010 初野宿 -3-
日も落ちかけた頃、先ほどの攻撃魔法のショックからサトルも立ち直っていた。
「やっぱ、カロリースティックだけやと、腹減るのぉ」
サトルはお腹をさすりながら、呟いた。
「しょうがないさ、マヨネーズもカロリースティックもカロリーは高いが、量は少ないからなぁ」
「昔、山で遭難した人がマヨネーズを持っていて、2週間位して発見されたって話知ってるか?」
「知っとる、知っとる。発見されたら10キロも体重が落ちていたって話やろ?」
「そうそう、その話を思い出して、マヨネーズを買ったんだよ」
「そうだったんやな」
2人は、することもなく、他愛もない話をしていた。
話をしているうちに、辺りも暗くなってきた。
― 火を焚いて、2人いるが絶対に動物が出ないってことはないだろうな ―
「なぁ、サトル、今夜なんだが、交代で見張りを立てないか?」
「そやな、その方がいいと思うで、日本では夜行性の動物の方が普通なくらいやからのぉ、ワシも賛成や!」
「スマホのタイマー使って、2時間ごとって・・・充電できないしな、眠くなってきたと思ったら起こすって感じでどうだ?」
「ええよ、先にヒロシが寝てくれや、水汲みやら薪拾いやら、全部お任せしたからのぉ」
「ありがとう、でもまだ眠くないし、もう少し暗くなるまで、お互いの話でもしないか?」
「そやな、これから長い付き合いになるしのぉ」
俺とサトルは、今までの生い立ちや、仕事の事、病気のこと等を焚火を前にして話していた。
焚火を見ながら話をすると、不思議と素直な気持ちで話すことが出来る。
高校時代好きだった子のこと、恥ずかしくなるような失敗談をお互い笑ったり、涙ぐんだりしながら話し込んでいた。
話し込んでいるうちに、月が真上に近いことに気づく。
「まだどれだけ歩くかわからんし、そろそろ寝かせてもらうよ」
「そやな、明日もしっかり歩かんといかんしの」
「ああ、あんまり無理しないでくれよ。眠くなったらすぐ起こしてくれ、多分俺の方が体力があるから」
「わーった、わーった、下が固いんや、気を付けてねーや」
持ってきた、ダウンコートを腹の上に掛けた。
川からの少し涼しい風が吹いてきて、暑さを感じない。
「ありがとう、おやすみ」
そう、言って目を閉じた。
「ほい、おやす・・・」
よほど疲れていたらしく、サトルの声を途中まで聞いて眠りにおちた・・・・・
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「ヒロシ・・・あっちに行ってみんなと遊んでおいで」
ここはどこだろう・・・
畳が敷かれている・・・後ろを見ると少し離れたところに大人の女性が4人、こちらを向きながら座っている。
時折、何か4人で喋っているようだが、音がしない。
顔も霞がかかっているようで、わからないが、優しい眼差しを向けているのを感じる。
3人の女性が手を振っている。もう一人の女性には1-2歳くらいの幼児が抱っこされている。
少し、グズッているようだ。
ー ああ、子供の頃によく見た夢だ ―
前を向きなおすと、4,5歳くらいの男の子がいる。
しきりに何かを話かけている。
音がしない為、何をいっているのか、わからないが、俺は首を何度も縦に振っている。
目の前の男の子が、急に俺の手を引っ張ってきた。
後ろの<母さん>の事が気になって、振り向いて、手を振る。
― そう、女性の一人は母さんだ。顔を思い出せないが・・・母さんだ ―
母さんの横を抜けて、俺達を追いかける様に幼児が拙い足取りで歩いてきた。
その母親だろう、立ち上がり、慌てて抱きかかえようとする。
男の子の方を向きなおして、手を引っ張られながら、座敷から廊下にあるいてゆく。
磨きこまれた板敷きの廊下を曲がり、歩いていくと、木の会談が見える。
こちらもずっと使われているのだろう、磨きこまれて艶がある。
階段の前で男の子が立ち止まる。
男の子と方を見やると、階段の上を見ている。
俺も同じように階段の上を見る。
年は8歳かせいぜい10歳位の少女が腕を組んで怒っている。
― ああ、そうだ、ここを探検しようと言って先に行ったが、待たせるから怒っているんだな ―
そんな気がした。
慌てて、俺と男の子は階段を駆け上る。
階段は磨きこまれていて、靴下を履いたまま上がろうとすると滑ってしまった。
<母さん>を困らせると思いながら、俺は階段に腰を下ろし、靴下を脱いだ。
隣の男の子も階段に座って靴下を脱いでいた。
<XXXお姉ちゃん、まってて!>
名前は聞こえなかったが、俺がそう叫んだように聞こえた。
男の子より先に俺は階段を駆け上って、女の子に抱きつく。
女の子に抱きつくとすごく良い匂いを感じた。
後から反対側に男の子が女の子に抱きついた。
俺は女の子を見ると、困ったような顔をするで俺の顔を見るが、すぐに優しい笑顔になった。
幸せな時間だった。
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「・・・シ・・・・」、「・・・・シ」、「・・・ロシ」
「ヒロシ!」
サトシが体を揺らしながら、俺を起こしていた。
眠たい目をこすりながら、目を開ける。
「ヒロシ、起きろーヒロシ」
サトルが俺を起こしてくれたようだ。
周りを見ると、まだ暗い。
「ヒロシ、すまんが休ませてくれんか、さすがにきっついわ」
「おお、そんな時間か、有難う、後は俺が見張りをするよ」
「ありがとさん、ふぁ~ああ、じゃぁおやすみ~」
着ていたジャケットを掛けて、サトルは横になった。
「おやすみ」
声をかけ終わると、サトルは小さな寝息を立てた。
「久しぶりに昔の夢を見たな・・・・母さんの顔は相変わらず見れなかったな」
俺は、そんな事をつぶやいら、少し胸が痛くなった。
周りを見ると少し明るくなっているような気がする。
「サトル、無理するなって言ったのに・・・」
随分長い間見張りをしてくれたらしく、暫くしたら日の光が見えてきた・・・・
ふとサトルの顔を見た。
ー 2人だから、多少は安心して、寝て夢も見れる。3人目を早く見つけないと… ー
こうして朝になった。
すみません。
ちょっと早めに出します(笑)




