10
当時からクラウディオはとても綺麗な顔立ちをしていた。そしてとても紳士だった。
声を掛けてくれたことに、ちょっとだけホッとしたモニカは、安堵の気持ちから更に泣いてしまった。
祭りの賑わう声をかき消すほどの勢いに、クラウディオは若干引きながらも「名前は言えるかな?」「お家はどこかな?」「お父さんと、お母さんの名前はわかるかな?」と根気よく質問をした。
モニカは、その返答を全て「ぅわーん」という泣き声で返した。
今にして思えば、こんな面倒くさい子供に声を掛けてしまったことを、クラウディオは酷く後悔しただろう。
でもクラウディオはそんな気持ちをおくびにも出すことはせず、己の上着のポケットからハンカチを取り出すと、涙と鼻水でぐちゃぐちゃのなったモニカの顔を丁寧に拭いて、手を握ってくれた。
『私が君をご両親の元まで連れて行ってあげるよ』
そう言って、笑った。とても優しい笑みだった。
それからクラウディオはお祭り会場に戻り、村人一人一人に声を掛けた。
モニカのことはしれっと無視した村民たちは、身なりの良いクラウディオから問われれば、とても丁寧な返答をした。
相手によってガラリと態度を変える村民達に、どうよ? と冷ややかな目を向けるほどモニカは大人ではなかった。なので、クラウディオがただただカッコイイと思ってしまった。
そして、あれだけ探しても見つけることができなかった両親と、あっという間に再会することができた時、モニカはクラウディオのことを魔法使いだと本気で思ってしまった。
でも、彼に直接それを聞くことは出来なかった。
両親と再会できたモニカは、母親にぎゅっと抱きしめられていたし、己自身もまたぎゃんぎゃん泣いてしまっていたから。
結局、自分を助けてくれたヒーローが魔法使いでは無く、ここトラディ領の次期領主様クラウディオ・ファネーレと言う名であることを知ったのは、翌日だった。
両親が教えてくれた。
初恋の相手は、決して手が届くことのない人だということをモニカは知った。
***
「立てそうにもないか?」
気遣う言葉でモニカは、余所に向けていた意識を元に戻した。
そしてじっとクラウディオを見つめる。
お祭りの夜に見た彼は、まだ20代前半の青年だった。それから5年の年月が経過して、彼は男性としての魅力を更に高め、落ち着きさも増した。
(……ああ、もうっ。ヤバいくらいにカッコイイ。死にそう)
叶うことは無いと知りながら、5年もの間、片思いしている人が、自分の窮地を救ってくれた。そしてまたあの日と同じように手を差し伸べてくれている───
十分に、ときめいていい理由だと思う。
ひっそりと静まり返っていた感情が動き出した。胸の中心から、全身に心地よい熱が渦を巻いて行き渡る。
けれど、その夢見心地は長く続かなかった。
いつまで経っても立ち上がらないモニカに業を煮やしたクラウディオは、やや強引にモニカの腕を引っ張った。
次いで、ぐるっと辺りを見渡して口を開く。
「それにしても、ここは随分と粗末な家だな」
「なんですって?!」
冷水を頭から被せられたような気分になったモニカは、思わず声を荒げてしまった。