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ただここでモニカの中では、また新しい疑問が生まれてしまった。
クラウディオが引き取ると言い張っているのは、てっきり、領地の不祥事を隠す為に自分の監視下に置きたいがためだと思っていた。
でも事件自体を、今の今まで知らないとなると、彼が自分を手元に置きたい理由がわからない。
よもや手篭めにする気では…… などと思ってみたけれど、クラウディオはイケメンだ。
地位も名誉もあり、どう考えても女性を選ぶ権利を有している側だ。なにも好き好んで、こんな孤児と戯れたいなどと思うであろうか。
「モニカ」
「はいっ」
急に名前を呼ばれ、モニカはソファに着席しながら飛び跳ねてしまった。
そんな器用な芸を披露したというのに、クラウディオどうでも良いことだったようだ。
「詳しく説明している時間は無さそうだ。君の身が危ない。だから悪いが、今日は強引に君を私の屋敷へ連れて行く。返事は聞かない。だが、どうしても必要なものがあれば、今すぐ支度をしてくれ。私はここで待っているから。さぁ、立ってくれ」
(いやいや、立ってくれと言われても)
クラウディオの頭の中では、きちんと何かの図案が描かれているのかもしれない。
でもモニカには、全くわからない。
「ちょ、ちょっと待ってください、領主様。行く行かないは別として、これだけは教えて下さい」
「わかった。だが手短に頼む」
「はい」
コクリと頷いたモニカは、喉の調子を整える為に小さく咳払いをしてから口を開いた。
「どうして、そこまでしてくれるんですか?」
「というと?…… すまない手短とは言ったが、もう少し詳しく」
「はぁ。あ、あの。つまりですね。孤児になったことを哀れんでもらっているのはわかるんですが、どうして領主様はここまで私に親身になってくれるんですか?」
トラディは広大な領土だ。数多くの町村がある。
きっと、領主さまのお屋敷もとても大きいのだろう。
けれど、いちいち孤児になってしまった子供を引き取っていては、屋敷がパンクしてしまう。それに、孤児院だって修道院だってこの領地にはあるのだから。
そんなことも、モニカは丁寧に付け加える。
そうすればクラウディオは、なぜか口のいっぱいに苦虫を詰め込まれたような顔になる。
「私は君との関係性において、そういう立場なのだ」
「は?」
こてんと首を傾げたモニカを見て、クラウディオは更に苦い顔をになる。
「だから君を助けるのは、私の役目なのだ。─── それに助けるのは、これが初めてではない」
後半の言葉は、モニカに聞かせたくないかのように、口元を手で覆っていた。
でもくぐもった声になってはいたが、ちゃんとモニカは聞きとることができた。