第14話 異能
前回までのあらすじ
敵に襲われそうになっていた達也を助けたシン。だが、そこにアイールが現れる。アイールはシンに尋ねる、「この能力に見覚えは無い?」と……
シンは顔に恐怖のような感情を乗せたまま、アイールに向かって口を開いた。
「それはまさか……、『知恵の実』の力!?」
「そのと〜り! 大、大、大正解どぅえーす!」
シンのその台詞を待ってましたと言わんばかりにアイールは馬鹿騒ぎを始める。
「なんでだ! なぜお前ら魔族が知恵の実の力を……いや、そもそもどうやって知恵の実を……!」
「それは秘密♪」
知恵の実? どうでもいいが、いい加減俺を置いてきぼりにしないで欲しい。完全に俺の存在忘れてるだろお前ら。
「な、なあ。知恵の実って……」
俺が話しかけた途端シンは糸の切れた人形みたいに崩れ落ち、地面に膝をつく。
「そんな…なんで……何で奴らが……」
おい、聞こえてるか俺の話?
「なあ……」
「――――――」
いきなりシンは立ち上がり、銃をアイールに向ける。そして銃口に光が溜まりだす。
「光弾!!」
引き金を引くと共に、前以上に威力があると一目で分かる光弾がアイールに向かいとてつもない速さで向かっていく。
「無・駄・☆」
だが、それも一撃で跳ね返される。
「君も往生際が……。!!?」
そう言って言葉をとめたアイールにはもう一つ光弾が迫っていた。隣を見るとシンがいつの間にか左手にも銃を構えていた。いける! いけるぞこれは! なんてったってあれだけ意表をついたんだから……、
バシュッ!!
「!!? そんな!?」
光弾は空しくも跳ね返されていた。それを見てさっきまでシンの顔に僅かに残っていた好戦の色は消え、絶望一色に染まる。そしてまた地面に膝をつく。
「あー、びっくりした。けどね、この空間じゃ僕に傷は負わせられない。それが僕の手に入れた能力だからね」
「なに……」
シンは聞き返すが、その声にはいつもの元気は無い。
「僕の力は攻撃を跳ね返す力じゃない。このゲームそのものが僕の能力なのさ」
このゲームが自分の能力? 何言ってんだあいつは。
「相手を自分の作ったゲームの中に閉じ込めて強制的にプレイさせる。これが僕が知恵の実の力で手に入れた能力。『プリンス・エゴティスカル』さ。君たちプレイヤーはゲームマスターである僕には手を出せないってわけ」
「『王子の我侭』……?」
気取った名前付けやがって。名前どおりの身勝手な力なのは分かったが、一体全体さっきから出てくる知恵の実って何のことだ。
「知恵の実は…天界の……『エデン』と呼ばれるところにある『知恵の木』になる果実だ」
「そっ、旧約聖書にも載ってるだろぉ。アダムとイヴがエデンを追われる話が。あれの原因になったものさ」
うるさい。今シンに聞いてるんだ。話に割り込むな。
「あの実は……食ったものに…特別な力を与える……。くそ! なんで……あいつが!」
シンはバンバンと地面を叩いて悔しそうにしている。
「ちょっとおしゃべりが過ぎたかな。じゃっ、僕はそろそろ行くよ。せいぜい死なないでよシン」
「! 待て! アイール!!」
「バイバ〜イ☆」
ムカつく挨拶をを言った途端、アイールの後ろに光の渦が現れ、その中に入っていく。
「待てぇ! 殺してやる! 貴様ぁ!!」
シンは激昂しながらアイールに向かって飛び掛ったが、さっきのバリアのようなもので跳ね返される。
「グアッ! く……っそがあぁ!!」
「やめろ!シン!!」
俺はまた飛び掛ろうとするのをすんでのところで取り押さえる。だが、それを振り払わんかのごとくにシンは暴れ続ける。
「放せぇ!! 殺してやる!!」
そんな俺達のやり取りを見て、アイールは「じゃあね☆」と言い残し、光の渦の中に消えた。
「待てぇ! この、こ…の……うわああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
俺達二人しかいなくなったジャングルの中に、シンの叫び声だけが空しく響いた。
「落ち着いたか?」
「…ああ……」
アイールが去った後、俺はしばらくへたり込んだまま動かなくなったシンを近くにあった巨大な木の下に引きずるように運んでいた。シンはまるで仲間外れにされて登校拒否になった小学生のように木の下で膝を抱えて丸くなっていた。
「あ〜、えーとだな……」
「……………」
まずい、空気が重い。何を言ったら……。
「そ、そうだ。飴食うか? 飴?」
俺は今日の朝、コンビニで買った棒付きキャンディをポケットから取り出し、精一杯の笑顔で渡してやる。
「ね、………」
「……………」
…助けてください! お願いします、誰か助けてください。この空気から開放してください。とんでもなくシリアスな分、ふざけてお茶を濁す選択肢が取れないのは痛い。
「あれは……」
と、俺が一人で悩んでいると、シンがやっと口を開いてくれくれた。
「あれは…知恵の実は……天界のエデンにあるって言ったよな………」
「ああ…まあ、言ったな……」
