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第33話 スリラー その①

ワルキューレとの戦いで負傷したシンを救うため、達也は雄介の家に駆け込み、再生魔術を施すが、雄介にシンが天使だとばれてしまう。

戦いの中に巻き込んでしまったと考える二人。だが、雄介は自分が望んでいた非現実の中に入れてもらったことに大喜び。

そして、二人に雄介が仲間に加わった。

 蝉がけたたましく鳴く夏のこの頃。

 プールサイドには紺や黒の水着を着た男女がわらわらと存在し、プールの中では女子たちが水の掛け合いをしたり泳ぎの競争をしたりしている。

 今日は夏の風物詩、アーンド、男子たちの眼球のヒットポイントを全回復させる儀式、水泳の授業だ。

「ええよ~…ええよ~…保養だ保養」

 俺の隣でハァハァと呼吸を荒げて香川が女子たちを凝視していた。その姿はまるで変態……いや、まるでなどという言葉を使わなくても変態ということは分かりきっていたな、そういえば。

 まっ、香川のことを言わなくても、ここにいる男子連中は全員腹の中じゃ考えていることは一緒だろう。顔に出していない奴もいるが、どこかいつもと挙動がおかしいから分かる。なにせ俺たちの学校の女子はなぜかはよく分からんが発育のいい子が多い。当然日常生活でも目のいくポイントは胸に尻と大体決まっているほどだ。それがスク水なんてものに包まれた日にゃ男子としても辛抱はたまらんだろう。

「あっ!! 荒川あらかわが尻の部分の布パチンってやったぞ!!」

 その言葉に、男子全員がクラスで一番グラマラスな体の荒川に目をやる。荒川は両側の布がずれたのか、水着の尻の右側の布を引っ張り離す。パチンッといい音を立てて、荒川の形のいい尻が華麗に揺れた。

『おおお~~~~~~~~~!!!』

 男子全員から歓喜の声が上がる。その声に何人かの女子はジト目でこちらを見ていたがそんなものはお構いなしに荒川に集中していた。

「ええよ最高! 最高だよこれ~!! ハァ…ハァ……」

 香川は喘息ぜんそく持ちと勘違いするほどまでに呼吸を荒げている。ぶっちゃけこいつのこんな声を聞いているくらいなら発情した犬の声を聞いているほうがまだましだ。何人かの男子は荒川のあの仕草しぐさにやられてしまったのか、次々と泳ぎもしないのにプールに入っていく。まあ、何故かとは言わんがね。男性としての生理現象とでも言えば大体分かるだろう。

 荒川あらかわ清美きよみ。俺と同じクラスの女子。さっき言ったとおりクラス一のグラマーボディの持ち主で水泳部という、まさに男子の女神とも言うべき女子。三好先輩と同じような黒髪ロングの髪がその美しさを際立たせているのだろうか。

「達也~……」

 その声に、俺は一時思考を中断した。そう、体育の授業は何クラスかと合同。俺はA組だからいつもはB組と体育は一緒だ。そして、B組にはあいつがいた。

「ずいぶんと熱心に清美ちゃんのこと見てたわね」

 そう。最強無敵の幼馴染様、美樹だ。

「そ、そんなことねぇよ……美樹」

 声が小さくて震えていた。俺は必死に見てませんよをアピールするため、適当にほうけたように宙を見ることにする。

 しかしそのとき、プールの中に何かが光ったように見えた。何かに反射した光というよりも、炎が揺らいだような、そんな感じの青い光がプールの中に見えた。

「あっ! 清美ちゃんがまた水着パチンッてやってる!」

 その言葉に、俺は今のことを忘れ荒川のほうに高速で首を向けた。しかし、荒川はただ友達と喋っているだけだった。

「ふぅ~ん……」

 その声に、俺はめられたことに気付いた。こいつ、なぜ俺のフェチを知っていやがる!!

