第19話 強敵
最後のステージになる場所で、達也の前に現れたリスタと名乗る青年。彼もまたアイールと同じ何者かに仕えるものであり何らかの能力を持つものだった。
最後の関門として立ちはだかるリスタと達也との戦いが始まる。
辺りに緊張が走る。
いや、実際そう感じるのは達也だけかもしれない。相手は、リスタは涼しい顔をしながら達也を見ている。その余裕の顔から実力の差を言葉も無しに教えられた。
「喜ぶ事だな。俺の能力エア・ギアで相手してやるんだからな」
「エア・ギア……」
「最強の能力さ」
リスタは自慢げにほくそ笑む。
辺りには緊張した空気が漂い続けていた。両者とも今の一言を発してからは口をつぐみ、ただじっと向かい合っている。すると、リスタはおもむろにポケットに手を突っ込み何かを取り出した。
「!!?」
その行動を見て達也は緊張を強める。だが、ポケットから出てきたのは、さっき投げたのと同じ何の変哲もなさそうな石だった。リスタは手に持った石をこっちに向かって投げつけてきた。
なんの! と達也は向かって来る石の進行方向にナイフを向けて弾く準備を取る。投げられた石はそれほど速い速度ではなく今までの戦いで速さになれた達也の目には俗に言う『止まって見える』ぐらいの速度に感じられた。おそらく今なら野球でホームラン量産マシーンになれるだろう。
石は達也の読んだとおりの場所ドンピシャに飛んできた。そのまま向けていたナイフに当たる。
ガァンッ!!
「!!!!?」
その瞬間、信じられない事が達也に起こった。石はナイフに当たってそのままどこかに弾け飛ぶと思っていたが、弾け飛んだのは達也の方だった。
弾け飛んだ達也は地面に二回、三回と叩きつけられさらに地面の上を引きずられるかのように走ってやっと止まる。すぐに起き上がるが、衝撃が強すぎたせいでよろよろと足を縺れさせ、後ろにしりもちをつく。その光景を見てケラケラ笑うリスタ。正直、今の達也にはその光景に腹を立てることに回すほどの脳の許容量は無かった。頭が完全に混乱状態にあったからだ。普通に考えれば、投げられた石を受けて弾け飛ぶのは向かってきた石のはずだ。だが違った、今のは違った。弾け飛んだのは自分だった。分からない。全然分からない。理解不能。自分の脳内検索サイトの答えはこればかりだった。
「ハッハッー!!」
リスタはすぐ側にあった岩に回し蹴りをかます。岩は一気にバラバラになり、その破片を地面に落ちる前に掴み、高速で投げつけてきた。
「うおっ!? うわっ!!」
さっき投げた速度とは段違いのスピードで岩の破片が達也に向かい飛んでくる。間一髪で破片を回避するが、地面に当たった破片はさらに速度まして四方八方に飛び回り、その内の何個かが達也のほうに向かって飛んでくる。
「うわっ!」
破片はぎりぎり達也の頭の天辺を掠って飛んでいく。破片は回避してもいろいろな場所に当たっては、その形の所為でイレギュラーバウンドを繰り返し、予期せぬ方向から飛んでくる。
「いったい何なんだ! これは!!」
「ハッハッー! 踊れ踊れぇ!!」
飛んで来る破片を回避する達也。それを見て愉快そうなリスタ。もはや戦いというよりも、ただ一方的にリスタが達也を嬲っているだけだった。達也は触れれば弾け飛ばされる岩の破片をよけるのに手一杯で、もう碌にリスタの方も見ておらず、もはや破片と戦っているようにしか見えなかった。
(くっそ! 何なんだ、こいつの能力は)
だがそんな事はあるはずがない。今戦っているのは、高い位置から人のことを見下しながら、文字通り高みの見物を行っているリスタなのだ。攻撃を回避しながらもしっかりと敵の分析を怠らなかった。だが、今のところ分かっているのは石がすごく跳ね回るという事だけで、それ以外はまったく攻撃してこない。従ってまったく確信に近づいていなかった。
しかし、ほんの少しだけ思考に注意を逸らしたのが仇になった。破片が飛んできたことに一瞬反応が遅れ、
バキッ!!
