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第39話 スリラー その⑦

死んだ祖父との約束を果たしたいために花梨が手に入れた能力、『スリラー』。

それが発現したのはガロウが渡した知恵の実のせいだった。

そして、再び花梨の前に現れたガロウ。花梨に能力を強化できると言ってブレスレットを渡したその思惑は……。

 放課後。

 今日はまるで早く帰れと催促さいそくするかのようにカラスがやかましく鳴いている。

「死んだおじいちゃんとの約束を果たしたい…か」

 そんな中で、雄介は少し感慨深げにそう呟いた。

「分かる気がするな。僕もとっても大切な人が死んだらそう思うもの。きっと」

「だけど、それで他人に迷惑をかけていい理由にはならない。幸い、大事おおごとになる前に釘を刺せといてよかった」

 シンは冷徹にそう述べた。こういう時だけは平和を守っている、と言った感じになる。

「んっ? どうした、達也」

 ふと、シンはさっきから会話の中に入ってこない達也に声をかけてみる。

「入学前…数日後ってことは……」

 さっきからこの調子で一人でぶつくさと考え事をしている。

「なあ、おい」

「なあ」

「あぁ?」

 声をかけていたのに逆に声をにかけられたのでシンは少し驚き混じりに返事を返す。

「入学式終わったくらいってなると、今から大体三ヶ月くらい前か?」

「えっ? まあ、そんくらいだろ」

「そうか……」

 達也はまた顎に手を当てて考え込む。シンと雄介はそんな達也を不思議そうに見つめる。やがて、達也はなにか思い出したような表情になると、急に逆方向に向かって走り出した。

「あっ、おい!達也!」

「悪い。俺ちょっと寄るとこできたからさき帰っててくれ」

 達也はそのままどこかに走り去ってしまった。

「なんなんだ、あいつ」

「まあ、いいじゃない。言われたとおりさきに帰ってよ」

 雄介はシンを促して、二人は歩き始める。そして、数分くらい歩いたところで何かが聞こえてきた。


「うぐっ!!」

「げぇっ!!」


「おい、これって……」

 どう聞いても、聞こえてくるのは人のうめき声である。

「あの路地からだ」

 シンの指差す方向には明らかに人の出入りが少なそうなさみしい路地がある。声はそこから聞こえてくる。

「喧嘩でもやってんのか?」

「あわわ…や、やばいよ……」

 雄介がいきなり震えだす。

「あっ? 何がやばいんだよ」

「ここら辺はこの一帯の不良グループがたむろしてる所なんだ。まずいよ関わっちゃ!」

「別にいいだろ。何もしなけりゃ向こうだってこんな冴えない二人ほっとくって」

 いくら演技しているとはいえ、自分で自分のことを冴えないと言い張るシンは結構大物なのかもしれない。

「で、でも~……」

「大丈夫だって……」

「ギャーーーーー!!」

 その瞬間、聞いただけで痛々しい絶叫が響く。

「!!? 何!!? 何なの!?」

「…明らかにこりゃ喧嘩の範疇はんちゅう超えてるだろ……行くぞ!」

「えっ? 行くって?」

「決まってんだろ。路地ん中だよ」

「ええーーー!! や、やめよ! ほっとけばいいよ、不良の喧嘩なんて!」

「そうも言ってられないだろ。もしかしたら怪我じゃすまなくなるかもしれない!」

 シンはそう言って路地の角を曲がる。雄介も渋々その後を追って走る。しかし、路地を曲がってすぐで、シンは足を止めて立ちすくんでいた。

「んっ? どうしたのシンく……」

「来るなっ!!」

「!!?」

 急にシンが大声を張り上げて雄介を制止する。

「な、何? 何かあるの?」

「……見ないほうがいい」

「な、何だよ、一体何が……」

 そこで、雄介の台詞は止まった。別に言うのを止めたわけではない。文字通り声が出てきてくれなかった。初めて見る凄惨せいさんな光景に。

 そこには、人が壁にもたれるようにして倒れていた。どうやら二人と歳もそう離れていない青年だ。しかし、その体や顔のいたる所には鉄パイプや尖った金属片などの鉄屑てつくずが突き刺さり、血まみれになっていた。よく見ると下っ腹の辺りの傷口から何か細長いものが顔を出している。おそらく腸かなにかだろう。

