第28話 逆転
前回までのあらすじ
ワルキューレとの戦闘において瀕死の重傷を負ったシン。なんとか彼を庇いながら戦う達也だが、それも難しくなってくる。何とか有利な状況下に自身を置くことに成功した達也だったが、そこから引きずり出すために、ワルキューレは関係のない人間たちを襲い始める。その行動に、達也は………。
怒り。ただそれだけだった。
今、達也の心のすべてを支配している感情は、それ以外の何ものでもなく、それ一つだけだった。
「てめぇだけは…てめぇだけは絶対に許さねぇ! こんな便器にこびり付いたクソのカスほうがまだキレイだと思えるほど汚ねぇ野郎はお前が始めてだぜ」
『ヘヘッ、言ッテクレルジャナイカ! イチイチ手段ナンカ選ンデヤッテラレルホド御人ヨシジャナインダヨ。使エルモノハナンダッテ使ウゼ、オレハ……』
「うおぉおおおお!!!」
達也はワルキューレが言い終わらないうちにナイフを振りかざし突っ込んでいた。
『ウォワッ!!?』
「はぁあああああああああああ!!」
ナイフは一見むちゃくちゃに振り回されているようにも見えるが、その一つ一つは鋭く重いものだった。ワルキューレは高速でそれをかわすがどれも紙一重でかわしている危険な状態である。
『クゥ!! キレタラコレホドトハ……』
「うわぁああああああああああああ!!!」
達也の猛攻は止まらない。しかも、徐々に振りの速度が速くなっていっている。それについていけず、ワルキューレは何度かそれに掠ってしまうほどだ。
『ウオッ!! ウワッ!!!? チクショウ!! ココハ引キダ!!』
ワルキューレは達也が大振りになった一瞬の隙をついて向こう側えと方向を変え飛んでいこうとする。
「逃がすかっ!!!」
すぐに達也もその後を追いかけようと一歩前に踏み出す。
『ナンテネ!』
いきなりワルキューレが方向を変え、達也のほうに向かって飛んできた。
「ちぃっ!!」
間一髪でナイフを振り下ろし、それを受け止める。だが、鋭い痛みが受け止めたナイフを持つ手に走った。
「なっ…なにぃー!!?」
受け止めた右手の手首には深い切り傷がいつの間にか出来ていた。切り口からは大量の血が流れ出て、生々しく肉がえぐれたようになっており、薄っすらだが白い骨も見えるほど深いものだった。
「ぐぉあああ!!!」
『ヘッ!!』
あまりの痛みに達也は右手を押さえてうずくまってしまう。
『モライィ!!』
「はっ!」
向かってきたワルキューレを地面を転がり間一髪で避け、すぐに距離をとるために走り出した。
『今度ハコッチガ追ウ番ダ!!』
形勢逆転。今度は達也が追われる番となった。だが、こんな状態でも達也の怒りは静まっていない。追われながら後ろに飛んでいる卑怯な円盤を叩きのめしてやろうか考えを張り巡らせていた。
さっきのあの光景が、目に焼きついて離れない。傷つき倒れていく人々。逃げ惑う人達。自分の子供が傷だらけになり、何度もその子の名を呼ぶ親。ただ楽しく休日を過ごしていただけなのに。何もしていないのに、知らないのに、こんな意味の分からない戦いに巻き込まれ、そして何も知らずに倒れた。
それが許せない。達也は今まで感じたことがないほどの怒りに満ち満ちていた。それをすべてあいつにぶつけてやる。本体にぶつけられないなら、本体と繋がっているというこの円盤を破壊してやる。原形を留めないほどにまで破壊してやりたい。今の達也の心中はそんな感じだった。だがまず、やはり一番に考えているのはどうぶっ壊すか、ではなく傷つけられた傷の謎のことだ。
(なんでいつの間に傷ができてるんだ!? これがやつのもう一つの能力。いや、秘密か……)
そこで気を失う前にシンの台詞を思い出す。
『さっきの攻撃、かわしたはずだった……。いや、かわしたんだ。でも、駄目だった……』
(かわしたはずのなのに傷がつく?)
まるでなぞなぞだ。正直、達也はシンと出会う前まではそんなに心霊現象や超常現象みたいなものは心から信じていたわけではなく、いたらいたらでいいんじゃないか、特番がやってれば暇潰しに見よう、程度の感じだった。だからそれまでの達也は物事を道理的に何でも考える奴だった。物事には道理が付きまとう、それは能力にしても同じことだろう。何もされずに切れるなんてありえない。
(まるで見えない何かに切られたような………)
考えていたときにワルキューレの接近音が左側から聞こえてきた。
「くっ!!」
首を右側に傾けそれを避ける。そのときだった。
―――キイィィィィン―――――
「!!?」
ワルキューレが耳元を横切っていった時に聞こえた妙な音。風切り音とは違ったもう一つの音。
(まるで掃除機みたいな、何かを吸い込む音――――― !!)
そこまで思って達也は気付いた。ワルキューレの秘密に。
(そうか分かった、分かったぞ!! そうとしか考えられない! ついに見つけたぞ、見えない攻撃の正体!!)
