第6話 正体
前回までのあらすじ
超研部長の鷺原美咲の提案で夜の学校に出るというお化けを見つけるという題目で夜に学校に集まることになった超研部員。
達也も気にしてはいなかったがシンが学校には何かいると告げる。
そして夜、二班に別れ学校を捜索していた達也たちに悲鳴が聞こえる。
そこに向かうと、美咲、坪井、美樹が倒れていた……。
「お…お化け……、お化けが……」
そう言って部長はまた気絶した。見たところ全員何かされた訳でなく、ただ驚いて気絶しているだけのようだ。
「お化け…? お化けってなんです? 美咲!」
三好先輩も必死に呼びかけるが、部長は今ので精一杯だったらしく気を失ったままだ。またしばらく起きそうにない。
「く…草薙君……」
「坪井!」
部長の次に目を覚ましたのは、俺が呼びかけていた坪井だった。
「み…見たよ……、幽霊……本当に…この世に幽霊はいたんだよ……」
苦しそうにしているがその顔には達成感と幸福感が浮き出ていた。そしてまた気を失う。
「おい! この非常時に言いたかったことはそれだけか! おい!」
揺すぶっても効果は無い。部長と同じだ。だが、あまりにも腹が立ったため思いっきり坪井の頭に拳骨をかましてやる。
「痛ったーーー!!」
大声とともに坪井が俺の手の中から飛び上がった。偶然にも今の一撃が気付けになったらしい。
「いった…何すんだよ、草薙君!」
しかも意識をはっきりと取り戻していやがる。俺の拳骨にこんな効果があったとは。まあ、今はそれはおいておこう。それよりも俺はまだ目を覚まさないやつに意識を向ける。
「西田! 美樹はどうだ」
美樹に必死に呼びかけていた西田に聞くが、西田は首を横に振った。
「そうか……」
見ると西田は必死に泣くのを堪えているような顔だった。その眼には涙が溢れ出していて今にも泣き出しそうだ。
「大丈夫だ!」
その言葉に少し驚き、西田は軽く飛び上がった。そして俺を見る。
「美樹とはガキのころからの付き合いなんだ。こいつはこんな事ぐらいでどうにかなったりする玉じゃねぇよ!」
西田は唖然としながら俺の話を聞いている。
「それともなにか?西田。いつもの美樹の事思い出してみろ。お前の中のあいつのイメージはそんな弱くないだろ?」
西田は黙ってコクンと頷いた。
「じゃあ信じろ」
またコクンと頷いた。さっきよりも、力強く。
「こいつは絶対起きるよ」
嘘だ。こんなことを言っていても正直俺も不安だ。いくらなんでもこんなに呼びかけて起きないなんておかしい。だが、俺が不安がっていては駄目だ。実際、今ここにいる奴らの中で一番美樹のことが分かるのは俺だ。その俺が諦めたら絶対に駄目だ。
「分かった……」
西田は涙を拭いて俺に言った。
「信じてみる……」
そう言った西田の眼には涙ではなく力強さがあった。
俺はホッとして西田から視線を外した。その時だった。
俺たちが来た方向から反対側の廊下の曲がり角、そこで何かが動いているのが見えた。何が動いたかは分からないがその原因は分かる。恐らく部長たちが見た『お化け』だろう。
「おい、坪井」
「えっ?」
俺は起きたにもかかわらずまだ俺の手の中にいる坪井に呼びかける。
「お前、もう動けるか?」
「ああ、うん。もう大丈夫だよ」
それを聞き俺は坪井をどけて立ち上がった。
「三好先輩」
今度は三好先輩に呼びかける。
「はい?」
「先輩は西田と坪井とで二人を診ててあげて下さい」
「ええ、でも草薙君は?」
どう言おうか迷った。だがこの状況を思い出し、すぐにこの言葉が出てきた。これなら今言っても怪しまれることはあるまい。それに本当のことだし嘘をつくわけじゃない。
「ちょっとお化け退治に行ってきます」
そう言って走り出した。
「草薙君!」
「あ、お化けは退治しないで! また見たいんだ!」
後ろからみんなの声が聞こえる。だが坪井の言葉は無視しよう。
「草薙君…!」
珍しい。西田までも声を掛けてくれている。今日は本当に西田の始めてみることが多いな。いや、今はそれよりもやらなくちゃならないことがある。
俺は何かが動いていた廊下の曲がり角に向かって走り出した。
おれは今これ以上ないというほど全力で走っている。行く当ても無く。
