011 予兆
ヒロシとサトルが異世界にスライド(転移)して、野宿をしている頃。
◇マクジニア王国 王城
深夜と呼ぶには、まだ少し早い時間、王城の敷地内、北塔の屋上に1人の老人が居た。
右手に幾つもの宝石がちりばめられた杖を持ち、立ったまま、月に向かって腕を広げて拳を向けている。
頭頂部は禿げ上がっているが、横から白くウェーブのかかった長い髪を生やしており、腰で縛っている。口の周りには、白く長い髭を蓄えており、下に垂らしている。
彼は模様の織り込まれ白いローブを纏い立っていた。
目は開いておらず、その足下には直径5m程の魔法陣が描かれている。
魔法陣は薄暗く発光しており、彼の周りを薄く照らしている。
その中心に彼は立っており、その姿は神々しささえ感じるほどに美しかった。
彼の名前はハインツ•ミラー、マクジニア王国の王宮魔導士、王国内でたった1人しかいない、最高位の白金の称号をもつ人物である。
魔法陣の外、階段の横に、ハインツの従者であろう男が控えている。
もう、1時間ほどになるであろうか、ハインツは目を瞑り、動いていない。
従者はその様子を、無言で見ている。
その時、ハインツは目をいきなり見開いた。
いつもなら腕を下ろし、ゆっくりと目を開けるのだが、今日は違った。
何かを悟った従者は、魔法陣まで慌てて駆け寄り、魔法陣の外で片膝をつき、頭を下げた。
魔法陣の中に入ることは許されておらず、従者はそのままハインツが来るのを待った。
ハインツは乱暴に腕を下ろすと、ズカズカと従者の許に歩いていった。
その顔には明らかに焦りが見えていた。
「陛下に火急の用件がある。陛下と(宰相の)ラクト殿に明日朝、ファビオの間にて謁見を願いたいと伝えて参れ!星が動いたと付け加えるのじゃ」
普段のハインツの様子とは異なり、焦った様子で、そう従者に命じた。
「ハッ」
従者はそう答え、ハインツを残し、階段を駆け足で降りて行った。
それを見届けたハインツは、自分が冷静ではないと思い、一呼吸した。
「動いたか・・・・」
そう、呟くと、ハインツは背中に冷たい汗を感じた。
~翌、早朝~
◇マクジニア王国 王城 ファビオの間
ファビオの間は、王城の奥、王宮内に置かれている。王宮は、王族と王宮使の使用人のみが立ち入りを許される。
ファビオの間は、王城の中では狭く、使用人達の控え部屋位の広さしかない。
壁は煌びやかに飾られているが、絵画や壺などは一切置かれていない。
り床には美しい模様の絨毯が敷かれてはいるが、これは防音の為の魔法陣になっている。
マクジニア国王が使う部屋としては、あまりにも質素と言える。
そこには直径2mほどの円卓が並べられておいる。
最も特殊といえるのは、扉が一つしかなく、王も使用人でさえも、同じ扉を使う。
ファビオの間、扉から入って一番奥に、国王である、ヘザー••ラ•マクジニアは座っていた。
年は50を少々過ぎた頃、精悍な顔つきに燃えるような赤い髪を生やしている。髭は蓄えておらず、それが精悍さを一層際立たせる。
体も逞しく、若々しく、40代前半に見える。
その右手には、宰相のラクト・エンディが座っている。ヘザー王と彼は同い年で、幼い頃から付き合いがあり、また、ヘザー王の唯一の親友である。
金色の髪をしており、肩で切り揃えられている。少し腹がでており、全体的に丸みを帯びている。
ヘザー王の左手には、ハインツが座っている。
通常であれば、王の許し無く座ることは許されない。
この部屋は、3人のみが使うことを想定されており、暗黙の了解で来た者から座り、ヘザー王の言葉を待つのだ。
3人が席に着くと、使用人が紅茶を持って入ってきた。
それをテーブルに置くと、ヘザー王が使用人に声をかけた。
「以後不要」
この言葉を聞いた使用人は紅茶を置かずに扉を出て行った。
これは、急いで重要な話をするので、紅茶さえも不要という意味だった。
ハインツは使用人が出て行った事を確認すると、王の許可を得ることもなく、立ち上がり、扉のかんぬきを掛けた。
先程の“以後不要”は、この3人以外の入室は何があっても許されない事をさす、暗黙の了解でハインツは物理的に入れないようにした。
ハインツが席に戻ると、ヘザー王は苦しいとも怒っているとも見える表情に変わった。
「ハインツ翁、星が動いたとは誠か」
ヘザー王がハインツを見て聞いた。
通常、ハインツに対して、“翁”をつけることはない。ヘザー王は幼少の頃に、ハインツから魔法を学んでおり、一生の師と仰いでいる。私的な時は“翁”をつける。
「陛下、誠にございます….」
ハインツは力なく答えた。
「それについて、気なる点が御座います」
ハインツは続ける。
「先導者の星は、3年前から微かに瞬いておりました。昨夜でございますが・・・・星が輝いておりました。」
そこでハインツは息を飲んだ。
「星は………、3つで御座います」
「3つだと!!!!」
ヘザー王は、席を立ち叫んだ。
「3つ・・・・」
ラクトは椅子から滑り落ちそうになる。
「ラクト見つけ出せるか?」
ヘザー王はラクトを見る。
「陛下、禁書庫を開放して、研究をしておりますが、未だに先導者の特徴が見えませぬ」
ラクトは申し訳なさそうに答え、つづけた。
「やはり、禁書“りすと”のみ、可能性が残っているかと思われます」
「くっ、“りすと” か・・・・あれは、数百年経った今でも、内容はおろか、特殊文字の一つも解かっておらぬ」
「禁書庫の研究によって、“先導者の目に見えるものが悪であれば打ち滅ぼし、善であればその手を差し出す”・・・この言葉しか見つかっておりません。もう一点、前回は1人でございました。この2点のみで判明して御座います」
「うむ、後は勇者の冒険譚の中・・・くらいか・・・。それはこの大陸のものなら誰でも知っておる」
「陛下、先導者が生まれたことは、全ての国が星読で知っておりますでしょう。取り込もうとする国や、討伐を考える国があるやもしれません」
ラクトはヘザー王に話した。
ヘザー王は手を組み、肘をテーブルにつき、拳に額を置いた。
これ以上の会話で何かが決まる訳ではなく、とはいえ、時間を無駄にする訳にはいかない。
謁見は終了し、それぞれ戻って行った。
やっと・・・野宿が終わりました。。
別視点も書いてみました(笑)




