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ディエゴが嵐のように去って行ったその数日後、モニカの屋敷の玄関ベルが鳴った。
「邪魔をするぞ」
あり得ない訪問者に、唖然としたモニカは、玄関扉のドアノブを持ったままの姿勢で
固まってしまった。
「お呼び立てした覚えはございませんので…… では」
なんとこさ言葉を紡いだモニカは、静かに扉を閉めようとした。が、
「そうだ。呼ばれた覚えは無い。だが用事があったから来たのだ。中に入っても良いか?」
「嫌です」
食い気味に断ったモニカは、全体重を掛けて扉を閉めようとするが、なぜか扉は途中で止まって動かない。
不思議に思って視線を下にした途端、思わず仰け反った。
領主さまのおみ足が、扉に挟まっていたからだ。
「…… し、失礼いたしました。どうぞ足をどかしてください」
そそっと指2本分だけ扉を開けても、ピカピカの革靴は動かない。
「君が気に病む必要は無い。扉を閉じられないが為にあえてしていたことだ」
「…… っ」
押し売り商人のような態度を取ったクラウディオに、何と言葉を掛けて良いのかわからず、モニカは再び固まった。
ただ、先日ここを粗末な家と言ったとこは根に持っている。
「何の御用かは存じ上げませんが、お引き取りください」
「それは困る」
「いや、困るって言われても……」
モニカは扉に身体を預けた状態で、肩を竦めた。
クラウディオは先日の一件を忘れてしまったかのように飄々とした顔をしている。
そして、己の主張が通らないはずはないという根拠の無い自信に満ち溢れている。
( うーん……それにしても用事ってなんだろう)
思い当たるのは、自分を連れて帰ると言った戯言だけ。
結局、なにをとち狂ってそんな提案をしたのか真意は聞けずじまいであるが、どうせロクなものでは無いだろう。
「あの領主様。もし仮に…… 仮にですが、ね」
「なんだ」
急に声を掛けてきたモニカを不審そうにクラウディオはギロリと睨む。よっぽど彼の方が不審者であるというのに。
だが、今ここでその論議をするのは時間の無駄である。
「領主さまのご用件とは、よもや私を連れて帰るといったことでは無い……ですよね?」
「それ以外に何があるというのだ」
確認をした時点で、多少はそうかもしれないと思っていたことは認めよう。
けれど、お前馬鹿か?と言いたげなクラウディオを目にして、モニカの胸が膨らんだ。物理的に。
「結構です!! 間に合っています!!」
きっぱり拒絶の言葉を吐いた後、再び全力で扉を閉めようとした。
けれどクラウディオの足が邪魔して、扉を閉めることはできなかった。
蹴っ飛ばさなかった自分を、モニカは褒めてやりたいと思った。