「う……オェエエ……」

 そのあまりにも酷過ぎる光景に雄介は吐いてしまっていた。映画やゲームの中では当たり前のように見慣れた光景だが、やはり現実のものはそんなもの達とは比較にならないほど、そんな状態になっているものには申し訳ないが、グロテスクなものだった。

「な…なんで、こんな……酷過ぎる……」

 雄介がやっと落ち着いて話ができるようになる。シンは倒れている青年の手首を取って脈を図っている。少しホッとした表情を見るとどうやら生きてはいるらしい。

「……クソが!」

 シンは感情を抑えきれないといった風に隣のビルの壁を思い切り叩く。

「喧嘩と殺し合いの区別も付かねぇほど馬鹿なのか、ここらの不良共は!」

 シンはそう吐き捨てるとズンズンと奥の方にまで進んでいった。

「あっ、ま、待って」

 雄介も弱々しく立ち上がるとシンの後を追っていく。歩いてゆく道のはじには、さっきのような傷を負った青年が何人も同じように倒れていた。

「い、一体これって……」

「知るかっ!! 誰だろうと構わねぇ、一発本気でブン殴ってやらねぇと気がすまねぇ!!」

 シンは足を止めることなく路地の奥へ奥へと進んでいく。

「うわーーーーー!! や、やめろ!やめてくれぇ!!」

 すると、ちょうど少し先の曲がり角の向こうから助けを懇願する悲鳴が聞こえてきた。

「向こう側か!!」

 シンは獲物を見つけたライオンのように一気に走り出す。

「あ、ちょっと!」

 雄介も必死になってそのスピードに付いていく。

「てめぇ!この野郎!!」

 シンは曲がり角を曲がって犯人に声をかける。しかし、

「なっ……!」

 そこにいたのは人ではなかった・・・・・・・

 ビル同士の要らない空間が重なってできた少し開けた空間。そこにはそこら辺に落ちているような鉄屑が人の形に固まっているようなものが一人の青年の首を締め上げていた。

「た、助けてくれーーーーー!!」

 青年は何がなんだか分からないといったようにパニックになっている。

「ハァ…ハァ…これは!?」

 やっと追いついた雄介もその光景に目をうかがう。

「まさか、花梨の奴……!」

 シンは今考えられる一番の答えを考えてそれに行き着いた。

(間違いない。これは、花梨の……)

『よくも僕をいじめたな……』

 急に、鉄屑の塊が言葉を話し出した。

『僕を殴って、金を巻き上げて、楽しかったかい?』

「な、何だよお前! お前なんか知らねぇよ!!」

『お前達のせいで僕は死んだんだ!死ぬしかなかったんだ・・・・・・・・・・! だから…取ってもらうぞ、責任を』

「死んだ? お!お前、まさか……!」

 すると、突如として鉄屑の腕から鉄パイプやら金属片がとげのように飛び出した。

「お、お前は…ひゃぶらっ!!!」

 青年が何かを言おうとしたとき、青年の顔に棘だらけの腕が振り下ろされた。たったの一撃で青年の顔がズタズタに切り裂かれる。

「うわっ!」

 雄介はあまりのことに目を覆う。

「やめろぉ!!」

 シンはそれを見て鉄屑に向かって走り出す。

『何だお前ら? 邪魔するな!!』

 鉄屑が棘まみれの腕を降ると、腕の棘が勢いよくシンに向かって飛んでいく。

「うおっ!?」

 慌てて棘の一団を避けて突き進む。しかし、シンはすぐにあることに気付く。

「雄介……!」

 嫌な予感がして後ろを振り向くと、金属の棘は勢いが治まらずにまっすぐその先にいる雄介に向かって飛んでいっている。雄介はさっきのシーンをまた見たくないせいか目を覆ったままだ。

