第23話 予感
突如町を襲った停電。その原因はどうやら変電所で起こっていたらしかった。
変電所の中に入った達也たちの前に、この辺りの守護をしているというピクシー族の木村健(本名は言えないらしい)の案内で向かった敵の潜む変電室。そこにいたのは、グレムリンと呼ばれる魔界生物。
そして突如、達也がグレムリンの攻撃を受けてしまう。
何が起こったのか分からなかった。
「達也!おい!大丈夫か!」
どこかからシンの声が聞こえてくるが、達也は耳に入らないでいた。
地面にだらりと横たわったまま、体の痛みの走っている場所、自分の腹部に目を落とす。さっきシンがグレムリンと呼んでいた奴らの一匹に思い切り頭突きをされた箇所だ。着ていたワイシャツはズタズタになり、肌は軽く煤こけて黒くなり、ワイシャツ同様ズタズタに切り傷がついていた。スーッとする匂いが鼻を通り抜けると共にやっと我に返る。
「達也っ!!」
「はっ!!?」
それと同時に、丁度いいタイミングでシンの声が入り、正常な意識を取り戻す。
「すぐに移動しろ! また来るぞ!!」
「あ、ああ……、あれ?」
だが、立ち上がろうとすると足にうまく力が入らず、すぐにまた倒れてしまう。
「あ、あれ!?? なんでだ?」
体は腹にある痛みを除けば全て正常であり、動くはずなのは自分自身の体であるため分かっている。だが、まるで何かが体を動かすのを邪魔しているように、力を入れるとくすぐったい感覚と共に動かなくなってしまう。
「早く来い!!」
「分かってる!! でも動かないんだ!!」
「!! ちぃっ! 奴らめ!」
シンはグレムリンの様子を伺い、自分に攻撃が来ないことを見極めると共に、達也の下に走り出した。
だが、達也の前に既にグレムリンの一匹が一瞬早く構えていた。
「!!!?」
「キュイッ!!」
そしてさっき見せた見えない頭突きを、今度はご丁寧に見えるようにしてくれたのか、まっすぐこっちに突っ込んできた。
「うわーーー!!」
「フラッシュ・カートリッジ!! ファイアッ!!」
グレムリンが突っ込んできた瞬間、シンが銃を自分の斜め上に向かって発砲する。それと同時に強烈な閃光が辺りに広がった。
「うわっ!?」
「ギュイイッ!!?」
そのあまりの光に、達也は目をつぶってしまい、そして同じく閃光に驚いたグレムリンも、目を押さえて体を丸めた所為で頭突きが途中で止まってしまった。その隙を突いてシンは達也の襟を掴んで、入ってきた曲がり角のところまで素早く運び込んだ。
「な…何だってんだ、いったい……」
「グレムリンの肌には常に電気が通ってる。さっきの頭突きのときにダイレクトに体に流されたんだろう。それで体の電気信号が麻痺してるんだ」
「そのグレムリンって一体何なんだよ」
「グレムリンは電気を食らって成長する魔界生物。昔は空を飛んで雲の中の雷になる前の静電気を食ったり、飛行機のバッテリーなんかを食いによく飛行場にも出現した。だが変だな……いくら奴らでも変電所の電気を食いに来るなんて………。飛行気乗りには迷惑をかけるが、一般の人間に被害を及ぼしたりはしない奴らなのに」
「あんま想像したくねぇな……あんなのが空飛んでるの……」
「ギギィッ!!」
その時、曲がり角から一体のグレムリンが出てきて目が合う。
「!! ギギギギィーーー!!」
「やべっ!!」
とっさにシンは銃でその眉間をぶち抜くが、既にさっきの雄叫びで向こう側にいるグレムリンが大量に集まってきていた。
「キュイッ!」
「キュキキィッ!」
「キュキュキュッ!」
せわしく鳴き声を上げながら、どんどんグレムリンが集まってくる。
「駄目だ、来る! もう動けるか?」
「ああ、何とか動ける」
「じゃあ行くぞぉ!!!」
「っしゃあ!」
達也とシンは一斉に曲がり角から飛び出し、グレムリンの群れに立ち向かっていった。
「はぁっ!」
「しゃらっ!!」
「キュゥウウ!!」
「キュァアアアアアア!」
達也とシンはグレムリンを大量に倒していったが、敵はぞろぞろといろんな場所から這い出てくる。
「これじゃあ切りが無ぇ!!」
「分ぁってるよっ! 俺だってこんなこと初めてなんだよ!こんな数に相手にしたのもなぁ!!」
銃で何度撃たれても、ナイフで何度も切り裂かれても、グレムリン達は迷うことなく二人に突っ込んでくる。
「何が何でもおかしいだろう!これ!! 最初こんなに居たかぁ!!?」
「知るかぁ!! ぬおっ!!」
その時、シンに一匹のグレムリンが飛びついてきた。
「なろっ!」
とっさに銃口を向けるが、向けたほうの腕にもう一匹グレムリンが飛びつく。
「うおっ!? えっ!?うわぁっ!!」
二匹目が飛びついたのを機に、 何匹ものグレムリンがシンの体に飛びついてきた。
「うおおぉぉおおっ!!」
「シンっ!!」
何匹ものグレムリンに取り付かれ、シンは身動きが取れない。そして、取り付いたグレムリン達の体が一斉に黄色く輝き始める。
