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異世界に飛ばされたけど死にたい。



(……にお酒を飲むのをやめてください。)


医者の言葉を思い出す。


(タバコもやめて…………)


このクソヤブ医者。


(体重もこんなに急変していますから……)


意気揚々と喋るその医者の顔にイラッ。



「そんな事は聞いてない。」


(えっ?)


「俺が聞いたのは「効く薬があるかどうか」と「余命」だ。説教はいらない。」


(…………。)


黙っちまったクソ医者。最初に聞いただろ。くだらない説教をツラツラと始めやがって。


「3回目言うぞ? 効く薬」と「余命」だ。」


そう言うと医者の顔が歪んだ。同情と諦めの顔だ。ムカつく顔だが俺の求めている事を理解したようだ。


(今のあなたの肝臓は……、薬は……、)


ふむふむ。そうだよ。最初からこうやって機械的に答えてくれれば良いんだ。で? 俺の余命は?


(明日に死んでもおかしくありません。)



「……そうか。…わかった。…………言いにくい事を言ってくれてありがとう。」


ーー


医者を後にした俺は海岸に来ていた。住んでいたアパートやサブスクも解約して残っていた金も実家の郵便受けに突っ込んできた。


ブーッ、ブーッ、ブーッ。


さっきから携帯電話の着信が鳴り止まない。妹からだ。うるさい奴だな。実家の「当主」になったんだから俺なんかに構っている暇はないだろうに。


あっ、そう言えば携帯電話の解約をし忘れた。



……まあいいや。

これから全てを捨てるんだ。

つらい現実も、限界の体も、何もかも。


ーー


……ここは?


海に身を投げたはずなのに陸地に居た。


体は少しも濡れていない。飛び込む前の服装でカバンを身につけている。ここ黄泉の国か? だけど死ぬ前からずっと続いている頭痛も止まってないし体も重い。


死んでからも体の辛さは続くのか……。

楽になれると思ったのに。



周りは「荒地」だった。硬い土に枯草がチラホラと生えている。地平線の遠くには山とか森とか。


で、すぐ近くに「朽ちた小屋」があった。木造の小さな小屋で屋根などなく外壁も殆どが崩れて中にはボロっちい木の椅子が転がっているだけ。


その木の椅子に腰掛ける。


「俺……死んでいないのか。」


諸々を考えるとそういう事だ。



ズキン。


唐突に頭痛が走る。


(モンスターの襲撃に備えて「拠点」を作れ。「襲撃戦」に参加できるのは「拠点メンバー」のみ。お前自身は「コア」となる。「コア」が破壊されればやられたメンバーと共にお前は死ぬ。お前に与えられた能力は……【採取(キャッチ)&放出(リリース)】だ。この能力は使い続ければ「レベル」が上がる。ーー以上。)


ブツン。


「……っクソが。」


いつも以上の頭痛にイラッと来る。


……「拠点」と「【採取&放出】か。「神々のお遊び」か何かかな。誰だか知らないけど俺はこのままここで朽ちて死ぬよ。襲撃とか興味が無いしどうでも良いと思う。俺は楽になりたい。



……カバンに頭痛薬があったっけ。


ゴソゴソ。


「……! おわっ、、なんでこれが!」


カバンの中に六神(むつみ)家に伝わる家宝の「神鏡」と「お神酒(みき)」だ。さっき海岸から飛び降りるまでカバンにこんなものは無かった。


(あいつ)か。無駄な事しやがって。」


簡単な「予知」と簡単な「物質転送」ができる妹の仕業だ。死にゆく俺にこんな貴重な物を送ってどうする。もったいない。あー、すごくもったないないない。


ん?


家宝の「神鏡」と「お神酒」がどうやら「変質」していた。この変な場所に来たせいだろうか。


「神鏡」……この鏡の前で3回嘘をつくと死ぬ。

「お神酒」……病にやケガに効く聖水。自動充填。


(あいつ)は家宝が変質する事を知ってて俺に持たせたのかな。」



「お神酒」

大きな徳利の形をしており中に透明な液体が入っている。


それを少し飲むと頭痛と体の辛さが和らいだ。しかもかなり「美味いお酒」だ。これを飲んでいる間は体が楽だ。少しずつ中身が増えるみたいだから大事に飲もう。


「神鏡」

宝飾の施された鏡。この鏡の前で3回嘘をつくと死ぬ。試しに嘘をついてみる。


「俺は女だ。」


ビシッッッッッッ!!

鞭を打ったような痛みが体に走って体全体真っ赤になった。


「クッッ……痛いなあ。やるんじゃなかった。」


もう二回嘘を言えばさらに強い痛みが俺を襲い死に至るだろう。


「……ハァ。苦しんで死ぬのは嫌だ。」


これは本心だ。嘘をやめて数分経つと体の色が消えた。ウチの六神家の家宝だった物がこの世界に来たせいか特異な性質を持つ「神具」へと変質していた。妹はこれを知っているのかな。


……やっぱりお神酒を飲みながら朽ちるか襲撃を待って死ぬのが良いか。そうだなそうしよう。



「そういや、【採取&放出】は……」


イメージすると目の前の「土」や「石」を【採取】出来た。採取したものは「心のストレージ」に格納された。【放出】するとまた目の前に落ちる。


で、何回か使用したらレベルが上がった。


レベルが上がると「採取量」採取射程距離」「採取種類」「採取分解能」「放出量」「放出射程距離」がそれぞれすこーしだけ上がった。


「ふーん。こういう力か。」


【採取&放出】のレベルはどれくらいまで上がるんだろうか? 俺の異能でどれだけ「改変」できるだろうか? まあ、死ぬまでの暇つぶしだな。


ーー

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