015 マサユキ -1-
俺達は、馬車の荷台に乗り、デパに向かう。
場所は、歩くより少し早い位だ。
日差しは少々強い。日差しを妨げるものが無い為、暑い。
走り始めて暫くすると、下りが終わった。
平らな道になり、少々馬車の扱いに余裕が出てきたようで、サイムが前を向いたまま、口を開けた。
「よく、山の関門を通り抜けられましたね。今は閉じている筈ですが?」
ー そうか、山に向かうと関門があったのか、こちらに向かって正解だったかもしれない。それにしても、どう答えるか…困った。とりあえずお茶を濁すか…ー
「ああ、大変だったよ」
困ったような声で、サイムの背中に答えた。
「そうですか、関門を閉めてから、商人が通らなくなりましたから、大分お金を払ったんじゃないですか?役人は容赦ありませんから…」
ー 良かった、勝手に納得してくれた。話を合わせよう ー
「ああ、大分持っていかれて、手持ちが心許なかった。゛マサユキ゛の使いが来てくれて良かった」
上手く誤魔化せた事に安堵して、サトルを見ると何故かモジモジしている。
ー なんだ?訳がわからない。何も言わないって事は大した事じゃないな ー
「ところで、゛マサユキ゛とは同郷なんだが、会った事が無くてな、どうして迎えを寄越したんだ?」
サトルの事は無視してサイムに聞いてみた。
ー ゛マサユキ゛も俺達の事を知らない筈だ。この質問はセーフだろう ー
「ああ、それでしたら、昨晩マサユキさんが、私ともう1人に同郷の方が来るから、迎えに行って欲しいと言われたんです…」
サイムから詳しく話を聞いた。
゛マサユキ゛は昨晩、俺達がデパ周辺に居ると連絡が届いたとサイム達に伝えた。同郷の者はこの辺りの事を知らず、不慣れな為、迎えを寄越した。
ただ、サイムも首を傾げていたが、昼間手紙が届いた様子がなかったらしい。
マサユキともう1人は、デパから北に向けて俺達を探しに行った。サイムはデパから東に向かって来た。
森まで行って見つからなかったら、帰る予定だったそうだ。
デパの北は盗賊が出る可能性がある事と、北で出会う可能性が高いと睨んで、゛マサユキ゛ともう1人は、そちらに向かった。
東側は物流が止まっている為、東側にいた盗賊はデパの北に移動した。その為、北方面は盗賊が増えているとサイムが教えてくれた。
「それにしても、関門の宿場は閉まっていると聞いてたんですけど、野宿したんですか?」
サイムは前を向いて聞いてきた。
「ああ、川があったので、そこで寝たよ」
「そうですか、この季節は、爪兎が繁殖するんです。襲われませんでした?」
ー ツメウサギ?なんだろう ー
「すまないが、ツメウサギを知らないんだ。この辺りの動物か?」
「魔物なんですが、この辺りの森に沢山います。前脚に長いツメを持っていて、動きが速くて厄介で毎月何人か死人も出ています」
「そうか、魔物には出会わなかったよ。運が良かった」
ー 魔物?動物とは違うのか? このあたりは、この世界の常識かもしれない。゛マサユキ゛に確認だな。襲われなかったのは、本当に運が良かった ー
「この辺りには魔物が居ないのか?」
少しホッとしながら、周りを見渡し、聞いてみた。
「この辺りは、ゴブリンが出ますが、この間、討伐されました。暫くは出ないと思います」
ー ゴブリン?ゲームに出てくるヤツか? ー
サトルなら何か知っているかと思い、サトルを見る。
赤い顔をしながら、モジモジが強くなっていた。
ーあ、多分トイレだな。人見知りだから、言えないのか……さっき、男前にサイムと話をしたのは、なんだったんだ?!わからんな ー
「サイム、少し休憩しないか?」
「わかりました」
馬車のスピードが落ち、止まった。
サトルは馬車を降りて、脱兎の如く草むらに走って行った。
暫くすると、サトルが戻ってきた。
「あ、あちらを見てください」
サイムが進行方向を指差して、続けた。
「あれが、デパの街です。もうすぐ着きます」
少し先を見ると壁が見える。色合いから、石壁だと思われる。話をしている間に随分近くまで来ていた。
デパを確認すると、サトルが戻ってきた。
「そうだ、着替え持っていますか、門番の兵士に止められると面倒です」
サイムがそう尋ねた。
サイムの話では、俺達の服装は変わっているらしい。門番に止められたら、場合によっては、袖の下が必要になる為、面倒だと言う。
旅をしているのに、着替えを持っていないのは、サイムも怪しく思うだろうと思い、似たような服しか無いと伝える。
サトルも俺もシャツの下にTシャツを着ていたが、Tシャツなら問題なさそうだと言う。
上等な生地に見えるらしいので、Tシャツを土で汚した。
ベルトや靴も違和感があるみたいだ。靴は靴下と共に脱いで裸足になった。
俺はベルトを外し、脱いだものと一緒にビジネスバッグに入れた。サトルはベルトを外すとズボンが落ちてしまうようだった。サイムが気を利かせて、馬車に積まれた縄をサトルに渡した。
サイムがサトルと俺をグルリと見回した。
「うん、これなら大丈夫そうです。行きましょう」
再び馬車に乗り出発した。10分程度で街の門についた。
「門番を見ないで下さいね、今日の門番は、難癖つける兵士です」
サイムが口に手をやり、小さい声で話す。
門の手前で馬車を降りて、下を向き門を抜けた。
左右に門番が立っているが、俺達を気にする様子も無かった。
ー 良かった ー
「この先になります」
門が見えなくなった所で、サイムがそう話した。
俺達は裸足の土を払い、靴を履く。
サイムが馬の左側に立ち右手で引きながら、歩いてゆく。
俺は馬の右側に立ち歩く、その右にサトルが歩く。
サトルは落ち着きなくキョロキョロしている。
目抜き通りだろうか…露店が並んでいる。
商店のような店もありそうだった。
「ヒロシ、あ、あれ、あそこの看板、見てみてみい」
サトルがビックリした声を出して、1軒の大きな店を指差す。
少し目線を上げた………
゛ぎるど゛と平仮名で書かれていた。
「……………?!!」
俺は驚きすぎて、一瞬固まってしまった。
ー あれは日本語だろ!何故、日本語なんだ ー
俺は必死に焦りながら考えられる。
焦った俺は、サイムに声を掛けた。
「あ、あれは何だ?」
看板を指差し、サイムに尋ねてしまった。
ー しまった、何も考えずに安易に聞いてしまった。怪しまれるかもしれない ー
「あ、商業ギルドです」
サイムはこちらを怪しむ事なく、答えた。
ー 良かった、怪しまれていない ー
「そうか」
一言、呟くと、ホッと下を向き、顎に手をやる。
ー 聞きたい事は違うが、仕方ない。日本語が存在する訳は、゛マサユキ゛に聞くことにするか ー
そんな事を考えて歩いていると、すぐに馬車が止まった。
「ヒロシさん、サトルさん、着きました」
サイムが俺達に声を掛けた。
顔を上げるて右手を見ると、看板を見つけた。
サトルも同時に見つけたようだ。
゛げえむ゛と書かれていた。
「「げえむ???」」
サトルと共に無意識に声を出していた。