「シィィンっ!!」
そして、次の瞬間、グレムリンの体から一斉に電気が走る。
「ぐああああぁぁああおあっ!!!!!!」
「シン!!」
「ああああおおおぉぉおぉあああっ!!!!!」
「クソッ!!」
達也はシンを助けようと近づいていくが、他のグレムリンたちが目の前のシンのようにしてやろうというように、今度は達也に向かって大量に飛び掛ってきた。
「邪魔っ!!」
ナイフ一線。グレムリンは達は死んでいく。グレムリン一体一体はさほどてこずる様な強さではないが、この数による人海戦術となると、とてもではないが相手にできない。
「くそっ!くそっ!! シーーーン!!」
こうしている間にも、シンは休み無く電撃を浴び続けている。もう目は白目を向き、口元からは少量の泡が垂れていた。
「うおおーーーーー!」
達也はいきなりグレムリンの内の一匹の首を鷲掴みにし、さらに奴らが最初張り付いていた機械から飛び出たケーブルを拾ってシンの方に走った。その途中で達也は、ケーブルをじたばたと暴れるグレムリンの首に巻きつけ、逆側はナイフの刃の部分に結んだ。そして地面に思い切りナイフを突き刺す。特別なものである所為かナイフはコンクリートの床に意外に簡単に刃が全部埋まってしまった。
「くらえっ!!」
そう言って、右手に持っているグレムリンを思いっきりシンに向かって投げつけた。
「キュウッ!!?」
投げつけたグレムリンがシンに張り付いている仲間に張り付いた。それと同時にケーブルに電気が一気に流れ、すごい轟音が鳴り響く。
バァーーッ!!
「うおっ!!」
「キュイッ!??」
辺りにすごい臭いが立ち込めたのと同時に、シンの体に流れていた電流が収まった。
「キュイッ!?キュウ!!」
体に張り付いているグレムリンがもう一度電流を流すが、電気はすぐに威力を弱め次の瞬間にはもう消えていた。
「キュイッ!」
ヘヘンッと達也は得意げに鼻を拭った。
「動物並みの知識しかないお前らには分かんねぇだろうな。アースって言うやつはよう、地面に電気を逃がす役割があるんだ」
「キュイッ!!??」
「お前らは電気を喰う奴らってんなら、当然体は電気に強いし、おまけに電気を引き寄せやすい体質だろうからな」
グレムリンは達也の説明が分かっていないのか、必死に電気を流すが無惨にも電気はケーブルを伝い、地面に流れてゆく。
「どうでもいいけどよう、お前らいい加減逃げるか違う戦い方するほうがいいと思うぜ」
カチャンッと音を立て、二つの拳銃が地面に転がった。
「……なんせそいつよう、ずいぶん頭にきてるみたいだからよう……」
「……いい加減……」
「キュイッ!!?」
ずっと達也のほうばかり見ていたグレムリン達が、本来の自分達の標的に目を向けた。
「…離れろぉーーーーーーーっ!!!」
その一言を言うのと同時に、腰のナイフを抜き纏わり付いたグレムリン達を一太刀で切り捨てた。
「キュエェーーッ!!」
パラパラとグレムリンは塵になって消えていく。その塵が舞い散る中に、輝く銀髪が覗いていた。達也はフフッと笑う。
「危なかったな」
「誰がだよ…」
そう言って、シンも笑った。
「大丈夫か?」
「ああ、なんとか……」
達也はすぐにシンに駆け寄ってふらついている体を支えてやる。強がってはいるがあれだけの攻撃を受けたのだ、無事であるはずが無い。
「しっかりしろ。まだいるんだぞ」
「分ぁってるよ……っく」
案の定、構えようとしたシンは体制を崩して膝を付いてしまう。その周りには、いまだ臨戦態勢のままのグレムリンが群れを成している。
「くそっ……!」
「……おい、達也。少し体支えててくれ」
「えっ?」
「一気にかたぁつけてやる……」
そう言ってシンは転がっている銃を拾い上げてよろよろと立つと、グレムリンの群れに向けて銃口を向け、光撃を撃つためのエネルギーを溜め始めた。
「!? お前…無茶だ!」
「なぁに、死にゃあしねぇだろうよ。けど、さすがにこれ撃って踏ん張りが利くほどの体力なんか残ってねぇ。だからしっかり支えといてくれ」
達也は黙ってシンの顔を見つめた。いつもどおりのヘラっとした笑顔。だが、どこか信頼できるような覚悟が見える顔だった。
「……俺までぶっ飛んだら承知しねぇぞ」
「大丈夫だ、骨は拾ってやる!」
「バーロー」
達也はシンの後ろに回って、しっかりと体を支える。そうしている内にレイキャノンは既に発射可能の状態になっていた。
「いっくぜーー!!」
「こいやぁ!」
達也は思い切り足に力を込め踏ん張りを利かせ、シンは一撃で全部のグレムリンを倒せる場所に照準を合わせる。
「はっし……!」
そのときだった。急に二人のすぐ脇からグレムリンが一匹高速で突っ込んできた。最初にそれに気付いたのは達也だった。とっさにシンに伝えようとしたが、シンはもう引き金を引く瞬間で気付いていなかった。
(間に合わねぇ……!!)
