第46話 スカイ・クロラ
絶対的窮地に追い込まれた雄介は、コルシャのシャッフルの弱点に気づき形成を逆転する。
しかし、加勢に来た達也たちがやられ、再び窮地に立たされる。
そのとき、雄介の背中から神々しい『光』と『羽』が……。
「うわぁああああーーーーーーーーー!!!」
光を発しながら雄介は雄叫びを上げる。その雄叫びは苦しんで発せられたものではなく、まるで何かから目覚めるような雄々しいものだった。
「『羽』………だと………」
その光景を見ていたコルシャは、雄介の背中から発せられる光の中に『羽』の形を見つけ、そのことに絶句していた。
「馬鹿な!! なぜ天界人でも魔界人でもない、人間界の人間に『羽』がっ!」
「うわぁああああああああああああーーーーーーーーーーー!!」
コルシャが疑問に思っている間にも、雄介の背中の光は強くなり続け、さらにその中に見える『羽』もどんどん形がはっきりしてくる。
「くっ……!! まさか!?こいつ!! 覚醒したのか!?『能力』に!??人間の分際で!!?」
コルシャの脳裏には自分にとって最悪のシナリオが浮かんだ。ただ武器を持っていただけで自分が追い込まれた人間が、もし『能力』を手に入れたらどうなるか。
「く……!! 人間の分際で……!!覚醒する前に止めを刺してやる!!」
コルシャは雄介の体を持ち上げていた自分の両手首を放し、少し離れたところまで下げる。
「うわあああああーーーーーー!!」
しかし、支えとなっている両手が離れても雄介は地面に落下することなく、その場で止まっている。
「くたばれ!! 鉄指弾!!」
コルシャの叫ぶのと同時に、雄介の前の方に待機していたコルシャの両手の指の第一関節から先の部分が一斉に飛び出した。発射された十発の指先は全て雄介の急所目掛けて飛んでいく。
「死ねぇえーーーーー!!」
「うわぁあああああーーーーーーー!!!」
全ては数瞬の出来事だった。コルシャの発射した指の弾丸が雄介に命中しようとしたその瞬間、雄介の周りの景色が激しく歪み、今まで比べ物にならないほどの光が爆発的に発せられると、次の瞬間には雄介の姿はそこには無くなっていた。
「なにっ!!?」
指先は全て、もう雄介のいなくなったビル壁面に突き刺さる。その壁には、六つの羽を模した形が掘り込まれたか削られたようにそこにあった。
「い、いったい奴はどこに!!?」
コルシャは体をすぐ元に戻し辺りを探す。雄介はすぐに見つかった。
コルシャから少し離れたところに片膝をを付きながら雄介はうずくまっていた。しかし、どこか負傷してだとかダメージを負ったからという感じはしない。その姿には近づくことに恐怖すら感じる威圧感があった。
「くっ……!!」
コルシャはすぐに雄介のほうに体を向け、構えなおす。さっきから雄介から発せられている奇妙な威圧感に圧倒されているせいか、コルシャには構えなおすという行動以外とることができなかった。
(なんだ!? 何なんだこの威圧感は……!?? 俺がこんなガキに恐怖しているっていうのか!? 五十年前の第2347次魔界大戦で千以上の天使を殺してきたこの俺が!?? あんなガキに!!? ありえない!!)