「見てないって言ったわよね…」

 美樹は俺の肩を左手で掴む。濡れて滑ることを防ぐためか、爪が食い込むかと思うくらい強く掴まれて痛い。隣を見るとすでに香川や他の男子の姿はなく、奴らは遠くから口パクで「ゴメンな」とか「死ぬな」「イってこい」などと好き放題ぬかしていた。

「こんの、変態!!」

 ……ごめんなさい。






「…って~………」

 プールが終わって、俺たちは着替えて教室に行く途中。

 あの後美樹のやつは俺の股座またぐらと首を掴んで真っ逆さま持ち上げ、パイルドライバーの要領でプールにダイブしやがった。顔面から水に飛び込んだ所為で顔と首がこの上なく痛い。恐るべし、水圧の力。

「いや~、それにしてもこっぴどくやられたなぁ、草薙」

 横で香川がウキウキとしながら喋りかけてきた。大方、今日の授業で目に焼き付けた光景を今度は脳にツメを折って保存でもしているのだろう。

「おかげさまでな」

 ブスッとした表情で俺は返す。

「でも綺麗にキマッたよね。地面だったら確実に頚椎けいついは死んでるよ」

 さらに横にいた佐藤がサラリと怖いことを言ってきた。地面じゃなくてもダメージは甚大で、ついさっき保健室で湿布を貰ってきたばかりだってのに。

 それにしても美樹のやつも困ったもんだ。普通高校生にもなって男の股間を掴むか? ああそうか、やっと分かった。だからプールに落とされた後顔真っ赤にして小突いてきたのか。まったく、恥ずかしいならあんなことやるなってんだ。

「ハァ!? お前なんで木高が怒ったのか分かんねぇの」

「?? そうだけど」

「ハァ……まったく、草薙はこれだから、ねぇ、佐藤さん」

「はい。そうですねぇ、香川さん」

「……なんだよ」

 二人は近所の奥さん同士のような喋り方になる。

「「別に~」」

 ハモった。ムカつく。

「何なんだよ……」

 結局訳が分からないまま、時間はすぐに過ぎていった。













「……………」

 放課後。授業が終わって部室に顔を出した俺に新たな問題が起ころうとしていた。

「…なんスか、これ」

 部室の俺のいつも座る席に、首用のコルセットが無造作に置いてあった。

「べ…別に……ブッ!フフ……」

 部長は向こうを向いて肩を震わせながらそう答えた。よく見るとシンや雄介も俺と目をあわさないように笑っていやがる。間違いない、今日のことを知っている。そして喋ったのは俺と同じクラスのこのアホ天使に違いない!

「美咲。そんな風に人をからかっちゃいけませんよ」

「三好先輩」

 やっぱりこの人は女神だ。シンに言って本当に神の座に着かせてもらおうか。

「プ!! フフ……」

 そう思ったのも束の間。俺の顔を見た先輩は部長と同じように口に手を当て、向こうを向いて笑い始めた。

「クク……ご、ごめんなさい草薙君…プフ…!」

「……………」

 今回、このことを部員のみんなに知られたことよりも、三好先輩に笑われたことのほうがショックだった。

「あ、あんたが悪いのよ! ヤラシイ目で清美ちゃんのこと見てるから!!」

 美樹が言い訳がましくそう言った。まだ顔を真っ赤にしたままだ。

「お前なぁ、恥ずかしいくらいなら股間なんか掴むんじゃねぇよ」

「!! な……!!」

 その言葉に美樹の顔は発火するのかと思うくらいさらに赤くなった。

「なに!!? 美樹、あんたそんなことまでしたの?」

「だ、大胆だね美樹ちゃん」

 次々に外野からいろんな声が飛んできて、美樹の顔の紅潮はもはや爆発するのと思うほど……、

「何言ってんのよこの馬鹿ーーーーーー!!!!!」

「なぁっ!!!?」

 爆発した!! 美樹はいつもより三倍早く感じられるスピードに俺に近づき、アッパーを華麗に決めた。

「ブフェ!!」

 俺は奇怪な声をあげ、その場に倒れ付した。

「ここここ、この馬鹿!!! なななんて事をみんなの前で…!!」

「で、なに~。二人はもうそんなとこまで行っちゃってんの?」

 部長がニヤニヤとしながら空気をまったく読まなずに美樹に聞いた。

「!!! 馬鹿ーーーーー!!!」

「ぐぉふぇ!!」

 美樹は倒れてる俺の腹に思い切り拳を叩き込んできた。

「もう知らない!!!」

 結局、それから美樹は部活が終わるまで、部長の現役刑事真っ青のしつこい尋問に黙秘を貫き通し続けた。俺はというと、たまに美樹に聞くのに飽きた部長に話を聞かれたが、対面して向こう側に座っている美樹が睨むのでもちろん黙秘を続けた。

