第17話 一年
今回も別のメンバーの話である。
強烈な吹雪が吹き荒れる極寒の世界。
ゴウゴウとすごい音を立てながら、雪風が止むことを知らずに吹き荒れる。
そんな場所にある廃屋。かつてはここも町だったのか、至る所に似たような廃墟があり、雪の中に埋もれていた。
その中の一軒には、場違いのような明かりが灯っている。その中にはアイールの姿があった。モニターを自分の前に展開させながら、また謎の人物と会話している。
「はい……次は奴に一番近しい存在である、“イチネン”というものに目を向けてみます」
『“イチネン”……? 何かなそれは?』
「はい、この世界のガクセイというものに付けられる位の名称だそうです」
『ガクセイ……、なるほど学生のことか。懐かしいな』
その言葉を聞き、アイールはキョトンとした顔になり、そして軽く苦笑する。
「お戯れを。あなたがいた時代では学生のシステムはそちらの世界にはありませんでしたし、なにより人の生まれる前のことではありませんか」
『ハハッ、まぁ、それは措いといて…。報告ご苦労様。君の見立てでは後どれくらいで彼らはプリンス・エゴティスカルの能力から開放される』
「はい、長くてもあと10ターン、短くて5ターンといったところでしょうか」
『なるほど。では、なるべく急いでくれたまえ。これを逃すと警戒されるし、なにより、シンは天界に報告に行くだろうからね』
「はっ!」
力強く答え、アイールは頭を下げる。
『そう言えば、さっき君は残りの調査対象は二人だと言ったね』
「はい、それが何か?」
『最初の話では全部で七人のはずだろう。一人足りないよ』
アイールはまた苦笑をたれながら言葉を返す。
「忘れたのですか。もう一人はもう調査など必要ないと言う事を」
しばし考えるような間が空く。そして、モニターの向こうの人物は思い出したように手を打つ。
『そうだったね。彼女はもう調べる必要がないんだったね』
そういって、モニターの向こうの人物も唇を歪ませた。
『それでは、残りも頼む。期待しているよ、アイール』
「イエス、マイマスター」
そしてモニターが消え通信が途絶える。それと同時に辺りの廃屋に次々と明かりが灯り始める。アイールはその光景を見回し、
「来たな…。次は誰かな」
そう呟き、姿を消した。
吹雪は、止みそうにない。
氷雪吹き荒れる氷の大地。そこに、もう何年も春が来たことがないのか、辺りの家は皆、雪ノ下に埋もれていた。
そんな極寒の世界に、挑戦者を招き入れる光のゲートが開かれる。
「…ぅぅぅぅううううわあーーーーー!!」
バフッ!
真横に開いていたゲートから、まるで放り出されたかのように一つの人影か飛び出し、積もり積もっている雪の上に突っ込んだ。
「いって〜…」
頭を雪から引っこ抜き、顔を出したのは坪井雄介である。体を起こし、頭の上に乗っかっている雪を払い落としながら辺りを確認する。だが、確認する前に、体全体に急激に広がる猛烈な寒さが今居る場所の大体の状況を教えてくれた。
「寒い〜〜〜〜〜!!」
本当の空間では季節は六月半ば。夏の暑さが顔を見せ始める季節とともに、衣替えの季節でもある。当然、月白学園でもそれは行われており、言わずもがな雄介は半袖。こんな春の『は』の字も忘れてしまっているような寒空の下で平気で居られるはずがなかった。
「寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い〜〜〜〜〜〜〜!!」
やかましく叫びながら、半袖から顕わになっている腕を擦りまくるが、当然そんなもので寒さが凌ぎ切れるわけがなく、どんどん体力が低下していく。
「あががががががががが……」
あまりの寒さでついに口が利けなくなるほどに震え始めたとき、数メートル先に光が見えた。あれは間違いなく何かが燃えている光、炎の光だ。
「あががががががが!」
もはや何を言っているのか分からないが、ありったけの体力で、まるで蛾のように光に向かっていった。
