018 制限解除
(ドクン)
3回目を感じた後、俺はベンチに座っていた。
周りは暗い。目を閉じているのか開けているのさ判らない。
恐らく、前を向いているだろう。
黒く染まった世界にノイズが走る。
前と同じだ、青白く人型の輪郭を作る。
全身黒のシルクハットに燕尾服、両手を杖に置き、俺の前に座っていた。
ー ゛調停者゛か… ー
ふと、隣に人が居る事に気付く。
輪郭が少し光っている。
両隣にサトルとマサユキが居た。
2人も気づいたようだ。
「3人揃って、良かった。安心したよ」
゛調停者゛少し高揚感のあるように話した。
「僕に聞きたい事が沢山あるようだね?」
゛調停者゛がコクリと首を横にする。
「あるわい!何で一緒にスライド(転移)せんのや!!!アホかっ!」
サトルが叫ぶ。
「すまない、うーん、どう伝えるのが良いかな…そうだ!3人が通るには小さいゲートがあって、2人なら通れるゲートがあったとしよう。
仕方ないから、もう一つゲートを探した。
2人のゲートがヒロシさんとサトルさんだった。
1人のゲートがマサユキさん。
ただし、1人のゲートには、ヒロシさんもサトルさんも大きくて入れなかったんだ。
だから、こうなった」
゛調停者゛は優しい口調で答える。
「だったら、出口は同じ時間に合わせばええやろがっ!!!」
サトルが叫ぶように答える。
「あまり時間を掛けられないけど…」
一呼吸置くと、ジっとノイズが走る。
「説明が難しいな。空間は固定出来たんだ。でもね時間は難しくて、こうなったんだ」
「わからんわっ!!」
サトルが叫ぶ。
「すまないね。こんなに短い時間じゃ説明しきれないんだ」
゛調停者゛は一呼吸おき、続ける。
「先ず、僕の説明を聞いてほしい、いいかい?」
「わかったわ!」
サトルが怒った口調で答えた。
「ありがとう。君達の能力なんだけど、制限がかかっていたんだ。3人揃ったから、制限が解除される。」
「「「……….!」」」
゛調停者゛は、俺達の表情を見る仕草をして続ける。
「スライダー(転移者)は、1世代で1人なんだ。
今回は、3人居るよね。イレギュラーなんだ。
1人のスライダー(転移者)が持つ能力が、3人に別れてしまったんだ」
ジッとノイズが走る。
「3人揃ったから、能力が解除されて、本来の能力に戻るんだ。
うーん、1人だけなら、種が植え付けられた状態で、3人揃って、これから芽が出る状態かな。
でも只集まるだけじゃダメ。3人が心を通わせて、お互いを思う気持ちがないとね」
゛調停者゛は右手の人差し指を立てて続ける。
「いいかい。芽が出たからって、ちゃんと育てなければ、枯れてしまう。君達は3人それぞれが、自分の能力を使って、様々な経験をして、育てて行くと良いよ」
ジジッとノイズが走る
「じゃあ、どうやって育てるんだ?」
俺は声に出して尋ねた。
「能力は戦いの中で成長していくよ」
ジジッと゛調停者゛にノイズが走る。
その瞬間、俺の身体が強く発光しだした。
「ああ、良かった。無事に芽が出たみたいだ。」
゛調停者゛は両手を開きこちらに向けた。
「君達の育てた能力は大きな力になるんだ。この世界を沢山見て、沢山の経験を積んでほしいな。
君達は優しい筈だから、君達の目で見て良い事には手を貸して、悪い事は懲らしめてあげるといいよ。
ああ、もう時間みたいだ」
ジジジッと゛調停者゛にノイズが走る。
「そうだ、ヒロシさんに伝えないと…君の゛思念伝達゛は、スライダー(転移者)が分かれたから現れた能力だよ。僕もどんな風…育つか…判…ない…ら」
ジジジジッと゛調停者゛にノイズが激しく走る。
「おい、待ってくれ!!」
「ごめ….ね、も…か..んだ」
゛調停者゛がそう答えながら消えていく。再び暗闇に戻るが、俺達の発光が確認出来る。
同時に意識が遠のいていく…….
俺はゆっくりと意識を取り戻していく…
俺はベッドの上に居た。
窓が閉まっている為、薄暗い。ただ、隙間が明るい。
ー朝か…. ー
俺はベッドから起き上がり、腰かける。
サトルもマサユキもベッドから起き上がり、腰をかけた。
「なあ、俺達は何をしたらいい?」
前を向きながら、横のベッドに座っている2人に聞いた。
「わからん」
「わかりません」
サトシとマサユキが同時に答えた。
「だよな」
俺は呟くように答える。
俺達3人は、暫くの間、会話もなく座っていた。