 今日の部活はそれで全部が終わった。ホント、何がしたいんだろな、この部は。






 下校時間になり、俺は美樹と顔を合わせるのが嫌だったためしばらく部室に残り、ころあいを見計らって部室から出た。もっとも顔を合わせたくなかったのは美樹も同じだろうが。

「くそ! もうちょい右来い、右!」

「ん?」

 玄関を出てしばらく歩いているとき、不意にどこかから声が聞こえてきた。辺りを探すと、プールのフェンス下のところに香川が数人の仲間をはべらせてプールサイドを見ていた。どこか全員コソコソと挙動がおかしいため、気になって近づいてみる。

「おい、何やってんだ香川」

「!!! やべぇ、逃げろ!!」

 何を勘違いしたのか、香川は俺の顔を見もせず周りにいた仲間に号令をかける。すると五、六人いた連中が蜘蛛くもの子を散らしたように散り散りに逃げていってしまった。

「何だったんだ?」

 俺は香川たちの行動が気になり、奴らが見ていたプールの中を覗いてみる。

「ははぁ~、なるほど」

 奴らがここでこそこそとたむろしていた理由が分かった。

 プールサイドには荒川が一人で佇んでいたのだ。水泳部は夏が活動の季節だからな。

 辺りには荒川以外いないから、多分一人で居残って練習でもしていたのだろう。

「あいつらもアホだねぇ。あんだけ見といてまだ足りないか」

 まっ、そういう俺も人のこと言えんがね。俺も成り行きとはいえしばらく荒川を見ていたんだから。別に更衣室覗いてるわけじゃないんだからそれほど悪いことでもあるまい。水泳だって男女混同なんだから。

「! 誰?」

「!! やっべ!」

 慌てて頭を下げ、体を隠す。さっきそれほど悪いことでもないって言っていたが、やっぱこっそり覗くことは悪いことだよな。こんな状況になったから反省。

「誰かいるの?」

 荒川は姿の見えない俺に向かって問うてくる。もちろん声が出せるはずも無いため黙秘。別に名乗り出ようと思えばできるが、隠れてしまってからいきなり出てきたら不審がられることは間違いない。もしそれが明日学校で流れようものなら俺は学校内で荒川のファンに襲われ、命を落とすことになるだろう。

 だから仕方ないが黙秘。今日黙ってばっかだな俺。

「きゃあああーーーーーーー!!」

「!!?」

 突然、プールサイドから悲鳴が上がった。俺は慌てて頭を上げてプールサイドを見る。

「きゃあーーーーー!!」

「あれは!!?」

 プールの水がうごめいて荒川に襲い掛かっている。荒川は腰が抜けたのか地面に尻をつき必死に逃げようとしている。

「荒川!!!」

 俺はフェンスをよじ登って助けに向かう。

 水の化物は体から触手のようなものを出して荒川に振り下ろす。俺は今フェンスを登りきって地面に着地したところで、助けようにもとても間に合わない。

「きゃああーーーーー!!!」

「荒川ーーーーー!!」

 俺は担いでいた鞄を化物の触手に向かってブン投げる。鞄は見事触手に命中。触手はパンッときれいな音を立ててまさに水風船のように割れた。辺りに水のしずくが飛び散る。

「ハァアッ!!」

 俺は他に伸びていた触手をナイフで切り刻んでやった。

「荒川!!」

 すぐに荒川に駆け寄って揺すってみる。どうやら恐怖で気絶しただけのようだ。

「この化物野郎!」

 俺は化物に向き直り、構える。すると化物はズルズルとプールサイドに、まるで寝そべるかのように上がってきた。そしてグネグネと粘土をこねるように自分の体を動かしていく。それを続けていくと、今まで不定形だった化物の形がだんだんと形を成していき、ついには人の形になった。

