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第20話 生還

リスタとの死闘の中でついにリスタの能力エア・ギアの正体に気づいた達也。はたしてリスタの能力とは……

 長かった。ここまで来るのにかなり時間がかかった。

 だが、やっとたどり着いた。求めていた答えに、リスタの能力の正体に。

「ほう……分かっただと……?」

「ああ、やっと分かった。分かってやった」

 達也は指を突きつけたままそう言った。

 頭からは大量に出血し、何度も地面に叩きつけられた所為で着ている制服はボロボロに破れていた。

 だが、そんな状態でもただ一つ、リスタに勝つために、こんな状態になるまで待ってやっと能力の秘密を解き明かした。解き明かしてやったのだ。

「お前の能力は、反発力を・・・・強化・・する能力・・・・だ。そうだろう」

 リスタはそれを聞き、軽く眉をひそめたが、やがてクックッと潜めたように笑った。まるで嬉しさを外に漏らさないようにするかのように。

「その通り。エア・ギアの能力は『反発力強化』」

 リスタは地面に転がっていた石を拾い上げて、すぐ下の地面にたたきつける。すると石はバウンドしてリスタの手に戻ってきた。それから二回、三回と、まるで石をバスケットボールのように何度も地面にバウンドさせた。

「投げた石が跳ね回っていたときはどういう能力なのかは分からなかった。だが、後から出したはずなのに俺より到着の早いパンチに、切りつけるとこっちが跳ね返る肌。これで全部のつじつまがあった」

「最後の二つで確信にたどり着いたのか?」

 達也はへへっと鼻を擦り、得意げになる。

「ああ、パンチの時に、お前は縮ませている腕の筋肉の反発力を上げることで俺より早いパンチが出せたんだ。切りつけたときも同様に、肌にナイフが当たったときに発生する僅かな反発力を強化して傷を最小限に抑えた。合ってるだろ?」

 達也の説明を聞き終わった後、リスタは顔を嬉しそうにしながら身震いしていた。

「面白い、実に面白い。さっきから言っている通りすごく歯応えがあって面白いやつだ、お前は」

 すると、リスタが急にダラダラとしていた体制からファイティングポーズをとる。

「これからは遊ぶのはやめだ。おっと、気を悪くするな。だって手加減してやっとここまでなのはお前が一番分かるだろう」

 確かに、達也には言い返す言葉はない。下手をすれば死んでいたかもしれない怪我を負ってまで手に入れたチャンスで、相手につけられたのは打撲二つに小学生が工作の時間に誤ってつけてしまったような切り傷だけだ。

「俺は今から本気で戦う。全身全霊でお前と向き合う。これはお前を戦士と認めた証だ。俺と同等だという証だ。胸を張れ、草薙達也。お前は俺と同等になれたんだ、胸を張れ」

「同等とか言ってる割には上から目線なのな」

 達也は不満を漏らすが、その言葉とは裏腹に心の中で恐怖を感じていた。戦いを、命を懸けた勝負を楽しむリスタ。そんな奴が、今まで作っていた笑いを消して真剣に戦いに挑む姿。今でもこいつにとってこれは楽しいことなのだろう。だが、今はそれに対する姿勢が大きく変わった。もう自分が相手にレベルを合わせて、それで楽しむということではなくなり、どんな相手にも自分の本気をぶつけることで勝負を楽しむ気なのだ。言うなれば、これはリスタにとってはスポーツと同じなのだ。誰よりもこうしていることが大好きで、どちらが強いかを比べあって、負けても勝っても恨みっこ無し。それがリスタにとっての戦いなのだ。命を懸けるということなのだ。

 達也はまったくそれが理解できなかった。命の懸けあいを楽しむことなんてことは正気の沙汰とは思えない。これが平和ボケした日本人の思考だからそう思うのか? いいや違う。こいつはただの……

「お前、馬鹿だな」

 言ってやった。別に皮肉でもなんでもない。思ったことを言っただけだ。確かに自分には命を懸けながら笑うことなぞできない。だが楽しいことにここまで取り組める奴もそういないだろう。これはある意味での尊敬の言葉だ。

