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第49話 合宿 その③

夏休みを利用して一週間早苗の家の所有する別荘に旅行に来た超研部員達。しかしその旅行に達也の妹や雄介の姉たちが加わって……。

 今、青春真っ盛りの人に、また、かつて輝かしい青春を送った人にもそうでない人にも質問してみる。

 思春期で、尚且つ青春真っ盛りの男子の頭の中はどうなっているのか、と。

 ズバリッ!単刀直入にオブラートに包まず絶対的にそのままお伝えしよう。


 それはズバリ、エロいことだと。


 思春期の男子の頭の中の約60%は絶対にエロいことで埋め尽くされている。なぜならそういうお年頃だからだ。授業中に国語辞典の『交尾』や『股間』などという言葉に赤のペンで丸をつけた経験がある人はお分かりいただけるのではないだろうか。女の子とのことやエロいことには男子は逆らえない。これは万物の法則だ。

 そしてそれはここにいる凶悪な敵と戦ってきた三人も例外ではない。

 さっきから浜辺で女子が来るのを今か今かと待ち構えている。

「遅いなぁ! 何で女って着替えとか買い物に時間かけるんだろう、なっ!」

 達也はさっきから二十分近く体操をして息が若干切れ気味になっている。

「さぁ、ね。プー…! そういう生き物だからって、プー…! ことしか、プー…! 言えないんじゃない、プー…!」

 雄介は持ってきていたバナナやイルカやシャチの形をした浮き袋を膨らましている。

 二人とも上がりに上がったテンションを平常状態に戻そうと必死に別のことに意識を傾けるが、どうにも心拍数と顔の微妙なにやけ・・・は治まってくれない。

 しかし無理も無かろう。なにせ今回旅行に来ているの女子のうちの二人、美咲と早苗は学校内じゃちょっとした有名人である。美咲の奇行が目立つからとか早苗がお金持ちとかそういう意味での有名ではなく、この場合どこの学校にもある、『可愛い女の子』や『美人』などの本人非公認の番付で有名なのだ。

 早苗はこの番付の『清楚部門』、『大和撫子部門』一位であり(ちなみに二位は二つとも清美)、美咲は『踏まれたい女部門』、『罵られたい女部門』というあまりにも不名誉な感じのする番付一位なのである。

 噂では二人ともに彼氏がいるいないだとか言われているが、そんなこともお構い無しにもてない野郎共に勝手なあざなをつけらるほど黙っていても『美人』な二人の、あまつさえ学校外の水着とあってはテンションボルテージはMAXを示してもおかしくはないだろう。

 二人は遠足前夜の眠れない子供みたいに目を爛々とさせていた。

「まったく。お前らはホントにお子ちゃまだな」

 と、ここで二人のテンションを一時的に急降下させたのは、さっきからパラソルの影に入って体育座りをしているシンだった。

「なに言ってんだ。今回は学校のアイドル的な存在が二人もいるんだぞ。お前は青少年として何か思うところは無いのか」

「別に。美咲と早苗の噂なら俺も聞いたことあるけど、だからといってなんだ? 別に二人とはいつも顔合わせてるし、着てるものが服か水着かって違いだけだろ」

 その台詞に、達也と雄介は若干カチンとくる。なんだ一人だけ大人ぶりやがって。まるで日本人は全員同じ顔に見えるという外国人を見た気がしてどうにも胸くそ悪い気分になる。とそこで、二人はあることに気づく。

 シンはさっきから体育座りをして海をジッと眺めている。だが、のんびりしているという感じは無く、むしろ背筋をピンと伸ばし足を隙間が生まれないくらいぴったりと合わせた窮屈そうな体勢でいる。海を見ている今の顔もそうだが、さっき二人に皮肉を言うときもこちらを見ず、ジッと無表情で海を眺めていた。まるで感情を押し殺すように……。

「「!」」

 と、ここで二人は感づいた。おもむろにシンに近づき、

「おい。ちょっと立てよ」

 と一言。

「えっ!?」

 シンはそれだけのことにギクリとした顔で振り返る。

「な、なんで…」

「いや、なんとなく」

「じゃ、じゃあ別に立つ必要ないだろ」

「「………………………」」

 二人から向けられる冷ややかな視線を、シンは向こうを見て知らんふり。

「立て」

「嫌だ」

「スタンダップ!」

「ノー!」

「でやーーー!!」

「!!? な………!!?」

 ここでついに痺れを切らし、二人でシンを引っ掴んで無理やり立たせようとする。

「ちょっ!! ホントにやめろ! おいっ!!」

「なにが『お前らはまだお子ちゃまだな』だ!! 想像だけでこんな・・・にするお前はどんだけお子ちゃまだコラ!! こん中じゃお前が一番純情じゃねぇか!!」

 シンが背筋を伸ばしていたのは、すでにたっていた部位(・・・・・・・・・・)を縮めるために他ならない。男子としてはただの生理現象なのだが、やはり人前では相当恥ずかしく、シンは逮捕された後も暴れ続ける往生際の悪い凶悪犯みたいに必死に二人の腕を振り払う。

