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「モニカちゃん?」

「おい……モニカ」 


 村長とセリオは同時に口を開いた。


 だが、次の行動は別だった。

 村長は信じられないといった感じで、目を見開いたまま硬直し、セリオはうんざりとした表情を作った。


「あのなぁ……モニカ、村長の前だぞ。失礼な態度は取ってはいけない。それに、モニカは僕の妻になるんだ。夫に恥をかかせるような真似はやめるんだ」

「黙れ、クズ」


 間髪入れずに、モニカはセリオを睨みつける。


 けれど、前回のように声を荒げるようなことはしない。


「誰が誰と結婚するですって?セリオさん、あなた3歩歩いたら記憶を無くすニワトリですか?っとに、お可哀想ですね。あ、そうか、だから領主様に向かって暴言を吐いて、殴りかかることができたんですね」


 残念な子を見るような表情を作って、モニカは片手を頬にあて溜息を吐く。


 すぐさま「なんてことをしたんだ君はっ」と村長が顔色を無くして、セリオの胸倉を掴んだ。


(やれやれ村長っ。セリオをそのまま窒息死に追い込んでちょうだいっ)


 そんなふうに村長にエールを送りつつも、モニカの口は止まらない。

 

「セリオさん、先日私は、あなたとは結婚しないって言いましたよね? ご領主様もそのことはご存知のはずです。あと、あなたが私のことをどんなふうに思っていたとしても、私はあなたの事が嫌いです。一生この気持ちは変わりません。そういうわけで、この件で言い争うのは不毛なことです。私もそんなに暇じゃないので、もうこれっきりにしてください。─── では、お帰り下さい。わざわざ御足労様でした」


 耳の遠い村長が聞き取れるように、ゆっくりと子供に言い含める口調でそう言ったモニカは、テーブルに置かれていた茶器をトレーにまとめて立ち上がる。


 そして顎で「ほら、もう帰れ」と訴えた。


 けれど村長は、セリオから手を離したっきり立ち上がることはしない。


「うんうん。モニカちゃんの気持ちは良く分かった。でもねぇ」


 村長は溜息を吐くと、顎に手を当て、もったいぶった口調でこう言った。


「モニカちゃんの保護者は今のところ私なんだ。だから、モニカちゃんがどんなに嫌と言っても、村長の私がセリオ君との結婚を決めたから、もう撤回はできないんだよ。……言っている意味、わかるよね?」

「……っ」


 さすがにこれには、モニカの方が言葉に詰まった。


 村の掟で、みなしごの保護者は村長となる。それが嫌なら修道女になるなり、村を出るなりしなければならない。


(ちっ、勢いで押せば帰ってくれると思ったのに……)


 この保護者カードを出されたら、モニカは反論することができない。そして村長は、今この場でモニカとセリオの結婚を決めたいようだった。


 ただそこまで結婚を急く理由がわからない。村長の面子を保ちたいのかもしれないが、それにしては強引すぎる。


(まさかアクゥ砦の一件と、何か関係しているのだろうか) 


 こくりと、モニカの喉が鳴る。この程度で、身体が強張る自分が情けない。


「さぁ、モニカちゃん。新しいお茶を淹れ直しておいで。今度は美味しく淹れるんだよ。そして、今後のことをゆっくり話し合おう」 


 穏やかに告げる村長の目は、剣呑だった。

 

 ─── 逃げられない。

 

 悔しくもモニカが諦めかけた瞬間、来客を告げるベルが、玄関ホールから聞こえて来た。


 カツ、カツ、カツと規則正しい革靴の音が近づいてくる。そしてそれは居間へと到着した途端、止まった。



 予期せぬの乱入者に、ここにいる全員はものの見事に固まった。


 けれど乱入者は意に介さず、慈愛の籠った笑みを浮かべて口を開く。


「ただいま、モニカ。今帰ったよ」


 聞いたこともない柔らかな声でそう言ったのは─── クラウディオだった。

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