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第67話 胎動

 ヴァルハラ内部・ゼウスの間。

 一面が大理石で造られているこの部屋の中央には、少しだけ高く造られた場所に一つの椅子があり、その前には巨大なホログラムのスクリーンモニタが展開されている。

 その中央の椅子に、白い修道服に身を包んだ見た目一〇歳程度の『神』、マキナ=ゼウス=エリティッティはホッと息を吐いた。

 モニタにはエデンの地図が映っている。当初、所々に赤く塗られた点があったのだが、今はもうそれらはない。

 それは、このエデンから脅威が去ったことを意味していた。

「今回はさすがに冷や汗をかいたな」

 ゼウスは脱力すると、乱暴に椅子の背もたれに身を預ける。それと同時に、彼の目の前に展開されていたモニタもプツリと消える。

「向こうも年々やることが大胆になってきたな。つねに条約違反すれすれのことをやってくるなんて」

 ゼウスは一度大きく伸びをし大きく息を吐き、再び椅子に乱暴に寄りかかる。肘掛ひじかけにあるボタンを押して、給仕の職員にお茶を注文する。

(まあ、それでもアイツ・・・がいたころよりはマシか。この文明が発達した時代に、あれが復活したらプランに大幅な変更を加えないと―――――)

 そこまで考えたとき、ゼウスの思考が中断する。

 嫌な気配を感じる。

 禍々しい感じはしない。ただ、自分の危機感覚が強烈に反応している。

「なんだこれは………」

 立ち上がって辺りを見回す。その瞬間、

 巨大な振動がヴァルハラを覆い尽くした。

 あまりの振動に、そのまま椅子に倒れこんでしまう。

「何だこれは!? 一体―――――」

 そこで、ゼウスは新たな反応に気付く。自分に迫っている危機と、その正体が明確になったとき、彼の口の中から唾液が消え去った。

「まさか、奴ら初めからアレを―――――」

 そこまで言って、

 彼の言葉は本人と共に、地面から噴出した膨大な量のマナの光に飲み込まれた。




 瓦礫が散らばる悪路を、達也たち一〇人は走っていた。

 目指す場所は、謎の光の柱が立ち上るヴァルハラだ。

 一応彼らには瞬間移動や高速移動、果ては空という交通手段がいくらでもあるのだが、それは今回は使えなかった。

 雄介のスカイ・クロラは一度に飛べる距離は決まっており、また運べる定員にも限りがある。ここにいる一〇人全員を一度に転送することは出来ない。

 美咲の能力、ギルティ・ギアも、一度にこれだけの人数を一度に自分の能力の『範囲』に入れるのは難しい。

 最後に、天界人が持っている翼を期待したのだが、これも駄目だった。

 今ここには疲弊しきったエニキスがいる。彼の今の状態では飛ぶことは出来ないし、達也たちのように運んでもらうにも、風が体にさわるらしくそれも不可能だった。今はこの中で一番体力のあるラグナに肩を貸してもらい、何とか走っている状態だ。

 全員がその場で待つことを提案したが、彼は断固としてこれを拒否した。あの光の柱の正体がマナのかたまりなのならば、一番それに関しての知識がある自分が行くと言い張ったからだ。

 なので、今は全員が一塊ひとかたまりになって壊れた街中を全力疾走している。

 しかしやはりというか、先頭を走るのは十二使徒のメンバーだ。気をつけていないと足を引っ掛けて転ぶかもしれないようなガタガタの道を、まるで苦にもせず全力疾走する。

「くそっ!! 一体何なんだアレは。まだガンガンに光ってやがるぜ」

 疲労困憊ひろうこんぱいな顔をしたエニキスを引きずるように走りながら、ラグナが忌々しそうに言う。

「分からんさ。だからこんなにも走ってるんだろう!」

 もう何回目になるかも分からないその言葉に、ファーナと並んで先頭を走っていたユーリが面倒くさそうに返す。

 会話はそれ以上続かず、また全員が走ることに集中する。聞こえてくるのは、光の柱の方から聞こえてくる空気を震わせる音と、全員の荒い呼吸の音しか聞こえない。

 それから二分とかからないうちに、彼らはヴァルハラの近くの広場につく。

「これは……」

 しかし、よそうもしていなかった光景に、達也は言葉を失った。

 何も壊れていない・・・・・・・・

 さっきあれほどの風圧で壊れた街をさらに荒らし回った原因である光の柱はすぐ目の前にある。

 しかし、その発生源となっているヴァルハラにはどこにも壊れた箇所が見当たらない。ただ煌々こうこうとサーチライトのように光の柱を天へと立てている。

「どうなってる……」

 達也と同じことを思っていたのだろう、疲労から若干回復してきたエニキスが言う。達也やエニキスだけではない。今言ったことは恐らく全員が思っていることだろう。

 だが、それに答えられるものはいなかった。

「とにかく、まずはこれに害がないかを調べて、それから中へ入ろう」

 やっと自分の足で立つことが出来るようになったエニキスは、ラグナから離れ、光の柱へと向かう。

 その瞬間、

 パァンッ!! と。

 いきなり光の柱が、青い霧状に四散した。

 その光景に、全員の体が強張る。だが、どうやら光が消えただけであるらしく、さっきのような衝撃波は襲ってこない。

 ホッと息を吐きながら、達也は隣にいたシンへ視線を移す。

 しかし、シンは達也が自分を診ていることに気付いていない。ただ、驚愕の表情をしたまま光が消えた辺りの凝視している。よく見てみると、他の天界人たちも皆一様にその場所を、同じ驚愕の表情で見ている。

 何事かと思い、達也もそこへ視線を向けた。

 そこには、明らか異常なものが浮かんでいた。

 だ。

 樹齢何千年と言われても信じてしまうような、大きく巨大な樹が、そこには浮かんでいた。

 遠目から見たこちらからでも数百メートルはあると分かる枝葉が傘のように広がり、無理矢理地面から引っこ抜かれたのか、根っこの部分から土がボロボロと落ちている。

「馬鹿な……なんでアレが……」

 一番前でその光景を眺めていたユーリが、絶望に染まったような口調でそう呟いた。

 達也は、恐る恐るアレが何なのか聞こうと口を開こうとしたところで、シンが呟いた。

「知恵の樹……」

 その言葉に、達也は聞き覚えがあった。

 あれは、確かゴブリンのアイールの能力に閉じ込められたときに、今のようにシンの口から聞いた。天界にあるその樹は、そこになる実を食べたものは能力に目覚めるとも。

 その神秘の力を持つといわれる樹は、今はヴァルハラの数百メートル上空に浮遊していた。十二使徒は皆一様にそれを眺め、歯を食いしばっている。

「誰がアレの封印を解いた!! あれは地下の最下層に封印されているはずだろう! 警備についてる龍巣の守人ビッカー・ナイツは何をしている!!」

 ユーリは今の現状に本気で怒り、える。

 そのとき、丁度樹が浮かんでいる所の真下、ヴァルハラの中央部分で巨大な爆発が起きた。

 全員が、そちらのほうに集中する。そのあとから聞こえてくる金属音や小さな爆発などから察するに、どうやら誰かが戦っているらしい。

 まるでその音が合図だったかのように、達也たちは全員が顔を見合わせ、何も言わずにその場に走った。

(何が……)

