016 マサユキ -2-
馬車を降りて、゛げえむ゛と書かれた建物の前に立ち、あたりを見てみる。
先程の゛ぎるど゛が隣に見える。
他の建物と比べても大きい。
外壁ほ板張になっている、木造の建物のようだ、正面に木の扉が見える。
中からは人の声が聞こえる、少々騒がしい。
幾つも窓が見えるが、ガラスは………無い。
「サイムっ!お帰り!」
10才位だろうか、薄いブルーの髪をした女の子が駆け寄ってきた。
「ノル、待っていたの?」
サイムが女の子に問いかける。
「あ、うん、買いに出ようと思ったら、サイムが遠くに見えたから、待ってた」
買い物する為なのか、カゴのような物を見せてきた。
「ノル、マサユキさんのお客様なんだ。悪いけど、馬を裏にまわしてくれないか?」
「うん。いいよ」
女の子はそう言うと、馬に駆け寄り、手慣れた手つきで手綱を持った。そのまま、建物の横に向かっていった。
「さぁ、入りましょう」
サイムは、女の子の様子を見ている俺達に言い、扉を開けて入っていく。
俺達は、サイムの後について中に入った。
建物の中は、等間隔に柱が並んでいる。
学校の体育館程の広さがありそうだ。
天井は梁が剥き出しになっており、高い所と低い所がある。アーチ状に連なっている。
壁には等間隔に窓がある。光を取り込む為だろう、全て開いている。
そこに100人、いや、150人はいるだろうか、沢山の人がいる。服装もバラバラで年代もバラバラだ。
彼らは、小さなテーブルを挟んで、向かって座っている。頭を抱えたり、手を動かしたりと様々だ。
話している人も見える。
座っているのは殆どが大人だ、テーブルの間を子供が飲み物を持ったり、案内したり、注文を聞いているように見える。
子供は7-15才位だろうか、10人は居る。
「サイム、おかえりなさい」
扉を入ってすぐの右手から声がかかる。
15,6才位の男が声をかける。
「ライアン、ただいま。マサユキさんのお客様を案内してきたよ。奥の部屋で待っててもらうから、誰も入れないようにね」
サイムが男の方を向き話した。
「わかったよ。皆んなに言っておく」
男が答える。
「こちらです」
部屋の真ん中を奥に向かい歩いていく。
俺たちはそれについて行く。
歩きながら、テーブルの上を見てみる。
マスの少ない碁盤に、丸い白い物と黒い物が見える。
ー リバーシか ー
「リバーシやな」
サトルが、こちらに近寄り、口に手をやり、耳に囁いた。
「ああ」
短く答える。
俺達の前を歩く、サイムがウエスタンドアを開き入っいく。
それに続いて入ると廊下になっている。
前から飲み物をお盆に乗せ運ぶ、7、8才位の男の子とすれ違った。
左右に幾つか部屋があるが、気にする事なく、サイムが1番奥のドアを開ける。
「どうぞ」
サイムはドアの横に立ち、右の掌を部屋に向けた。
中に入ると事務所のようだった。
奥に机があり、椅子が1脚、こちらを向いている。
入って右手には、大きめのテーブルが置いてあり、椅子が、6脚置いてある。
机、テーブル、椅子は全て木製。それらは艶もなく質素に見える。椅子は全て、クッションはついていない。
入って右手に2つ窓がある。サイム窓を開けた。
俺とサトルは、テーブルに向かいあって座った。
「日が沈む前にはマサユキさんも、帰ってくると思います。すぐ夕食になりますが、その前に何か食べますか?」
サイムはこちらを向いて、聞いてきた。
「いや、食事は大丈夫だ。ここで、゛マサユキ゛を待たせてもらえるか?」
「はい。ここで待っていて下さい。店にいます。何かあったら、声を掛けて下さい」
「ああ、有難う」
サイムは俺の言葉を聞き終えると、頭を下げ、静かに部屋を出ていった。それを目でおう。
サイムが出ていった事を確認して、俺は口を開いた。
「サトル、腹が減ってないか?」
「もうぺっこぺこや、カロリースティック食べるん?」
サトルが手で腹を摩りながら情け無い顔をしながら答える。
「ああ、夕飯の心配はなさそうだしな。どんな食べ物が出てくるか分からんから、怖いしな」
俺が答える。
「ワシは食事を断ったときに、目の前が真っ暗になったわ」
サトルは嬉しそうに答えた。
サトルの皮鞄から、カロリースティックを出して食べ始めた。よほど腹が減っていたのか、ペットボトルの水を回し飲みしながら、全てのカロリースティックを食べてしまった。
サトルを見ると、満足そうな顔をしながら、椅子に座り、ダラけていた。
「なぁ、サトル、この店は何だと思う?」
ダラけていたサトルは、椅子にちゃんと腰かけてこちらを向いた。
「リバーシ専門のゲームセンターっちゅうとこなんかのぉ」
右手を顎におき、話を続ける。
「転生モノのテンプレでなぁ、リバーシで儲けるっちゅうんがあるんや。゛マサユキ゛は、それをやったんかな。でもな、売ったはいいが、コピー品が出回って、ゲームセンターに鞍替えしたんかの?」
サトルは悩ましいように顔をしかめて答えた。
「どうだろう。その辺は゛マサユキ゛に聞くしかないな」
「そやな、あとな、働いているんが、子供ばっかやん。前の世界の常識やから、何とも言えんが、児童労働はなぁー…同じ日本人としてどうかなと思うわ」
サトルは顔を顰める。
「まあ、それは、゛マサユキ゛の事情もあるんだろう…、一概に悪いとは言えんな…」
「そやな、それにしても…、こんなでかい店を持っとるって…゛マサユキ゛は、いつからここにおるんやろ?」
サトルが腕を組んで、頭を傾げる。
「ああ、いつからだろうな」
そう答えて窓を見ると、外が赤らんでいた。
窓の外を見ていると、ドタドタと足音が聞こえてくる。ドアが勢いよくノックされた。
「失礼します!!!」
叫ぶように、入り口から、小太りの男が入ってくる。
その後ろには、大きな男がいるようだ。
「良かった……….」
小太りの男が安心したように呟いた。
目が潤んでいるように見える。
「ダリルさん、すみませんが、お2人と話がしたいので、店の方をお願い致します」
小太りの男が、後ろを振り返り、そう告げる。
「わかりやした」
大きな男は、後ろを向き、歩いていく。
小太りの男はそれを見てから、扉をしめた。
振り返った顔は、厳しい顔をしている。
小太りの男の年齢は17,8才に見える。
身長は160前後だろうか、丸顔で愛嬌のある顔をしている。黒い髪を真ん中で2つ分けにしている。
茶色の艶のあるチョッキを着ており、その下に麻の白いTシャツのようなものを着ている。
スボンは麻で茶色をしていおり、縄をベルト代わりにしている。
「初めまして、私は田中昌行と申します。
早速で申し訳ありませんが、他人に聞かれたくない話があるかもしれません。場所を用意しましたので、そちらでお話しさせて頂けませんか?」
マサユキが俺達を見ながら聞いてきた。
俺はサトルを見た。サトルはこくりと頷く。
「はい。わかりました、大丈夫です」
「有難う御座います。5分とかからない場所です。早速いきましょう」
マサユキは、頭を下げた。
俺達が立ち上がると、マサユキは、ドアを開けて、部屋を出ていく。
俺達は後をついていった。