「なーにやってんのよあんた達」

 後ろから聞こえてきた美咲の声に、三人は一時停止ボタンを押したのかのようにピタリと止まる。

 振り向くと、まさに絶世の『水着美人』達がそこに立っていた。

 美咲は青地に白のハイビスカスの模様が入ったビキニ。早苗は黄緑のワンピース水着。その上に日焼けを抑えるための薄いパーカーを着ていたが、そこからこぼれる胸のラインがなんとも色っぽい。二人はまさに太陽のように眩しく輝いているように見えた。

「フフン。どうよ、学校の美人ランキング入賞者の水着姿は」

 美咲は頭に手を回し、体をくねらせてセクシーポーズをとる。

「……………えっ!? あ、はい! すっごい似合ってます!!」

 あまりの綺麗さにしばらく半放心状態だった達也はやっと戻ってくる。他の二人はまだ帰ってきてないので、一発蹴りを入れてやるとすぐに『はっ!』 と目を覚ます。

「後の人たちもすぐ来ると思いますので、しばらく待ってましょうか」

「すいませーーん! 遅れましたーーー!」

 早苗が言ったそばから残りの六人のうち二人がやってくる。

「おっ、来たわね」

 手を振って別荘方向から走ってきたのは美樹と七瀬だった。

 七瀬は白のワンピースに薄い黄緑色のパレオを装着していた。細くラインがしなやかな体にまさにぴったりだった。

 美樹は赤とオレンジの夕日を連想させるような色のセパレーツ水着だ。

 その姿に、達也と雄介はなぜか顔を紅潮させ固まる。シンだけが今だ早苗の胸に目をちらつかせている。

「どう……かな………」

 おずおずと、七瀬が固まっている雄介に感想を聞く。後ろ手に手を組むその姿は、オタクそっち方面の雄介にはとてつもなく心に響く一撃で、心臓が口から飛び出るのではなく発射されるほど鼓動が早まる。

「ええ……と………、つごくにぁってるとおもうにょ………」

 ドキドキしすぎて滑舌も音の高低もバラバラな宇宙人みたいな声で感想を言い、その恥ずかしさで雄介の顔がますます赤くなった。雄介のそんな姿に、七瀬はちょっと顔を赤くしてクスクスと笑う。

「ど…どう? 似合って、る?」

 美樹も若干頬を赤らめて達也の前に立つ。

「お、おう。似合ってるんじゃない、か? うん!」

 達也はなぜか、美樹の顔を直視できなくなってそっぽを向いてしまった。そこでたまたま、顔を向けた先には早苗の姿。そして視線はまるで食虫植物に引き寄せられる虫のように宙を泳ぎ、胸へと行った。そのボリュームはシンを完全に釘付けにするほどである。そして、これもまたたまたま視線を戻した先にちょうど美樹の胸があった。二つの適切なたとえを言うならば、野球ボールとソフトボールが一番適切で正しいことだろう。そして、そんな理不尽な比較に達也は、

「………ふ……………………」

 たった一言。まるで鏡に映る自分の姿を敵と勘違いし戦っている猫を見るかのような哀れみがこもった笑いが口からはみ出る。そして達也の目線を追い、その笑いの意味を理解した美樹は、

「この馬鹿ーーーーーー!!」

 眼前にいる薄情な幼馴染の腹に回転の決まった綺麗なボディーブローを決め、さらにその殴った拳を返し、うずくまって落ちてきた顔にアッパーカットを決める。

「ぶふぇをいっ!!!」

 全てにおいて完璧だったダブルパンチは凄まじいものであり、一発目で意識をくらませ、二発目で完璧に達也の意識を刈り取っていた。達也はそのままグラリと前に倒れる。

「おおっと!! 危ない! 大丈夫、達也君? 大丈夫!?」

 間一髪、達也が日光に焼かれて熱せられた砂浜と文字通り熱烈なキスをする前に雄介とシンが二人で支える。達也はだらしなく白目をむいて完璧にKO状態だ。

「そんなこと言ったって勝てるはず無いじゃなーーーーーい!! どうせ小さいですよーーーーーー!!」

 美樹はワーン! と泣きぐしゃりながら、雄介が膨らませた浮き輪を掴んで海まで走っていった。

「達也君? 達也君!!」

 なんど呼んでも頬を叩いても達也は返事をせず、しまいにはもういいやとそのままパラソル下に放置されることに。二人はどうしたかというとそのまま海へ直行する。

「いや~、青春よね~」

「ですね~」

 そんな彼らを見て、美咲と早苗はまるで四人のお母さんのようにそう呟いた。


 その後、KOから十分くらい経って達也も復帰し、全員が楽しい時間を過ごした。

 美樹は水泳があまり得意ではないという七瀬の手を引いて一緒に泳いだり、美咲は達也妹と浜辺で遊び、男三人は元気の塊のように海で競泳をやったり、そして早苗はそんな全員の姿をパラソルの下で眺めていた。途中、雄介が浮き輪をつけたまま波でひっくり返り、犬神家の状態になるというハプニングが合ったものの、それでも全員が笑顔だった。