 草薙達也は走りながら、思う。

(一体、この場所で何が起きようとしてるんだ……)

 彼は考える。

 だが、答えが出る前に、彼等は目的の場所に辿り着いた。




 魔界。

 その名を聞けば誰もが年中薄暗く、重い空気が漂った悪の巣窟そうくつといったイメージを浮かべるだろう。だが、実際にそんなことはなく、そこは人界となんら変わらず、朝は明るければ澄んだ空気の漂う森や山もある。

 ただ単に、魔界人や天界人というのはそこに住む人々のマナの種類によってそう区別されているだけであり、魔界にも善人と悪人はいるし警察組織のようなものだってあるのだ。

 その魔界の中心部にそびえる巨大な建造物・パルミュラ。

 大きさは天界のヴァルハラとさほど変わらない広さを持つこの建物もまた、人類の創世記に建てられた建造物であり、外観は歴史の固まりのようだが、ここもヴァルハラと同じく中は近代的に改装されている。

 そんな昼時のパルミュラの廊下を、二人の人影が歩いている。

 一人は長い金髪を乱暴に伸ばした、地肌にチョッキをような服を着た見るからにズボラそうな筋肉質の男。その少し前を歩いているのは、その男とは対象に、執事のような燕尾服えんびふくを着て短い髪を綺麗に整えた清潔そうな男。

 グリウス=ベルフェゴール=スティモ。

 バーニィ=サタン=イングディー。

 魔界で『魔王』の名を持つ二人の男は、天界での作戦の報告のためにある場所に向かっている最中だ。

「腹減ったー、ダルいー、寝たいー。なんとかしろバーニィ」

 気だるそうな顔をしながら、金髪筋肉男、グリウスは前を歩くバーニィにちょっかいを出す。しかしバーニィのほうは慣れた感じで、

「知りません。昼食は報告が終わった後にしなさい」

 淡々とした口調でそう返す。

「えー!? もう昼時一時間近く過ぎてるんだぜ。報告なんて後でいいじゃねぇか」

「そういう訳にはいきません。作戦が終われば報告をするのは当たり前です。それを終了してすぐにおこなうのも当たり前です。あなたはそんな当たり前のことさえも出来ないんですか」

「いいじゃん、食堂でなんかおごってやるからさ」

「昼食でしたら一人でどうぞ。私は時間が過ぎているので結構です。生活リズムと体内時計を狂わせたくないので」

 バーニィは機械のような淡々とした口調を崩さずに言葉を返す。彼は見た目どおりの杓子定規しゃくしじょうぎな性格で、生活面も健康にきちんと気を使った最善の事を行っている。しかも彼の場合、体内時計の狂いは『能力』の使用に影響が出るため、事睡眠や食事の時間には特に気を使っている。

「いいじゃねぇかよー」

「駄目です」

 グリウスはさらに何かを話しかけてきたが、バーニィはそれ以上は時間の無駄だと無視して歩く速度を速める。

(さて……)

 彼はふところに手を入れ、アンティークな雰囲気を放つ銀色の懐中時計を取り出し時刻を確認する。その几帳面さから同僚(もちろん身分や地位的に上か同等のものだけ)に『チタンあたま』と言われるだけのことはある。

(現在一三時四九分。約二分後の一三時五一分に事後報告。所要時間や質問をあわせて大体七分から八分の時間を所要……)

「なあ、バーニィ」

(昼食の時間はカットしてサプリで済ませ、自室に戻り、約一四時に書類整理など諸々の雑務開始。その一時間後、一五時にあるじのティータイム……)

「メーシ。行こうぜめーし」

 さっきから後ろの方で妙にやかましくて耳障りで腹立たしい野人の声が飛んでくるが、バーニィは気にしないようにはげみ、予定にシュミレートを続ける。

(……一六時より………)

「なーあ、聞いてる? おい、もしもし。もすぃもすぃ?」

(一六時三〇分………)

「お―――――」

 再び口を開きかけた瞬間、グリウスの出かかった言葉が不意に途切れ、彼の視界が高速でブレる。左目の視界が真っ暗であるため、どうやら顔に何かが張り付いているらしい。

 そんなことを暢気のんきに考えていた彼の頭を、それを掴んでいるバーニィが思い切り廊下の壁面に叩きつけた。

 ズドンッ!! と、彼らを中心に廊下に振動が走り、改装の手があまり加えられていないその天井からパラパラとほこりが舞い落ちる。

「……やかましいんですよ、貴方あなたは」

 バーニィは壁面にグリウスの頭を押し付けたまま、ゆっくりとしたいつもの口調で喋る。が、その表情は明らかに怒っているそれだった。

 グリウスの頭部が当たった壁面は、そこを中心に亀裂が波状に広がり、粉末化した壁の破片が煙のようにただよう。

「まったくギャースカギャースカ、カラスのほうがまだ静かなぐらいです」

 衝撃でずれた眼鏡をかけ直しながら、バーニィは心底イライラしながらぼやく。

「しかたねぇじゃん。それが俺だもん」

 そんな声が、もうもうと立ち込める粉塵の中から聞こえてきた。

 粉塵が晴れたそこには、壁に出来たメートル級のクレーターの中心に頭を押し付けられたグリウスがいた。その頭部にはどこを探しても傷は見られない。まるでダメージを全て壁に押し付けたかのようだった。

 グリウスは自分の頭を掴んでいるバーニィの腕を放し、頭についた埃をバサバサと落とす。

「さっすが、憤怒の象徴サタンの名を冠してるってか? ったく、ダメでしょうがバーニィちゃんよぉ。俺を殺したきゃ物理攻撃じゃ意味ないのよ」

「知っていますよ。だからいいんじゃないですか。本気で殴っても死なずにストレス解消が出来て」

「ひっでぇなお前!? ギャハハハハハ!!」

 グリウスは今さっき自分を壁にめり込ませた男を指差しながら怒るでもなく腹を抱えて笑う。バーニィは少し気が晴れたのか、再び廊下を歩き出した。

「おい。この壁どうすんのよ?」

「あとで係りの者に直させます。修理費はあなたの手当てから引いておきますから」

「おい、洒落んなんねぇことすんなよ! お前がやったんだろこれ!!」

「原因はあなたです」

「くっ……。よくもまぁいけしゃあしゃあと人に責任全部押し付けられるな……」

 グリウスは固めた拳をわなわなと震わせて言うが、バーニィは耳を貸さず、ただただ真剣にこれからのスケジュールを脳内でシュミレートしていた。

「なぁ、バーニィよぉ」

「なんです」

 馬鹿を相手にするのは疲れる。本気でそう思いながら返事をしたため、声にその調子が乗ってしまっている。しかしグリウスはそんなことも気にせず―――――あるいは気付かず―――――に、