「ああ、そうさ。馬鹿だからこそ見つけられることがある。だから俺は戦いという楽しみを見つけるために、それだけのために馬鹿になった」

 達也はそれを聞いてフッと笑い、リスタもまた同じように小さく笑った。

「本当に馬鹿だな」

「ああ」

 それ以上は二人とも何も言わなかった。語る必要はない。これから始めるのは戦いだからだ。

 一息呼吸を整えてから、両者は弾かれたように飛び出した。

「はぁっ!!」

「ぜぁら!!」

 両者の本気のぶつけ合い。達也の拳が、リスタの蹴りが、超が付くほどの至近距離で飛び交う。

 リスタの左裏拳を後ろに後ずさりよける達也。そのままリスタは体を回転させ右拳を飛ばしてくる。咄嗟とっさに顔を下に下げてやり過ごそうとした達也だが、同じタイミングで飛ばしていた右膝に顔面を捉えられてしまい、そのままエア・ギアを発動され、上空に吹き飛ぶ。

「ぷあっ!!」

「残念だがもう終わりだ」

 上空に飛んだ達也を追うように、リスタも自ら跳んで達也よりも上に上がる。

破滅輪廻デッド・サイクル

 渾身の一撃と言わんばかりに、リスタは両手を合わせて握り、そのまま達也の腹部に思い切り振り下ろす。

「ぐぼぇっ!!!!」

 猛スピードで達也は地面に落下した。だが、

「がぁあ!!」

 地面に激突しただけでは終わらず、地面に当たった体は跳ね返り、滑るように真横に飛んでいく。

「これは……!! ぐぇあ!!」

 そのまま岩に激突し、今度はまた別の場所に飛んで行く。あの時、リスタに上空で受けた一撃ですでに達也にはエア・ギアがかけられていた。

「があ!! あぐ!!! ぐぅ!!」

 地面、岩、地面と立て続けに何度も同じ勢い、いや、跳ね返るたびに威力を増しながら、まるでピンボールの玉のようにあらゆる場所に叩きつけられ、再び上空に跳ね上がる。

 飛び上がっていく直線上には、リスタが地面に向かって落下していた。

「残念だ。とても残念だ。だが、これが勝負……命の懸け合いだ!」

 落下しながら、踏みつけるような蹴りを高速で打ち出し、それが達也の鳩尾みぞおちに深々と突き刺さった。

「ぐぼぉあっ!!!」

 血と反吐の交じり合ったものを吐き散らしながら、そのまま踏みつけられたような形で達也は地面に叩きつけられた。

「ぐぁは!!」

 あたり一面に爆発が起こったような衝撃音と土煙が舞い上がった。













 あたりにはまだ土煙が舞い上がり、衝撃音が響いてからは静まり返ったままだった。

 やがて煙が晴れ、中の状況が露わになる。

「う……がはっ…!」

 その光景は、既に決着が付いているように見えてもおかしくはなかった。

 達也は吐血してリスタに踏まれた状態で倒れていた。ちょうどそこを中心に巨大なクレーターのようなくぼみが地面にできている。

「く……あがぁ……!!」

 なんとか上に乗っているリスタの足をどかそうと、達也は力を込めるが、体に走る激痛のせいで力が入らない。

(やべぇ……経験したことねぇけど、多分肋骨が折れてやがる……)

 直感的に分かる。木から落ちたり喧嘩で殴られたりして胸の辺りを数回打撲した体験が達也にはあるが、そのどれにも該当しない痛みが達也の胸部に広がっていた。

「……………」

 なんとか足をどかそうと痛みをこらえ努力していた達也を黙って見ていたリスタが、ふいに足をどかした。

「ぐはっ!!」

 解放されたのはいいが、今まで圧迫された部分が急に楽になった反動か、達也はまた吐血した。

「もう勝負は付いた」

 そう言って、リスタは達也に背を向けどこかに行こうとする。

「ぐっ!?」

 そのリスタの背中を、正確には左の肩口に、急に激痛が走った。何事かと痛みのするところを触ってみる。そこには達也が今まで使っていたナイフが刺さっていた。

 驚いて達也のほうに向きを変える。達也は今まで大の字で仰向けになっていた状態から、リスタのほうに倒れたまま体の向きを変えていた。

「どこ…行くんだ……」

 息を切らし気味に達也が答える。その姿は明らかに喋っていることさえも辛いのが伝わってくる痛々しさだった。

「止せ。もう勝負は付いた」

「さきに…命を懸けるって言ったのは……お前だぜ……」

「……死ぬつもりか……?」

 リスタは抜いたナイフを達也のすぐそばまで投げ返す。

「……まだ……やれ……る……」

 もう一度達也の傍まで近づいてみるが、達也の目はもう焦点を定めていなかった。

「立派な覚悟だ。やはり俺が戦士と認めたことに間違いはなかった。今の傷は、自分への戒めとして受け取っておく。本気で向かうといっておきながら、勝負を投げ出そうとした俺を許してくれ」

