がした。
ー リンクした ー
ー わかったわ ー
ー はい ー
サトルとマサユキが答える。
ー 気配を感じます。人ですね。2人居ます ー
歩きながら、マサユキが呟く。
ー あ、前の方に移動しています….気配が消えました ー
マサユキが気配を伝えてくる。
ー 諦めたんやないかな ー
サトルが呟く。
ー そうだな ー
俺達はそのまま歩いて行った。
そこから2時間程歩くと林を抜けた。
頭の中で、カチンと音がした。
「大丈夫そうだな」
「そやな」
「そうですねか」
サトルとマサユキが答える。
俺達の集団は2時間ほど歩き、宿場に到着し、解散となった。
ただ、宿屋は何処も空いていなかった。
適当な酒場に入ると、人が溢れており、盗賊の話で持ちきりだった。
俺達は酒場の端に立って、コップを当てた。
「「「乾杯!」」」