「いま天界で作戦引き継いでるのは新入りのアイツだろ?」

「ええ、そうですよ」

「アイツさ、何考えてるとお前思う?」

「知りませんよ」

 素っ気無く、バーニィはそう返す。早くこんな意味のない会話を終わらせたいという感じが全開だった。

「意味分かんねぇんだよな、アイツ。なんたって俺等にこの能力をくれ・・・・・・・・・・のかも分かんねぇしよ」

「知りませんよ。私は他人のプライベートに興味はありませんから」

 そんな話をしている内に、二人は目的の場所に着き足を止める。

 豪奢ごうしゃな作りの巨大な扉の前で、バーニィは会話を締めくくるように行った。


「人は皆それぞれですよ。例え、天界人であろうとも・・・・・・・・・、それは同じです」




 まず達也の目に飛び込んできた色はオレンジだった。

 それは夕日のように優しい光ではなく、地面や壁から立ち上る紅蓮の炎の色だった。

 ヴァルハラ中央に位置する中庭は凄惨なまでに荒れ果て、地面はえぐれ、丁寧に手入れされていたであろう芝生や木々は根こそぎ抜かれて倒れ伏し、そこかしこに建物の瓦礫が散らばっていた。

「いったい何が……!!」

 達也が中庭の敷地内に一歩、足を踏み出す。

「!? 危ない!!」

 えっ? と達也が声に振り向くと、その首を思い切りユーリが後ろへ引っ張る。後ろへ顔を向けていたせいもあって寝違えたように達也の首の筋肉が突っ張られたが、次の瞬間、彼が一歩踏み出していた地面からオレンジの火柱が噴出した。

「こかっ!?」

 後ろに引っ張られた勢いで地面に転がった達也は、苦しさと驚きで変な声が出た。

 よく見ると、オレンジ色の柱を形成しているのは火ではなく灼熱色の溶岩だった。まるで水圧カッターのように高圧縮されて噴出すそれは、圧力と高熱、どちらでも人を殺すに足りうる威力があるのが一目で分かる。もしユーリが助けてくれなかったならと思うと達也は寒気がした。

「これは、キニオンの『ブラストハンター』。あいつが戦ってるのか!?」

 ユーリの声を聞き、十二使徒全員の顔色が強張る。達也は痛む首を押さえながらユーリに質問する。

「キニオンって誰?」

「俺たちと同じ十二使徒だよ。序列は十二位、最下位だ。でも、ぶっちゃけ強いぜ」

 ユーリの代わりに、隣で話を聞いていたラグナが答えた。

「能力はバーストハンター。でっかい剣みたいな能力で、何かにブッ刺すと今みたいに溶岩を生成できる」

 ラグナは全員よりも一歩前に出ると、デコピンの要領で前の空間を指で弾いた。

 すると、達也たちがいる場所から中庭中央までの道のりのいたるところから溶岩の柱が噴出した。どうやらあらかじめ能力の剣を地面に刺すことによって、触れたら溶岩になる罠を作っておいたのかもしれない。

「あの馬鹿、必要以上に仕掛けやがって。援護に行くのに時間かかるじゃねぇか」

 本当に忌々しそうに、ラグナは舌打ちする。彼は深く腰を落とし、右拳を体の後ろに隠すようにして構え、大きく息を吸い、

「おーーーーい!! 聞こえるかぁ!!?」

 大声でそう叫ぶ。コイツはこの状況下で何で大声を出すんだ? バカなのか? と全員が思っていると、

「キニオーン。避けろよー!」

 ラグナはそう警告・・し、溜めていた拳を一気に前に突き出した。

「スクライドォ!!」

 ラグナの声と同時に、空間がぜた。

 ギュィガァ!! と空気が混ぜ合わさり、切れ切れになって飛び散った音が響く。これから進むべき進行方向の土は弾け、溶岩の柱が上がる前に『何か』にかき消され吹き飛んでいった。

 数秒して、ラグナの放った一撃の効果が消えていく。地面はえぐれ、最初に駆けつけたときよりも当たりは凄惨な状況になっていた。

「……俺がやったって、じじいにはナイショな」

「分かったよ。早く行こう」

 そうそうにユーリは会話を流し、手で全員を促してラグナが作った『安全な道』を進み出した。

 総面積が東京ドーム四十五個分もあるヴァルハラの中央に位置しているこの中庭はかなり広い。いくら罠を解除して道が出来たといっても、戦いが行われているであろう中央付近まで行くのにはかなり時間がかかる。と思っていたが、そうでもなかった。

 天界十二使徒第八位、ファーナ=バラキエル=ニーニは風の属性の魔術を得意とする魔術師でもある。何でも足の裏に空気の層を造って浮き、走ることで前から来る空気抵抗を逆に推進力に変更して移動速度を速めるという術式を全員に施してくれた。本来ならスペシャリストのエニキスがやろうとしたが、彼はまだ魔力の回復に努めるということで休んでいる。今は自分の足で走れるくらいまでにはなっているがまだまだであるらしい。

 このホバークラフトのような術式を使い、直進すること十五分。さすがにここまでは届かなかったのか、ラグナのスクライドでできた道のえぐれが消えかかってきたくらいのところで、十人は一人の広影を見つける。

 二メートルを超える一目で屈強と分かる体躯に銀色の鎧を纏い、その手には身長と同じくらいの長さもあるクレイモアと呼ばれる形状の大剣が握られていた。

「いたわ。キニオンよ」

 先頭を走っていたファーナが声を上げる。キニオンと呼ばれた鎧の大男は手に持った剣―――確かブラストハンターとか呼ばれていた―――を振り上げ、思い切り地面を打ち据える。そこから溶岩の波が噴出し、一直進に彼の前方へと向かって進んで行き、爆発した。そんな攻撃を繰り返しているせいか、彼の周りの空気は灰で黒くよどんでおり、視界が非常に悪くなっている。そのため、達也たちのいる場所からは彼が誰と戦っているのかよく見えない。

「早く行くぞ。アイツがここまで苦戦するとなると相当の敵だ」

 そう言ってユーリがファーナを抜き、先頭に踊り出る。彼は十二使徒序列二位、この中では圧倒的に強い。切り込み隊長としては打って付けだろう。

 キニオンとの距離は残り十五メートル。ファーナの術式を使っている今なら三秒とかからずにそこまで到着できる。と、戦闘に集中していたせいか、ここに来てようやくキニオンが達也たちの存在に気づいた。そして、叫んだ。

「来るな!! コイツは―――――」


我は秘め事の許し(I B A T K )を請う(A S)


 そんな声が、全員の耳にと届いた。その言葉がノタリコンという詠唱の簡略方法だということよりも、達也たち、正確には達也と雄介とシン。この三人だけは別のことに気が行ってしまっていた。