近づいていくにつれ、明かりのある場所に何があるのかがはっきり見えてくる。もう随分と長い間誰も使っていないのであろう小屋が、そこに建っていた。明かりはその中から煌々と光っている。窓ほどの穴だけが四方に開いており、扉のようなものはどこにも無い。だが、どのみちドアがあろうがあるまいが、極限状態に置かれている雄介にとっては中に入ることができればそれでよく、何の迷いも無く目の前に開いている窓穴から這いずるように小屋の中に入った。
小屋の中には外と同じように雪が積もっていた。そして、雄介が思ったとおり中には焚き火が勢いよく燃えており、外よりも断然暖かかった。
「あ〜、寒かった〜…」
外で雪遊びをしてきた程度の寒さならばこの程度の炎に有り難味は湧かないが、吹雪が乱れ舞い温度にマイナス記号が付くような場所に半袖一枚という、傍から見れば自殺志願者と間違われてもおかしくない状況下からであれば、この炎はまさに地獄に仏だ。見る見る雄介の体温は回復していき、やっとパニックになっていた頭が平静を取り戻した。そして、部屋の中をよく見回す。
中は下に降り積もった雪と焚き火が焚いてある以外は特に何の変哲も無いただの小屋だった。人がいた気配は皆無であり、誰がどうやってこんな場所にご丁寧に火を焚いてくれたのかは疑問だが、今はとりあえずそんなことは気にせず、目の前にある小さな火から温もりをいただくことに専念した。
「あ〜もう、あとどん位でゴールなんだよ」
焚き火に手をかざしながらそんな愚痴をたれてみる。そして思い出すゲーム前のアイールの台詞。望むならゲームの進行状況を見れるという言葉を思い出す。
「お〜し……」
舌で渇ききった唇を舐め、湿らせたあとに目を瞑って念じてみる。
「どうだ」と、目を開けると、そこには巨大な光のモニターが出現し、ゲーム盤の縮図と全員の姿が映し出されていた。
「すっげ〜…、SF映画に出てくるやつみたいだ」
一人感心しながらモニターを隅々まで見てみる。それで現在のゲームの進行がどうなっているのか大体把握できた。
まず、一番進んでいるのは美樹であった。美樹は現在ゴールから14マスの場所にいた。その次は達也15マス。早苗16マス。真司19マス。美咲22マス。七瀬23マス。
大体こんな感じでゲームは進んでいた。肝心の自分の位置はもちろん把握できている。雄介の位置は現在ゴールから20マスの位置におり、順位を言うなら6位である。ゴールからはまだまだ遠い。
「あ〜あ……」
思わず出るため息。正直もう帰りたい。家に帰れば自分の趣味で固められたマイルームが待っており、パソコンを点けてオンラインをやって……。考えれば考えるほど向こうが恋しくなってくる。
「はぁ〜あ……」
本日二回目のため息。すると、
「グルルルルル……」
どこかから唸り声が聞こえてきた。思わずビクッと体を竦ませるが、もしかしたら自分以外の誰かが来たのかもしれないと考える。もしかしたら最初にやってきた自分のように寒くてこんな汚い声をあげているのかも知れない。そんな考えが頭をよぎり、入ってきた窓穴から外を覗いてみる。そして、自分自身の考えが浅はかだったことを痛感させられた。
「グルルル……」
外にいたのは自分の知っているメンバーの誰でもなかった。いや、人ですらなかった。思ってみれば今まで通って来た場所で一つでも辛くないと感じた場所はあっただろうか。いや、そんな場所は一つも無い。どんな場所でももう帰りたい、泣きたい、などといった辛い思いをしてきた。
どうやらここでもそれは例外ではなさそうだった。
「グルル……」
外にあったのは闇に爛々と光る眼。それが何十個も固まりになって見える。眼の位置は下のほうにあるため、四速歩行であることが分かる。こんな極寒の場所で動き回れる四速歩行の生き物といったら何か。それは言うまでも無く明らかであった。
「グルル……」
その内の一体が闇の中から姿を現す。純白の体毛に面長の顔。狼である。
「やっぱり……」
絶望感たっぷり、またはもうどうでもいいやと、諦めた感じにも聞き取れる声を上げた。そしてそれと同時に狼御一行が牙を向いて攻撃を仕掛けてきた。
「グオオォー!」
「いやーーー!」
慌てて反対側にある窓穴から飛び出て、走り出す。だが、外に出るということは当然極寒の寒さを体験することである。
「あーーーーーー!」