やがて、雄介はゆっくりと立ち上がった。コルシャは一瞬飛び上がりそうになるほどにビクついたが、すぐに平静を取り戻して構える。
「お前……目覚めたのか………」
「…………………」
雄介は何も言わない。
「答えろっ!! 覚醒したのかと聞いている!!」
「………『スカイ・クロラ』……」
「何っ!?」
雄介は俯かせていた顔を上げる。その眼には、さっきは感じられなかった『決意』と『強さ』があった。
「知ってたんだ……何も知らないはずなのに……。だけど、これの、この能力の名前は……『スカイ・クロラ』」
雄介はゆっくりと息を吸い、吐く。すると、雄介の背中がまた光を放つ。
「くっ!」
眩しさのあまりコルシャは目を覆う。光はすぐに止み、コルシャは目を開ける。
そこには、『羽』があった。雄介の背中には、さっきコルシャが見た『羽』があった。
細長いひし形の形をし、青くガラスのように透き通り、何かの紋様のようなもの入った六枚の『羽』。それが、雄介の背中に付き添うように浮いていた。
「それが…お前の能力……」
「『スカイ・クロラ』!」
雄介は力強く、もう一度言った。自らの新しい力の名を。
「この『羽』で、僕は自分の空を飛ぶ!」
雄介は銃を眼前のコルシャに向けた。
「ふ……ふふふ……なら見せてみろ、お前の能力を!!」
コルシャは前腕部と膝関節から下の部分を飛ばしてきた。
「行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」
飛ばされてきたパーツは空中でさらに分解し、雄介に襲い掛かる。
「スカイ・クロラ!!」
雄介の号令とともに、羽は、スカイ・クロラは雄介の背中から離れ、飛んでくるパーツを次々に切り落としていく。
「がぁぎゃあああ!! も、戻れ、シャッフル!!」
慌てて体を元に戻し、切り刻まれた足のせいでコルシャはその場に尻餅をついた。
「ハァ…ハァ……」
コルシャは何とか立ち上がり、また構える。
「なるほど…羽の形をした刃か……俺のシャッフルと同じで『空中遠隔操作』……。それなら対処のしようがあるな……」
コルシャはその場で体を全てバラバラにする。
「今度は油断しない。もうこれ以上体はバラバラにはできない。全部の関節から分離したからな。これをそのたった六枚の羽で止められるか?」
「これがある」
そう言って雄介は銃を構えた。
「ふっ! 分かってないなぁ。昔からね、数が多いほうが有利ってのは決まってるんだよ!!」
コルシャの体が一斉に雄介に襲い掛かってくる。
「スカイ・クロラ!!」
スカイ・クロラは四枚がすぐに向かってくるパーツに飛んで行き、雄介自身も銃を撃って飛んでくるパーツを落としにかかる。だが、銃弾がかすりもしなければスカイ・クロラも体のパーツには一向に当たらず全て避けられる。
「フハハハハッ!! 忘れたのか?これは俺の体だ!! ラジコンみてぇに見て操作してるわけじゃない。体がどこにあるのか、目が付いてるみてぇに把握できてんだよ!! てめぇのは確かに能力で体とか精神とかの繋がりはあるようだが、体自身の俺の操作性には敵わねぇよ!!」
雄介はそれでも銃を発射しパーツを落とそうと奮闘する。
「だから効かね―――――」
突然、コルシャの言葉が詰まる。それは、彼の今は存在していない体の、右上腕部。そこに急激に痛みが走ったからだ。それはどういうことなのか、感覚で分かった。銃撃を受けたのだ。
「い、いったいどこから!??」
雄介は動揺するコルシャをよそに再び銃撃を開始する。
「くそっ!!」
考えている暇も与えてもらえず、コルシャは回避をし始める。しかし、また、
「ぐあっ!!」
今度は胸のパーツに銃弾が当たる。
「なぜだ!! なぜ避けているはずなのに!!」
しかし、それはすぐに分かった。コルシャの目にははっきりとその瞬間が見えていた。銃弾は前からではなく、後ろから飛んできていたのだ。
「!!? まさか!?」
慌てて頭部を後ろのほうに向ける。
そこにはスカイ・クロラが停滞した形で空中に浮いていた。再び飛んでくる弾丸。コルシャは雄介のほうを後ろにしたままそれを避ける。そして、避けた弾丸はスカイ・クロラに当たり、反射してコルシャのほうに向かってきたのだ。
「こいつ!! 自分の能力を弾丸の中継にしたのか!!」
コルシャの能力は体の一つ一つに目があるかのように自在な回避が取れる。しかし、目は所詮一箇所しか見ることはできない。後ろと前、挟み撃ちにあった状態では全てを避けきることは難しい。
「なら……!!」
コルシャは再び雄介の方に向き直り、一斉にパーツを雄介のほうに向かわせた。雄介はすかさず銃を撃つ。しかし、コルシャのパーツは避けることをせずに向かってくる。
「なに!?」
