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第30話 制裁

前回までのあらすじ

ワルキューレが出したミクロ・ガントによりまた形勢を逆転されてしまった達也。しかし決死の覚悟で行った策略により、ついにワルキューレの本体の場所を突き止めた。

 達也は走った。それはもう走った。体中が錆び付いた蝶番ちょうつがいのようにきいきいときしむ感じの痛みがする。

 だが、そんなことはお構いなしに、ただ眼前に見えているビルへと向かって体に鞭を打って走る。もう余り時間が残されていない。シンが倒れてもうすぐ五分が経つ。正直もう生存は絶望的な感じだが、それでも達也はシンが天使だからという何の根拠もない理由で生きていると思っていた。いや、生きていると信じていた。だからこそ、早く決着をつけねばならない。早く手当てができる環境にシンを連れて行かなくてはならない。

「ハァ……や、やっと…着いた……」

 さっきまでいた公園から目の前のビルまで距離は大体百メーター足らず。時間で言えば走れば十秒ちょっとだが、負傷と疲労がオンパレードの達也の体では、一キロくらい走ったと感じられほど疲れが溜まってしまった。

「チクショウ……もう少しだけだ…もう少しだけ普通に動けるようでいてくれ」

 達也は自分の体に願いを呟くと、ビルの中に入っていった。


「!!??」

「スンマセン…ハァ、あの…屋上ってどう行ったらいいっスかね……」

 達也は受付に座っている女性に道順を聞いたが、女性のほうは唖然とした顔で達也を見ている。それはそうだろう。目の前に血だらけの男が立って、何を言うのかと思えば屋上への道を自分に聞いているのだ。まだ救急車を呼んでくれと言うほうが幾分か分かる。

「あの……急いでるんスけど……」

「………えっ!!? あ、はい!」

 女性は素っ頓狂な声を上げる。

「その奥の扉の階段から行くことができます」

「そこだけですか?」

「は、はい! そこからだけです!!」

「そうですか……ありがとうございます」

 達也は一礼すると、言われたとおり奥の階段に向かっていった。

「あ、あの!救急車呼びましょうか」

 やっと軽い放心状態から抜け出た女性が、達也に一般的な質問を向けた。

「俺は後でいいっス……それよりも、向かいの公園に呼んでください……人が倒れてるんです」

 達也はそう言い残して、扉を開け、階段を上っていった。

「………何だったの?」

 女性は首を傾げて状況を把握しようとしたが、いくら考えても分からなかったから言われたとおり救急車を公園に呼んだ。その後、何事もなかったように自分の仕事を始めた。






「あ~!ダルッ!!何で十階もあんだよ!!」

 階段を上りながら大声で抗議。現在七階の踊り場辺りで、達也は壁に手を付きよたよたと崩れ落ちた。普通にダッシュで上っても息を切らすというのに、傷だらけで出血多量の貧血間近の人間が同じ条件で上るとなるとまさに無限回廊がごとき辛さだろう。だが、下にいるシンの事を、傷つけられた人たちのことが頭をよぎった瞬間、疲れは一瞬で消えうせ、またゼーゼー言いながら残りを上り始める。

「おっ!」

 そしてついにラスト、残り一本の階段の向こうには屋上へ入るためのドアが見えた。ついに無限回廊踏破成功。

「待ってろよ……」

 達也は一旦深呼吸。そしてスーッと吸った息を吐き出さずに肺にかっ込み、階段を一気に駆け上る。

「らぁああーーーー!!」

 雄叫びを上げながら勢いに乗せてドアを蹴破ろうとしたとき、ドアにはめ込まれていた曇りガラスの向こうに小さな影が見えた。それはどんどん大きくなってくる。

「!!!?」

 咄嗟とっさに危険を感知し、蹴ろうと上げていた右足を下ろし軸の左足を折って地面に張り付くように寝転ぶ。達也が地面に張り付いた瞬間、

 ガシャァアアーーーーンッ!!

