014 繋ぐ者 -3-
近づいてくるサイム。
サトルの3m程手前まできた。
「ちょいまち!!!あー、いや、待ってくれ。ちょっと仲間と話がしたい」
サトルは両手を広げて、前に突き出す。
「ああ、そや、これライターな!」
焦ったように、シャツの胸元ポケットから、使い捨てライターを取り出し、サイムに投げた。
使い捨てライターは、放物線を描いて、サイムの両手に収まった。
サトルはクルリと後を向き、俺に近づく。
開いた手を口に当てて、小さく囁いた。
「想定外や! 予想の斜め上を行き過ぎてるわ」
ー ゛マサユキ゛か…名前からして、日本人ぽい。恐らく3人目だろう……………、いや、まず間違いないか ー
ー ただ、スライド(転移)して2日のタイミングで使いを寄越したのは解せないな…サイムが理由を知っているとは思えない…3人目に聞くしかないか ー
「ああ、全く想定外だ。゛マサユキ゛は3人目だと思う。俺達と同じようにスライダー(転移者)を探していたんだりろうな。味方の可能性が高い。
彼に話を合わせて、゛マサユキ゛に会った方が良いと思うがどうかな?」
ー サイムはこの世界の人間だ。この世界との付き合い方は゛マサユキ゛に聞いた方が良いだろう。それまで、俺達の情報は、極力渡さない方が良いかも知れないな ー
サトルは顎に手を当てて考える。
「そや、ワシもそう思うわ。危なかった確率がグーン下がった思うねん」
一呼吸置いて、続ける。
「ただなぁ、あんまりワシらの事を教えん方が良いかもしれん。悪いヤツには見えへんが、異世界人ってわかった途端に、゛コイツ怪しいから、ケーサツみたいんトコに連れて行こ゛ってなるのも嫌やし」
ー サトルも同じ事を考えていたのか ー
サトルは、一瞬視線を横にズラすと、少し間をおく。
「ワシ、ボッチ体質のコミュ障やし。エセっぽい訛りやから、絶対!!にアイツは胡散臭い思われんねん。上手くやれる気がせぇへんわ。どないしよ」
縋る様な迷惑で泣きそうな声で呟く。
ー そういえば、昨日、友達が少ないような事を言っていたな。引き篭っていた時期もあったみたいだし、人と話すのは苦手なのか?その割に、俺にはグイグイくるんだよな ー
「そう、言ってたな・・・。ふぅ、俺が話すか?」
つい先程のサイムへの堂々と男前だった、サトルの変わりように呆れて、そう答える。
「スマン!!頼むわっ!」
サトルは両手を合わせ、頭の上に掲げた。
ー 憎めない男だな ー
「わかったよ」
そう呟き、サイムに目をやり、俺はゆっくりと前に出た。
サイムは、使い捨てライターを右手に持ち、持ち手部分の液体をゆらしなが、それを不思議そうに眺めていた。俺が歩いてきている事に気づきいたのか、目をこちらに向けた。
俺はサイムの前に立ちゆっくりと喋り始めた。
「すまないが、マサユキの所に案内してくれないか?」
「わかりました」
サイムは短く答え、コクリと頭を下げた。
「ありがとう、俺はヒロシ、あちらにいるのが、サトルだ。宜しく頼む。ああ。そうだ、スマホは今見るか?」
サトルが手を挙げる。
少々、偉そうな物言いだが、これは事前にサトルて決めていた。もし古い時代のような世界ならば、多少威圧的な言葉の方でないと、舐められてしまうと思ったからだ。
「見せてもらえるんですか!!!」
少々興奮気味にサイムが答えた。
「マサユキさんが、゛すまほ゛は大切なものだと聞いています。見せて貰えないかも知れないと言っていました。有難うございます。後ほど家で見せて下さい!」
そう話すとサイムは頭を下げた。
「あ、それから、こちらの゛らいたー゛をお返しします。中が透けていて綺麗な物ですね。これは何に使うんですか?」
両掌にうやうやしく持ち、こちらに差し出してきた。
ー ライターを知らないのか? ライターの質問はスライダー(転移者)か確認する為か… ー
「ん、ああ、こうやって火を点けるんだ」
カチっとボタンを押し、火を点けた。
「す、すごい!」
サイムは思わずといった声が漏れた。
「火魔法が使える魔道具なんですね!こんなに小さい物を初めて見ました!」
驚くように声に出し、感心している
ー 魔道具??魔道具って何だ。小さいものではないらしいな ー
「あ、ああ、えーと、俺たちの地方でもかなり小さいんだ。たまたま手に入ったんだ…..」
魔道具はよくわからないが、話を合わせた。
「そうなんですか、珍しい物が見れました。有難う御座います。それでは、デパの街に案内します。荷運び用の馬車で申し訳ありません」
サイムはそう言うとクルリと反対を向き歩き出す。
俺はサイムの後に続く。
サトルは小走りで俺の横に並んだ。
先程返しもらった、使い捨てライターをサトルに渡す。
「魔道具もあるみたいやな」
ライターを受け取り、歩きながら、ボソリと呟く。
歩きながら、サトルが魔道具について教えてくれた。
魔道具というのは魔法を使えない人でも、魔法を使える便利道具なのだと言う。転移/転生小説では定番だそうだ。
どんな種類の魔道具があるのか、サトルに聞いたが、わからないそうだ。
小説によって種類もバラバラらしく、定番の物は無いようだ。
馬車の近くで良く見てみると、弓と、縄で縛られた矢が御者台の端にかかっていた。
弓は木製に見える。装飾がなく、グリップ部分が汚れていた。普段から使っているのだろう。
ー これで狙われていたら、危なかった ー
サイムが御者台に乗り込み、俺とサトルは御者台近くに胡座をかいて座った。
俺は左手で衝立を掴んだ。右を見るとサトルも同じように掴んでいる。
荷台はぎゅうぎゅうでは無いが俺の膝がサトルの膝がつく程度の幅だ。
サイムが後ろを振り返り、俺とサトルが座っている事を確認する。
「そういえば、マサユキさんから伝言があります。゛すまほの、でんげんは、きらない゛でください、と言われました」
ースマホの電源を切るな?何故だろうー
「わかったが、何故、電源を切ってはいけないんだ?」
「わかりません。それだけ伝えて欲しいと言われたので…」
少し困った顔でサイムが答えた。
「そうか、わかった。後で゛マサユキ゛に聞いてみるよ」
不思議だが、そう答えた。
「それでは、行きます。日がある内には到着します」
サイムは、そう言うと、デパに向けて馬車を発車させた。
日はまだ高い。
こんにちは!
沢山見て頂いて有難う御座います!




