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第31話 準備

達也の決死の覚悟によって終止符を打たれたワルキューレ・対舘名戦は終わった。

達也はシンの元へ行くが危険な状態。その時、シンが言った回復魔術を実行するため、達也はある場所へと走る。

 彼は、目の前の光景を見て唖然としていた。


「よう……。あの、ハァ、今いいか」

「……………」

 そして必死に整理しようとしていた。目の前の、この状況を。

 今日は両親も姉たちもどこかに出かけていて家には一人。溜まっていたアニメを見たり積みゲーをしようとしたりと思い、さてやるかと椅子に腰掛けた瞬間チャイムが鳴った。誰だよ、といささか不快な思いを抱きながら、扉を開けてみたら今の状況があった。

「おい。……おいってば! 聞いてるか?」

 しかし、どうやっても状況を処理できない。いきなりの来訪者は同級生、これは分かる。だが、なぜその同級生が血だらけになって、同じように血だらけで銀髪な、明らかに同じ国の人物とは思えない少年を背負って尋ねて来たのかということが分からない。

「おいってば!! 聞いてんのか、坪井・・!!」

 その呼びかけに、やっと坪井雄介は我に帰る。あまりに動揺しすぎて、危うくマイ・ワールドに取り込まれそうになっていた。

「えっ? ああ、うん。聞いてるよ」

 嘘だ。

「今いいか?」

 そして尋ねてきた同級生、招かれざる客、草薙達也は聞いてきた。ハァハァ言いながら、軽く背負っている少年を抱え直す。

「いいけど……それ誰?」

「誰かいるか?」

 雄介の言葉を無視し、達也はまた質問を投げかけてきた。

「えっ? あ、うん。今は父さんと母さんは出かけてるし、姉さんたちもそれぞれ友達とどっか行っちゃってるし……ところでそれ誰?」

「そっか、そりゃよかった! じゃ、お邪魔しま~す」

 言うなり達也は雄介を脇に押しやりズカズカと我が家の敷居をまたぐかのように玄関に侵入してきた。

「えっ!?? あっ!ちょっと!!」

 雄介が制止させようとするがもう遅い。達也はいつの間に、と思うほど素早く靴を脱いで家に上がっていた。

「なあ、お前の部屋どこだ? 上か?」

 達也は質問しといて答えも聞かずに階段をダダダッと上っていく。

「ああ!! だからちょっと!!」

「ここか?」

 バンッと大きな音、扉を開く音。

「なんだこの部屋、きったねぇ~」

「ああ!駄目!! そこは明美あけみ姉さんの部屋だ!!」

 慌てて階段のを上って達也に追いつき説明する。汚いと言っただけで分かるということは家族の誰よりも部屋が汚いのだろう。

「マジで汚ねぇ……誰の部屋だよここ?」

「だから明美姉さんの部屋だよ!!一番上の姉さん!! ていうか勝手に何なのさ!? それは誰!!?」

 ピシャンッと明美姉さんの部屋の扉を閉め、ビッと達也が背負っている少年、シンを指差す。

「え~っと、こいつはあの、俺の親戚の従兄弟いとこの友達の親友の兄弟で……え~っと……」

「完全な他人じゃないか!!」

「違う!!あの、テンパってただけだ! こいつは、俺の、従兄弟で…え~っと……ジョ、ジョン・ミッチェル!!」

 どこのボキャブラリーから取り出したのかは分からないが、今思いつく最高に外国人っぽいような名前を適当に挙げておく。シンという呼び名は学校でも使っているから使えない。

「ジョン……ミッチェル……?」

 疑わしげな目でシンをまじまじと見つめ、今度はダランと項垂うなだれている顔を上げてじっくりと見る。

「どこかで見たような……」

 それはそうだろう、なんせ同じ部活に所属しているのだから。その時、顔を持っていた雄介の手にシンの首から垂れた血がつたって来た。

「うわっ!!?」

「!!?? クソッ!! さっき強く締め直したのに、またか!!」

 達也は鬼気迫る顔で雄介の肩を掴み、顔を近づける。

「いいか、もう時間が無いんだ。お前の部屋を教えてくれ。居間を血で汚されたくないだろ?」

「僕の部屋が血で汚れるのも嫌だよ!! ていうか何で君たち二人とも血だらけなの!? 何で背負ってるジョン君にしてみれば死にかけてるの!? 何で救急車呼ばないの!!?」

