第34話 スリラー その②
達也は水泳の時間、ひょんなことから美樹と喧嘩してしまう。
時間を少しずらし帰ろうとしたその日、プールサイドでクラスメイトの荒川清美がプールの水に襲われているのを目撃し助けた達也。
また新たな敵の仕業なのか。それとも……
とりあえず今、俺は保健室にいた。
別に美樹にやられた首が悪化したからというわけではない。
あの後、気絶したまま荒川が起きなかったためだ。いくら起こすためとはいえ、無防備な女子を殴るのは気がひけたためこうして保健室に運んできたのだ。保険医の教師には、荒川がプールで倒れていたのを見つけた、とだけ伝えた。
「それにしても何だったんだ、あいつ」
独り言にしてはでかい声が出たが、別にいい。荒川は寝てるし、保険医は事情を聞いてベッドを貸してくれたあと職員室に向かってしまって、今は荒川と二人っきりだ。
いや、こういう言い方は誤解を生むかもしれないが、実質そうなのだから仕方ない。とりあえず今はこんな風にでかい独り言でも、荒川が起きない限り別にいいというわけさ。
「ん…んん……」
「!」
と思っていた矢先にこれだ。どうやら今の声で起きてしまったらしい。聞かれて無いよな?
「ん…ここは……」
「ああ、保健室だ」
「あっ…、あなた…草薙君?」
「ああ、そうだ」
さすがに面と向かって話すとなると緊張するな。なんせ荒川とは数えるほどしか話した経験が無い。それにこんな美人が目と鼻の先にいるとなれば緊張しないほうがおかしい。さらに言うなら急いでつれてきたため荒川は水着姿のままなのだ。その格好でさらにドキドキする。
「あたし…確か……」
「!! ああ、プールサイドで倒れてたんだよ!」
「え?」
危ない危ない。あんな非現実なことに巻き込まれたと知ったらどうなることか。とりあえずここはでまかせを言って夢だったってことにしとこう。
「いや~、びっくりしたぜ! 俺がいなかったらどうなってたことか。よかったな。俺が通りかかって」
「でも、私、なんだかすごい怖い目にあって……!!」
「ん~? 気のせいじゃないか? 少なくとも俺が見たときにはお前が倒れてるだけだったんだけどな~」
「いえ、違うわ! 私、一人で練習してたら、いきなり水が襲ってきて……」
こいつ、結構強情だな。頼むから騙されてくれ。
「だ、大丈夫だよ。そんなのこれっぽっちもあるはず無いだろ。夢だよ夢」
「違う!夢なんかじゃない! 本当に見たの!」
…なんかいい加減イライラしてきたのは俺の人間ができていない証拠だろうか。このままじゃ荒川は絶対にパニックを起こす。しょうがない…。
「荒川!!」
「!!?」
俺は荒川の肩を掴んで大声で名前を呼ぶ。荒川は驚いてそのまま静止。俺たちは目を合わせたまましばらく固まった。
「大丈夫だ。それは夢だ、怖い夢だ。だから大丈夫」
「でも……」
「もしまた怖い夢を見たら……」
言うのか? ここでこれを言わなきゃ駄目か。駄目だよなぁ。
「俺が守ってやる!」
言っちゃった~。くせー。我ながらすげぇくせぇ台詞を言ってしまった。でもこの場合仕方ないよね。荒川のためだもんね。
「……………」
「んっ? どうした、荒川」
しばしの間、恥ずかしさのあまり機能停止していた俺が気が付くと、荒川の様子がおかしい。何故か俺の目をじぃっと見たまま固まっている。おまけに今日の美樹みたいに顔が少し赤い。なんだ?暑いのか?
「草薙君……」
「は、はい……」
びっくりした。いきなり甘い声音で名前を呼ばれてしまったから一瞬ドキッとしてしまった。しかしどうやら落ち着いてくれたようで一安心……
「好きです」
…できなかった!
「……………なに?」
「好きです!」
「……………」
えっ? どゆことこれ? どうしてこうなった? 誰か教えて。これなんてエロゲー。いかん!雄介みたいなことを口走ってしまった!
「草薙君…」
「!!」
いきなり荒川が顔と体を近づけてくる。着てんの水着だってのに!