『ソロソロ観念シナッ!!!』
ワルキューレは達也に向かって突進していく。達也はそこで止まり、くるりと向きを変えると、ワルキューレに向かい構えた。
『ハハハッ!! マジニ観念シタカ?』
ワルキューレは道端で小銭を拾った子供のようにはしゃぎながら突進の速度を速める。だが、それに対して達也はいたって冷静な顔になっている。しかもいつもとナイフの構え方も違う。いつもなら両手ともにナイフを逆手に持って戦うのが基本の構えであるが、今回は右手だけ逆手に持って左手は普通にナイフを持って構えている。
『終ワリダァア!!』
ワルキューレが達也の体に触れようとした刹那、達也はさっきと同じように右手を振り下ろしナイフで防御する。
『(プッハー!! こいつ馬鹿だよ、さっきと同じ事してやがる)』
ワルキューレの本体はさっきと同じ事をしてやろうとした瞬間。
ガァアアン!!
『(!!!?)』
達也の左に持っていたナイフがワルキューレを面の細い刃の部分から貫いていた。いや、正確に言えば貫いたのではない。よく見るとワルキューレの刃部に顔を近づけて見ないと分からないような細い隙間が開いており、ナイフはその隙間に突っ込まれていただけだった。
『ゲェッ!!?』
「いつの間にか切られてた事の正体、分かったぜ。この微細な隙間から飛んでるときに吸い込む空気を一気に噴出して空気圧で物を切ってたんだろ。結構怖い能力だが、秘密が分かればこんなもんだぜ」
そう言って達也はワルキューレの上の部分についているファンのように開いた隙間をちょんちょんと触る。
『マ、マズイッ!!』
「これで、動けねぇよなぁ……おいっ!!!」
そこで、達也の顔がさっき見せた憤怒の形相に変わる。
『ヒィイイイエエエエエエエエエエエ!!!!!!』
右手に逆手に持たれていたナイフが上えと振りかぶられる。
「だぁあらアアアア!!!!!」
そして一気に振り下ろされる。ナイフはワルキューレの固い表面を貫き、巨大な穴を開けた。
『グワェエエエエエエ!!!!!痛ェエエエエエエエエ!!!!!痛ィイイイイイイイイイイ!!!!!』
機械的な円盤型ボディから鮮血が飛び散り、辺りにワルキューレの絶叫が響き渡る。
「ちぃっ!!」
だが、攻撃を当てた達也は苛立ったように舌打ちをする。
(本来なら円盤のど真ん中に振り下ろそうとしたのに………!!)
咄嗟にワルキューレがナイフを抜いて逃げようとしたため、狙った場所がずれてしまったのだ。
『アアアアアアッ!!!痛ェエエエエ!!! チクショウゥウウウ!!!!』
すると、ワルキューレが今度は螺旋の渦を描くように回転しながら達也に迫ってきた。
「なっ!!?」
達也は一瞬たじろぐ。今までのように直線的な動きなら何とかできたが螺旋を描くような形だとタイミングが今までと違いすぎるし動きを捉えにくいのだ。
「はぁっ!!!」
達也はタイミングを合わせてナイフを振るが、見事にかわされてしまう。すると、ワルキューレがいきなり面になっている上の部分を達也のほうに向けて突っ込んできた。
「なっ!!?」
いきなりの行動に不意をつかれ、動きが一瞬遅れた達也に面の部分が腹めがけてぶつかった。
「ぐぇえっ!!!」
腹部に走る嫌な感じ。鈍い痛みが達也の腹に走る。だが、それだけではなかった。
ドォオオン!!!
「!!!?」
突然ワルキューレから破裂音が響いたかと思うと、達也が後ろにすっ飛ばされていた。そのまま後ろのワルキューレに破壊されたホットドッグ屋の車に衝突する。
「がはっ!!!」
ガシャアアアン!!と言う大きな音と共に車の側面に大きなへこみをつけるほどの勢いで吹き飛ばされていた。
「がはっ!!」
吐血する達也。だが、それは今の衝撃の所為ではなかった。ワルキューレがぶつかった部分に小さな傷跡が八つ付いており、そこから血が流れ出ていた。吐血したのはもちろん衝突の所為もあるだろうが、大半はこれの所為である。
「い……たい、これ…は……がはっ!!」
そこへワルキューレが近づいてきた。
『ハハハハァ、ハァハァ、見タカチクショウッ!! それがワルキューレの最終兵器、空気ヲ取リ込ム穴カラ空気ヲ相手ニ密着シタ状態デ噴出スル『ワルキューレ・ミクロ・ガント』ヨ!!』
「ぐっ……!!」
達也は立とうとしたがすぐに転んでしまう。もう足に力が入らないのだ。それほどさっきの攻撃、ワルキューレ・ミクロ・ガントは凄まじかった。
「くそぉ……」
またもや形勢逆転。達也はほぼ『詰まれた』状態にあった。
どもッス!!
この間は旅行があったので(結局旅行にはいけませんでしたが……)金曜更新でしたが、今回からまた水曜更新に戻していきたいと思います。これからも不出来な自分の作品をよろしくお願いします。
それではまた次回。