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今の季節は冬だ。玄関から入る隙間風は、昼間とてかなり冷たい。
そしてクラウディオは、こらえ性の無い性格であった。
「失礼する。悪く思わないでくれ」
「は?」
とんでもなく上から目線の謝罪にモニカが目を丸くしたと同時に、クラウディオの手がにゅっと伸びる。次いで、軽々と扉をこじ開けた。
全体重を扉に掛けていたモニカは、予想外の展開にぐらりと身体が傾いてしまう。
「これも、失礼する」
きっぱりと宣言したクラウディオは、ひょいとモニカを片手で抱き上げた。
「何するんですか?!この人攫いっ」
「人聞きの悪いことを言うな。ここは寒いから、奥に入るだけだ」
暴れるモニカなど子猫のようにしか思ってないのか、クラウディオは抱き上げたままの状態でツカツカと居間へと足を向ける。
言っておくが、ここはモニカの自宅である。
領主さまとて、手前勝手に振る舞って良い場所ではない。
それをモニカは手足をバタつかせながら必死に訴える。けれど、クラウディオは返事をすることもなく聞き流すだけだった。
時間にして一分程度。クラウディオは居間のソファに、モニカを下ろした。
「ここも寒いな。あまり外と変わらないではないか」
上質な厚手のウールコートを着ている分際で、クラウディオは不満を口にする。
「私は寒くないです」
「そんなわけないだろう。どうして暖炉に薪をくべないんだ?」
「…… 薪に限りがあるからですよ」
ディエゴは先日、荷馬車一杯に薪を運んできてくれた。
けれどお茶を飲むにしても、お風呂に入るにしても、薪は必要だ。
そしてこれからもっと寒さは厳しくなる。薪はどれだけあっても足りない。
自分の力で薪を割ることができないモニカは、薪が無くなれば林に足を向けて、地面に落ちた小枝を拾うしかない。
雪が降れば、しけった枝で火を起こさなくてはならない羽目になる。
だから比較的暖かい天気が良い日中は、暖炉に火をくべることはせず、薪を節約しているのだ。
(無理矢理入って来た途端に、なんなのよ。まったく)
クラウディオはご領主様だ。
彼の住む屋敷は、いつでも快適な室温に保たれているのだろう。でも、それが当たり前だと思うなよと、モニカは苛立ちを募らせる。
「部屋が寒くてご不満なら、どうぞお帰り下さい」
ぶすくれた表情のままモニカが帰宅を促せば、クラウディオは軽く眉を上げて口を開く。
「いや、私は別段問題無い。では、本題に入ろうか」
そう言って、モニカの向かいのソファに着席した。
長年愛用しているソファは、良く言えば使い込んだ味わいがある。言葉を選ばなければ古臭い。
そんな仕様感満載の庶民のソファに腰かけていても、クラウディオの美しさは損なわれることが無く……。
一瞬だけでも彼の姿に見入ってしまった自分が、ものすごく悔しかった。