 男なのか女なのか分か・・・・・・・・・・らない声・・・・に。

「まさか、ガロウ!?」

 その言葉が出るのと同時に、辺りが灰の黒っぽい色から濃い白に埋め尽くされ、何も見えなくなった。

「これは、霧か!?」

 濃霧によって視界が遮られ、達也たちは自分達の位置さえも分からなくなる。

「全員動くな!! 今霧を晴らす!!」

 どこからかは分からないが、そんなエニキスの声が聞こえてくる。

 そして同時に、キニオンの悲鳴が聞こえてきた。

『!!?』

 全員が息をのむ。低く重い悲鳴がどんどん小さくなって、霧に飲まれるように消えていく。

「エニキス、早く霧を!!」

瞳は真実を見つめる(M E S T T)!」

 シンの叫びと、エニキスの詠唱は同時だった。それが終わると同時に、辺りの霧が一瞬で消え去り、視界が戻る。

 そこはもとは綺麗に手入れされ、昼休みなんかは誰かがランチを携えてベンチに座ってのんびりするのどかな場所だったのだろうが、今は所々が溶岩の河で埋め尽くされた地獄へと変貌している。

 そこに、キニオンは立っていた。そしてその前には、黒いローブのフードを被ったもう一つの人影がある。そのフードから覗くのは顔ではなく、人を馬鹿にしたような笑顔の刻まれた仮面だった。

「ガロウ!」

 達也は叫ぶ。だが、ガロウはまるで興味がないかのように彼の方を見なかった。

「キニオン、無事か!」

 エニキスが急いで彼の元に駆け寄る。それに付き添うようにラグナとファーナも走った。キニオンは微動だにせず、ただ眼前のガロウと対峙していた。

「ビビらせんなよお前。マジでヤバいと思ったんだぞ」

 そう言って、ラグナはキニオンのそばまで行って彼の肩に手をかけようとする。

「うぅ……」

 その時、エニキスとファーナはうめき声を聞いた。明らかに人間の声。それを探すのに時間は要らなかった。

 彼等から五メートルほど離れた場所に、誰かが地面の石畳の破片の下敷きになりながら倒れている。その髪はこの場の風景とは対照的な雪を思わせるほど白く、それが誰だか、二人は一瞬で分かった。

「ニクスッ!!」

「う…ぅあ……キニ、オン……」

 ニクスは泥と灰にまみれた顔を上げる。まるで泣きじゃくったようにくしゃくしゃになったその顔を、うめくよりもしゃくりあげるように呼吸をしながら。

「ああ…あぅ……」

「どうした!?」

 ラグナが異変に気付き、後ろを振り向く。

 その手はすでに、キニオンの右肩に触れていた。

「キニオーーーーーン!!」

 ニクスが叫んだ。涙を流しながら。

 グチュリ、と、音が響いた。

 まるでんだニキビを潰したようなその音と共に、

 キニオンの体が、崩れていった。

「は………?」

 ほんの数センチの近さにいるラグナが、何が起こったか分からないというような声を上げる。キニオンの体は砂のオブジェを上から潰すように、グズグズと崩れていく。

 まるで水を吸ったスポンジを握りつぶしたように血が溢れ、彼の衣服を、地面を、水浸しにしていく。

 そして、天界十二使徒、キニオンだったものは・・・・・・彼の着ていた鎧やブーツと共に、砂袋のような鈍い音を立てて地面に倒れた。

「お、れを……庇って、あい…つは……」

 泣きながら、許しを請うようにそう言ったニクスの言葉を聞くものはいなかった。その声があまりに小さく、他のものに聞こえなかったということと、

 聞こえるほど近くにいた二人が、一直線にガロウの下に向かったためだった。

「「ううぅうああああああああああああ!!」」

「!? お前ら!!」

 ラグナの声も無視し、エニキスは両手に炎で生み出したつるぎを、ファーナは両手にクナイを構えて彼の脇を通り抜ける。

 もう何も聞こえてはいない。彼等を制止できるものは何もない。彼等は止まる必要はない。止まってはいけない。止まることは、あんな無残に殺された仲間への冒涜だといわんばかりに、二人は速度を上げ、ガロウの下へ走る。

 二人とガロウの距離は僅か三メートル。

 そこで初めて攻撃を仕掛けたのはファーナだった。

 両手の指の間に猛獣の爪のように挟んだクナイ六本を一気に投げつける。どれほどの力で投げたのか、クナイはほとんど光の残像しか見るものに姿を捉えさせない。

 が、ガロウはそれを上空に飛び上がることで回避する。六本のクナイは虚空を切り、そのまま地面に刺さると直径二メートルほどのクレーターが生まれる。

 ガロウはファーナを下に見ながら、攻撃に移ろうとローブの中からレイピアを取り出した。が、そんな彼の上空に異様な熱気が出現する。

 顔を上げると、そこには一本の炎のつるぎが迫ってきていた。その先には、ファーナの後ろで火力を操作し攻撃のリーチを延ばしたエニキスがいた。

「あああぁぁああああ!!」

 怒号を上げ、エニキスは炎の剣を振り下ろす。が、

 次の瞬間、ガロウは虚空へ姿を消した。

「「なっ!?」」

 二人同時に辺りを見回し、二人は急いで一箇所に集まり、背中を合わせて死角を消そうとする。トンっと、驚くほど速い速度だったにもかかわらず、二人の背中に走った感触はとても柔らかいものだった。

「違う!!離れろ!!」

 ラグナが警告したときにはすでに遅かった。

 二人の胸部から、背後から突き刺さったレイピアが顔を覗かせていた。

「なぁ…ぐ……!!」

「な…んで……」

 何が起こったのか分からず、二人は同時に後ろを見る。自分の背中に走った柔らかい感触は見方の背中ではなく、そのあいだにいつの間にかいたガロウのものだというのが分かったところで、二人の腹部を貫いたレイピアは開いた穴から再び向こうに引っ込んだ。支えを失った二人はそのまま倒れ、地面に積もった灰が舞い上がった。

「クソったれぇええ!!」

 それを見ていたラグナにも、怒りの火がともる。拳を思い切り後ろに引いて溜め、一気に突き出す。

現の光は幻(T L O T R )想を誘う(S M T F)