 そんなこんなで時間は流れ、日はすっかり沈みかけ、空はオレンジでも黒でもない紫色になっていた。

「はぁ~……遊んだ遊んだ」

 美咲は腰の関節が抜けるぞと注意してやりたいくらい伸びをする。

「ホント、時間がたつのは早いですね」

 早苗は達也妹と手を繋ぎながら別荘までの帰路を歩く。

「でも雄介君残念だったね。お姉さん達泳げなくて」

 美樹の言うとおり、雄介は姉達に水着持参のお知らせを忘れており、美咲たち八人が遊んでいる間ずっと別荘にいたのだ。

「ま、まあね。後で謝っておくよ……」

 そう言った雄介の声にはまるで余裕が無く、帰る足取りがどんどん重くなる。恐らく別荘のドアを開けたら彼に待っているのは地獄のような姉達からの拷問だろう。最初に海にさっさと出てきたのは女子の水着が見たいだけではなく姉達から逃げる意味も含んでいた。

 一歩一歩、歩を進めるほどに足に重りが付いていくような気がする。それはそうだ、自ら進んで地獄に落ちたいと願うほど雄介は馬鹿でも変態でもない。どうせなら姉達と顔も合わせたくないが一週間野宿するわけにもいかないため、潔く諦めて死刑執行の場所まで歩いていく。

「さーて、晩御飯何にする? 早苗、材料って何あるの?」

「色々ありますよ。足りないものは近くのお店で買ってくればすみますし」

 そんな何気ない会話をしながら海から徒歩二分の三好家別荘についてしまう。調理の主任となる美咲と早苗は晩御飯メニューの意見交換をしながらドアを開ける。

「「「「雄介ーーーーーーーーー!!!!!」」」」

 まさに一瞬だった。

 まるで無理やりに押入れに詰め込んでいた荷物が空けた瞬間、雪崩のごとく落ちてくるように、扉を開けた瞬間、烈火のごとく速く、烈火のごとく怒った坪井四姉妹が雄介目掛けて襲い掛かった。

「うわわわわぁ~~!!」

 逃げようと背を向けた雄介は次女・勝音の飛び蹴りで地面に豪快にすっ転ぶ。地面がやわらかい芝生でなければ胴を擦りむいていただろう。そんなことはお構い無しに、勝音はうつ伏せ状態の雄介の両足を持ってまたがる。

「姉上! 妹達よ! フォーメーションX!」

 その号令とともに、長女・明美が勝音と背中を合わせるように雄介にまたがり、その首を両手でがっちり掴む。三女・穂奈美と四女・文音はそれぞれ右手と左手をかっちりとロックした。

「ギャああぁああああぁアアアアあおあおオアアアオオオオアア~~~~~~~~~~~~~!!!!! 痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

 うわぁ~……と、そこにいた他のメンバーは思わずその悲惨な光景に声が漏れた。キャメルクラッチに逆えび固め、おまけに両手に脇固めを決められるなんてさすが姉妹ですね! なんてことが言えるのは恐らくド級のサディストだけだろう。生憎ながらそんな過度なS気を持つ人間はここにはおらず、むしろなんのためらいも無くそれを弟に仕掛けられる坪井四姉妹がとても怖かった。

「なんで海のこと教えてなかったーーー!!」

「あたしらだけずっと部屋ん中だったんだぞーーー!!」

「今回は姉さんも許さんぞ~~~!!」

「あんたはだからダメなのよーーー!!」

「ギャぁアアああおおおおああああおあおああ~~~~~~~~~~!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!! 許して~~~~~~!!!!!」

 長い時間見ていてると何かの組み体操のようなそのフォーメーションXはそれから五分間続き、解放された雄介は真っ白な灰になっていた。

どうも。

皆さんに一つ謝っておきたいと思います。


今回、下ネタが多くてすいませんでした。


いや、このくらい下ネタに入らないよ、という人もいるかもしれませんが、中にはこれですごい気分を害したという人もいるかもしれませんので一応謝っておきます。

でも、あながち嘘じゃないですよね、冒頭の部分。僕は思春期男子はエロいことしか頭にないと思うなぁ。

それでは、また次回。

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