 そう言ってナイフの刺さった左肩を右手で撫でる。

「……………」

 達也はもうなにも言わなかった。死んだわけではなかったが、目を開いたまま、ただ遠くを見つめていた。

「これで終わりにする」

 リスタは達也に向かって膝を付き、拳を握り締める。

「さよならだ、戦士・草薙達也」

 そのまま達也の鳩尾に向かって拳を振り下ろす。だが、そのときだった。


 ゴオォォォォォォォン!! ゴオォォォォォォォン!!


 突然どこかから鐘の音が響きだす。その音を聞いて、リスタの拳はすんでのところで止まった。

「これは……」

「いやぁ、終わっちゃったよ」

 その声に、リスタが振り向くと、そこにはアイールが立っていた。

「どういうことだ」

「どういうことかも何も、ほかの誰かがゴールしちゃったんだよ。よりにもよってあの坪井とかいうさえない奴がゴールしちゃってさぁ」

 アイールが後ろを向くと、そこにスクリーンが現れる。そこには嬉しそうに万歳をしている雄介の姿があった。

「一応決まりだからね、ゴールしたら終わりって。ゲームマスターがゲームのルールを変えちゃいけないよ」

 だが、リスタは聞いちゃいないという風にこんなことを聞いてきた。

「アイール。お前の作ったこの空間、お前なら好きに操作できるんだよな」

「んっ? ああ、そうだけど」

「こいつの……いや、こいつらの体の傷を元に戻してやれ」

「ええっ!!?」

 アイールは飛び上がって驚く。

「な、何言ってるのさ! そんなことできるわけ……うわっ!!?」

「やれ」

 有無を言わせまいと、リスタの手はアイールの胸倉むなぐらを掴んでいた。

「これは戦士の誇りを見せたこいつへの礼だ。お前の意見は聞かんし聞く気もない。やれと言ったらやれ」

「わっ、分かったよぅ!! だからもう掴まないでってばぁ!!」

 ジタバタと暴れるアイールを放してやり、リスタは達也のほうに向き直る。アイールはブツブツ言いながらリスタを恨めしそうに見ていた。

「さよならだ、戦士よ。今度会うときにまで、この勝負は預ける。だから、その時まで強くなり続けろ」

「……………」

 達也はまだ無言のままだった。その体が急に光に包まれる。

「これでいいんだろ、まったく」

 アイールはまだブツブツ言いながらモニターを見ていた。そこには超研部員全員の姿が映っており、全員が同じように光に包まれていた。すると傷がどんどん元に戻っていっていた。

 それを見て、リスタは安心したように息をつく。

「あ……ああ……」

 リスタは視線を達也のほうに戻す。達也はまだ完全ではないが、傷が多少回復し、目の焦点も合ってきていた。

 リスタはそれを見て、少し、寂しそうな顔をみせた。

「さよならだ……」

 それが、達也がこの戦いの最後に聞いた台詞だった。













「はっ!!?」

 俺はすごい勢いで飛び起きた。

 辺りを見回すと、そこは超研部の部室だった。どうやら机に突っ伏すような形で寝ていたらしい。他の部員たちも似たような姿で眠っている。窓の外を見るともう日が西に沈みかけていた。どうやら三時間以上も眠っていたらしい。それも全員で。集団居眠り症候群にでもかかってしまったのか?

 いや、待て!? そんなはずはない。だって俺には記憶があった。変なガキに変なゲームに強制参加させられ、そこでいくつもの困難に立ち向かい、そして、リスタという名の強敵と戦い、瀕死の状態にさせられたこと。そして最後に聞いた言葉。

