第35話 スリラー その③
謎の水の化物に襲われていた荒川を助けた達也は彼女に告白されてしまう。
はたして達也はどうなっていくのか……
「……はっ!!」
気が付くと、俺は保健室のベッドの上にいた。
いったいいつからここに……。
「気が付いたか」
左から声がした。顔を向けるとそこにはシンがいた。悠長に椅子に座りながら本を読んでいる。
「いたのか」
「ご挨拶だな。わざわざ香川におとされたお前を運んでやったのは俺なんだぜ」
「そりゃどうも」
俺はブスっとした感じに返した。そして、昨日からシンに聞こうと思っていたことを思い出す。
「なあ、シン」
「ん~?」
読んでいた本から目を離し、間延びした感じの声でシンが俺を見る。
俺は昨日のことを洗いざらい簡潔に喋った。
「…ふ~ん……青い光…か」
「そうなんだ。なんか今まで戦ってきた奴らのどれとも該当しなくてよ。能力者の能力とも違うみたいだし、悪魔みたいな感じでもないんだ。なあ、あれってなんだったんだと思う?」
「う~ん……」
シンは腕を組みながら座っていた椅子の前足が浮くほど寄りかかってうなり声を上げる。
「なんか心当たりとか無いか?」
「う~ん…あれかな……でもあれにはそんな力……でもなぁ~……」
「どうなんだ? 心当たりあるか?」
「う~ん……あるっちゃああるんだが……そうだ!あいつに聞こう」
「あいつ?」
「ああ。放課後になったら聞きに行こう。そんじゃ、俺そろそろ行くわ」
そう言ってシンは立ち上がってドアのほうに歩いていく。
「あっ、ああ。ありがとな。見ててくれて」
「なぁに、おかけで嫌いな英語の時間終わりいっぱいまでいられたからお互い様さ」
「……………」
こいつ、俺をダシに使っていやがったな。
「まっ、元気になったんなら教室に出て来いよ。もっとも、次の授業は数学、化学ってお前の嫌いなのが続くからそのまま寝てるのもありだけどな、ハハハッ」
「……………」
「それじゃな、ハハハッ」
シンはカラカラと笑いながらドアを開け、後ろ手に戸を閉めてそのまま教室に帰っていった。
「…ハ~ア……」
誰もいなくなった保健室で一人、大きくため息をついて俺はベッドに無造作に転がった。
「…買っとくか……白髪染め……」
そうポツリと呟いた。
そんなこんなで放課後。
今日は用があるとでまかせを言って部を休んだ俺たちはある場所に来ていた。そこには俺も知っている、シンの言うあいつがいた。
「ほう、青い光を持つ化物、ですか」
「ああ、そうなんだ」
「なんか心当たりありますか? 木村さん」
そう。俺たちが今いるのは例のグレムリンの時の変電所。あいつとは妖精族の木村さんだった。
「そうですか……。ふ~む……」
木村さんは顎に手を当て、目を瞑って思案に入る
「なんか、分かります?」
俺は昨日のことを木村さんに話すと、木村さんは本当に不思議そうな顔をしていた。どうやらかなり難解な敵らしい。
「やはりアレかな……」
「やっぱアレか……」
「ええ、アレですね」
「おい、その仲間はずれを作る初歩的な話し方やめないか」
この話し方はかなりの疎外感を受ける。
「あっ、ああ、すみません。ところでシン様」
「んっ?」
「見当が付いているのでしたら何でわざわざ私のところに? あなたでも不可解なことですのに、私が知っているというのも……」
「ああ、そのことか。なぁに、俺は学が無いからな」
胸を張ってそう言うシンを、木村さんは一瞬遠くを見るような目になった後すぐ目をそらした。まあ、何を思ったかを言えないってのも上下関係だよな。
「おほんっ! では、話を戻します。達也さん、これは能力者の能力でも魔界の生物でも、もちろん天界の生物でもありません」
「えっ?」
意外な言葉に俺は意表を突かれた。アレとかコレとか言っているもんだからてっきり分かってるもんだと思ってたのに。
「分からないんですか?」
「違います。そうではありません。なにか、ということはすでに分かっています。しかしこれは今言ったカテゴリーの中には入らない」
「えっ??」
さっぱり訳が分からない。魔界でも能力者でも、まして天界のものでもないとしたらなんだって言うんだ?