「どうせ全部捌くことができないなら玉砕覚悟だ!! 何発かくらう覚悟で行けばお前の攻撃は一箇所に固まる!!」
雄介は銃を撃ち続けるがパーツは怯むことなく向かってくる。
「喰らえ!!」
パーツは雄介を覆いかぶさるようにして雄介の退路を塞ぐ。
「死ねぇーーーーー!!」
一斉に向かってくるパーツ。しかし、雄介は動揺するどころか、分かりきっていたというような目でコルシャを見た。
「スカイ・クロラ!!」
雄介が声を発したのと同時に、背中に二枚残っていたスカイ・クロラは雄介を間に置くよう配置を換える。
「見せてやる。これが…スカイ・クロラの真の能力!」
スカイ・クロラはその場で強い光を発する。すると、さっきと同じように景色が歪み始め、そして次の瞬間、再び雄介は消えた。
「なっ!!?? 奴は! 奴はいったいどこ……!!?」
「ここだ」
「!!?」
コルシャは後ろから聞こえた声にすぐに振り向く。そこにはいつの間にか雄介がコルシャよりも高い位置にいた。
「なっ……!! この能力は……!!」
コルシャが言葉を言い切る前に、雄介は落ちる力と重ねるように力を込め、コルシャの頭部にゴールを決めるほど強いキックをかましてやった。
「ぶふぁらっ!!」
渾身の一撃を顔面にモロにくらい、コルシャの頭部は吹き飛んでいく。雄介は落ちながら再びキックの体制をとる。
「スカイ・クロラ!!」
その呼びかけに、さっきまで向こうで弾丸を反射させていたうちの二枚が飛んで行き、コルシャの頭部を挟むように並ぶ。
「なっ!!?」
そして、コルシャの目に映る景色はいつの間にか再び雄介の足元の位置にあった。
「これは……!!」
「おりゃぁああああ!!」
さっきよりも強い力で、今度は鼻っ柱に足の甲がメリメリと音を立てながらめり込んだ。
「ぷしぇっ!!!!!」
鼻血を吹き出しながら、コルシャの頭部はさっきよりも遠くに飛び、ボールのように地面に転がった。雄介は再びスカイ・クロラで自分を間を挟むようにすると、その場から消え、いつの間にか地面に着地していた。
「ブフッ!! ブッ!!」
喉を逆流する鼻血と鼻の痛みに苦しみ、コルシャはいつの間にか体を戻していた。
「ご、ごんなのありか……反則にもほどがあるだろ……まさか…『空間跳躍』、『瞬間移動』の能力なんて……」
「これが、スカイ・クロラの真の能力だ。『羽の間に挟んだものを瞬間移動できる能力』。」
雄介は倒れているコルシャに銃を向け近づいていく。
「これで終わらせる」
「う…!うわぁああああああああ!!!」
コルシャは無我夢中で近づいてくる雄介に攻撃をしてくるが、雄介はそれを瞬間移動ではるか高くに一瞬で移動して避ける。
「うわぁああああああああ!!」
コルシャは完全に我を失い、ただ我武者羅に攻撃をしてくる。そんな精密さの欠片もないような攻撃の中を、雄介は何度も瞬間移動を繰り返して避け、徐々にコルシャとの距離を詰めていく。
「ああ!! ああぁあ!!! 来るな!来るなぁ!!!」
そんな願いは聞き入れず、雄介はコルシャに近づいていく。
「あぁああぁぁあアアああ!!!」
コルシャの履いていたブーツのつま先の部分から指が飛び出し、雄介の元に飛んでいく。だが、雄介は瞬間移動をし、指の弾丸は哀れに外れた。
「ど、どこに!?」
雄介を探すコルシャは左右を見回し、再び前方に顔を向ける。そこにはいつの間にか雄介が立っていた。
「うわあぁああ!!?!!?」
コルシャは絶叫を上げ、立ち上がると雄介に背を向けて逃げ出そうとする。
「逃がさない!!」
スカイ・クロラはコルシャの元に飛んで行き、彼を挟むとまた瞬間移動をする。
「うおっ!!」
背中を見せて走っていたはずなのに、コルシャの眼前には再び雄介の顔があった。雄介の腕にはスカイ・クロラが装着され、鋭利に尖った羽の先端が手の甲の部分から伸びている。
「ひぃいい!!」
「こぉおおのぉおおおお!!!」
雄介は拳を目一杯握り締め、スカイ・クロラが装着された腕でコルシャの腹に本気の一撃を叩き込んだ。
「―――――――くっあ…がっ……!!」
コルシャの腹にはスカイ・クロラが深々と突き刺さり、殴られた勢いで後ろに転がる。
「ハッ……!ハァッ……!」
コルシャは這って逃げようとするが、その場で倒れ伏し、また這って逃げようとしては倒れ伏しを繰り返す。
「逃げるんだったらそれでいい。僕はそれ以上は何もしない。早くここからどっかに行ってくれ」
その言葉に、コルシャの動きが止まる。
(逃げる…だと!?? 俺が!? こんなガキに!?? ありえない!!そんなことは!!! そんなことあるはずが無い!こんなド素人のガキに、百二十年以上も魔界師団で務めてきた俺がか!!? 四十年間大隊の隊長を務めてきたこの俺が!!? ありえん!! そんなことは…俺のプライドが……!!誇りが……!!)