「やっと臨戦態勢ってか……」

 俺は気を引き締め、改めて構えなおす。

『ハァ…ハァ……』

「あん??」

 いきなり、化物が声を発した。妙に荒い息遣い。別に疲れているという感じの声じゃない。今日の授業の香川を思い出させてくれる。

『ハァ…ハァ……どけ…よ』

「ハイ~? 誰にモノ言ってんだ。誰がどくか」

『い…今から、イタズラ……するんだから…その子に』

「はぁ!??」

 その子、ってのはこの場合荒川以外考えられないだろう。

『い…今から、水着を切り刻んで…殴って…絞めて……犯して……ウヒ、ヒヒヒヒ……』

 ゾッとした。こいつは危ない。今までの敵のどんな奴よりも虫唾むしずが走る相手だ。

「ふざけんなドグされ!!!」

 俺はナイフで切りつける。見事に首の部分が胴体から離れた。だが、すぐに胴体のほうの切り口から触手が飛び出て首の切り口につながり、そのまま首は触手に引かれもとの位置に戻り再生した。

「この手の敵のお約束だな、再生は!!」

 だったら、と俺は素早くナイフを振り回し、バラバラにしてやる。しかしまた再生して元に戻る。

「ちぃ!!」

『じゃ、邪魔するなよ…お、お前…こ、殺すぞ……』

「っせー!! 出きるもんならやってみやがれ、キモ野郎!!」

 俺は諦めずに何度も切りつける。しかし結果は同じ、切っても切っても再生する。

「くそっ!!」

『邪魔だぁ!!』

「ぷぁっ!!」

 今まで攻撃を受けるだけだった化物が右手で俺を殴ってきた。今日感じたようにやはり水圧は恐ろしい。

『ハァ…ハァ……』

 化物は俺に背を向け、そのまま荒川のところに向かっていく。

「まだ終わってねぇぞ!!」

 俺は後ろから奴に切りつけたが、そこから触手が伸び、また同じように殴られた。

「ぐぁっ!!」

『ば、馬鹿だな……じゃ、邪魔しなきゃ…痛い思いしなくてすむのに……』

「くっ!」

 駄目だ。切ってもすぐに再生するんじゃ何もできない。

『ハァ…ハァ……』

 そのとき、化物の体で何かが光ったように見えた。どこかで見たことがあるような光。しかもそんなに前じゃない。つい最近見たことがある。

「!!」

 思い出した。あれは今日、美樹にパイルを喰らう直前に見た光だ。青い、炎が揺らぐような光。

「あれか!!」

 俺は走って化物の背中から光を突き刺した。

『グ…!! ギャアアアアアアーーーーーーーー!!!』

 耳を覆いたくなるような咆哮の後、光は消え、今まで刺していた水がさっきの触手のようにパンッと爆ぜた。必然的にびしょ濡れになる俺。だがまあ、これがエイリアンの体液とかだったら絶叫するだろうが、ただの水だから別にいいか。


 カシャンッ!


「!! 誰だ!」

 音がした場所に向き直り、さっきの荒川のように問いだす。もしかして、見られたのか。

「っ……!!」

 音の主はそのままどこかに逃げていった。

「あっ!! おい!!」

 声をかけたが、そんなことで戻ってくるはずがなく、結局逃げられてしまった。だが一瞬。ほんの一瞬だが顔が見えた。女子、それだけしか分からない。顔立ちと制服で分かった。それと、逃げていくときに見えた鮮やかな赤みがかった髪。

「とりあえず……」

 まずいことになった。それだけが、今の俺に残されたものだった。あっ、あと後ろで気絶してる荒川もいたな。


 俺の苦労も知らずに、蝉たちがけたたましく鳴いていた。

どもっス!!

まず、皆さんに言っておきたいことがあります。季節感ガン無視ですいません。もうクリスマスなのに夏の話です。アイール編で三ヶ月使わなかったらもうちょっと早く出せたのに。あとこの間の休載(汗)。

もう地元じゃ雪も積もっているので書いてるこっちが寒かったです。鍋食いて~。

それにしても、今回出てきた尻パッチン。皆さんはどうですか? 僕はあの仕草超大好きです。マジたまりません。そんな作者の趣味がふんだんの回でした。

それでは、また次回。

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