グレムリンの高速頭突きはシンの脇腹めがけてまっすぐに突っ込んできていた。もう伝えてから避けるのじゃ間に合わない。そう判断した達也は、しっかりとシンの腰を掴んでいた手を離し、襟首を思い切り引っつかんで後ろに引っ張った。
「うおっ!!」
グレムリンの攻撃は間一髪、シンの着ていたワイシャツを掠めただけだった。だが、引き金を引こうとしていた手は止まることは無く、そのままレイキャノンはまったく見当違いな方向に向かって発射されてしまった。
「ああっ!!?」
轟音を立て、レイキャノンは側にあった機械を派手に壊す。
「畜生っ!!」
だが、悔しがったのも束の間だった。
「うわぁっ!!!?」
『!!?』
二人して顔を見合わせる。壊れた機械の方向から聞こえたのはグレムリンの鳴き声ではなく、どう聞いても違うものの声だった。そしてさらに驚くことに、いきなりグレムリンの動きが止まったのだ。そして彼らは顔を見合わせて全員どこかに行ってしまった。二人が何が起こっているのか分からず、ポカーンとしていた。
「いっててて……」
すると、物陰から腰を抑えた制服姿の男が出てきた。
「あっ! その制服!」
「知ってんのか?」
「この近くの田法高校のだ」
「あーーーーーっ!!」
男はいきなり大声を上げた。
「何だよこれぇ、壊れちゃったよ」
男の右の手首にはおかしなデザインのブレスレットのようなものがついていて、それにひびが入っていた。見た目的には特撮物に出てくる変身したりロボットを動かすときのコントローラーのような物だ。男は大事そうにそれを撫でている。
「畜生、これって壊れるもんなのか………って、おわぁあっ!!?」
やっとこちらに気付いたらしく、男はシンと達也を見て飛び上がった。
「何だお前、こんなとこで何してんだ?」
「いや、待て」
「何だ?どうした」
シンは分からないのかと言いたげに達也をにらむ。
「これだけいたこいつらに見つからずに、何で普通の人間がここにいられたんだ。怪しいよなぁ…」
男はぎくりとした表情をしてすぐに二人から目をそらす。
「さ、さあ、何のことだ。俺はただここが騒がしいと思って来たら、ちょうどグレムリンに当てようとしてたさっきのでかい玉の攻撃に巻き込まれただけだぜ」
男が喋り終えると、シンはやれやれと言ったふうな顔になり、
「そうだったのか」
の一言。
「そ、そうなんだよ」
男は明らかにホッとしたような顔で返答を返す。
「でも、なんでさっき来たばかりなのにここにいるのがグレムリンだって分かったんだ? たしかその時からはグレムリンなんて一言も言ってないはずだぞ」
その言葉に男の顔が再び強張る。
「んっ? 何で分かったんだ? それを教えてくれたら帰ってもいいぜ」
男の額からどんどん汗が流れてくる。間違いない、達也はそう確信した。
「こいつが……」
「ああ、こいつが今回の黒幕だろう」
男はついに観念したかのように素早く二、三歩後退る。
「よく見破ったな!!このアホども!!」
その言葉に、二人のこめかみに同時に青筋が走る。
「その通りよ!これはこの俺様、清水義久が仕組んだこと! この俺の能力、『ワイルド・ハウンド』の能力でな!!」
そう言って清水と名乗った男はさっきのへんてこなブレスレットのようなものを見せ付ける。
「能力!!? 人間でも使える奴がいたのか!?」
「フッフッフッ……、こいつはな、人間以外の生き物を操れるっていう優れも……しゃぁっ!!!?」
清水が悠長に、そしてアホ丸出しで自分の能力の自慢をしているところでシンの鉄拳が左の頬にめり込み吹き飛んだ。
「アホはてめえだこのアホ!! てめえの能力ぺらぺらと喋ってるてめえにアホって言われることほど嫌なこた無いぜ!!」