「あれは天界の最深部、俺達天使の精鋭が守護する場所にある知恵の樹から生るんだ」
話しているシンの顔をよく見ると、泣いていたのか、若干目の辺りが赤くなっていた。
「あそこにあるものを……よりにもよって魔界の存在に奪われるなんて……それに天界からは何の連絡が来ないところを見ると、恐らく実を奪われたことにも気付いてないんだろう」
「だったらお前が天界の偉い奴にでも言えばいいじゃねえか。居るだろ、神様とかそんなの」
「そういう問題じゃないんだ!!」
あまりの気迫に気圧されそうになる。そして、赤く充血した目から、ついに涙が零れた。
「俺にとって…大事なのは……存在なんだ! 俺にとって存在とは使命なんだ! 使命を全うできなかったってことは……俺の存在が…無くなったのと同じなんだ…。失いたくないんだ……自分の…存在を……。それしかないんだ……俺には……」
始めて見る姿だった。今まで見てきたこいつの姿のどれにも見られないものがあった。目からたくさん涙を零し、何度もそれを堪えようと顔を歪ませていた。純粋なシンの哀しさが、そこにあった。
「もう大丈夫だ」
「…え……?」
きょとんとした顔でシンがこっちを向いた。
「お前はもう使命だけで生きてるわけじゃない。存在ってやつは厄介なもんなんだよ。お前みたいに無くすのを怖い奴もいれば、無くしたいと思う奴もいる」
そんな事を体験したわけじゃないから分からない。こいつの気持ちを分かってるつもりだなんてうぬぼれてもいない。ただ、これだけは分かる。
「誰かがお前を居ていいって思ったら、もうそこにあるもんなんだよ。お前の存在、居場所がさ。そこじゃ使命を失敗したからって、誰もお前を否定したりしない。少なくとも、この世にどんなときでもお前を認めてくれる存在が六人は居る。俺を含めてな」
「……………」
そう、この世には居るんだ。どんな奴にも一人くらい、認めてくれる存在が。お前にはそれが六人も居てくれるんだ。お祭り好きなハチャメチャ部長にアイドル的な黒髪和製美少女。口うるさい同級生に読書好きだんまり系少女。パソコン好きのアホオタク。お前にはこんなにも仲間が居る。そんな使命失敗したことくらい、罰ゲームとして一発芸で許してくれるような奴らが。そんなことくらいでお前を否定なんかしない奴らが。それがお前のいていい場所なんだ。
「だから安心しろ。誰ももうお前をひとりにしない。俺たち六人はアホが多いが、仲間を裏切るような奴らは居ねえんだ」
「本当に……?」
「ああ」
「本当にか?」
「ああ。もし今度お前を否定するような奴らがいたら、俺らを思い出せ。そしたら絶対取り戻せるんだ。自分の存在を」
そうだ。存在は決して無くならない。認めてくれる奴等がいてくれる限り、信じているものがある限り。こいつは信じているものを無くしたかもしれない。だけど認めてくれる奴らを、居場所を見つけたんだ。だから無くならないんだ。これからも。ずっと。
「本当か?」
「ああ、だから本当だって……」
その顔を見て、俺は思わず吹いてしまった。シンの顔は目の周りがゴーグルのような形に赤くなっており、涙垂れ流し、鼻水垂れ流しのまさに顔くしゃくしゃ状態。そんなものを鼻先に突きつけられて堪えられるわけが無く、
「プッ…クク…、プァッハッハッハッハッハッハッ!」
大爆笑。そして、
パカンッ!
という音と共に頭に走る痛み。
「痛っ!」
「何笑ってんだ!」
シンはもう涙と鼻水を拭いて俺を睨んでいた。とてもさっきまで絶望していた奴とは思えないほどはつらつに。
「なんだよ! さっきまでアホ面下げて泣いてたくせに!」
「泣いてない! 誰がお前の前なんかで泣くか!」
「何言ってやがる! 泣いてたろうが!」
「泣いてない!」
いつものシンに戻っていた。あのどこか憎めなくて、アホで、頼りになるあいつに。もう二度と、こいつのあんな顔は見たくない。だから願おう。この笑顔が、この時間が、ずっと続くことを。
どうも、松村ミサトです。
いや〜、もう夏休みですね。皆さん何か予定がありますか?
今回初お披露目となります『能力』ですが、今回を境にちらほら出していこうと思います。今回出てきた『プリンス・エゴティスカル』、名前ちょっとダサいですかね?
物語後半でこんな能力者がたくさん出てきてバトルに発展する、というのが予定です。
じゃ今回もいきましょう。キャラクタープロフィール。
キャラクタープロフィール No.05
西田七瀬
誕生日 6月20日
身長 150cm
体重 39kg
スリーサイズ B67/W55/H68
趣味 読書(本なら何でも)、ペットのカナリアと遊ぶこと、食べること(見かけによらず大食い)
特技 陸上競技(100m走11秒2 全学年トップ)、蹴り(強い)、編み物
苦手なもの 泳ぎ(人並みには泳げる)、落ち着かないと感じる場所
好きなもの 動物、辛いもの、友達
嫌いなもの 動物をいじめる人 物を大切にしない人
所属 月白高校一年D組
今回こんな感じです。動物が好きっていうのはいいですね。僕も動物大好きです。
それではまた次回。