「んん〜……」

 ふと、そんなうめき声で一時思考中断。声の聞こえた隣を見ると、坪井が起きようとしていた。

「ん〜…あっ、草薙君、おはよう」

 この時間にその挨拶はどうだろう。こんな時間におはようが出るのはお水系商売の人か吸血鬼だけだろうに。

「あっ!?」

 突然坪井が俺の耳元ででかい声を上げやがるから耳が痛くなった。その声のせいで、他のみんなも起きだしてくる。

「くくく草薙君!!」

「はいはい、くくく草薙君ですが何か?」

「無事だったんだね、よかった〜……」

 まずい、どうやらあのゲームをやった記憶は残っているらしい。

「あっ!!」

 今度は起きた部長が声を上げる。

「ねっ、ねぇ! あれなんだったの、ねぇ!!」

「ホント、不思議な出来事でしたわ」

 こっちは三好先輩。

「ななな、なんだったんです、あれ」

 これは美樹。

「……………」

 そして言わずもがな西田。

「ねぇ、なんだったのあれ!! あたし何回も変な動物に襲われて死にそうだったのよ!!」

「私も草の迷路で死に掛けました」

「ぼぼ僕も死に掛けました!!」

 もはや大混乱状態。誰が死に掛けたとか、どう死に掛けたとか、もはや死に掛けましたコンクールである。誰か止めてくれ。

 そこでふと、あいつがいないことに気づく。すると部室の扉が開けられる。部室にいた全員の視線が一斉にそっちに向いて、死に掛けましたコンクールも一時中断。

「どうしたんです? みんなして騒いで」

 そこに立っていたのはシンだった。

「あああれ? 真司君、なんで?」

「えっ? 僕は今来たところですけど。先生に用事頼まれちゃって、今までずっと手伝いしてたんです」

 すると部室にいた奴らが、全員(性格には西田と俺を除いた全員)が一斉にシンのところに向かって、一斉に我が身に起こったことを話し始める。シンはうん、うん、と一人一人の話に親身になって耳を傾けている。まるで聖徳太子だな。

 やがて全員が言いたいことを言い終わり、一息ついたところでシンが結論を言った。

「夢ですね」

 やっぱりなぁ〜。そうしか誤魔化しよう無いよね。

「でも、僕たち全員同じ夢を見るなんて……」

「結構あるらしいですよ。同じ場所に寝ている人たちが同じような夢を見ることって」

 本当かどうかは分からんが、さすが役者天使。それから何回か難しい説明をして全員(くどいようだが西田と俺を除いた全員)を丸め込んでしまった。

「もう下校時間ですから、みんな帰りましょ」

 それが鶴の一声となり、結局丸め込まれた超研部員は、納得行かないような顔をしながらも帰り支度を始めた。

 その中で、坪井と三好先輩の二人が、特に悩んでいるような顔をしていたが、深くは考えなかった。













「はいよ。これ忘れもん」

 帰り道。美樹とも分かれ、シンと二人で歩いているときに、シンが鞄の中から布にくるまれたものを俺に渡してきた。なんだろうと開いてみると、ゲームの中でシンに渡されたナイフだった。

「なるべく肌身離さず持ってろ。練習すれば何もない空間から取り出すようにできる」

「へぇ〜……」

 俺はまた一つ得たこのナイフのお得情報を聞きながら歩いていると、シンが隣にいないことに気づく。後ろを見てみると、なぜかシンは立ち止まっていた。

「リスタに……会ったのか……?」

「えっ?」

 リスタと知り合いなのか、こいつ。

「ああ……戦った。…強かったよ……」

「今度会ったら伝えておいてくれ」

「…何を……」

「お前を倒すのは……俺だとな……!」

 その声には今まで感じたことのない凄みがあった。だが、次の瞬間にはそれはもう消えていて、

「帰るか」

 と、いつもの調子のシンに戻っていた。






 シンと分かれた後、俺は今日あったことを振り返ってみた。

 こうして考えてみると、やっぱり自分はとんでもない世界に巻き込まれてしまってるんだなと実感させられる。おかしな能力をもった存在。しかも自分もその同類といわれ、正直もうわけが分からん。

 けど、順応性の高さが売りの俺だ。巻き込まれてどうすることもできないのなら、その巻き込まれた中でどうにかしていけばいい。それに一人じゃない。それが唯一といってもいい救いだ。

「ふぁぁぁああ……」

 ここらででかいあくびを一発。今日はもう疲れた。風呂に入って、飯を食って寝よう。

 そう考えたとき、なぜか俺は、それがすごく楽しみに感じた。

どうも〜。

終わったーーーーーーー!!

や〜〜っと終わりましたゲーム編。長かった。一番長かった。長かった長かったばっか言ってるけどホントよかった。

さて、次の話は何話ぶりかくらいに怪物や幽霊と戦わせようと思ってます。楽しみにしててね〜。

それではまた次回。

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