 と、盛大な音を立ててガラスの向こうからワルキューレが飛び込んできた。追い詰められた本体の最後の足掻きだ。

「野郎っ!!」

 達也は自分の真上を通り過ぎて行ったワルキューレに向かってナイフを投げつける。ナイフはワルキューレにまっすぐ飛んでいき、浅く突き刺さった。

「ぎにゃああーーー!!!」

 扉の外で悲鳴が上がる。達也は一旦上ってきた階段を下りて、地面に転がり落ちたワルキューレからナイフを抜き取り思い切り踏みつけてやる。ガンッ!!という無機質な音が足の下で響き、後ろから「グヌッ!!」「グエッ!!」と二回続いてうめき声が聞こえてきた。

「……………」

 達也はゆっくりと振り返り、そして同じようにゆっくり階段を上っていきガラスが割れたドアを思い切り蹴破った。バシャーン!!と音を立ててドアが倒れる。その向こうに奴がいた。

「ひ、ひぃいいいいーーーーー!!」

 男は全身血だらけだった。左肩から右下のほうにかけて大きな切り傷が走り、右の脇腹には指された傷もあり、出血の大半はこの傷からのものだ。そして三発の銃弾痕。もはや間違いようがない。

「こいつが……本体か……」

「ひぃいいいーーーーー!!」

 そして男は、舘名はもう一度大きな悲鳴を上げた。

「やっと見つけた……。会いたかったぜ、お前にな……」

 達也はゆっくりと舘名に向けて歩き出した。

「く、来るな!! 来るんじゃねぇ!!」

 舘名は逃げようと後ろに後退るが、後ろの柵に体をぶつけて派手に前に倒れる。もう足腰の力も限界なのだろう。そしてなにより、屋上からの出入り口は達也の後ろにある扉、正確に言うなら扉がはめ込んであった穴だけなのだ。ここを出るためには今来るなと言った相手に向かって突っ込んでいくか空を飛ぶ以外に方法はないが、どちらも実践は不可能だろう。

「た、頼む、来るな…来ないでくれ……」

 舘名は尻を地面につけた状態で尚も後ろに下がって逃げようとする。そんな舘名を、達也は胸倉を掴んでグイと持ち上げて立たせる。

「ひぃっ!!」

「お前は……」

「えっ!??」

「お前は…そんなことを言わせる間も無く、無関係の人を……傷つけた!!!」

 言い終わりと同時に、達也のカンカンに握りこんだ右拳が舘名の顔面に深々とめり込んだ。

「ブベラッ!!!」

 妙な悲鳴を上げて舘名の顔面が歪み、後ろに吹き飛ぶ。しかしそれにつられて吹き飛ぼうとする体を、達也は掴んだまま自分の下に引き寄せる。舘名の首は赤べこのように前後に揺れる。そしてさらに達也は拳を握り、固める。さっきよりも強く、さっきよりも硬く。

「お前は、絶対に、許さねぇ!!!」

 また弾ける達也の拳。

「ぶがっ!!」

 そしてまた舘名の首も後ろに吹き飛ぶ。しかし、あまりに強すぎた所為か、達也が掴んでいた部分から服が破れ、優に三メートルほど舘名は後ろに飛んでいき、二回、三回と地面に体を打ち付けるように転がる。

「ひぃいいー…!! た、助け……」

 しかし、舘名の心からの願いが口から出きる前に達也は舘名の髪をむんずと掴んで持ち上げる。

「ああああ!! 助けて、お願いだ!!」

「やだね」

 ただ一言そういうと、今度は腰に嫌と言うほどの蹴りを入れる。

「ギャハッ……!!」

 あまりの痛さにもはや悲鳴すら満足に出ない。

「さっきも言っただろ。俺はお前を許さん。許す気なんざさらさらこれぽっちも無い。俺たちはまだいい。覚悟をしてお前と戦ったからだ。けど、覚悟の無い人はどうなる。覚悟する間も、自分が何で死ぬのかも分からないで死んでいく人たちは………」

