第7話 騒霊
前回までのあらすじ
学校に出ると言う噂のお化けを見つけようと集まった超研部員だったが、そこで美咲、坪井、美樹の三人はお化けを見て気を失ってしまう。そして坪井、美咲の二人は眼を覚ますが美樹だけが目を覚まさない。
達也はお化けを探して飛び出し、そこで別行動を取っていたシンと合流する。そしてシンと共にお化けがいる理科室の扉を開けた。
俺は状況を理解するのに少し戸惑った。
そこには何も居なかった。確かに何も居なかったのだが……。
「何じゃこりゃ……」
物が浮いている。戸棚に入っているビーカーやフラスコなどが宙を自在に飛び回り、おまけに棚や机や椅子などがガタガタと震えている。
これがお化けの正体? 普段よく分からん液体などを入れたり混ぜたりするガラス瓶が? 何気なくケツを置く椅子が?
「やっぱ、まだ見えないか」
俺が混乱の真っ只中にいると、不意にシンが俺の肩に手をやる。何だいきなり、気持ち悪い。
すると、肩に置いてある手が一瞬光った。
「うわっ!?」
「これでよしっと……」
何をされたか分からずうろたえる俺にシンは何も言わず前方を指差した。
俺は指されたほうに目を向ける。
「ッ…………!」
思わず言葉を失った。
「見えたか?」
そう言ったシンの言葉にも返答を返さず、ただただ目の前の光景を見ていた。
「何じゃこりゃ……」
さっきまでとは見えているものが違っていた。
「鬼……?」
さっきまではただ浮いているようにしか見えなかったフラスコにも、ガタガタと震えていた椅子にも、同じように小柄な鬼が付いている。ゲームや御伽話に出てくるゴブリンみたいな奴だ。その鬼がフラスコを抱えながら宙を飛び回り、椅子や机にしがみ付いてガタガタと揺すぶっている。
「おい、何だこれ? 鬼?」
「ポルターガイスト」
シンは目の前の敵達を見据えながら答えた。
「人間界でも結構有名な言葉だろ」
有名かどうかは知らんが、大抵の人間は知っている名前だろう。
ポルターガイスト
部屋の中にある本やら荷物やらが勝手に動いたり飛び回ったりする現象だ。
確かに今目の前で起きていることは、今言ったことを絵に描いたような状況だ。あれ? でも、これってお化けじゃなくて現象の名前だよな?
「人間界じゃ現象として取り上げられるが、ポルターガイストはこいつらの名称だ」
そう言ってシンは淡々と説明を続ける。
「こいつらは人の負の感情のエネルギーを糧にしてる。妬み、人間を脅かしておもに恐怖の感情を乗せた言霊を好物にしてて、それを取り出して食うんだ」
「言霊?」
「ま、簡単に言えば人間の持つあらゆるエネルギーのうちの一つだな」
なるほど。そいつを取られた所為で美樹はあんな風になっちまたんだな。
「ほら、あれだ」
そういって指差す方向に居るポルターガイストの一匹が光り輝く珠のようなものを持っている。珠の周りには光輪が纏われているように回っていて綺麗だ。
「あれを取られた人間はどうなる?」
「一気に体から力を奪われるから気を失う。体力の少ない人間なら最悪死ぬ」
「どうすりゃいいんだ?」
「あれを奪い返して本人に返せばいい。大丈夫、美樹は死んでない。ほっといてもじき気が付くし、言霊を元に戻せばすぐに目覚める」
俺の心を見透かしたように俺の聞きたかったことを言いやがった。
「さーて……」
そう言ってシンは、ホルスターから銃を抜き上に向かって引き金を引く。
バァーン!!
静かな校内に銃声が響き渡った。それと同時に理科室の中に居たポルターガイスト共が一斉にこっちを見た。よくよく見るとどいつもこいつも小さいわりに気持ち悪い顔をしている。
「チカラダ!」
「チカラ!」
そして一斉に声を上げ始める。声もかなり気持ち悪い。それにしてもまたそれか。前にも聞いたなその台詞。
「黙れー!」
隣でシンがそれを一喝する。
「ギャーギャーやかましいんだよてめぇ等」
そしてさっきまで上に上げていた銃を前に向け、もう片方のホルスターからも銃を抜いて構える。
「ぶっ殺す」
そして一気に引き金を引き、銃を乱射し始めた。おい、ここ学校の中だぞ!
バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!
「ギュエー!」
「ギャー!」
「ギョワー!」
断末魔とともにポルターガイストは次々に消えていく。それとともに理科室に置いてあるさまざまな物も破壊されていく。
「おい! 少しは加減しろ!」
「えっ?」
「理科室を壊すな! 後々面倒だろ!」
「しょうがないだろ! こいつ等倒さないといけねぇんだぞ!」
「ナイフかなんかで戦えばいいだろ!」
そう言って俺はシンの両腰に付いているナイフを指差してやる。
「やだよ!」
「なんで!」
「こっちのほうがいいからだ!」
まるで思考回路が子供そのままだ。どうやらこいつは基本銃のほうがいいらしい。
だが、話し込んだのがまずかった。最後に残っていた二、三匹のポルターガイストが一気に襲いいかかって来た。
「ちぃっ!」
シンが俺を思い切り突き飛ばす。そして飛び掛ってきた敵に弾丸の洗礼を浴びせた。
「ギッ……!」
頭部を打ち抜かれたため声も上げる暇もなく、ポルターガイストは無残に黒い塵と名って消えた。
後に残ったのは静けさだけだった。
「…やった……」
俺はさっきの突き飛ばされた衝撃も相成ってか、腰が抜けそうになる。だが、シンの奴は安堵の息も漏らさず、理科室を物色し始める。
「どした?」
「無い……」
「へっ?」
「美樹の言霊が無い」
その言葉で俺の安らぎタイムは終わりを迎える。始まって約六秒、短い安らぎだった。
「無い…って…?」
「言葉通りの意味だよ」
「なんで?」
俺の台詞が終わるか終わらんかのうちにシンは走って理科室を飛び出した。
「おいっ!?」
俺も当然のことながら続いて走り出す。まったく、今日は走ってばかりだ。こんなに走るのに縁があるならスプリンターにでもなるかな。
「どうしたんだよ!?」
シンの後を走りながら俺は若干息を切らしながら聞く。
「持ってた奴の気配がする! 逃げやがったんだ!」
なるほど。ていうか肺が痛い。
「奴はまだ言霊を食ってない。食っちまったら力を強めちまうし、仲間を増やす。そうなったらとてもじゃないが手に負えないからな」
あんなチビが力を手に入れた姿が想像できないが、知ってる奴が言ってるんだ、なんかとんでもないことになるんだろう。餅は餅屋、専門家の意見に従おう。
「あっちだ」
そう言って突き当たりの廊下の左側を指差す。だが、俺はその時あることに気付いた。
「おっ…おいっ! ちょっと待て」
「えっ?」
その時だった。
「何ですかね、さっきの音」
「さあ、でも草薙君が心配ですね」
聞こえてきたのは坪井と三好先輩の声。思ったとおり、ここを曲がれば超研部員たちが居るさっきの場所に戻るのだ。まだ俺が見つかるのはよしとしよう。だが、連れのこいつが問題だ。見つかれば何が起こるのかなんて手に取るようにわかる。まず全員が驚きの声を上げ、『こいつは何だ』だとか『何で羽が生えてんだ』とか言われ、坪井は歓喜の声を上げて飛び回るだろう。
「ここはやめて違う道行こ、なっ?」
「それじゃ間に合わねぇ!」
そしてそのまま曲がっちまった。もうどうなっても知らねぇぞ俺。
「草薙君?」
先に坪井が気付いた。それに続いて他のやつ等もこっちを向く。
「草薙君ですの? あら、でも隣にもう一人……」
「草薙君……?」
三好先輩と西田の不審そうな声が聞こえる。駄目だ、ばれる。
だが、シンはいきなり銃を抜き三人に向けて撃ちやがった。
バン!バン!バン!
そしてバタバタと三人が倒れる。おい! 何してやがる!? 血迷ったのか?
「ゴム弾だ」
へっ?
