なんて鬼畜な妹だ。兄を楽に死なせずにこんな仕打ちをして。
〜二時間後〜
「ここ! ここに隠れよ!」
「この壁の影に隠れよ!」
なんかボロ布を纏ったボロボロの女達。こいつら……頭になんか付けてるな。犬の耳? 猫の耳とキツネの耳?
「おい。お前ら何だ。」
「キャーッ、お化け!」
「お化け! お化けがいるのだ!」
俺を見た女達は叫んだ。失礼な。俺の事をお化けだと。確かに頬の肉がこけ落ちているしガリガリに痩せているけどさ。
「おおっと、こんな所にいやがった。」
続いて現れたのは男。いやらしい笑いを浮かべている。この女達を追っていたのだろう。そしてこいつも大概汚い格好をしているし臭い。なんだか文明レベルが低そう。
「むっ! 何だ。ガイコツ型モンスターか!?」
どいつもこいつも失礼な奴だ。
「何だ人間か。こいつらを匿うってのか?」
俺に聞いてるのか?
「いや、あなた方の邪魔をするつもりはない。お好きにどうぞ。」
俺とは関係のない事だ。この女達がどうなろうと知ったこっちゃない。
「懸命だ。俺達「デンダ商会」に手を出すのはマヌケのやる事だ。おら! お前ら! 奴隷堕ちしたお前らは逃亡するとさらに期間が伸びるんだぞ。大人しくしろ。」
「イヤなのだ! 奴隷なんかになったら長く生きられないし! それに私達は何も盗んでなんかいないのだ!」
「嘘つくな。貴族様の館に侵入したのはお前らだ。調べがついてんだ。」
「嘘じゃないわ! 盗んでない!」
男と女達は言い争いを始めた。
ふーん。地位のある世界。世知辛そうな世界だなー。ところで、こいつらはどちらかが嘘をついていると。どっちが嘘をついているかなんて顔を見ればわかるけどここは遊んでみよう。
こいつらに「神鏡」を向けながら、
「えっ? どっちが嘘をついているんだい?」
「この男よ!」
「こいつらの方だ! ……グエッ、ギャーーー!」
男は悲鳴を上げた。やっぱり嘘は男の方だった。
「もう一回聞くけどどっちが嘘を?」
「ひっ! こっ、この男……よ。」
「こい……つら……だ。……ギャーーーー!」
男の肌がどす黒い紫色になる。すごく痛そう。2回目の嘘はこんな肌の色になるとは。
「さて、あと一回嘘をつくと死んじゃうけどどうなるのかな?」
「うううっ。…………」
あら、気絶しちゃった。
と思ったらもう1人男が来た。
「おい! ……! そこのガイコツみたいな奴! お前がやったのか! こいつらは貴族の屋敷に泥棒に入って……グエッ、ギャーーーーー!」
あらら、自滅しちゃった。神鏡を向けているのに嘘を言っちゃうから。
「センセー! センセー! 助けてくだせぇ! 変な奴が!」
男は仲間を呼んだ。
「どうした。……そこのガイコツみたいな奴にやられたのか……むっ!」
老齢の目つきの鋭い奴だ。俺を睨んでいる。
「只者じゃ無いぞな。……お前。……ふん!」
いきなり剣で斬りかかられた。おいおいこっちは「無手」だし椅子に座ってんねんで。まあ問題ないけど。
ガギン!
そのセンセーの剣は俺に当たる前に何か「硬い物」にでも当たるかのように弾き飛ばされた。
「お前……何した?」
「さあ?」
手の内を言うわけがない。殺し合いをやっていると言うのに。ま、ちょっと【採取】と【放出】を同時にやっただけだけど。
「他に手は無いの? センセー。」
「小僧が……。舐めおるわ。」
センセーは懐から数本のナイフを取り出して……俺に投げた。そのナイフは全てが「曲線」を描いて俺に向かった。
おおー、すごい。どうなっているんだこのナイフは。これを全て避けるには「一方行」に動くしか無い。別にナイフを【採取】しても良かったけどあえてその方向に避けてみた。
すると。
「むん。縮地!」
センセーは俺の死角へ一瞬で詰め寄った。
ガギン!