「これは強いて言うなら人間界のもの。人間も広く知っているものです」
「人間でも知っている……人間界のもの……」
分からん。さっぱり分からん。これじゃまるでなぞなぞだ。
「そう。人間の魂ですよ」
「―――――!!?」
かなり衝撃的な返答だった。思わず声も忘れるほどに。
「あっ! そう言えば確かシンが前に言ってたな。魔に堕ちた魂とか何とかって」
「そう。そこなんです。問題は」
「へっ? 何がですか?」
「普通魂は二種類に分類されます。今言った魔に堕ちた魂と普通の魂の二種類です。魂とは生物の存在そのものであり、普通生物が死ぬと存在は霧散し消えてしまうものですが、ごく稀に強い思いを残して死んだものの存在が完璧に消えきらずに残ったものが魂なんです」
「はぁ……」
俺はなにか煮え切らないような返事をした。正直言って今言ったことの半分程度しか分からなかった。しかし、これで昨日のことが大体分かった。昨日のあの水の化物はどっかの変態の異常者の魂だったって事か。
「しかし、昨日達也さんが見たのは青い光だったんですよね?」
「ええ、そうですけど」
「そこが今回最も謎な部分なんです」
「? どういうことです?」
俺は小首をかしげて分からないをアピール。
「さっきの話の続きですが、よく考えてください。普通の魂が生まれるのもごく稀なんですよ? 魔に堕ちた魂が生まれる確立は正直五パーセントにも満たないんです。我々、シン様と私も最初は魔に堕ちた魂だと思いました。しかし、魔に堕ちた魂は赤い光を放つんです」
「えっ!? ってことは……」
「ええ。達也さんが見たのは普通の魂なんですよ」
「…………………」
何も言えなかった。あれが普通? 初めて魂のことを聞いた俺にだって分かる。あれは異常な力だった。強い未練とかであんな力が出せるもんなのか?
「ついでに言っておきますと、普通の魂は物に憑依することはできません。だからよく分からないんです」
「物に宿れない……つまり水を動かすって事も……」
「ええ、不可能なはずなんです」
「で、でも、よく魂はものに宿るとか……」
「あれは残留思念です。魂とは似てるようで違うものです。それに残留思念のレベルでは人に危害を加えるなど不可能です」
じゃあ何なんだ? いったい何が起こってるんだ?
「しかし、あることが加わればそのことにも説明が付くようになる」
「えっ?」
今までただ俺と木村さんの会話を聞いていただけのシンが口を開いた。
「シン様、と言うと?」
「簡単な話だ。能力者だよ」
「!! そうか! 能力者の能力で」
「ああ、力を強化された魂なら話が付く。だが、効果範囲が広い能力だとしたら手間がかかるな」
「あーーーーー!!」
俺はあることを思い出し、大声で叫んだ。耳元でその声を聞いたシンは耳を塞いだまま俺を睨みつける。
「なんだよいきなり」
「思い出したんだ! 昨日戦いが終わった後女子が逃げてくのを!」
「…へ……?」
「多分そいつだ。そいつを見つけて洗いざらい吐かせれば……」
「おい……」
「ん?」
「何でそのこと黙ってたーーーーーー!!」
「おびっ!!?」
いきなりシンが俺の鼻っ柱にストレートを叩き込んできた。
「お前そんなこと一言も言ってなかったろ!! もし関係ない人間だったらどうするんだ! ああ~!もう!」
俺がストレートを喰らってゆっくり地面に倒れるまでに、シンは早口でそんなことを言っていた。しかし俺はそんなことよりも、白髪染めは何がいいかを真剣に考えた後、地面に頭を打って気を失った。
みなさん、明けましておめでとうございます。
いや~始まりました2010年。アッハッピーニューイヤーでございます。
今年もまたがんばって皆様に作品をお届けしていこうと思っておりますので、面白いと思った方はぜひ感想を送ってきてください。ますますがんばり概がアップします。
それでは、また次回。