013 繋ぐ者 -2-
森を抜けて暫く進むと、車と思われたモノは、馬車のようだった。
見通しが良いので少し離れているが確認出来る。
「ヒロシ、警戒せいよ……」
「ああ、言葉が違う可能性があるからな、相手を刺激しないようにするよ」
「いんや、ワシらは日本人は、水と安全はタダやと思うとる。しかしの、外国なんぞには、海賊だの盗賊が普通におるからのぉ」
ー 盗賊か… ー
背中に冷たいモノを感じる。
「そうだな、盗賊の可能性もあるか…」
「なぁ、ヒロシ、先にワシが前に出て話をしようと思うねん」
「作戦があるのか?」
「そや、盗賊やら山賊やったら、ワシが最初に狙われるやろ。不意打ちされる可能性もあるし、囲まれるかもしれん。怪しい動きが見えたら、攻撃して欲しいねん。後ろからのが良く見えるやろ」
「サトルの方が危なくないか?」
「そやな、前にいる分、ワシの方がちょい危ないやろ。でもな、体力のあるヒロシが攻撃した方が、生き残る確率が上がる思うねん」
サトルは一息ついて、話を続ける
「ワシを置いてけぼりにせんといてな」
顔をこちらに向けて、少し戯けた表情で言った。
「当たり前だ!!!」
少し怒ったようにサトルに告げる。
「カッカッカッ、ワシな、ヒロシの事がミョーに信じられるねん。たった一日一緒に居ただけなのになぁ、不思議なもんや、カッカッカッ!」
ー 俺もサトルを信じる事が出来る。幼馴染の親友のようだ ー
「ああ、有難う、親友」
親友と呼ぶのに照れを隠しながら、肩を竦めて応えた。
「ヒロシもそんな顔するんやな」
少しビックリした顔でそう呟いた。
話ながら歩いていると、馬車の全体が見える位まで近くなってきた。
杖代わりに使っていた棒を、不測の事態に備えて持ち直す。
馬車は木製の4輪で屋根や幌のようなものは無い。恐らくは荷馬車だろう。荷台の左右は30㎝程度の衝立が付いている。馬車の前方には背もたれの為の木が一本、横に通っており、そこに御者が座っている。馬は小さめでポニー程度の大きさに見える。
御者1人のようだ。他に人はいない。
見通しが良いので隠れる場所はない。
俺は足を止める、合わせてサトルも足を止めた。
「1人みたいたな….」
「1人なら何とかなるかもしれん」
「下手に動かず、様子を見るか」
「わかったわ」
サトルと共に馬車を見ながら、近づくのを待った。
待っていると、馬車は30mほど先で止まる。
御者は馬車を降り、何かを腰に括り付けてから、こちらに向かってゆっくり歩いて来た。
サトルが少し前に進み、御者が来るのを待った。
御者を凝視すると、腰に括り付けたものは、返しのついた剣だった。鞘に収まっており、刃渡りは50〜60㎝程度に見える。持ち手の長さから片手で使うものだろう。
それが剣だと確認すると、自然と力が入る。
御者は金髪で麻のような服を着ている。
少々大きいのかダボついている。
下はカーキ色の短いズボンを履いている。
金髪の髪は染めている様子はない。
背は160㎝か少し高い位、整った顔をしている。
美少年といった感じだ。ただ、緊張している様子がわかる。
年齢はわからないが10代後半から20代前半だろう。
日本人が外国人を見た時に年齢がわからない、そんな感じだ。
先程の剣は縄のようなもので結いて左手に下げている。
ー 左手だと抜けないか…恐らく右利きか ー
剣筋から外れるように右側にズレた。御者が向き直せばまた剣筋に入るが、気持ちの問題だ。
御者は、10m程手前で立ち止まり、首を左右に振り俺達を確認する。
「すみません、″らいたー”を持っていたら貸して下さい!」
御者は叫んだ。
「「………。」」
予想外の言葉に思考が止まってしまった。
後ろからだが、サトルも思考が止まったと思う。
直ぐに思考を取り戻す。
ー 言葉が通じる!!!!! ー
心の底から喜びを感じた。
ただ、サトルは、まだ固まっているようだ。
前に居るサトルの緊張感は俺よりも高かったのだろう。
「サトル!!!!」
大きな声でサトルを呼ぶ。
サトルはその言葉にビクリとする。
サトルも思考を取り戻したようだった。
「あ、ああ、ライターなら持っている……」
絞り出す様にサトルは発した。
「゛すまほ゛も持っていたら見せてもらえませんか?」
御者は続けて叫んだ。
「スマホを見せるのも構わない!」
サトルが叫ぶ。
その言葉を聞いた御者は、キラキラした満面の笑みをこちらに向けた!
「マサユキさんの仲間の方ですね!!!」
御者は大きい声で叫んだ。
「「はいっ?????」」
俺とサトルは、同時に叫んだ。
きっとサトルも思っただろう。
ー 誰それ…ってー
御者は、俺たちの゛はい?゛を゛Yes゛と思ったのだろう。
御者は、フウと一息吐き、緊張感を緩めたようだった。
「スミマセン、到着が遅れてしまったかもしれません。マサユキさんの申し付けで迎えにきました。私はサイムです」
俺たちを見ながらニコリとする。
「あ、ああ、ああ、有難う」
サトルが答えた。
ー あ、コイツ、話合わせたな ー
そんな事を考えていると、棒を握った手が痛い事に気付いた。
ー 危険度は随分下がったみたいだ ー
緊張が解けたのだろう、サイムはニコニコしながら、ゆっくりとこちらに近づいてきた。