 達也は舘名の体をこちらに向かせ、もう一度破れた胸倉の部分を掴む。

「どうなる!!!」

 もう一度鉄拳。

「ぐぺっ!!」

「お前は殴る価値も無いクソだが、殴らなくちゃ、気がすまねぇんだよ!!!」

 達也は拳を今までで一番強く、硬く握り締めて叩き込んだ。

「ぶらっ!!」

「らぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 休む間も与えず、何度も何度も達也の拳の連打ラッシュが舘名の顔面に雨のごとく降り注ぐ。

「ぷぺしゃらもげほおぶしぇらばとめほぎ………!!」

「らぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 拳の雨はまだ止まない。何度も何度も舘名の顔面で弾けそして反動で戻ってきた顔にさらに強い一撃が降りしきる。それが終わることなく続く、まさにこれこそ無限回廊だ。

「らぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「ふめらしゃもげばきこえみらぎぎがげじゃもさしゃら……!!」

「っらぁ!!!」

「ぱぁ!!!」

 やがて、それは全体重を乗せた達也の一撃で終わる。達也が手を離すとさっきよりも吹き飛び、転落防止の柵ぶつかる。柵はぶつかった瞬間、ぶつかった形にぐにゃりとひしゃげてしまった。まさに怒りのパワーの勢いかもしれない。

「ふ…ふへぇ~~~~!!!」

 舘名は情けない声を出して顔を上げた。その顔はまさに達也がここに来る前に宣言したとおり、クチャクチャに変形していた。顔色は紫色と赤色しか確認できず色んな箇所が腫れたりへこんだりしている、右の拳がよく当たりやすい位置にあった左の顔面はもっと悲惨で目は完全に腫れあがってもう自力では開けることはできないほどになっている。

いふぇ~、いふぇ~ほ~~!ほおやへへふふぇ~!はがへたぁ~!あふぉふふぁふぇふぇるふぁほひれはい。ふぁふぉうはらやへへふふぇ~~!」

 何を言っているのかさっぱり分からない。宇宙人でももう少しうまく話せるかもしれないほど舘名は発音できていなかった。おそらく『痛ぇ~、痛ぇ~よ~~!もうやめてくれ!鼻が折れたぁ~!顎も砕けてるかもしれない。頼むからもうやめてくれぇ~~!』と解読でき、ないこともない。

 しかしそんなことは気にせず、達也は舘名に歩み寄っていく。おそらく今の宇宙語を解読しようともしていないだろう。頭の中にあるのは未知の言語を解読してやったー!分かったー!!と悦に浸るよりも、ぶちのめす事しか考えていないのだ。

「お前が何を言ってるのかしらねぇが……」

 もう一度、今度は首を掴み持ち上げる。

「ふぃ、ふぃぃいいいいいいいい!!!」

「お前の言うことは……」

 渾身の、最後の一撃を固め、

「聞かんっ!!!」

 放った!

「ぢゅらっ!!!!!」

 拳はジャストミートで真ん中、鼻っ柱はなっぱしらに見事に命中。今まで聞いたどの悲鳴よりも汚い声を上げて吹き飛ぶ。その体は拉げてしまった柵に当たったが、柵の上を基点にぐるりと体が回転し、柵の向こう側、すなわち空中に向かって行った。

「!!?」

 さすがに達也も予想外のことが起きてすぐに舘名のその手を捕まえようと走り寄るが、後ろから『キィイイイーーーーーン』という音が聞こえてきて後ろに目をやると、さっきまで何の音沙汰もなかったワルキューレが達也に向かって飛んできている。