狼に追われて助けを求める悲鳴なのか、それとも寒さによる絶叫なのかは知らないが、とにかく雄介はそのまま走り出した。同時に小屋の中にいた雄介を襲おうと小屋になだれ込んだ狼達も小屋から飛び出し、雄介を追跡し始めた。
「あーーー!」
「グルオオォオー!」
しばらく狼から逃げ続けてきたが、雪に足をとられる所為なのかもう限界が近づいてきた。
「もう、駄目だ…」
「えー、もう駄目なのぉ?」
「うわっ!?」
急に真横から声をかけられ思わず驚く。見るとアイールが自分の隣を悠々と宙に浮かびながら付いてきていた。
「何のようだよ」
少しむっとした感じに尋ねる。
「いやなに、もうサイコロを振れるのに君が来ないもんだからさ」
「えっ! もう振ってもいいの!? どこどこ」
走る足を止めずに辺りをきょろきょろと見回してみる。すると少し行った先に、さっきの小屋と同じような光が見えた。
「分かった、あれ…だ……?」
言おうとして言葉が詰まった。見るとあちこちに似たような光が点々と点いているのだ。
「ね、ねぇ、ちょっと! 一体どこにあんの!?」
「さあね。それは自分で探したまえ。じゃ」
そう言い残してアイールはフッと姿を消した。
「え、あ、ちょっと!」
「ガウガウ!」
慌てて引き止めたが後ろから来る狼の所為で仕方なくペースを上げる。
「あー、もう! こうなったら全部行ってやるよ!」
うおー! と、雄叫びを上げながら、雄介は明かりの一つに向かっていった。
「駄目だー!」
もうこの小屋で三十二個目だがゲーム盤は見つからない。その代わりに疲労だけがどんどんと溜まっていた。狼はまるで疲れを知らないかのように雄介を追い続ける。しかも疲れの所為で走るペースが落ちているため、もう狼との距離はそう長くなかった。
「でも……」
舌なめずりをしながら一つの明かりを見つめる。明かりは全部で三十三個。つまり今見ている明かりが最後なのだ。
「バウバウ!」
「おおっと!」
近づいてきた狼の鳴き声を聞いて慌てて走り出す。
「ハア、ハア……」
白い息を吐きながら、最後の明かりに向けて全体力を使用する。だが、
「うわっ!」
体の方はもう限界だったのか雪に足をとられ転んでしまった。立ち上がろうとするが体がもう動きたくないとそれを拒む。そして最悪なことに、もう狼達が追いついていた。
「グルオォオオ!」
狼達が一斉に雄介に向かって牙をむき、飛び掛ってきた。
「うわーーーーーーーーーーー!」
目を瞑り、もう駄目なのかと心で思う。しかしその時、雄介を奇妙な感覚が襲った。急に宙に浮いた感じがしたかと思うと今度はぐるぐると高速で回転しているような感覚が来て、元の感覚に戻った。しかし、妙に暖かい。さっきまで感じていた極寒の寒さが急に失せたのだ。
恐る恐る目を開いてみる。すると、そこはもう小屋の中だった。
「あれ?」
自分はさっきまで外で狼の群れに襲われていたはずなのに、何で小屋の中に? そしてむくりと立ち上がると、そこにはゲーム盤が置かれたテーブルがあった。
「あれ〜?」
ますますわけが分からない。しかし、そんな考えも後ろから聞こえてくる狼の鳴き声で掻き消されてしまう。
「やっべ!」
慌ててサイコロを振り雄介は次のステージに飛んだ。
早苗と同じ、一つの疑問を抱えながら。
おざまーす!
今回はもう急いで仕上げました。何せ今週はほとんど書いてなくてこれ上げる数秒前に出来上がっちゃいました。その所為でなんか変な感じに終わっちゃいました。しかもなんか前のと似たような話になっちゃいましたし…。これから気をつけます。あと変な感じに…の部分で「いつも変だ」と思った人、そこはご愛嬌で。つうことでキャラクタープロフィール。今回で現段階での超研部員の紹介は終わります。それでは行きましょう。
キャラクタープロフィール No.08
三好早苗
誕生日 11月11日
身長 167cm
体重 59kg
スリーサイズ B89/W55/H83
趣味 音楽鑑賞、格闘技観戦
特技 華道、茶道、格闘技(有段者。他にも色々)
苦手なもの ヘビメタ系の音楽、カエル
好きなもの 日本料理、遊ぶこと(主に美咲と)、部活、部活のみんな
嫌いなもの 汚いものや汚い場所
所属 月白高校二年B組
て感じです。今度くらいでこの話もラストの予定です。
それではまた次回。