「雄介っ!!」

「へっ?」

 シンの呼びかけにやっと目の覆いを外す。しかし、飛び込んできた光景は、まさに今、自分めがけて飛んできている殺傷力の高そうな金属片だった。

「う、うわぁああああ!!」

「雄介っ!!」

 間一髪、シンは雄介を押し倒す。金属片は二人の頭上スレスレを通過し、向こうの壁に当たって派手な音を立てた。

「大丈夫かっ?」

「あ、ありがとう、シン君」

『何なんだ、お前達』

 鉄屑が二人をいぶかしむように聞いてくる。

「…天使だ!」

 シンは眼鏡を外すと、髪が銀髪に戻り、戦闘態勢にはいる。

『天使? フンっ! 仮に天使だとしてもお前なんか要らない。神様は僕を助けてくれなかった。だから要らない! この素晴らしい力があれば他に何も要らない。今まで僕を馬鹿にしてきた奴らを懲らしめてやるんだ!ハハハッ!!』

「随分と偉そうだな、他人から貰っただけの力をてめぇのものと勘違いして強くなった気でいやがる」

『ハハ……なん、だと』

「さっきてめぇは言ったな。『死ぬしかなかった』って。てことは何か? お前自殺したのか?」

『だから何だって言うんだ!!』

 鉄屑が語気を荒げる。

「死ぬしかないなんて言う奴が強がってんじゃねぇ!チキン野郎っ!! テメェは戦おうともせずに逃げたくせに力が手にはいったからそいつらをいたぶるだぁ!? 舐めたこと言ってんじゃねぇぞ!!」

『何~……!』

「シ、シン君…」

「いいか! 強者ってのは力がある者のことを言うんじゃない! どんなことにもあきらめず立ち向かう存在を強者って言うんだ! テメェみたいな野郎が例え世界一の力を手に入れてそれを振るったところで、立ち向かわなかったテメェは一生弱者だ!!」

『貴様ーーー!!』

 鉄屑はついに我慢の限界といったふうに拳を振り上げて襲い掛かってくる。

「あわわ…!シン君!」

「…クソ野郎が」

 シンは銃を取り出し、鉄屑に向ける。向けた銃口に光が集まりだす。

『うぉおおおおおお!!』

 鉄屑はもう眼前まで迫ってきている。

光撃レイ・キャノン……」

「シン君!!」

照射ブラスト!」

 その瞬間、いつもなら光の玉が飛んでいくレイ・キャノンが極太のレーザーになって銃口から飛び出した。

『なっ!!?』

 鉄屑はその危険性に気付くもすでに遅く、レイ・キャノンのレーザーに飲み込まれていた。

『ぐぎゃぁああああああああああああ!!!』

 鉄屑の体を形成していた鉄屑が溶けていく。そして、溶けた鉄屑の隙間から青い光が顔を出す。

「体のどこに弱点の魂があるのか分からなくても、体を全部ぶっ壊せば意味無いだろ」

『ぐわぎゃぁあああああああああああああ!!!』

 そして、レーザーは青い光をも溶かすように消し去った。それと同時に鉄屑がバラバラになり、地面に重い音を立てて転がった。

「お前は一生強者になれねぇよ。そんな考えじゃな……」

(つ、強い……)

 シンの後ろで見ていた雄介は心の中である種の感動を覚えていた。

「立てるか?」

「えっ? う、うん」

 差し伸べられた手を掴んで雄介は立ち上がる。シンは雄介を起こすと、すぐにさっき殴られた青年の方に走りより、さっきと同じく脈を取る。

「…こいつも無事だ。救急車に任せとけば大丈夫だろ。呼んだらすぐに花梨を探しに行くぞ」

「うん」

「あの馬鹿。あれほど言っといたのに」

 シンはどこか心配するように独り言を言った。

「はい…はいそうです、至急来てください。はい……。救急車すぐ来るって」

「そうか。じゃ、手分けして花梨を探すぞ。見つけたらすぐに連絡。いいな」

「分かった」

「達也には俺が連絡しておく」

 シンと雄介は、花梨を探しに表に向かった。

どうもです、皆さん。

最近は少しずつですが温かくなってきました。

そういえば更新の今日は節分ですね。皆さん豆まきとかします? いいですよね~風情があって。

いいですよね~、鬼コスプレの女の子……ハッ! すいません、話がそれました。

まあ、僕んちはやるかどうか微妙です。せいぜい節分らしいことといえば恵方巻き食べるくらいですかね。今年はどっちだったけ?恵方。

それでは、また次回。

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