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─── カクンと、モニカは膝から崩れ落ちた。
クラウディオはチラリとモニカを見る。けれど、すぐに別の方向に視線を向けた。
「ビト、これを摘まみ出しておけ」
「はっ」
慇懃な返事をしたのは、帯剣をした青年だった。服装から判断すると騎士のようである。
そこでモニカは我が家に不法侵入をしたのは、クラウディオ一人ではなかったことを知る。
けれど、怒涛の展開が続いた今、家屋に勝手に立ち入った人間が増えたくらい『あ、そう』程度で済ますことができる。
そしてビトと呼ばれた騎士は、軽々とクラウディオを担いで屋敷の外へ消えて行ってしまった。
「怪我は無いか?」
ぼんやりと騎士が消えて行った方向を見つめていたら、いつの間にかすぐ傍に来たクラウディオに声を掛けられ、モニカは思わず息を呑む。
クラウディオはモニカに手を差し出していた。
─── まるで5年前のあの日と同じように、ちょっと困った笑みを浮かべて。
***
今を去ること5年前の春の始め、モニカの家族は王都からこのカダ村へと住まいを移した。
閉鎖的な村では、変化を何より嫌う。
村の端っこにある、名も知らぬ富豪が趣味で建てたまま放置していた屋敷を買い取り、そこに住み始めたモニカの家族をはっきり言って村民達は歓迎しなかった。
だからといって、あからさまに嫌がらせをすることはしなかった。無視をして、居ない者という扱いはしていたけれど。
そんな中、村長から祭りに参加しないかと声を掛けられた。
きっかけさえあれば、村民達が心を開くと考えてのことだったのだろうか。それとも、ただ単に村民は祭りに全員参加しなければという義務感からの提案だったのだろうか。
今となってはわからないし、どちらでも良い。とにかくモニカの家族3人は祭りに参加した。
春の初めのお祭りは、カダ村にとって一年で最大のイベントである。
広場にはたくさんの花で飾られた舞台があり、そこで歌や楽器を披露する人や、その周りで踊る人達。
この日に限っては行商人も屋台を出すし、近隣の町村からも行楽客が来るので、村は沢山の人でごった返していた。
そこでモニカは両親とはぐれてしまった。
今思い返してみれば恥ずかしいほど、モニカは心細さからわんわん泣いた。「お父さん、お母さん、どこぉ」と嗚咽交じりに叫びながら、祭り会場を彷徨い歩いた。
けれど声を掛けてくれる者は誰も居なかった。
子供心にモニカは、ここはなんて冷たい場所なんだろうと思った。
そしてさんざん泣きながら歩いて、歩いて、いつしか会場から遠く離れた場所まで移動してしまったモニカは、とうとう目に付いた木の下でしゃがみ込んでしまった。
もう一生、両親に会えないかもしれない。
当時10歳だったモニカは、移住したばかりで土地勘の無く、寂しさと心細さと不安で心がいっぱいだった。
けれど、その時。
『ねえ君、どうしたの? 迷子?』
名も知らぬ木の下で、べえべえ泣いていたモニカに、一人の青年が声を掛けてくれたのだ。
それがクラウディオだった。