「なっ!??」

 咄嗟に体ごと地面に倒れるような形で避ける。ワルキューレは尚も追撃してくるかと思ったが、達也の側を通り抜けて地面に向かって落ちている舘名に向かって加速する。

「!!? 何を……」

 達也はすぐに体を起こし下を見る。ワルキューレはどんどんスピードを上げ、落下している舘名の下に回りこむと一気に上昇し、舘名を下から押し上げる。それを高度を常に下げつつ、階段状にどんどん繰り返し、そのままビルの裏に流れていた川のほうに向かっていく。

「しまった!!」

「ふぉふゃはははっ!!馬鹿ぶぁかめっ!! ふぉのくそ野郎、ふぃまに見てろ! 何時ふぃつか必ずふっ殺してやる!!」

 何度も上に上がったり下に下がったりと繰り返しながら大声で暴言を吐き、舘名はそのまま川の中に落ちた。おそらく泳いで逃げるつもりなのだろう。達也はその姿を見て額に手を当てて大きくため息を吐き、呆れてしまった。

「…本当に殴る価値の無いやつだったな」

 やれやれと口と態度で表すと、急に達也を強烈な目眩めまいが襲った。

「あ……あれ?」

 足が言う事を聞かずにもつれ、その場に派手にすっ転ぶ。立ち上がろうとするが、見える世界全てがぐにゃぐにゃに見えて地面が軟らかくなったのかと錯覚を起こす。

「確かに、下でもう少しだけ動けるようでいてくれって言ったけどよう……前言撤回、今から・・・・もう少しだけ動けるようでいてくれ……せめて、あいつが助かるまで…」

 達也はぐにゃぐにゃに見える地面にしっかりと足を付き、立ち上がった。まだ視界はまったく直らない。本人が呆れるほどの空元気、やせ我慢だ。もうどこまで続くかは分からない。実際に達也はここまで来るのにすでに無理をしているのだ。手首を切られて激しい出血を起こし、いくら作戦とはいえミクロ・ガントをダイレクトに二発も受けているのだ、この時点からすでに立てていることがおかしい。この時点ですでに体に無理なお願いをしているのだ。だけど達也は立った。そして願った。この無理を叶えてくれ、と。

「スー……ハー……スー……ハー……」

 大きく深呼吸を二回して、達也は目を閉じ、体をダランとして脱力する。

「……よしっ!!」

 そして、そのまま全力疾走で階段を下りていった。だが、階段を下りきるまでに十七回も転んで、尚且つ、またいらん傷を作る羽目になってしまうことになるとは、そのときの達也は知らなかった。






「はぁ……ああ……」

 舘名はあれからひたすら泳ぎ、川の下流のほうまで逃げてきていた。

「もういいだろう……」

 もうしばらく浸かっているとそろそろ傷も開いて大変なことになってしまうため、近くにあった住宅地から川への排水溝の所に手を掛けそこを上って寝転がる。もうこの際服がどうなろうと構わないらしい。

『こりゃあ、こっぴどくやられたねぇ』

「!!?」

 突然聞こえてきた声に驚き、すぐに立ち上がって構えるが、その姿を見て構えを解いた。

「ガロウ……さん……」

『は~い、ガロウで~す』

 そこにはあの黒い影のような存在、ガロウが立っていた。呼びかけに対してまるで子供向け番組の体操のお兄さんのような感じの飄々さで返す。その男か女かも分からない中性的な声と言動のせいで逆に子供のようにも思える。

