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第40話 スリラー その⑧

花梨が能力を手に入れたことを知ったその日、雄介とシンは花梨の能力で凶暴化した魂と戦闘になる。何とか倒した二人は花梨を探しに走る。

そのころ達也は……。

 辺りは真っ暗だった。

 日もほとんど沈んで、太陽の頭の天辺てっぺんが申し訳程度にしか顔を覗かせていない明るさでは、その建物の内部はあまりにも暗すぎた。

 しかし、達也はそんなことをものともせず、前に来たときの記憶と壁に触れている手の感触だけで奥へと進んでいった。もっとも、単に電灯のスイッチの場所が分からなかっただけだが。

 ここは変電所。言わずもがな、あの男の住居である。

 そして、しばらく歩いていくと、奥のほうに小さな光が見えてきた。その明かりを頼りに、達也の歩くペースが少しだけ速くなる。

 そして、光の先にその男はいた。男は建物の中だというのに、何故かその場で焚き火を囲んでおり、どこから調達してきたか分からない魚を焼いていた。おそらくあじかなにかだろう、と達也はおぼろげな魚の記憶で解釈した。

 男は達也がいるのに気づかずに鼻歌を歌いながら焚き木をくべている。

「あの……」

「ふぁーーーーー!!」

「!!?」

 達也が少し声をかけただけで男、木村は奇声を上げて飛び上がった。

「すすす、すいませんっ!! 怪しい者じゃないんです!ただちょっとここは居心地がよくって……!!」

 木村は飛び上がった後に綺麗に空中で土下座の姿勢をとりそのまま地面に落下し、さらにそのまま謝り始めた。俗に言う『ジャンピング土下座』だ。

「木村さん、落ち着いて。俺です、達也です」

「警察とかマジで勘弁して……! って、あれ? 達也さん?」

 木村は顔を上げて相手が達也だと分かるとホッと胸を撫で下ろした。

「びっくりしましたよ、いきなり声かけるからホントに」

「木村さんほかの人には見えなくなるとかそんな魔法使えないんですか? 妖精でしょ?」

「ハハハッ、そんな一部の人に見えて他の人に見えないなんて、そんな都合のいい魔術ありませんよ。ハハハッ」

(なるほど。妖精は不法滞在が基本なのか)

 てっきり今までそんな魔術で乗り切ってきたのだと思っていた達也は、実際には脱獄犯のように人目を気にしながら常に緊張と隣り合わせな木村の生活を想像して、また一つ、天使や妖精といったものへの夢が崩れ去った。

「それで、どうしましたこんな時間に」

「あっ、そうだ」

 木村に言われ、やっと本来の用件を思い出す。

「…木村さん」

「ふぁい?」

 木村は焼けた魚を口に咥えながら達也に向き直る。

「真面目な話です」

「……はい」

 達也の少し真剣な口調に、すぐに口から魚を離した。

「実は……」













「ハァ、ハァ……いたか、雄介?」

「ハァ……駄目だ。全然見つかんないよ」

 シンと雄介は、花梨を探して町中を走り回ったが、互いに見つけられずにいた。

「人気の少ないところに重点を置いて探したか?」

「探したよ。でも、どこにも見つからない。もしかしたら逆に人気の多いところにいるとか」

「それはないだろう。あいつとしても能力を使用しているところを他人に見られるのはマズイはずだ。その線はまずない」

「じゃあ、いったいどこにいるんだよ、花梨ちゃん……」

 雄介は途方にくれて頭を抱えてしゃがみ込む。

「まだ探してないところ……」

『あるじゃないか、一つ』

「!!?」

 その声にシンは頭上高くに目線を向ける。一度聞いたらしばらくは夢に出てきそうな奇妙で不気味な声。それの持ち主に向けて睨みをきかせる。

『やだなぁ、そんな怖い顔しないでよ』

 それは、二人のすぐそばの電柱の天辺にいた。黒いマントを羽織い、不気味な笑顔を刻まれた仮面といういつもの姿で、ガロウはそこにいた。

「ガロウ!!」

『やっ、久しぶりシン。そして初めまして、坪井雄介』

「えっ!? これがシン君の言ってたガロウ……」

 雄介は上を見上げたまま数歩電柱から距離をとる。

「何のようだ」

『連れないなぁ、せっかく花梨ちゃんの居場所を教えてあげようと思ったのに』

「何っ!? どこだ、それは!」

『フフン……どうしよっかなぁ♪』

「早く言え」

 ごねるガロウに、シンは銃口を突きつけ、さらにレイ・キャノンをチャージしていた。

『あわわっ!! 分かった分かった、言うよ言います。町外れ、ここの住人たちが『廃ビル街』って呼んでる場所にいるよ』


 廃ビル街。ここ、月白町は何年か前に他の地域の巨大企業が開発を行おうということで巨大なビルを建てまくったことがあるのだが、そこの企業は開発の途中に倒産し、当然開発も中止になり、今では建てられる途中でそのままとなったビルのみが町外れに破棄されるかのごとく残っている。今では不良たちのていのいい溜まり場だ。


「本当にそこなんだな」

『しつこいな。本当だよ』

「そうか……」

 シンはゆっくりと銃口を下ろす。

「ありがとなっ!」

 しかし、すぐに銃口をガロウのほうに戻し、一気に引き金を引いた。

光撃レイ・キャノンっ!!」

『でぇええっ!!?』

 放たれたレイ・キャノンはまっすぐガロウのいる場所に飛んで行き、着弾と同時に爆発した。破壊された電柱の天辺から電線がぶらりとぶら下がる。

「教えてくれたところでお前を逃がす気なんかない。決着をつけられるんならいつでもやってやる」

「シン君…それはさすがに……」

 後ろで一部始終を見ていた雄介は少し食い下がり気味に異論を唱える。

「あぁ? いいんだよそんなの。そんなきれい事漫画かアニメの中だけだ。いいか、やるって時にやらなきゃ駄目なんだよこういうのは」

『やっぱりね、打ってくると思ってたよ……』

「!!?」

 偉そうに雄介に説教していたシンだが、その声に後ろを振り向く。

『危ないじゃないか、まったく』

「……直撃だったはずだ」

 ぶら下がった電線からバチバチと火花が飛び散っている電柱の下に、いつの間にかガロウは立っていた。

『まっ、いいけどさ。こんな程度じゃ僕はまだまだ殺せないよ、シン』

「何っ!」

『まっ、伝えることは伝えたから、じゃ~ね~♪』

 そう言ってマントを翻すとガロウは消えた。

「…いったい何がしたいんだ、あいつは」

「シン君、とりあえず今はあいつの言うとおり『廃ビル街』に行こう。それくらいしか手がかりないんだから」

「…そうだな」

 銃をしまうと、道を知っている雄介を先頭に、二人は廃ビル街に向かって走った。

どうもです。

いや~、こうして見てみると一つの話が長いなあって思います。もっと短くなるよう努力しようと思います。最低でも5話以内にまとめるとか。

それでは、また次回。

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