「頼む!! もう本当に時間が無いんだ!! 何も聞かずにお前の部屋まで連れてってくれ!!このままだったらマジで居間に行っちまうぞ俺は!!」

 達也は大声でなかば脅迫じみたことを言う。だが、確かに今は一刻を争う事態だ。それは雄介にも伝わったのか、はたまた凄みに押されただけなのかは知らないが悩みだす。

「え~っと、僕の部屋は汚れるの嫌だし、けど居間汚したらみんなに何て言われるか……あ~もぉ~!!こっち!!」

 雄介は達也を押しのけて、自分が先陣を切って二階の廊下を進んでいく。

「感謝するぜ、坪井!!」

 達也は感謝の意を述べ、雄介に続いた。






 二階の廊下をしばらく行った角の突き当たりに雄介の部屋はあった。

 割とキレイに片付けられており、本はきちんと本棚に、フィギュアやプラモデルは棚に、ときちんとあるべき場所に収納されており、さっきの明美姉さんの部屋とは月とすっぽんと言う言葉がぴったりだった。

「ここだよ」

「サンキュー。おい、おいって」

 達也は背負っているシンを揺すぶって起こそうとする。

「おい、おいシ……ジョン! おいジョン!!」

「ん……」

 数回の呼びかけで、シンはわずかに目を開いた。今回で今日三回目の蘇生。まさに天使と言ったところかもしれない。

「よかった、生きてたかこの野郎」

 達也は口こそ悪いが安堵の息を吐いている。

「ここ…は……」

「今はそれどころじゃねぇ。お前の言ったとおり安全でキレイな場所だ。キレイってのは俺が保障してもいいくらい条件クリアだぞ」

「そ…か……」

 シンはもう声を上げるのも辛いようで、一言発するごとにどんどん目が虚ろになっていく。

「早く教えてくれ、再生魔術を!」

「再生魔術!??」

 二人の会話を聞いていた雄介が素っ頓狂な声を上げる。

「ち、ちょっと!! 血だらけで死にそうって時に何言ってるの!???」

「ま…ずは……」

「おう」

 シンと達也はそんなことには耳も傾けずに会話を続ける。

「ちょっとってば!!」

「まずは……水を………コップに五つ………」

「水? コップに五つ? よしっ! おい、坪井!水をコップに五つ!」

 完全スルーを決め込み、さらには命令まで下してきている。これほど無礼な客人もそういないだろう。

「いや、だから………!」

「だからもヘチマも飲んだくれもねぇ!! 時間が無ぇんだ!!」

 達也はすごい剣幕で雄介を怒鳴りつけた。世話になっているという感覚はもう無いらしい。いや、初めからあったのかも疑問だ。

「は、はい!!」

 雄介はピンッと背筋を伸ばしてきをつけをし、そのまま階段を下りて台所まで向かった。

「何でこんなことを……」

 台所に向かう途中、涙声なみだごえになりながらポツリと呟く。せっかく誰もいなくて家を独占できる休日に、血まみれになって訪問してきた友人にパシリにされるなど想像もしていなかっただろう。盆とコップ五つ用意して水を汲み、何をされるか分からないためすぐに階段を上って部屋まで行く。

「草薙君! 持ってき………」

 危うくコップの乗った盆をひっくり返しそうになる。それほどまでにショックだった。すでに遅かった。

「おっ、速いな。それじゃそれをな……」

 部屋の真ん中のフローリングの床には、サインペンで大きく円が書かれ、その中には円にぴったり収まる五芒星が書かれていた。

「そのコップ五芒星の角のところに置いてくれ。きちんと位置揃えてな」

「何これーーーーーー!!!」

 絶叫せずには要られなかった。それほどまでにショックだった。自分が一番好きな領域エリアであるマイルームの、あまつさえ中心にでかでかと使用用途が黒魔術以外ありえないようなものが書き加えられていれば無理も無いだろう。

「ち、ちょっと!! 何これ!???!」

「何って、必要だから」

「何でサインペンなの!?? 鉛筆とかじゃ駄目だったの!!!??」

 雄介は達也にしがみ付いてすごい形相で問いただす。

「いや、近くのペン立てにあったのがたまたま目に付いて。まぁ、ありっちゃあ、ありなんじゃないか?」

 達也は悪びれもせずにそう言い放ち、続き続きと言って作業を続け始めた。

「……………」

 雄介は何も言わず、ただ思った。この世はうまくいかない事だらけだ、と。そして、もうどうでもいいやと思って、達也の言うとおりコップを置いていった。

どうもです。

今回は前回に比べて少し短い話ですみません。本当はもっとこの話で終わるはずだったんですが、ある死ぬほどムカつくことが起きて書いた文がどっかに飛んで言っちゃいました(泣)。

ですので、この続きは来週になります。呼んでくださってる皆さん、本当にすみません。

それはそうと、先週の更新のあとに、初めて感想をいただきました。ちょっとキャラクタープロフィールに指摘されたんですが、とても嬉しかったです。皆さんも感想や意見がありましたらいつでも送ってください。作者冥利につきます。

それでは、また次回。

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