「ちょ、ちょーーっと待った!ストップ!」
「えっ?」
「ちょっと待て。なぜ今の話の流れからそうなる」
荒川はしばし俺の顔を見て、それからクスっと笑った。
「何ていうか……純粋に、カッコいいな、って思ったから……」
なんじゃそりゃ。今のそんなにカッコよかったか? いまどきのテレビ番組であんな台詞い言ったらダセーって言われること必須だぞ。
「草薙君、今付き合ってる人っているんですか?」
「い、いや、いないけど」
「なら私と付き合ってください!」
「いや、だから何でそういうことに……」
「草薙君!!」
荒川はそう叫び、いきなり俺に抱きついてきた。服越しからでも荒川の体温が伝わってくる。おまけにクラス一の胸が今俺の胸に当たっている。
「ちょ、ちょっと待ひぇ!!」
ヤベッ! びっくりしすぎて声が裏返った。
「いやです! 付き合ってくれるまで離しません!!」
離して!お願い! これは了承を得ていると言うより脅迫だ! いい加減離してくれないと俺も男だから色々反応してきてしまう……。
「お願いします!付き合ってください!」
ええい!もうこうなったら……。
「ちょっと……待て!」
「きゃっ!!」
俺は腕づくで荒川を引き離した。荒川はそのままベッドに倒れ、俺はすかさず荒川の手が届かない安全圏まで後ずさる。
「どうして……」
荒川は目を潤ませて恨めしそうな目で俺を見る。
「い、いや、ほら、やっぱり軽率だと思うんだよ。こういうのは大事なことだからさ。俺とお前は数回しか話したことが無いわけだし、そんな男と付き合うのもどうかなって感じだろ、なっ?」
俺は必死に荒川の説得を試みる。ここで泣かれちゃ俺としても困り果てる。だからと言って付き合うなんて言うのはまっぴらだ。
「男と女が付き合うってのはさ、やっぱり相手のことをよく知らなくちゃいけないと思うんだ」
「相手のことを…知る……」
「そうそう。だからさ、こういうことはもっとお互いを知ってる奴とにしなさい。分かった?」
「……分かりました」
「そ…そっか~」
分かってくれて何よりだ。
「そ、そんじゃ俺、もう遅いし帰るわ。帰るときも気ぃつけろよ。じゃな!」
俺はそう言って鞄を引っつかんで急いで保健室を出た。そのまま玄関で靴を変え、そのまま息が続くまでダッシュした。
「ハァ……ハァ…」
しばらく走ってやっと気持ちが落ち着いた。なんせ告白されたのなんか生まれて初めてだからな、そりゃ緊張もするさ。
「それにしても……」
俺は自分の胸をそっと撫ぜた。
「……柔らかかったな……」
………馬鹿が。自分で自分にツッコんで、俺はまた昂ぶってきた感情を抑えるために、また走った。
「おはよーっす」
次の日、教室に入ると変な異変に気付いた。クラス中が妙に静かなのだ。いつもならこんな時間はやかましくて少し声を張らないと聞こえないくらいなのに、今日はやけに静かだ。おまけに気のせいか男子たちが俺を睨んでいる気もする。昨日のこともあったし、俺は荒川を目で探すがいなかった。今日は休みか?
「草薙ーーーーー!!!」
「なぁっ!!!!?」
いきなり何者かに後ろから突撃されたあと、チョークスリーパーを決められた。完全に決まっているが少しゆるめだ。
「てめぇ~~~~……」
「この声……お前香川か?」
「聞いたぞコラァ~! お前荒川と恋人を前提に友達になったんだってなぁ~!」
「はぁ!!!?」
首を決められているにもかかわらずでかい声が出た。それほど衝撃的だった。いつ、どこで、誰がそんなことを言った。俺が昨日のことを思い出そうとしたとき、香川のスリーパーの力が急に強くなり、完全に気管が塞がった。おまけに息を吐いたときに塞がった所為で苦しい。
「草薙~~~!!」
「ま……て…死ぬ………」
そのとき、俺は機能自分が言った事を思い出した。
―――男と女が付き合うってのはさ、やっぱり相手のことをよく知らなくちゃいけないと思うんだ―――
―――こういうことはもっとお互いを知ってる奴とにしなさい―――
「だから…か………」
荒川の奴、この言葉を勝手に『だからお互いよく知ってから付き合おう』みたいな感じに捕らえやがったのか。
俺は半ばおちそうになっていながら目線を動かすとシンが見えた。そういえば今日こいつに昨日のことを聞こうと思っていたんだっけ。
「……………」
「…ん………?」
シンの奴が口パクで何か言っている。俺は必死にそれを解読した。
―――水着ボインフェチ―――
「……………」
確かにそう言っていた。
「おらぁ!!」
「か………っ!!」
さらに香川の締めが強くなった。駄目だ、おちる……。
「あ……あ……………」
薄れ行く意識の中で、俺は思った。
あいつの銀髪、白髪染めで染めてやる、と。
どうもです。
いや~、年の瀬も迫ってきましたねぇ。ていうかもう今日入れて2日で2009年終わりですよ。いや~長かったなぁ、今年も。
それは置いておき今回。なんだかラブコメっぽくなってしまいました。本当はあのあの後にシンと話しをするシーンを入れる予定だったんですが、忙しくてそこまで書けませんでした、すいません。
なんか不完全燃焼みたいな感じの今年最後の話になりましたが、まあよくできたと自負しています。本当に自負です。来年はもっとがんばりますので、今年はこれで勘弁してください。
それでは皆さん、少し早いですがよいお年を。
それでは、また次回。