第16話 二年
今回のお話
今回は達也の前で起こった出来事ではなく、他のメンバーが主役の話です。
シンと達也の、まるで喧嘩して仲直りしてを繰り返すというバカップルのようなことが終わったあとも、ゲームは着々とターンを進めた。その間、他のメンバーはこんな感じだった。
「あ〜、もう何よここ」
そうぼやきながら、一人岩肌がごつごつした山を登っているのは我らが部長、鷺原美咲であった。
彼女の現在位置、ゲームの進んだ道のりは現在9ターンで42マス。このゲームは全部で120マスあるため残り78マスである。
そしてこのマスでの彼女への指示は『怪鳥の住む山の頂に進め。次の道はそこにある』、とのことであった。
「次の道はそこにあるってことは、そこ行かなきゃサイコロ振れないわけでしょ。うわ〜、最悪…」
と、自分で始めたことを彼女にしては珍しく後悔していた。あの時、こんなゲーム盤さえ拾わなければどれほど幸せだったか…。ああ、と脳裏に浮かぶいつもの光景。美樹ちゃんと七瀬がいつもどおりおとなしくしてて、達也と坪井をこき使い楽しみ、それを見て止めに入る早苗。そしていつもどおりかわいい真司君を愛でる。と、こんな感じに思いっきりエゴ丸出しの脳内妄想を爆発させて、つらい山道制覇のためのエネルギーを作り出す。特に最後の妄想でじゅるりとよだれが零れだす。
「ひっ!」
そのころ、遠く離れていたシンは何かの気配に震えたという。
「…なんか気味悪りぃ…」
今の美咲はもう山の五分の三程度を制覇しており、残りに向けてのスパーをかけている…筈であったが、
「だる〜い。まだ半分近くあったなんて知らないわよ、もお〜」
山は自分が見繕った計算の倍以上あり、必然的にペース配分を間違えてしまったため完全にエンスト状態にあった。もう指を動かすのも気だるく感じる。
「あ〜、でもなぁ……」
と、回想モード。
「あの褐色少年。可愛かったなぁ…」
自分が猪に追い掛け回されていたときに現れたアイールと名乗る少年。最初に彼の話を聞いたときこいつの所為か!、とも思ったが、これがよく見ると自分好みの可愛い美少年。
「グフフフフフフ…」
また口からよだれが零れ、そして使い果たしてしまった体力が元に戻っていく。彼女にとって美少年=愛でるもの=エネルギー源という図式が成り立っているからだ。どういう理由かは彼女自身にもわからない。
「あっ、でも……」
あの少年が最後に行ったことを思い出す。
『君がゲームを持ち帰ったのは僕の能力のひとつなのさ。だってどんな人でも拾ったものを調べないってのはないでしょ?』
それを思い出しどんどん腹が立ってきた。では何か? 自分は奴にいいように使われていたということか? 美咲は生まれて初めて美少年に対し怒りをもった。何故なら自分だけならまだしも他のメンバーまで巻き込んでこんなばかげたゲームに参加させられたからだ。そんなことに巻き込んだ憎きその相手で体力を回復してしまった自分に腹が立つ。そしてまんまといいように使われた自分に腹が立つ。
「きぃ〜〜〜〜!」
頭をがむしゃらにかきむしり、自分を戒める。そしてさっき回復した美少年エネルギーを怒りのエネルギーに変えて山道制覇にかかる。
「顔が良けりゃいいってもんじゃないのよ」
なにやら訳の分からないことを言いながら、真剣な面持ちで歩を進める。すると、
「クェー!」
なにやら後ろから鳥の声のようなものが聞こえてきた。後ろから聞こえたせいか、聞きなれない声だったせいか後ろを振り向く。
「クェー! クェー!」
見たこともない小さい鳥がそこにいた。腹の白色以外はすべて毒々しい紫色で、鶏冠は赤、青、黄色と信号機宜しく三色になっている。くちばしは鋭い鉤鼻のようになっていて、見たものを威圧するような感じだ。
「きゃー! 可愛い!」
だが、今まで八回もの修羅場を潜り抜けてきた美咲にはそれは可愛い対象に入ってしまうものだった。
「ほら、おいで。チッチッチッチッチッチッ……」
しゃがんで手を差し出し、舌を鳴らして見せる。すると小鳥はひょこひょこと歩いてきて、差し出された手の上にちょこんと乗った。
「きゃー! 可愛い! これが怪鳥だって言うんならここ今までで最高の場所じゃない」
