021 旅立ち
マサユキが従業員に旅に出る事を告げた日から、店の宿屋を引き払い、店裏の宿舎に泊まる事にした。
俺とサトルも、宿舎の空き部屋を貸してもらう。
宿舎は、木造の3階建、小さめの部屋に区切られており、大きな食堂も備えていた。
俺達3人は、旅の準備を始めた。
ただ、マサユキは商業ギルドに店の権利をサイム達に譲る手続きと、サイムへ幾つか引継ぎがあり、勝手に準備する。また、旅に必要な物も買っておくそうだ。
蛇足になるが、店は従業員の共同経営にし、代表者をサイムにしたそうだ。
先ずは、マサユキから教えてもらった武器屋に行く。「派手ですから、すぐ分かりますよ。」と言っていた。
街の西の端まで歩いてきた。
「あそこかな?」
「あそこやな」
サトルが答える。
ー ピンク? ー
「ピンクだよな?」
「ピンクやな」
サトルが答える。
店の壁は全体的にピンクだ。
屋根は水色。
「なぁ、あれは、剣の絵だよな?」
「そやおもう」
看板を指指して、サトルに確認した。
そこには、水色の背景に、デフォルメされた、剣と盾の絵が描かれていた。看板は最近新しくしたようだ。
ー 嫌な予感しかしない ー
「サトル、店主なんだが、クネクネしてるイメージしかないんだが」
「ワシも筋肉ムキムキで…おねぇ言葉する店主しかイメージでけへん」
正気のない目で店を見ながら、サトルが答える。
「この街は、ここしか武器売ってないんだよな」
「そや、入りにくいの」
ー 入りたくない……でも、この1軒しかない…ー
「い、いくか?」
「そやな」
サトルが答えると、扉を開けた。俺はそれに続く。
俺も思いとは裏腹に入っていく。
中は少々暗い。窓が開けられているが、日差しが差し込み難いようだ。
「誰もおらんの」
サトルは回りを見回す。
「誰かいないか???」
店の奥に向かって、大きな声で呼んでみた。
「おぅ、ちょっと待ってくれっ」
店の奥から、太い声がして、暫くすると体格の良い、男が出てきた。
40代と思われる男は頭を剃り上げており、精悍な顔をしている。
頬にキズがあり、口髭を生やしている。
いかにもな、武器屋の主人だった。
ー 良かった。普通な感じだ ー
「すまないが、武器を見せてもらいたい」
「おお、客か、何が欲しいんだ?」
主人が答えた。
「ああ、両手剣あるか?」
「そっちに置いてあるものがそうだ。新品なら10万ドン、使い古しなら3万から5万ドンだ」
主人は指を差して、答えた。
「で、そっちは、何が欲しい?」
主人がサトルを向き聞いた。
「あ、ワシか!ワシ、杖とローブやな」
サトルが腰に両手を腰にやり、胸を張って答えた。
「武器屋にそんなモンあるわけねえだろ!!!服屋と土産物屋に行けっ!!!」
主人はサトルを怒鳴りつける。
サトルはシュンとしてしまった。
ー ローブは洋服だからな…杖って…歩く為の道具だし ー
「ああ、彼は魔法使いなんだ」
さり気ない、俺のフォローに、サトルは立ち直った。
「なら、杖は武器じゃねえ!道具屋に行け!!」
主人は容赦ない言葉をサトルに向けた。
ー あ、普通そうだよな ー
ー大体、ローブって歩き難いし、ただの布だし、杖は何の役割があるんだ ー
「なぁ、サトル、ローブと杖は何に使うんだ?」
シュンとしている、サトルに聞いた。
「攻撃魔法と回復魔法いうたら、賢者やん。ワシなんて、もう大賢者一歩手前やん」
サトルが小さい声で答えた。
ー 形から入るタイプ……か ー
その後、ローブは歩き難いと説得するとサトルは、皮鎧を買った。主人の好意で、マントを肩に付けてくれたのが決めてだった。
俺も皮鎧を買うが、マントは付けない。邪魔だ。
主人と装備を選んでいると、打ち解けてきた。
店の外観を聞いたところ、青い屋根に赤い壁だったが、色落ちしてしまった。
青い空と血のイメージだったそうだ。
看板は、最近結婚した奥さんがデザインして、付け替えたそうだ。
「嫁さんには言えないんだがな、あの看板にしてから、売り上げが落ちたんだ」
困った顔をしながら、話してくれた。
ー 当たり前だ ー
武器屋の主人に道具屋の場所を聞き、道具屋に向かった。
道具屋で杖を聞いた所、魔石といモノを埋め込んでいるらしいが、王都などの大きな街の道具屋に行かないと無いらしい。
帰りに雑貨屋の様な店で杖を見つけた。
サトルは、ただの棒にしか見えない杖を満足そうに買った。
これ以外に必要な物は、マサユキが用意してくれている。
後はする事も無くなり、空いている時間は、店の手伝いをして過ごした。
サトルは、毎日りばあしを、お客様と打っていた。
お客様から、゛無敵の〜゛という二つ名がついたと思っていたら、゛帝王゛に変わり、出発前日には、゛神゛になっていた。りばあ神と言うらしい。
こうして1週間が過ぎた。
出発の朝。
従業員が見送りの為に店の外に並んでいる。
俺達は、その前に立っている。
「それでは、私は行きます。皆様、お達者で」
マサユキが従業員に向かって口を開いた。
サイムが一歩前にでる。
「有難う御座いました!!」
サイムが頭をさげて、叫ぶ。
「「「「「「有難う御座いました」」」」」」
それを聞くと、従業員が一斉に頭をさげる。
俺達は、従業員を背にして、歩き始めた。
マサユキを見ると、決意に満ちた顔をしている。
空は雲一つない。暑いが秋の気配がする。
こんにちは。
次から新章に入ります。