「ぐぁがっ!」
すごい音を立てて見事に達也の側頭部に破片は命中した。最初のように何度も地面に叩きつけられ、そのまま達也は動かなくなる。
「死んだか……」
リスタが指を鳴らすと、達也が動かなくなっても飛び回っていた破片が、次に地面に当たった後、普通に少し跳ねて地面に転がった。
「意外とつまらない相手だったな」
リスタは本当につまらなそうにそう吐きつける。だが、その瞬間、達也の指がピクリと動いた。それをリスタは見逃さなかった。
「待ってましたぁー!」
倒れて動かなかった達也がリスタに向かって一気に走り出した。
「ちぃっ!」
動いている事に気づいていたリスタだが、まさか全力疾走してくるとは予想していなかったため、少し反応が遅れる。その一瞬できた隙に達也は一気に近づいてナイフを握っていた手を振り上げる。だが、切りつけるのではなく、ナイフを握った拳をさらに握り締め、思い切りリスタに向かって殴りつける。拳はリスタの左頬に見事命中し、リスタの顔は大きく歪み、体も後ろに吹き飛ばされた。
「ざまぁみろ! お返しだ!!」
達也は破片が当たった箇所からダラダラと尋常じゃないほどに見える出血をしながら、愉快そうに笑みを作っていた。出血で染まった顔の所為で、とてもじゃないが『怖い』程度ではすまない恐怖を見る者に与えていた。
「なんだ…こりゃ……痛ぇ…」
リスタは地面にひっくり返ったまま、殴られた自分の頬を撫でた。
「そりゃ殴られたら痛ぇもんさ」
達也がそう言うとムクリと上半身を起こす。
「……驚いたな。結構やるな」
てっきり殴られた事に激昂でもするのかと思ったが、リスタは至って冷静だった。その言葉にはどこか嬉しさのようなものも感じられた。
「だが、やはり青い。やはり戦士としては未熟」
達也が気づいたときには遅かった。リスタは側に落ちていた石を掴み、達也に投げつける。
「何度も同じ手喰うか!!」
達也は足に力を込め、渾身の力で石にナイフを振り下ろす。
バチィッ!!
「ぬぉあ!!?」
とてつもない衝撃が達也に襲い掛かる。だが、負けじと押し返し、一気に振り抜く。
「ぜぁらっ!!」
今度こそ、ナイフに当たった石は弾け飛び、投げつけた本人、リスタに向かって跳ね返る。
「なっ!?」
石はそのままリスタのでこに命中した。バキリッ! という嫌な音がして、再びバタリと仰向けに倒れる。
「うわっ!」
跳ね返した達也もまさかこんなとこに当たるとは思っていなかったらしく、思わず青くなる。あの衝撃の強さは、さっき自分が嫌というほどに体感したからだ。それがでこに当たったら……、なんて思うと、敵だが少し心配になる。だが、そんな心配はまったく気にせずリスタはムクリと、今度は立ち上がる。
「まただ…。また驚いたぞ。まさか跳ね返すとはな」
クックックッ…とリスタ不適に笑い、
「じゃ、これはどうだ!!」
今度は自分から一気に距離を詰め、達也の脇腹にボディブローを決めた。
「か…っはぁ…」
声にならない声を上げ、達也は吹き飛ぶ。
「さっきのお返しのお返しだ」
リスタは満足げに言い放った。
達也は吹き飛ばされ、そのままただただ悶絶していた。
しばらく我慢していたが、腹部からこみ上げてきたものを我慢できずに、その場に反吐を吐き散らしてしまう。
「どうした。まさかこれで終わりか?」
リスタは達也に近づきながら問いかけてくる。達也はとにかく立ち上がろうと努力するが、すぐに体制を崩して膝を付いてしまう。
「い…いい気に……なるな……」
なんとか立ち上がるが、膝は笑いっぱなしの状態で、誰が見るからに戦闘不能のその姿にはまるで脅威を感じられなかった。リスタもそんな姿の達也をワクワクした顔で見ている。どうやら達也がまだ戦える事がよほど嬉しいらしい。
「だぁらぁっ!!」
そのワクワク面をぶち壊さんと達也が殴りかかる。だが、
「かはぁっ!!」
信じられない事に、明らかに後手だったはずのリスタの拳が達也の顔面で弾ける。
「ハッハッハッハッ!! 楽しい! 楽しすぎる!! 楽しすぎるまくるぞ、お前!!」
鼻を押さえながら、達也は高笑いするリスタに今度は拳ではなくナイフで切りかかる。
「ハッ!!」
さっき同様、なぜか後手から来るリスタの拳が達也より早く飛んでくる。達也はその拳を下にかいくぐり、リスタの左肩にナイフを振り下ろした。
「なっ!!?」
だが、ここでも信じられない事が起こる。
「うわぁ!」
リスタに当たったナイフは、数センチだけ体にめり込み、そのまま弾き返してしまった。
「なにが…ホントに何が起こったんだ……」
「ふー…危ない危ない」
ナイフで切りつけた箇所を摘まんで見ながら安堵の声をつくリスタ。切りつけた箇所は小さな傷が付いていて、そこから少し血が出ているだけだった。
達也は必死に頭の中の全機関をフル回転させてリスタの能力の秘密を解こうとしていた。今ので分かりかけた。あと少し、もう少しで奴の秘密が分かる!!
跳ね回る石。当たればこっちが弾け飛ぶ。
後手に回ってもこっちの攻撃より早く来る拳。こっちより体のバネが利いているようにしか思えない。
切っても跳ね返される体。これが奴の能力の秘密。
弾ける、バネ、跳ね返る……―――――
「そうか!!」
今、達也の頭で全てが繋がった。頭の中の歯車がカチッと音を立ててはまったのが感じられた。全ての答えが、リスタの能力の秘密が今解けた。
「分かったぞ! お前の能力の正体!!」
達也はリスタに指を突きつけ、言い放った。
どうも〜。
へっへっへっへっへっ、またまたやらせていただきましたァン。
ホントごめんなさい。今回で二回目です、次で終わるって嘘ついたの。
今後は本当にこういうことが無いようにしますからどうか許してください。
話をすりかえるけど、果たしてリスタの能力とは…?
楽しみにして待っててください。
それではまた次回。