だけど結果は最初と同じだ。ちょっとギリギリだったけど剣を弾いた。今のは危なかったなー。
「むむっ! 小僧! 何かしらの「防御壁」を張っておるな。高位の魔法使いか。」
まあ、似てるけど「魔法使い」とやらではない。ところで、今のがこのセンセーの最大の技っぽい。センセーは今にも逃げようとスキを探しているから。
でも……殺し合いをしている相手を逃すのはちょっと……。
【放出】 「石ブロック」
センセーの両足に重なるように石ブロックを【放出】した。
「むっ、動けん!」
重なる場所に放出すると元の物質は残るように物質が形成されるらしい。
で次はこれ。
【放出】「衝撃」
さっき採取した「衝撃」80個分くらいをセンセーの顔に【放出】した。センセーの顔頭はねじ曲がって吹っ飛んでいった。
ありゃ、ちょっとオーバーキルだったか。
「ヒエッ! センセーが!」
「おい! 逃げるぞ。ヤベー奴だ!」
男達はスタコラと逃げ出した。
「また、遊ぼーなー!」
俺の本心だ。声は届いただろうか? せっかくなので男達の耳元にその声を【放出】してみた。
【放出】「音声 「また遊ぼーなー!」」
「えっ! ヒーーーーッ!」
あっ、1人の足がもつれて転げた。恐慌状態でやる事じゃ無かったか。
ーー
さて、残された3人の女達に声をかける。
「ほら、男達は逃げて行ったぞ。良かったな。」
「えっ……あっ……」
よし、女達は放っておいて俺は「お神酒」をちびちびやりながらもう少し【採取&放出】で遊んでよう。
【採取&放出】。
【採取】できる物は最初は「物質」だけだったけどレベルが上がるタイミングのスキを狙って俺が「改変」したせいで「不可視物質」まで採取出来る様になった。熱、運動エネルギー、光、音。
また【定点採取】と【定点放出】もできるようにした。空気中のとある場所で【定点採取】をし続ける事で無限に【採取】が出来る。
空に「石ブロック」を【放出】して地面に衝突する瞬間に「衝撃」を【採取】。そして石ブロックを【採取】。これを繰り返す事で半永久的に「衝撃」を採取し続ける。
「この【採取&放出】の能力は……おそらく建造用の簡単な力だったけど。インチキな力になったなあ。」
……!
俺のカバンの中に何かが出現した。
それは「便箋」だった。うわー、どうせ妹だろう。開けたく無い。けど、開けないわけにはいかない。
(電話出ろ、バカ兄い。)
いきなり罵声の文だった。
(そっちは特殊な理の世界だから兄いの「インチキ」が使える場所だと思う。)
ああ、そうだな。早速【採取&放出】にその「インチキ」を使ったよ。
(あと、ウチの家宝、神具になっていると思うけど、いつか回収するから生きて守っててね?)
うげっ、でもこの神具は俺が死んでから回収すれば良くね。
(言っとくけど兄いが「インチキ」使ったせいでそっちの「神々」に目ぇつけられたから。兄いが死んだらその神具回収されちゃうから。)
マジかよ。かーっ、なんて事してくれんだ。せっかく楽に気持ちよく死ねると思ったのに。妹め。「もったいない事」を嫌う俺の性格を読んでの行動に違いない。なんて鬼畜な妹だ。兄を楽に死なせずにこんな仕打ちをして。
(これで生きる理由ができたでしょ? 襲撃まで数日もないから早くメンバー集めなよ? 応援してまーす^_^
親愛なる愛すべき愛妹より)
「チッ。……クソ妹がっ! 無理矢理じゃねえか!」
「ひっ!」
怒りに任せて手紙を破り捨てた。ふー。
「あっ、あの……。」
「ん? 何だ?」
女の1人が声をかけてきた。
「デンダ商会はケンカを売られた相手には容赦をしないと聞きます。おじさんも逃げた方が良いです。」
ほうほう。俺を心配してくれているのか。
「そんな商会相手ならお前達もさっさと逃げ出した方が良いんじゃないのか?」
「いえ……私達は……行くアテもないからおじさんについて行きたいです。」
おじさんと居たいねぇ。
「でもおじさんはずっとここにいるつもりだぞ。商会の人が来ちゃうかもしれないぞ。」
軽く脅してみる。
「……でも、おじさんから感じるその余裕。きっと商会の人達も退ける力を持ってると思う。だからおじさんについていきたい。」
「私も。お姉ちゃんと一緒なのだ。」
「うう。わ……私も。」
3人とも俺についていきたいと言う。ふーん。ちょうどいいからお試しでこいつらを「拠点メンバー」にしてみるか?