「許さねぇんだよぉおおーーーーー!!」
コルシャはシャッフルを発動し、体を分解する。
「逃げるだと!!? 頭に乗るな!! このままおめおめ帰って素人に負けました、なんて言ったらいい笑いものだ!! そんなことになるのは死んだのと同じだ!! どうせ死ぬならお前を道ずれにしてやる!! シャッフル!!!」
コルシャはパーツを雄介に向かって照準を合わせる。
「……あのまま逃げてれば良かったのに。魔界人でも…人を殺したくなんか無いのに……」
「だから頭に乗るなって言ってるだろ!!人間風情がぁああーーーーー!!」
コルシャはパーツを一斉に発射しようとする。
「スカイ・クロラ!!」
しかしその瞬間、コルシャの両脇の死角からスカイ・クロラが二枚飛び出してくる。
「なっ!??」
スカイ・クロラはコルシャの胸の辺りのパーツ全てを間に挟み、瞬間移動する。出現した場所は雄介の目の前だった。
「はっ!!」
そして、最悪の光景がコルシャの目に飛び込む。
雄介は目の前にコルシャの胸のパーツが出現したときにすでに、銃口に光を集束させていた。
「光撃っ!!」
―――――うわぁああああああああああ!!!―――――
コルシャがパーツを元に戻す前に、すでに雄介は引き金を引いていた。
大出力の光撃はコルシャの目の前にあったコルシャの胸部パーツを全て飲み込み、消滅させた。光撃はそのままコルシャのパーツのない胸部を素通りし、向こうの壁に当たって炸裂した。
「ブフッ!!!」
コルシャは盛大に血を吐き出す。コルシャの体は元には戻らず、全てその場にボトボトと落下した。
胸部のパーツ、すなわち心臓ごと消滅させられたコルシャの顔は、もはや放心というよりも、文字通り魂を抜かれたような、いや、全てを失ったような顔になっていた。
「やった……」
雄介はその場にヘナヘナと膝を付く。不意に突風が吹き、その風は塵になりかけているコルシャの体を巻き上げ、散らしていった。それを見てホッとした途端、背中にあったスカイ・クロラも金色の光の塵になり、雄介の背中の中に吸い込まれるようにして消えた。
「やった……。勝ったよ僕!! やったーーー!!」
雄介はその場で両手を上げ、勝ち名乗りを上げた。
「やったーーーーー!!やったよーーー!! 達也君!シン君! あっ……」
そして、雄介はもっとも大事なことを思い出す。今呼んだ二人がどのような状態にあるのかを。
「達也君! シン君! 大丈夫!??」
慌てて二人の下に駆け寄り達也を抱き起こす。
「達也君! 達也君!!」
「う………見てたよ…。かなり意識が朦朧としてたけどな……」
達也は微笑を浮かべながら雄介の呼びかけに答える。顔は殴られた痕でボコボコになっており、血も若干出ていたため微笑がかなり怖いものだったが何とか生きてはいた。
「達也君……!」
「まったくだな……まさかお前に能力が宿っていたとは……」
「!? シン君!」
達也と雄介のすぐ隣でうつ伏せに倒れていたシンも顔をこちらに向けて微笑を浮かべる。こっちは、頭部への攻撃が多かったせいか顔面は流血したレスラーに引けをとらないほどの血が顔を埋め尽くしていた。
「…どうでもいいけど……大丈夫………」
「これが大丈夫に見えたら眼科に行くか精神鑑定を受けたほうがいいな……」
「ハハッ! それだけ憎まれ口が利けたら十分大丈夫だよ」
「いやここそんな風に笑うとこじゃないよね……? 普通にキャラ通しただけなのになんか大丈夫そうだね、オッケーオッケー!みたいな感じに言うのやめて……」