「気絶させただけだ」
そのまま倒れている場所を通り過ぎようとしたが、なるほど。
「う〜〜ん……」
「あ…あぁ……」
「う…ん……」
三人とも呻き声を上げていた。
「あそこだ!」
シンが声を荒げる。また左を指差している。
「あそこに居やがる」
そして曲がり角を曲がった。
「見つけたぞこの野郎」
曲がった先は行き止まりになっており、その先には美樹の言霊を持ったポルターガイストがいた。
「さっさとそれ返しやがれ」
シンがホルスターから銃を抜いて構える。だが、
「キィーーーー!!」
突然、敵がとんでもなく高い声で奇声を上げた。その瞬間、
「キキィッ!」
「キィーー!」
「なっ!?」
周りから理科室にいたときの倍近い数のポルターガイストがシンに向かって襲い掛かってきた。まだこんなに居やがったのか。
「うわっ、放せ! 纏わり付くな!」
さすがにこれだけの数全員を相手にするのはきついのか、シンの体には出てきた殆どのポルターガイストが纏わり付いている。そしてシンの手と腰から銃とナイフを取り上げた。
「あっ! てめぇら! てっ、おい!」
そしてシンを持ったまま浮き始めた。
「おい! 放せ! おい!」
そして、
ガシャーン!
「うわーー!」
そのままシンは窓ガラスを突き破り、外に放り出された。
「シン!」
「う…うう……」
慌てて、窓の下を覗くと、シンは地面にたたきつけられ呻いていた。羽使って飛ぶ暇も無かったらしい。だが、問題はこっちだ。
「ケケケッ」
ポルターガイスト共がこっちを見て愉快そうに笑っている。この笑いの意味はすぐに分かる。俺を新しい獲物と認識している。
ここは一旦逃げようと思い走り出そうとしたとき、何かが俺のすぐ左脇を通り過ぎた。それと同時に左腕に痛みが走る。
「えっ……?」
見ると左腕の袖が切れ、腕からも血がたれている。
すぐに通り過ぎていったものを見ようと思い、後ろを向いた。だが、目に飛び込んだのは最悪の風景だった。
「嘘だろ……」
ポルターガイスト共が何かを持って浮いていた。
「ケケケッ」
その持っていたものは、さっきシンが投げられたときに散ったガラスの破片だった。おまけに全員がこちらに向いて浮いている。
「やめろ……」
そんな俺の願いも空しく……。
「キィーーー!!」
一斉にガラスを持ったポルターガイストが飛んできた。
「ぐぁーー!」
もはや避けることなど出来ない。ガラスの破片が高速で縦横無尽に飛びまわり、俺を切り刻もうとしてくる。
「ぐぁっ…がぁ…!」
もはや声らしい声も出ない。体中のいたる所から痛みと血の生暖かさを感じる。俺は亀のように縮こまり敵の攻撃をしのぐしかない。
「なんで…こんな事してんだろ……」
思わずそんな言葉が口から出てきた。あいつと…シンと出会ってからこんなことになったのか? 畜生、もう痛みで頭がボーッとしてきた。何でこんなこと考える。さっき理科室に入る前に言ったじゃねぇか、覚悟を決めたって。ここにこうしているのは俺の意思だ。こいつ等がムカつくから、ただそれだけの理由で何もできねぇくせに危険に飛び込んだのは俺の意思だ。……なんか改めて考えると俺馬鹿だな……。まあ、それは置いといて。とにかくシンは悪くねぇ。俺は俺なりに自分の覚悟を見せる。
「こ…の……クソ野郎共……」
俺はもう怖がらない。こいつ等がそれを餌にするんならなおさらだ。だが、もう限界だ。自分の体だ、大体分かる。必死に堪えている時に、ふと、視界にシンのナイフが見えた。
(あれが使えたらなぁ……)
なんてことを言ったときに恐れていた限界が来た。徐々に視界が霞んでくる。
「くそ……」
そして俺は息絶えた……はずだった。
だが、驚くべきことに生きている。体の感覚は無いが意識がある。そしてさらに驚くべきことがもう一つ起きた。
体が急に動き出したのだ。意識は朦朧としていて体を動かしている感覚は皆無と言っていいほど無い。そして俺の体は、まだ意識がはっきりしているときに見えたシンのナイフを取り上げてポルターガイストの群れに立ち向かった。
どうも松村ミサトです。
すいません。前回の後書きで今回でこの話は終わると書きましたがまた終わりませんでした。次の回で絶対に終わる予定です。
そして次の回が終わった後はまた新しい話に入ります。また超研部の話です。
さて、次の回で達也はどうなるのか?楽しみに待っていてください。
それではまた次回。