『それにしてもあらあら、ずいぶんなやられ様だね、これ。いや~ある意味たいしたもんだこりゃ』

「―――――――――!!」

 その言葉を、いささか不愉快と感じたのか、舘名は砕けて痛いはずの顎に力を込め、下唇を噛んだ。

「で、何か用ですか、ガロウさん」

『んっ? あ~……そうだ!大事な用があったんだ』

 大事な用を完全に忘れていた状態から引き出し、ガロウは両手を前でポンッと合わせる。

『マスターからの伝言だよ。君はもう要らない。今までご苦労さん、だって』

「……はっ?」

 舘名は心の底から聞き返した。何を言っているのか本当に理解できなかった。

『だ・か・ら~、君はもう僕らの仲間でも何でもないの。だからさよなら、バイバイ』

 そう言ってガロウは舘名に背を向け、排水溝の闇の中に消えていこうとする。

「ちょ、ちょっと……!! ちょっと待ってくださいよ!!」

 舘名は慌ててガロウのマントを掴みそれを静止する。

『……何?』

「ち、ちょっと! 要らないって……要らないってどういうことですか!!」

『いったままの意味さ。要らないものは要らない。それだけだよ』

 ガロウは掴まれたマントを引っ張って舘名の手を払うとまた歩き出す。

『まっ、君にはワルキューレがあるんだから、それで面白おかしく暮らせばいいじゃない。普通の人間とは違うんだからさ、ハハハハハッ!』

「ふ、ふざけんな……」

 その言葉に、ガロウの足がぴたりと止まる。

「ふざけんじゃねぇこのマヌケ野郎がっ!! 俺が要らないだと!!俺が今の今までお前たちの為にどれほどのことをやってやったと思う!! 今回もそのせいでこんなズタボロの雑巾みたいになったってのに、言いにきたのはもう要らないから消えろだと!? ご苦労だと!? この腐れチンカス野郎が!!」

『……そのセリフは、マスターに向けて言った事かい? それとも僕に向かって言った事かい?』

「両方に決まってんだろ、このダボがぁ!!」

『……………』

 ガロウは何も言わずにまた歩き出す。

「ま………!」

 すぐに舘名が追おうとして前に踏み出た瞬間、

「ん……………!!?」

 いつの間にかガロウが目の前に立って舘名の口の部分を鷲掴みにしていた。

「んーーー!!? んんーーーー!!」

『生意気なことを抜かすなよ、人間』

 その時のガロウの口調は、今までのものとはまるで違った。いつもの飄々とした感じとはまるで違い、声色はいつもと同じだが、その中に何とも言えぬ黒い意思が宿っていた。

「―――――――――!!! んーーーーーーー!!!」

 ガロウは口の部分を掴んでいる手にさらに力をいれると、メキョメキョとあまり気持ちのよくない音が鳴る。顎の骨がさらに砕けていく音だ。そのあまりの痛みに、舘名は失禁していた。濡れていたズボンに新たな濡れ染みが出来上がる。

『あのまま大人しく言うことを聞いていればいいものを。人間とは扱いやすいが、同時によく分からん生き物だな』

「んんーーーーー!!」

『!!?』

 急にガロウは掴んでいた手を離し、後ろに数歩飛び退く。そしてさっきまでガロウが立っていた地点にワルキューレが飛翔していた。

『これは驚いた。反抗の意思だけではなく、私を殺しにかかるとは』

「はぁー……はぁー……」

 舘名は地面に両手を付き、肩で息をしながら涙を流していた。そしてキッとガロウを睨み、立ち上がって右手を前に向ける。その前にワルキューレが飛んできて止まり、回転を上げる。

「こ、この腐れ野郎がぁーー!! もう許さねぇ!!」

 右手の前に止まっているワルキューレがどんどんと回転を上げる。どんどん。どんどん。

「この距離でこの回転だ!! 避けるのは不可能!! 一瞬でそのクソが詰まった胴体を真っ二つにしてやる!!」

 それを見せ付けられても、ガロウは特に焦っている様子はなかった。

『やめておけ。それを撃ったら後悔するぞ』

「誰がやめるかぁ!! 死にやがれぇーー、ガロウーーーー!!!」

 そして、回転が最高になったワルキューレが舘名の右手から放たれた。

「えっ……?」

 だが、発射されたワルキューレはいつの間にか前方から消えていた。そして何故か、舘名は自分の目線が左に少し傾いていることに気付く。

「えっ? え……?」

 急に首に走る激痛。目線だけを右にやると、自分の首筋に消えたワルキューレが突き刺さっていた。

「う…うわぁあああああああああ!!!」

 舘名は驚きと恐怖の絶叫を上げる。

『だから言ったんだ。撃ったら後悔する、と』

「うわぁああああああ!!」

 舘名は右手で刺さっていたワルキューレを引き抜く。そこから大量に血が吹き出たが、もう関係ないといった具合に、ワルキューレを持ったままガロウに向かって切りかかっていった。