 ラグナの拳から『何かが』飛び出し、ガロウに激突する。が、ガロウの体がブレる・・・だけで、攻撃はそのまま通り過ぎていく。

蜃気楼しんきろうっ!?」

 ラグナが驚き上を見ると、レイピアを構えたガロウがすでに眼前に迫ってきていた。ニヤついた表情の仮面が、まるで生きているような錯覚を与えられる。

 ラグナはそれを見据え、一言言った。

「なに人小バカにしてんだクソ野郎!!」

 ガロウは答えず、ただレイピアを突き出してラグナの頭部を抉りにかかる。

 だが、それはラグナの後ろから飛んできた弾丸によって阻止された。

「!!!?」

 咄嗟に身を翻し、どうやったのか空中で体の位置を変えて弾丸を避け、ガロウは地面に着地する。弾丸が飛んできた方角には、機関銃デッド・ニードルを構えたペリーヌがいた。

 ガロウがそれに気を取られた僅かな瞬間を狙い、ラグナは地面に膝をついた形のガロウの顔面を思い切り蹴りつけた。

「ダボがぁ!! 俺等を騙したかったら火属性の魔術は使うんじゃなかったな!! ペリーヌ、ナイス!!」

 ラグナはペリーヌに親指を立てて見せ、ペリーヌは照れくさそうに早く前を見ろと無言で促した。

「覚悟できたんだろぉな、マヌケ。早いとこ終わらせて、二人の手当てをしなくちゃならねぇんだよ」

 ラグナは顔面を蹴られて朦朧としているガロウに向かい、止めを刺そうと構える。

 ゴポリッ、と。

 濁った水が泡立ったような音が、構えようと踏ん張ったラグナの右足から聞こえた。それと同時に彼の足に鈍い痛みが走る。

 見ると、足に何かが刺さっていた。足の裏から貫通しているそれは、どう見ても今刺さったものではない。よく見ると、傷口の血が若干泡立っている。

「ふひ」

 そこで、今まで呪文の詠唱以外で口を開かなかったガロウが口を開いた。付けている仮面と同じ、ふざけたような笑い声が口から漏れる。

「まさか…さっき俺が蹴ったときに……」

 笑い声を漏らしたガロウの意思を読み、ラグナがそう告げる。だが、ガロウは楽しそうに、

「マヌケは君だったようだね。刺さってるものをよく見てごらん」

 言われ、ラグナはもう一度よく見る。今足を貫通して顔を覗かせている刃の大きさから察するに、恐らく二十五から三十センチの刃渡りがある。だがそれ以前に、彼はそれを見たことがある。ずっと前から知っているが、新しい記憶の中ではついさっき。そう、

 ついさっきファーナが投げたクナイだった。

「発動するよ」

 ガロウがそう告げた途端、足の傷口から何十という泡が立ち、破裂すると同時に、そこから複数の足が現れた。

「がああぁあああああ!!」

 増殖した足が痛みを発する。体の泡立ちは傷口からどんどん彼の右足を上り、通った後からどんどんその部位を増殖させていく。

「ペリィイイイイヌ!!」

 唖然としているペリーヌが我に返り、ラグナの元に駆け寄っていく。

「速く焼火魔術をぉ!!」

「分かっている!」

 傷はどんどん広がり、もうラグナの太腿ふとももの辺りにまで上ってきていた。ペリーヌは急いで駆け寄ると、そこ目掛けて炎を纏った自分の手のひらを思い切り押し付ける。ジュウッ!! と、肉の焦げた臭いが辺りに広がり、達也たちの方にまで漂ってきた。

 それと同時に、彼の足の増殖は止まる。

「これで一先ひとまずは大丈夫だ」

「いいや……まだだ」

 そう言うと、ラグナは思い切り腕を振り上げ、

 自分の右足を、手刀で切断した。

「ラグナ!!」

「あの程度じゃすぐに復活する。それより、辺りを警戒し―――――」

 言う前に、彼の眼前にレイピアの刃先が突きつけられる。真新しい血液が滴り、彼の顔を濡らす。その血が滴る先には、ペリーヌの真紅のメイド服が見えた。いや、正確には彼女自身の血で赤く濡れた白のエプロン、というのが正しかった。

「が……は……」

「ペリィイイヌ!!」

 引き抜かれたと同時に、ペリーヌの体がラグナ目掛けて倒れてくる。ガロウがその陰に隠れ、今度はラグナごと息の根を止めようとレイピアを振りかぶる。

「あああぁああああああああ!!」

 ラグナはただ無心で拳を突き出した。何の溜めもないその拳から出た能力は何とも小さかったが、それは彼が普段本気で打ち出すものと比べれば、の話だ。放たれた『何か』は血まみれのレイピアを空高くに打ち上げる。

「ああああああああぁぁあああ!!」

 ラグナは左腕で思い切り地面を押す。彼の強固な筋力の反動で体は浮き、そのままペリーヌを抱えると、今度は本気で拳を突き出した。

「スクライドォ!!」

 ゴオォオッ!! と、拳から飛び出した『何か』はガロウに辺る。しかしそれでは生ぬるいと、ラグナは突き出した腕を思い切り払う。どれと同時にガロウに接している『何か』が破裂した。

 一気に空気が押し出され、近距離にいたラグナもペリーヌもろとも吹き飛ばされた。

「がぁ!! がっ!! くぅっ!!」

 まるで赤ん坊に放られたおもちゃのように二度、三度、とバウンドしてようやく止まる。その間でも、彼はペリーヌをしっかりと抱えていた。

「やった……」

 ペリーヌを傍らに寝かせ、ゆっくりと息を吐き、安堵する。

 そんな彼の腹部に、深々とレイピアが突き立てられた。

「がぁ……!!」

 刺されると同時に、今まで耐えてきた痛みが決壊したダムの水のように溢れ、一瞬でラグナの神経が悲鳴を上げる。

 今にも堕ちてしまいそうな意識の中で彼が見たのは、ゆらゆらと陽炎かげろうのようなものを纏ったガロウの姿だった。

「しんき…ろう……」

 そんな意味のない言葉を口にすることしか出来ず、ラグナの意識は真っ暗な闇に堕ちていく。最初に彼との戦闘で使った蜃気楼の術式を見破れなかったことを後悔しながら。

「ラグナァ!! おぉおおおおお!!」

 ユーリが吼え、一気にガロウとの距離を縮める。その手には、剣の代わりにもなる彼の能力の弓が握られていた。

「死ねぇええええええええ!!」

 ユーリは剣技けんぎをあまり使用しない。それは彼が遠距離戦を主体として戦うのもあるが、もう一つ大きな理由がある。

 誰も彼を近距離戦に至らせられるものがいないからだ。

 使うとしたら、彼と武道の試合のように向き合った状態から戦闘を開始しない限り彼に剣技を使わせることは叶わない。

 しかし今は状況が違った。人は不思議なもので、怒ると絶対に『自分の手で』という感情に支配される。彼が自分の得意分野を捨ててまで近距離戦を持ちかけたのはこういった訳があった。

 振り上げることはせず、最小限、最短ルートを通ってやいばはガロウへと向かう。狙っているのは腹部から喉にかけてのポイント全てだ。

 ズンっ!! と。刃が突き刺さる。ガロウの腹部の辺りから血が滲み出て黒いローブにもはっきりと分かるほど出血している。

「くたばれぞくがぁ!!」

 ユーリはそのまま突き刺さった刃を一八〇度回転させた。ゴリゴリミチッと、肉と骨が潰れてちぎれる音が鳴り響く。だが、

「残念」

 一言、ガロウがそう言った。本当になんでもないかのように。

「っが!!」

 鈍い音が、ユーリの腹部から体中に響いた。

 目線を下げれば、そこには自分の腹筋と背筋を破って貫通しているレイピアが見える。

「ぁがあっ!! ふっ!!」

 しかしそれでもユーリの意識が飛ばなかったのは、彼が天界でも五指に入るレベルの実力者である意地があったからだろう。そのままガロウの体に蹴りを入れ、自らの武器と相手の武器を同時に引き抜き後方に転がりながら距離をとる。そのせいで傷口が広がり、血がさらに溢れてくる。