あれからすぐに廊下の曲がり角まで行ったが何も居らず、とりあえず今は道なりに走っている。だがこれは本当に勘でしかないのだが、今まさにそのお化けたちに近づいているような気がするのだ。本当にただの俺の思い込みだが、なぜか確証がもてる。シンの側にいた所為で俺もなんか特別な力に目覚めちまったのか? それよりも、何でシンの奴ががいないんだ。先に来て解決しておくといってたじゃねぇか。俺が行ったところで俺はどうせ何も出来やしないだろう。俺は奴らの存在を知っているだけで奴らと戦えるわけではないのだ。
「あの役立たずのクソ天使……」
「誰が役立たずでクソだって?」
何も考えず誰に伝えるでもなく言った言葉に返答が帰ってきてかなりたまげた。
「たくっ……、居ないと思って好き勝手言いやがって……」
声がしたほうに顔を向けると、そこにはシンの奴がいた。銀髪に金色の眼の元の姿に戻り、羽を広げ俺の隣に浮いている。
「シン!」
「まったく、何かあったらお前がどうにかしてやれって言ってただろ。そのお前が離れたら意味無いだろうが! たくっ!」
至極当然の事を言われ、俺は返す言葉が無い。かなり怒っているようなので三好先輩と一緒になれたから、なんて話したらぶっ飛ばされるなこりゃ。そのままシンは俺の隣に着陸する。
「それより……!」
別に言い返すつもりは無いが俺は気になっていたことを聞く。
「何でお前今更来たんだ。もっと早く敵を倒すか、それかあの三人を助けることぐらい出来なかったのか?」
そう言うとシンは些か困った顔になる。
「しょうがなかったんだ。学校に来たときは気配があったんだけど、騒ぎにしたくなくて用務員のおっさん眠らせてるときに消えちまってよ。そんで自力で探してる途中にお前らの悲鳴が聞こえたってわけ。分かったか?」
なんとなく事情は分かった。まあ、少なくともこいつはこいつなりに頑張ったってことは。
「じゃあ、まだ敵は見つかってないのか?」
「いや、もう見つけた」
そう言ってシンは廊下の先のほうを見つめる。俺も自然に目線を同じ方向に向ける。
「奴等、獲物を手に入れた喜びで気配を隠しきれてない」
そのままシンは向いていた方向に歩き出す。俺もそれについて行く。
しばらく歩いたところで、シンはある部屋の前で足を止めた。
その入り口に上にあるプレートにはこう書かれていた。
『理科実験室』
「おい、ここってこの間の……」
「ああそうだ。この間忍び込んだ場所だ」
そんな風にあっさりと言いやがった。
「待て、この間は何も無かっただろここは」
「この間は俺がいたからだ。堂々と侵入した所為で奴らに早く感づかれたんだ」
そう言うと俺の頭を引っ張って理科室の扉に耳を押し付けさせた。
「いててっ!」
「耳を澄ましてみろ」
言われたとおりに耳に神経を集中させる。
『カタカタッ』
『ゲゲッ! ゲゲゲッ!』
中からは変な物音と不気味な笑い声が聞こえてくる。辺りが静かな所為でより鮮明に聞こえるため余計に気味が悪い。
「今から仲の奴らを一網打尽にする」
そう言ってやっと俺の頭から手を離す。
「お前はどうする」
「えっ?」
「中に入るのか?」
不意に聞かれたため聞き返したが、ここまで走って来た時からもう腹は決まっている。
俺はさっき引っ張られた所為でついていた膝を上げ、目線をシンに合わす。
「行くに決まってんだろ」
するとシンは軽く笑った。
「なんだよ」
「いや、ところでお前……」
「んっ?」
「何で行こうと思った。いや、そもそもなんでここまで走ってきた。お前は俺にかかわって奴らの存在を知ってるだけ、行ったところでお前は戦えない。なのになぜだ」
さっき俺が考えていたことをそのまま聞いてきやがった。読心術でも持ってるのかこいつ?
「なんでだ?」
さらに聞いてくる。何でだと言われても俺も困る。俺だって分からないんだ。ただ、これが理由になるならこれを言っておけ。
「ムカつくからだ」
そう言ってやった。とりあえず、このドア一枚隔てた先にいる奴らは部長たちに何かした。だからムカつく。今の俺には理由といえばこのくらいしかない。
するとシンはまた軽く笑った。
「よし! じゃあ、ムカつく奴らを退治しに行くか」
そしてドアの取っ手に手を掛ける。
「行くぞ」
「……ああ」
シンが理科室の扉を開けた。
どうも、松村ミサトです。前回でお化けの正体が分かると書きましたが時間の都合で書けませんでした。すいません。次で間違いなく学校のお化け編は終わりますので皆さん楽しみにしててください。
それではまた次回。