そしてそのまま抱きかかえる。今までの場所は、やれ猪だのやれ巨大象だのと危険なものばかりだったが、それと比べたらこの場所は山登りをするだけという好条件の場所だった。例えて言うなら1LDKトイレ風呂付家賃八万円、駅から徒歩五分といった感じくらいいい場所だった。
カプッ
「へっ?」
不意に手に走る痛み。下に目線を向けると、さっきまで可愛い対称だったものが可愛くない行動をとっていた。
カプッ
もう一度手に走る痛み。噛んだ。可愛かった怪鳥君が噛んだ。さっきのは何をされたのか頭が混乱してよく分からなかったが、もう一度噛まれ、冷静になってくるとだんだん状況が理解でき、
「イタ〜〜〜〜〜〜〜!」
大絶叫。そのまま抱きかかえていた怪鳥を嫌というほど遠くに投げつける。
「クワッ!」
だがさすが鳥というべきか、空中で翼を広げクルリと身を翻して着地する。
「…こっんの、クソ鳥! よくも私の玉のお肌を傷つけたわね! あんたなんか大っ嫌い! 焼き鳥にして食ってやるわ!」
さっきまで可愛い可愛いともてはやしていたくせにこの態度。鳥も散々である。
「さぁ〜、覚悟なさい、クソ鳥」
じりじりと距離を詰めて捕まえる体勢万全である。しかし、
バサッバサッ
後ろから急に聞こえてきた羽ばたき音。するといきなり突風が吹き、さらにズシンと衝撃が地面に走る。
「なによも…う…?」
乱れてしまった髪を戻しながら後ろを向き、言葉を失った。振り返った後ろに親鳥らしき、いや、そうとしか考えられない鳥が立っていた。その大きさはさっきまでふれあっていた子供と比べたら明らかにサイズが違いすぎ、子供の十倍から二十倍、簡単に大きさの度合いを言うと人間の何倍も大きい鳥がいた。おそらく体の模様が同じでなければ気付かないだろう。
「あの〜…、もしかして親御さんですか…?」
恐る恐る聞いてみる。すると鳥は人間の言葉が分かっているのかこくりとうなずく。美咲は子供の鳥の方を指差し、
「お子さん…ですか…?」
と尋ねる。これにも鳥はこくりとうなずく。傍から見るととてつもなくコミカルなやり取りであるが、美咲は今まさに大ピンチだった。
「怒って…ます…?」
こくり。そしてしばしの無言。
「きゃ〜〜〜〜〜〜!!」
「クェーーーーーー!!」
山道を一気にてっぺんに向かって走り出す。そして例のごとく、美咲の動物との鬼ごっこが始まるのだった。
一方そのころ他の場所。
あたり一面に草の壁が広がる迷路。このマスの指令は『草の反乱。出口を探せ』であった。そんな迷路の中を動く一つの影。
「あら〜、ここはどこでしょうか?」
あまり緊張感のこもっていない声を上げながら、三好早苗は草でできた高い壁の迷路の中をぐるぐる回っていた。歩きつかれたのか少し止まって一休み。
「困りましたわね。私、絵本などの迷路は得意で迷ったこと無いですのに」
と、大抵の人がそう言うであろうことを呟きながらまた歩き出す。もう彼女はここに来て三十分以上歩き続けている。だが、出口はどこにも現れてくれない。さっきから見えるのは出口の光ではなく緑の景色一色。
「はあ〜……」
こんなのがもう何回も続けばさすがに飽きてくる。だが、出るにしてもどうすればいいのか分からない。結局のところやるべきことは歩くという一択しかないのだ。しかし、早苗にはさっきから引っかかることがあった。それは、このマスでの指令の一文にあった。
「『草の反乱』というのはどういうことなのでしょう…」
そう、出口を見つけろというのはさっきから嫌というほど体感しているが、一番初めに書いてあった『草の反乱』というものをまだ御目に掛けていないのだ。
「まさか……」
言ってすぐ後ろを振り向く。近くにある壁を穴が開くほど見つめ、そして、
「ほぅ…」
と、息をつく。
「ビックリしました。草が襲ってくるんじゃないかと思いましたわ」
どうやら草の壁が襲ってくるのを反乱と解釈したらしい。だが、その当てもはずれまた思案に入りながら歩く。だが、いくら考えてもさっきの解釈以外には考え付かない。仕方なくまた黙々と歩き続ける姿勢に切り替える。
それから三十分経過。
「もう駄目です。一歩も歩けません」