「かっ!!」

「ユーリ!!」

 シンが慌てて駆け寄り、フラフラと揺れる背中を支える。シンだけではない。達也も雄介も、美咲も早苗も駆け寄った。

「酷い怪我……」

 傷口を押さえる手伝いをしながら美咲が呟く。トンネルのように向こう側が見えてしまうその傷は、出血というより放血とでも言った方がいいくらいに血が止めどなく吹き出る。

「でも、アイツも似たようなダメージを負ってるさ……五分五分だ。シン、後は任せる」

「任せろ」

 シンはユーリを他の四人に任せ、立ち上がった。

 その顔は、今まで四人が、達也すらも見たこともない顔。その顔の険しさは、彼がこの世界最強の一角を担っていることを納得させるに足るものだった。

 そこには静かな怒りがある。凍るような殺意がある。

 もはやガロウには尋問や拷問などといった過程は踏まれない。ただこの場での極刑しかなかった。

「準備いいか? 下手なことすれば一瞬で殺す」

「しなかったら」

 シンは考えるように一呼吸おき、答えた。

「楽に一瞬で殺してやる」

 シンはナイフを出現させ、構える。

「出来るかな、どっちも」

「黙れよゲスが」

 タンっと。軽い音が響いた。

 それだけでシンの体は、一瞬でガロウの懐に飛び込んでいた。

「っ!?」

 慌ててガロウは応戦しようとするが、

「く……!」

 さっきユーリに刺された箇所を押さえ込み、体勢が崩れる。

「終わりだ!!」

 突き出したナイフがガロウの腹部に刺さる。グチュリと鈍い音と感触がシンの手から伝わってきた。

 だが、

「ざぁあんねぇえん!!」

 いきなり、ガロウが叫んだ。その声はまるで二死満塁のチャンスでホームランを打ったバッターのような嬉しさが秘められていた。

 シンが異変を感じてすぐに二手目を打とうとするが、それをガロウは左手を手首ごと押さえて阻止する。そして、いつの間にか左手に持ち替えていたレイピアを構え、シンの右胸に突き立てた。

「っ――――――――!!」

 溶かした鉛を流し込まれた錯覚がするほどの熱が、シンの胸全体に広がる。だが、肺が貫かれたせいで叫び声を上げることすら出来ない。

「シンっ!!」

 変わりに、達也たちの叫び声が聞こえてきた。恐らく彼等はこの状況に見かねて飛び出してくる。

 それだけは避けねばと、シンはガロウに止めを刺すべく、右手に握ったナイフを思い切り上へ向かって押し上げる。

「がっ、がぁああああああああ!!」

 肺の中に残った空気を全て吐き出すほどの声をあげ、切り上げたナイフは、ユーリが突き刺した傷口を通り、鎖骨の辺りから流れに任せ、滑る様に飛び出した。

「こ……れで……」

「終わらないよ」

 ガロウは至って平気な声を出して、自分のローブの端をめくり上げた。

 そこにあったのは、人間の足だ。ユーリやシンが突き刺したと思っていたものは、タコやイカの足のように複数連なった足だった。

 ラグナの切り落とした足だった。

「ラグナの……足……!?」

「さっき拾っておいたんだ。思ったとおり、いや、予想以上に役立ってくれた」

 レイピアが胸から引き抜かれた。ジャリジャリと砂を噛んだ様な音が聞こえたが、シンの耳には、もはや聞こえていなかった。

 彼の耳には、最後に自分の体が倒れた、鈍い音だけが聞こえていた。

「これで、十二使徒御一行はめでたくゲームオーバーだ」

 脇の下で固定していたラグナの足を傍らに放り捨て、ラグナはコキコキと首を鳴らす。

「あとは……」

 そう言ってレイピアを構えなおし、

「残りのゴミを片付けるか」

 彼は疲れたように息を吐く。

 その後ろでは、高速移動で背後に回った美咲が、トンファーを握り締めて今にも殴りかかる体勢をとっていた。

「くたばりやがれぇ!!」

 握り締められたトンファーが発射される。風切り音が尋常ではなく、風圧も異常なその一撃を、ガロウは首を傾げるだけで簡単に避けた。

「そのまま首でも折れなさい」

「っ!?」

 彼女の言葉に、ガロウは一瞬で自分の体の神経を総動員させる。視神経、聴神経、嗅神経、全ての五感を総動員させて異変を調べ上げる。

 そして、最初に異変を捉えたのは視神経、そしてその次に触神経が不穏な風の動きを感じる。自分の頭上に陰が下りていることを知り上を向く。

 そこには拳を構えた三好みよし早苗(さなえ)の姿があった。

「はぁ!!」

 空中にいるにもかかわらず腰の入った打撃を空中から振り下ろす。重力に引かれる拳をすんでの所で交わす。彼女の拳が当たっただけで、地形が変わるんじゃないかと思うくらいに地面が揺れ、歪んでへこむ。ゆうに五メートル近いクレーターを作った拳の効果範囲から逃げると、今度は背中に直感的に異変を感じる。

 ほとんど本能的に右に避けると、そこにナイフが振り下ろされた。

 草薙くさなぎ達也がそこにいた。

「ぢぃっ!!」

 舌打ちをし、一旦引こうとする彼の背中に何かがぶつかる。固い感触がピンポイントで二個、背中に押し付けられていた。

「バァーン」

 その声、坪井つぼい雄介(ゆうすけ)の声を聞いて、何も考えずに上に飛び上がった。雄介はすぐに両手に握った銃の引き金を一斉に引く。

 すぐにガロウがいた場所に、大量の銃弾が激流のように流れていく。

「ゴミ風情がぁ!!」

「誰が!!」

 その言葉の先には美咲がいた。彼女は弾丸の進行方向に立ち、そして、

「くらいなさい!!」

 自分のトンファーで、それらを全てガロウのいる方向に弾いた。

「ぬぅあああ!!」

 間髪入れない連係にほとんど戦略的なことは無しに本能で逃げ回ったのがあだになった。空中ではどうやってもあの弾丸の壁からは逃れられない。体を捻るが、それでも三発、膝、脇腹、腕と命中する。