『往生際が……悪いぞっ!!』

 ガロウは素早く手を振ると、何かがキラリと数回光った。

「うあ……!!」

 そして、気付いたときには舘名の右手がボトリと地面に落ちた。そして体に次々に線が入り、そこから体がバラバラと崩れていった。

「ガローーーーーーーーーーーーーウ!!!!!!!!」

 言葉を言ったと同時に顔にも線が入り、憎しみの断末魔を上げながら舘名はバラバラになった。

『……これで本当にさよならだ。舘名たちな燐之介りんのすけ

 ガロウはそう言ってマントを翻すと、何時かのごとく消えていた。そして、バラバラになった舘名の死体も、ガロウが消えてすぐに、同じように消えた。













「痛って~!!ちくしょう!!」

 十六回目に階段で転んだ時にできた頭の傷を押さえながら達也は公園に急いだ。頭の傷はこぶではなく割れているためドクドクと血が流れているが、関係ないといった感じで達也は走り続けた。公園にはすでに何台かの救急車が来て救急隊員がけが人を収容していた。辺りには少ないが野次馬がぞろぞろと集まってきている。

「やった!受付のお姉さんありがとう!!」

 救急隊員に見つかったらそのまま病院に連れて行かれる可能性があるため、達也はばれないように少し離れたところの柵を乗り越えて公園の中に入った。

「シン……!!」

 達也は急いでシンの倒れている場所まで向かった。途中で救急隊員に見つかりそうになったが、何とかやり過ごし、ついにシンの場所にまでたどり着く。

「シン!!」

 シンは眠ったように目を閉じ、ピクリとも動かない。恐る恐る手首を取ってみると僅かに脈がある。

「よかった~……」

 達也は肩の荷が下りたようにその場にペタンとしりもちをついてしまう。しかし、のんびりしているままではいけない。

「待ってろ、すぐに救急車のとこまで運んでやっからな」

 達也はシンをおんぶする様に担いで連れて行こうとしたが、

「待…て……」

 信じられないことにシンが意識を取り戻した。

「シン!!お前、大丈夫なのか!?」

「救急……車の…所に……行かないで……くれ………」

 辛そうに口を動かし、精一杯大きな声で語りかけてくる。

「でも……じゃあどうすれば………!」

「どこか…安全で…キレイな場所……に………連れて行ってくれ……そこでなら…再生魔術を……施すこと…が……」

 そう言うと、またシンは気を失った。

「シン!! 再生魔術? 安全でキレイな場所?」

 達也は必死に思考を張り巡らせる。

「路地裏なんかは人が来ないけど汚いし……俺の部屋ならそこそこ片付いてて人も来ないけど遠いし、シンの家だってそうだ……人が来ないって事を省いてもなかなかそんな場所……あっ!!」

 達也は何かを思い出す。頭の中の電球が百ワットくらいの明るさで光った。

「あいつのとこなら……でもどう説明……いや、この際言ってる暇なんて無い!!」

 達也はシンをもう一度担ぎ直す。

「悪りぃな、お前の秘密バラすことになるけど、許してくれ」

 そうシンに語りかけ、達也は急いである場所に向かった。

どうもです。

今回で一応戦闘は終了しました。次くらいの話で多分このワルキューレ編は一応終わる見込みです。

それはさておき最近深夜アニメが多くてもう見るの大変です。あっ!だからと言って書くのに支障はきたしませんからあしからず。

それではまた次回。

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