シンは半ば白目をむきそうになりながらスラスラと、特に感情を込めずに淡々と文句を述べた。
「ああ、ごめん。達也君は?大丈夫?」
「いや、俺も大丈夫じゃないな…。なんせ体のほとんどの骨がイッちまってる。足なんかもう立つこともできないくらいだ……」
「じゃあ、どうしよう……。救急車呼ぶ?」
「バーカ。あと四日で合宿だぞ。俺らだけ病院のベッドに寝かせるつもりか」
シンはここだけはあからさまに馬鹿なのか?といった感じで言葉を発した。
「じゃあ、どうするの?」
「決まってんだろ。お前が治すんだよ」
「へっ?」
「再生魔術だよ。やり方前にも見てるからできるだろ」
「えっ!? いや、でも僕うまくできるか分かんないし……間違ってとんでもないことが起こってもあれだし、ねぇ?」
雄介は思い出していた。前に達也がシンと自分を再生魔術で治してくれたときのことを。順番的に最後だった自分の治療を終えたあと、受身も取らずに地面に倒れ伏した達也の姿を。
「大丈夫だよ。普通の人間だったらその心配はあるけど、能力者のお前なら大丈夫だよ」
「えっ!? で、でもさ~……」
「雄介……」
「はい!?」
妙に優しく、そしてその中に苛立ちを包んだような達也の呼びかけに、雄介は飛び上がりそうになる。
「な、なに? 達也君……」
「……やれ………」
「………はい」
結局、達也の流血フェイスも相成った凄みに負け、雄介は二人の治療を行った。最後に行ったシンの治療が終わった後、自身が受身も取らずに地面に頭を打ち付ける羽目になるとは、このときの雄介は、まだ知らない。
「あっ、来た来た……。こっちこっちーーー!!」
ショッピングモールの開けた広場で、美樹は手を振りながら待たされていた野郎三人組を呼ぶ。
「悪い悪い。あいつトイレ行ってたんだよ」
達也が軽く小走りになって美樹の元にいく。
「結構遠くのトイレまで行ってたみたいで」
シンもその後ろからやってきた。
「悪いな、待たせて。七瀬も。悪いな」
達也は美樹の隣のベンチで座っていた七瀬にも謝罪を述べる。
「別にいいよ……」
七瀬は小さく答えた。
「で? 肝心の雄介君は?」
「ん? ああ。おーい! 早く来い。こっちだこっち!」
達也が手を振る先には、ヨタヨタとおぼつかない足取りで額に手を当て、栄養ドリンクをストローで飲みながら向かってきている雄介の姿があった。
「ご、ごめんね。待たせちゃって…」
「いいけど……大丈夫、雄介君? すっごいやつれた感じするけど…」
「ああ、ちょっとお腹こわしちゃったみたいで」
「お腹こわしたのに栄養ドリンク飲んでるの? 悪化するよ」
「大丈夫だよ。僕栄養ドリンク好きだから。ハハハ……」
まったく大丈夫そうにも見えない弱々しい笑顔で、雄介は答えた。
「本当? ならいいけど。じゃあ、帰ろっか?」
「そうだな」
美樹の号令とともに、全員が自分の荷物を持ち、家路に着いた。
他の四人が、あの服が可愛かった、とか、あれも欲しかった、などと会話を繰り広げる中、雄介だけが、自分の腕に感じる荷物の重さと、なんでこんなに買ったんだろう、という後悔の念を感じながら帰路に着いたのを知っているのは、達也とシンだけ。二人はそんな雄介を見ながら、クスリと笑い合った。
そこで、雄介の大きなため息が一つ。
どうも~。
そういえば結構前からなんですけどTwitter始めました。
あれ結構面白いですね。いろんな人の話が聞けて(読めて?)楽しいです。
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それでは、また次回。