そのまま地面にペタリと膝を付く。三十分歩き、そしてさらに三十分、計一時間も休み無しで歩き、さすがに音を上げる。何も代わり映えしない景色の与える退屈感の所為で疲れが余計にたまりやすくなっていた。おまけにさっきから気になっている草の反乱を警戒して精神的にも疲労はピークに達している。
「もう、いったい何なんですの、ここ」
はるか高い位置にある空を見ながらぼやく。さっきから同じ道を行ったり来たり、さすがに神経が参ってしまう。いつもボゥっとしている感じのある早苗だが、方向感覚は人並みにある。いくらなんでも一時間も歩き回って新しい道に出ることができないのはおかしい。
「そうですわ!」
急に手を打って立ち上がり、ポケットを探り出す。
「確かここに……」
ごそごそとポケットを探り、やがて目当ての物を取り出す。それはケースに入った百円ショップなんかに売っているヘアピンだった。ケースに大量に詰まっているそれは銀色に輝いて、空から降ってくる光を反射している。するとそれをケースから取り出し、まず折れ曲がっている部分から半分に折って二つに分け、さらに二つに分かれたそれをまた折って二つにし四つに分ける。それを全部のヘアピンに同様にやっていく。結構な量があるため時間も結構な量消費してしまった。しかし、やがてそれもラスト一本になり……。
「出来た!」
ついに作業を終える。ケースの中にはヘアピンの欠片が大量に詰まっていた。
「これを道に残しておけば、どこを通ったか一目瞭然ですわ」
カシャカシャとケースを振り、今までの作業で回復した足を起動する。一本一本一定の間隔をあけながらヘアピンの欠片を落として歩いていく。その姿は宛らヘンゼルとグレーテルのヘンゼルのようである。
それからしばらく歩き回ってヘアピンを落としておく。しかし、
「あら?」
早苗の目の前にはさっきから落として回っているヘアピンの欠片が落ちている。どうやらまた迷って同じ道に出たらしい。
「どうなっているのでしょう?」
仕方なく、今までの印の上を歩きながらヘアピンの落ちていない道を探してしばらく歩く。
「あら?」
ヘアピンの落ちていない道を探し当て、そっちに進もうとしたときにあることに気が付いた。それは今進もうとしている道の逆側にあった。ここまで案内してくれたヘアピンの続くその先には、高い草の壁が立ちはだかって行き止まりになっていた。これだけなら別にたいした問題でもない。しかし、そこにヘアピンが落ちていることに、早苗は不信感を抱いた。
「変ですわね……」
腕を組み、頬に手を添えながら早苗は思い返してみる。それは今までたどってきたことの記憶だ。さっき自分が同じ道に出てしまう前、自分は確かに行き止まりには出くわさなかったはずだ。しかし現にヘアピンは行き止まりに向かって伸びて、そしてその先に消えている。そして、なぜかを考えているときに、さっきまで頭に引っかかって精神的に参ったを言わされたあの言葉を思い出す。
『草の反乱』
「!!? まさか!?」
踵を180度翻し、ヘアピンの落ちている行き止まりに向かって走り出す。
(もしかしたら……)
強引に草の壁に両手を突っ込み、思いっきり左右にこじ開ける。すると、
「やっぱり!」
小さく開いた穴の先にはゴールであろう光が輝いていた。
「草が動いて道をずっと隠していたんですね。ずるいですわ」
それこそが草の反乱だったのだ。草はずっと早苗が道を通るたびに、その都度自らの位置を交換してゴールへの道を隠していたのだ。しかし、嬉しさに感極まっていると、急に左右の草がものすごい力で閉じ始めた。
「きゃっ! な、なんですか!!?」
草は強力な力で閉じるのと同時に、蔦を早苗の手に絡め、さらにそのまま体のほうまで上ってきた。
「きゃー! なんですかこれ、やめてー!」
叫び声を挙げて抵抗するが、蔦は蛇のようにするすると早苗の体に巻きつき、もう腕と上半身が完全に動かなくなっていた。
「きゃーーー!!」
ああ、私、ここで死ぬんですね―――――
そんな絶望的な考えが脳裏をよぎる。そうこうしている内に、蔦はもう下半身にも巻きついて完全に止めを刺しに来ていた。
もう体が完全に動かなくなる。嫌だ! こんな所で―――――
「…死にたく…ありませーーーーーん!」
その瞬間、
ブチブチブチブチッ!
