表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷徹領主は、みなしご少女を全力で溺愛したいようですが……。  作者: 当麻月菜
2.失恋と新しい恋の始まり ※注意:その相手は同一人物
16/57

5★

 クラウディオ・ファネーレは27歳という若さで、トラディ領を統べる存在である。


 


 領主の家に生まれ、領主になるべく幼少の頃から教育を受けてきた彼は、前領主である父が3年前に心臓の病を患ったのを期に領主の座を引き継いだ。


 若すぎる領主に難色を示す側近達もいたが、2ヶ月も経てばクラウディオが優秀な領主であることを認めざるを得なかった。


 柔軟な発想力と、冷静な判断力。そして見た目の美しさから、肩書や理屈抜きで他人を虜にする魅力があり、遠く離れた王都に住む国王とて、彼の働きぶりは見事だと評している。


 けれど現在、クラウディオは手負いの小動物のように自分を威嚇する少女───モニカを前に頭を抱えたい気分だった。





 クラウディオがモニカの両親の死を知ったのは、1ヶ月程前のことだった。そして偶然だった。


 年明けに第二王子は他国の姫を娶ることになっている。

 嫁いでくる姫は和睦という扱いの貢ぎ物であり、本人もそのことを自覚している。


 …… 自覚はしているのだが、モニカと歳が変わらない年齢で己の肩に乗せられた重責で酷くやつれ果てていると聞く。


 第二王子としては和睦の貢ぎ物とはいえ、その姫を大切にしたいと思っている。だから、婚約の祝いに個人的に宝石をこっそり贈りたいという願いを持っていたりする。


 第二王子が姫に贈りたい宝石は、スフェーンという名の石だった。


 スフェーン石は研磨次第でダイヤモンドより華やかに輝く黄緑色の美しい宝石である。だが、その技術を持つ職人を探すのがかなり難しく幻の宝石ともいわれている。


 そこでクラウディオは第二王子から相談を持ちかけられたのだ。


『君の領地に住んでいる、腕の良い研磨技師に依頼できないか』と。


 トラディ領は広い。優秀な領主とて、領民すべてを把握するのは不可能だ。第二王子から依頼され、初めてクラウディオはその技師の存在を知った。


 ただ腕の良い研磨技師は、王都に拠点を置くアッセラム商会を通じてではないと依頼を受けないらしい。


 そこでクラウディオは、アッセラム商会のトップと直接交渉するための手紙を送った。


 そして『ご指名の研磨技師は、既にこの世にはいない。半年前に盗賊に襲われて死んだ』という返信を目にして愕然とした。


 と同時に、自分の領地でそのような痛ましい事件があったのに、それを己が知らなかったことにクラウディオは疑問を持った。


 けれど、どれだけ調査をしても盗賊に襲われたという報告書を見つけることができなかった。


 そのため、クラウディオは単身、モニカの屋敷を訪れた。


 慰問という意味もあったけれど、被害者遺族であれば事の詳細を聞けるだろうという思いもあった。


 けれど、いざそこに足を向けてみれば、かつては温かみのある工房を兼ねた屋敷は、窓ガラスがくすみ、庭は荒れ放題でかつての面影は無い。


 手入れを怠っているのは明らかだった。


 でも、それは仕方がないとも思った。


 たった一人生き残ったのは、16歳の少女なのだ。まだ幼い少女が屋敷を一人で切り盛りするなど出来るわけがない。しかも、両親を失って半年しか経っていない。


 それに頼れる存在がいるなら、数ヶ月も経過しているのだから、既に何かしらの手を打っているはずだ。

 なのに、この荒んだ状況は、モニカが天涯孤独の身の上になってしまったことを明瞭に伝えていた。


 まだ誰かに庇護されるべき存在なのに……。




 クラウディオは、モニカをじっと見る。


 まるで背中の毛を逆立ている小猫のようだった。その姿がとても痛々しかった。


「君は意地をはっているようだが、誰かに頼ることは恥ではない」

「ごもっともですね。でも、私は一人で大丈夫です。お帰りください」

「何を言っているんだ、帰れるわけがないだろう」


 どうあっても平行線を辿ろうとするモニカの姿勢に、クラウディオはやれやれといった感じで溜め息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