「がぁあああ!!」

 そして叫びと同時に、

「「「「消えたっ!!?」」」」

 一瞬だった。恐らくその場にいた四人とも、まばたきほどしか目を離していなかったはずなのに、いつの間にかガロウは消えていた。

「どこに―――――」

 そう言って、辺りを見回した瞬間、

「がぁああああ!!」

 直後に雄介の悲鳴が響く。後ろを振り返ると、背中を切られた雄介がその場に倒れていた。それ以外はまるで異変がない。それが三人の恐怖を増長させた。

 そして、今度はいつの間にか早苗と美咲のあいだに入るようにガロウはそこにいた。

「なめんな!!」

「はぁ!!」

 二人は同時にガロウに向かって拳を放つ。

 だが、ガロウはまるで興味がないかのように二人のあいだから達也の元に向かおうとする。

 二人の拳が空を切り、お互いに眼前に拳を向け合うはめになった。

「無視してんじゃないわよ!!」

 美咲はすぐに背中を見せるガロウの方に向き直り、攻撃を加えようと走る、

 ことができなかった。

 いきなり彼女はバランスを崩して倒れてしまう。ドサッという音がなぜか二度聞こえた。

「痛っ!!」

 そして、太腿の辺りから走る激痛が、彼女に起こった異変の正体を教えてくれた。


 脚が無かった。


 左脚が、太腿の中間辺りから存在せず、代わりに地面に転がっていた。

「……………………………………え?」

 体中から滝のように汗が吹き出た。思考が混乱する。いろんな感情や感覚が一斉に頭に沸き起こり、処理が追いつかない。頭痛がする。吐き気を催す。

「えっ? 痛い? 嘘、だって。落ちた? 脚? 何で? え………?」

 痛い。

 次第に頭が膨大な情報を処理しきっていく。それと同時に、この感情だけが頭を塗りつぶしていく。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

「あ」

 痛い。

「あ、ぁああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 ようやく、何をされたのかが分かり、美咲は悲鳴を上げた。

 脚を切り落とされた。

「あ、ぐひ、いぃ!!」

 無様だった。

 傷口を必死で押さえ、涙と鼻水まみれになりながら顔をクシャクシャに歪ませ、まるで足と羽を文字通りもがれた虫のように地面を這うその姿は、いつも彼女が仲間の前で見せる姿とは似ても似つかず、とてつもなくかけ離れていて、ただただ無様だった。

 もはや隣で左肩から袈裟懸けさがけに切られて地面に倒れている自分の親友の姿も気につかないほどに、美咲はわめき、ただ地面をのた打ち回る。動きやすくてお気に入りな黄色のキャミソールが血まみれになっても、友達にも褒められた母直伝の薄化粧もクシャクシャにしながら、嗚咽交じりの悲痛な泣き声を上げ続ける。

「テメェ………」

 その姿を見て、草薙達也は奥歯を噛み締めた。

 もはやこの場で無事な者は彼以外にはいない。ガロウはゆっくりと達也に歩み寄っていく。

「これで厄介な連係はできなくなった訳だ。残るは君だけだよ。逃げるなり増援を呼ぶなりしたらどうだい」

 ガロウは鼻で笑うようにのうのうと言うが、どうせそんなことをさせる気は毛頭無い。達也がどちらかに行動を移しても、結局彼はたった一つの行動をとるだけだ。

「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ……」

 しかし、予想に反して達也がとった行動は、第三の選択だった。

「俺は、今まで生きてきて一番ムカついてる。小一の時に近所のクソガキが子猫をイジメてたのを見たとき以来だ」

 達也も、ガロウに向かって一歩を踏む出した。

「何でこんなことが平気でできる」

「できるから、かな」

 サラリと。息を吸って吐くぐらい簡単に言ってのけた。

 両者の距離は五メートル。

「お前らのやりたいことって何なんだよ。こんなことまでしてやり遂げなきゃいけないことって何だよ!」

「僕らがやりたいことはただ一つさ」

 ガロウは告げる。ゆっくりと、子供におとぎ話を聞かせるように。

 両者の距離は三メートル。

「『絶対』を手に入れる。僕らの理念はたったそれだけ。シンプルにそれだけだ」

「ああぁああああああ!!」

 言い終わったと同時に、達也は雄叫びを上げながらガロウに向かって突進した。三メートルの間合いをたったの二歩で埋め、手に持ったナイフを振り下ろす。ガロウななんでもないことのようにレイピアを前に出し、軽々とそれを受け止めた。

「俺にはお前らの考えなんて理解できねぇ!! その『絶対』っていうものがどれほどの価値があって、どれほど魅力的かなんざ見たことも聞いたこともねぇから分からねぇよ!」

 でもな、と置いて。達也は自分の感想をガロウに叩きつけてやった。


それぽっちのことで・・・・・・・・・、誰かを傷つけるテメェらを絶対に許さねぇ!!」


 その言葉に、一瞬、世界中に寒波が押し寄せたのかと錯覚するような寒気が広がった。

 仮面のせいで表情が分からないガロウが、本気の感情をあらわにした瞬間だった。

「黙れ……」

 ポツリと、消えてしまいそうに小さく、怒りに包まれた声がガロウの口から漏れた。

「何も知らないガキが、偉そうに説教をこのオレにたれてんじゃねぇぞ!!」

 その圧倒的な怒りに、思わず達也は気圧けおされそうになる。

 仮面があって本当に良かった、と思わず思ってしまった。恐らくその下にある顔は、怒りでとてつもなく歪んでいるのだろう。それを見ていたら、恐らく自分の怒りは一瞬で消え失せていただろうと、達也は心の中で安堵した。

「ぬぅん!!」

「おあ!?」

 しかし、その安堵のせいで気が緩んでいたのか、つばぜり合いの状態から、徐々に達也は押されていき、ついにレイピアが自分の顔数センチの元まで近づいてきていた。

 必死になってそれを遠ざけようとする達也に、ガロウはあざけるように意外なことを言った。

「安心しろ。お前は殺さない」

 意外な一言に、達也はまた気が緩みかけたが今度は踏みとどまった。しかし思考はそれを追い続ける。こんな惨状を巻き起こした張本人が、なぜ自分だけを生かすのか、それが疑問だった。

 するとガロウは、ローブの中から左手で何かを取り出した。それは透き通るような青色の宝石だった。

「お前はアレの・・・『器』だからな。死なれちゃ困る。だがもっとも、これから起こることでお前が生きているかどうかということは疑問なとこだけどな」

「何を……」

 言っているんだと言いかけて、達也の言葉は遮られた。鳩尾みぞおちに鈍痛が走る。

 見ると、自分の体にガロウの左腕がめり込んでいた。だが血が出ていないところを見ると、どうやら皮膚を突き破ってはいないらしい。

「が……がはぁ………」

「心配するな。どれだけムカつこうが殺さないってのは本当だ」

 バリッ!! と。小さな音が聞こえた。どうやら今度こそ、めり込んだ左手が皮膚を突き破ったらしい。

「あぁあ!! あが!!」

「悪いな。構造上、こうしないと届かない」

 ヌルリと、ウナギを掴んだような感触が皮膚の内側から感じられる。ガロウの左手はそのまま肋骨の間を滑るようにして入り込み、そして、左手に持っていた青色の宝石を、達也の脈動する心臓にめり込ませた。

「――――――――――――!!」

 ドクンッ!! と。

 達也の心臓の脈動が、中庭全体に響き渡った。いや、恐らくその脈動は、エデン全域に広がったかもしれない。確実にいえることだが、確かにこの音が鳴ったときに、それ以外の世界の全ての音は消えていた。