「はっ!!? 本当だ!!つい嬉しくて喋っちまった!!」
(本当にアホだ……)
達也は呆れながらそう思った。シンはずんずんと清水の方に向かっていく。
「さあて、じゃ何でこんなことしようと思ったか、何でグレムリンを連れていたのかじっくり聞かせてもらうか」
「ひいいいいいい!!!」
『やめてくれないかなぁ』
突然どこかから声が聞こえる。達也が辺りを見回し、目線を戻すと、シンの後ろにいつの間にか黒いマントを羽織った人影が立っていた。
『やめてくれないかなぁ』
シンの背中にとてつもない勢いで汗が流れる。最初に声が聞こえたときまで後ろに人が立っているなんてことはまるで気付いていなかったからだ。
「うぉらっ!!」
シンは振り向きざまに裏拳をお見舞いするが、既にそこには誰もいなかった。
「シンっ!! 後ろだ!!」
達也の声で後ろに向き直ると、すでに人影は清水を地面から起こしていた。
『まったく、全然駄目じゃないか』
人影は仮面を被り、体格的には男だが、声は男だか女だかの区別がまるでつかない声をしていた。
「は、はい。すみませんガロウさん」
『次はちゃんとやれる?』
「はい!もちろん!!」
『じゃ、帰ろっか』
ガロウと呼ばれたその人影は、シンと達也を無視して帰ろうと背中を向ける。
「ちょっと待てこらぁ!!」
シンは銃を向けるが、その時何かがシンの手の上を走った。
「なっ!?」
見ると、辺りには何十匹という数のネズミが犇めいていた。
「なんじゃこりゃあ!!?」
「へへっ、忘れたのか?」
そう言って清水は腕についているワイルド・ハウンドと呼ばれたブレスレットを見せ付ける。
「そうか、それでネズミを……」
「ギリギリ直ってよかったぜ」
見るとワイルド・ハウンドはさっきまでのひびの入ったボロボロな状態ではなく、傷一つ無い新品の状態に直っていた。
『いいですねぇ、清水君』
「へへっ、いやいや」
清水は褒められて謙遜するように返す。
『じゃ、ほんとに帰りましょうか』
「待てっつてんだろ!!」
ネズミ囲まれ身動きが取れない状態でシンが叫ぶ。
『焦らなくてもいいよシン・クロイツ。いずれ時が来れば…それまで我慢だよぉ、我慢』
そう言ってガロウはマントを翻す。清水とガロウの姿がマントに隠れ見えなくなると、隠れた二人と共にマントも姿を消した。それと同時に纏わりついていたネズミは、散り散りにどこかの物陰に隠れ、やがて声も聞こえなくなった。
「何だったんだあいつら……」
「分からん……だが、すげぇヤバイことになりそうな感じがするぜ……」
辺りには、ただ沈黙が流れた。
「本当にあんなのでよかったんですか?ガロウさん」
『ええ、あれでよかったんです』
ここはどこかの建物の中。おそらくは廃墟になったビルの中だろう。その中で清水とガロウは話をしていた。
『今回は彼らの実力を測るだけでよかったんです』
「でも、今度はやっつけてもいいんすよね?」
『ホッホッ、できるものならやってもらいたいですねえ』
「しゃあ!今度はやっつけてやるぜあいつら!! この殴られた恨みは絶対晴らす!!」
清水がやかましく叫んで決意をしているのを横目に見ながら、ガロウはただ黙っていた。仮面に隠れたその顔からは、何も察することはできなかった。
ちわっす!!
いや〜、今回久しぶりに長い文章書きました。いや〜しんどい。
今回また新キャラが出てきました。しかも二人も。いや〜、アホなキャラは書いてて楽しいッス。
あ、あと、また修正を施した部分があります。プロローグの序盤です(プロローグに序盤とはこれいかに)。何度も直しがあってすみません。でも漫画とかの誤植だっと思ってください、誤植だと。なにとぞお願いします。
それではまた次回。