すごい勢いで体中の蔦が千切れていく。その途端、一気に手足が軽くなる。いや、正確に言えば千切れるときから、まるで纏わり付いた紙テープのように、蔦が何の苦もないほどに軽く感じていたのだ。そして、そのまま草が閉じてしまって挟まったままだった手をまた強引に左右に開く。
「あ、ああぁぁぁぁああーーー!」
とてつもなく重い草の壁。しかし、とても動かすことも出来ないようなそれがどんどんと開いていき、人が通れるくらいの穴が開く。そして開いた穴に一気に飛び込む。
ザザーッ! と豪快な音を立てて早苗は地面に滑り込んだ。それと同時にドーンッ! と、とても草が出すように思えないほど重く、巨大な音があたりに木霊した。
「いたた……」
体のあちこち、特にスカートの所為でむき出しの状態の足に擦り傷が出来てしまっていた。
「慣れないことはするものじゃありませんね」
だが、今の早苗には慣れないことをして負った怪我を悔やむことよりも、ひとつ嬉しいことがあった。
「やっとですね……」
目の前にはゴールへの道がただまっすぐ伸びていた。辺りの草の壁はもう襲ってくる気配などないただの草だ。早苗はそのまま、ゴールのゲートをくぐり、ゴールの部屋の真ん中のテーブルの上にあるゲーム盤へと歩みより、サイコロを振った。
「次のマスは……」
と、サイコロの出目とマスを確認し、新たなステージへの心構えをとっていた。ただ一つ、さっきの突然現れた力のことに、疑問を抱いて。
「はい、そうです。やはり近くにいると影響を受けるようですね………。は、それはもう……」
早苗が次のステージに行った後、誰もいなくなった草の迷宮。その高く聳え立つ草の壁の上に立ちながら、アイールは一人、前方に出現している光でできたモニターに向かって話している。ホログラムのように薄っぺらなそれには何者かが映って話していた。
『やはり睨んだ通りか。フフッ、流石だね、君の知り合いの友達は』
「いえ、それほどでも。それにあいつは知り合いなどと言うレベルのものではありません。あいつは敵ですよ、我々の……」
『それでは結果はこちらでまとめておく。君は引き続き、彼らの調査、報告を。君のプリンス・エゴティスカルはそれにぴったりの能力だからね。獲物を自分の手中に収めることが出来るんだから。私も与えた甲斐があったというものだよ』
「ありがとうございます」
アイールは画面の向こうの人物に対して深々と頭をたれる。
『それじゃあ頼んだよ、アイール』
「イエス、マイマスター」
そう言うと、モニターは消え、辺りにはまた静けさが戻る。
「ククッ、まさか現れるとはねぇ、この世界に……」
アイールは笑った。無邪気に、そして邪悪に。そして彼は、また違うステージに行ったのか、その場から姿を消し、辺りはまた静けさに包まれた。
どうも〜、おはこんばんちわ。
…すいません、少し古かったです。
さて、今回は達也の目線ではなく他のメンバーの行動に目を向けたものとなっております。
さ、もう正直言ってあとがきとか苦手なので早速行きましょう、キャラクタープロフィール、略してキャラプロ。今回はこの方、
キャラクタープロフィール No.07
鷺原美咲
誕生日 11月30日
身長 163cm
体重 52kg
スリーサイズ B76/W57/H71
趣味 面白いことを探すこと、面白いことを実行すること、カラオケ、散歩
特技 人の名前を覚えること、ボードゲーム全般、運動全般
苦手なもの 勉強全般(ただし覚える気がないだけで成績は上位に入る)、堅苦しいこと
好きなもの 可愛いもの、中華料理(特に麻婆豆腐、麻婆茄子など辛い食べ物)、バラード系ソング(カラオケでもよく歌う)
嫌いなもの 自分の思い通りにならない状況、またはそういう状況にするやつ、グロイもの
所属 月白高校二年B組
て、感じです。そういえばもうこの回長すぎてそろそろキャラクタープロフィール書く人なくなってきました。てことでそろそろのこの回も切り上げて新章突入したいと思いますので楽しみにしててください。
それでは、アリーヴェデルチ!