 しかも、それは音というより、耳という器官をずに脳へ、というより魂に直接聞こえてきたような音だった。

 ドクンッ!! ドクンッ!! と。先ほどまでのような音ではないが、確実に近くにいるものならば聞くことができるほどの音量で脈動が聞こえてくる。

 達也は左腕を胸部に埋め込まれた状態でうな垂れるようになって動かない。

「やったぞ……」

 ガロウは仮面の下で、歓喜の表所を浮かばせる。全ては計算のとおり。

 知恵の樹の封印をといたのは当初の作戦通りだったが、その副産物として得られる膨大なマナを結晶化し、『器』に注ぐことは十二使徒を相手にしなくてはいけないため、『出来れば』と言われていた。

 だが、たった一人を殺せば、あとは案の定、彼の計算どおりだった。

 わざと無残な殺し方をして怒りをあおれば簡単に倒せた。

「あとは………」

 左腕を引き抜いて一旦離れようとすると、ジャリっという音が後方で響く。

 見ると、右肺を潰されたシンが意識を取り戻し、這いずりながらも立ち上がろうとしていた。

「お前…いったい何を……」

 瞬間、達也の体が爆発したような量の光に包まれる。

 シンは瞬間的に目を覆い、ガロウは慌てて手を引き抜く。

「何をしたかって? 目覚めさせたのさ」

 達也は倒れない。その足はフラフラと揺れているのに、なぜか地面には倒れない。まるで糸で吊られたマリオネットのようだった。

「何を……」

「何を? 知らないはずが無いだろう、君が」

 嘲るように笑いながら、ガロウはシンを見下ろしながら言う。

「彼の中に眠る『力』だよ。君に最も馴染み深いものだろう」

 そこまで言われて、シンは目を見開く。

「やめろ!! あれは人間が制御できるものじゃない!!」

 シンは肺が潰れていることも忘れて叫ぶが、当然そんなことでガロウが止めるはずが無い。

「仮にも『器』なんだ、できないってことは無いだろう。それにもう遅い!! 胎動は始まった!! 制御できないのならばそれでいい。このクソッたれな世界を壊せ!! 風船割るみたいにパァーン!! となぁ」

 光が強くなる。脈動が大きくなる。やがて、

「―――――クか」

 達也が、口を開いた。しかし彼を見たとき、彼の知人ならこう言ったことだろう。

 あれは、誰なんだ、と。

「ききかカひひハハはキャキャきゃキきキくかかひクかかかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 笑い、声だったのかもしれない。巨大な脈音を上から押しのけるように、耳をつんざく笑いが空間そのものを振動させる。

「ついに目覚めたか……」

 ガロウは歓喜に震え、天を仰ぐように両手を広げる。

「神より分かたれた遺物……」

 ガロウは、そのものの名を言った。仮面の下で涙を流すほどに歓喜しながら。


創造主の御手イマジン―――――」






 八月三日。午後二時三十四分。

 屋外はやかましく蝉が泣き喚く猛暑地獄だが、さすがに今のご時世エアコンが一家に一台あるため、大抵の屋内は涼しいものだ。

 この家も例外なくそうであり、ある部屋の一室では二人の少女が机に教科書やらノートやらを広げ、向かい合うように座っていた。

 木高こだか美樹(みき)

 西田にしだ七瀬(ななせ)

 女の子らしいファンシーな空気が漂う木高邸の美樹の部屋にいながら二人が行っているものは、夏休みの宿題だ。

 二人とも成績自体悪い方ではなくむしろ上の下ほどだが、苦手な教科はあるもので、今は見せ合いっこという形で互いに見てあげているのだ。

 幸いなことに二人の苦手教科は相手の得意教科でもあるため、まさにこのコンビは打って付けだろう。美樹は七瀬の物理を、七瀬は美樹の数学を見てあげている。

「ねぇ、七瀬ちゃん。ここ分かる?」

「ん? これはXの累乗で、こっちのsinαとかけてあげるの……」

「ありがと」

 美樹は七瀬に向けていたノートを戻し、再び自分に向き合うように置く。

「はぁ……」

 と、ここで唐突に美樹がため息を吐く。

「でも、達也も運が無いわよね。せっかくあのバカの勉強も見てあげようと思ったのにどっか行っちゃうなんて。おまけに雄介君もこないんでしょ?」

 コクンッと、七瀬は無言でうなずいた。もうこれで今日五回目になる同じ質問に、いい加減彼女もうんざりしていたのかもしれない。ため息を吐いた時点で少しうんざりした表情になっていたには美樹は気付かなかったらしい。

「まったく。いったいどこにいるのやら。ちょっと暑くなってきたね。エアコンもうちょっと下げようか」

 そう言って美樹はエアコンのリモコンを取り出し、設定温度を下げる。二十六度と地球環境のことを考えた温度で冷房を設定すると、ピシッ、という鋭い音が響いた。

 見ると、彼女の傍らに置かれていた麦茶の入ったコップが割れていた。

「大変……!!」

「ああ、いいよ! 七瀬ちゃん動かないで」

 すぐに立ち上がり部屋から出ると、美樹は急いで台所からふきんをとりに行く。

 台所に行っても人はいない。今日は生憎全員出払っている。

 ふきんをとって階段を上りながら、美樹は胸騒ぎを覚えた。コップがいきなり割れるなんて、不自然なことこの上ない。

 何か不吉の予兆なのではないかと、美樹は少し身震いする。だが、

(こんなのは気の持ちよう。占いと一緒よ。悪いと思えば悪いし、良いと思えば良い)

 普段ニュース番組の占いで一喜一憂する彼女からは出ないと思われていた他人からの受け売り感一〇〇パーセントなセリフが出てくる。

 あるいは、そうでもしてでも忘れたいのかもしれない。

「ゴメンゴメン、濡れなかった?」

 部屋の戸を開けて急いで中に入ると、そこで、彼女の思考がフリーズした。

「……ゴメン、間に合わなかった…」

 七瀬が身を縮こめながら申し訳なさそうに頭を下げた。自分の胸にノートや教科書を抱えながら。

 割れたコップから流れ出た茶色の麦茶は、美樹の夏休みの四分の一をかけて終わりまで後一歩だったノートを、水害によってダメにしてしまっていた。

「あああああああああああ!!」

 絶叫しながら急いでふきんで拭くが、もはや完全に浸透しきった状態でそんなことをしたため、文字が滲んでかすれ、柔らかい感触と共にふきんの動きにあわせてページが剥がれ落ちた。

「……大丈夫?」

「……無理っぽい………」

「……あたしの見せてあげようか」

「……ありがとう」

 また一から書き直す羽目になるのか、ノート一冊もったいないなぁ、とか思いながら、彼女は不吉の予感はこれだったのか、ともう一度大きなため息を吐きつつ、テーブルを拭き始めた。

みなさん、明けましておめでとうございます。ってもう遅すぎか。でも一応新年始まって一発目なので言わせてもらいました。

また更新一ヶ月以上も伸ばしてすみません。その代わり、今回は初の二万文字越えと長いのでそれでお許しください。

それにしても、雪が降るような季節に夏休みの話って…どんだけ遅筆なんだ俺。

というわけで、また次回。

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