宣戦布告
「それでは、仕方がないから次回の魔王軍対人間軍対抗戦飲んでについて話し合うことにしよう」
魔王は、あまり気の乗りがしない調子でそう言った。
「でも、正直に言って魔王軍対人間軍対抗戦って何だか最近マンネリ気味なんだよなー。いつも魔王軍の代表戦士が一方的に勝つばかりで、客の入りも最初の頃は会場が満員になっていたのに、今では八割くらい入ればいい方っていうのが現状だ。これでは興行的にも採算が取れんぞ。それに昔はゴールデンで放送しても視聴率がそれなりに取れたが、今では人間側の代表戦士が弱すぎて人間の視聴者が離れていって今では放送枠も深夜帯に移されて、一部のマニアックな者共しか見ていないんだよなー」
「それでも、魔王様は毎回何だかんだ言っても興行を打ちますよね」
「それが、私の趣味だからな。何しろ人間軍の代表戦士を我が魔王軍の精鋭が叩きのめして、あの生意気なシャルロッテ姫が悔しがる地団駄を踏んで悔しがる姿を見るのは、私の何よりの楽しみなのだ」
「魔王様はシャルロッテ姫のをいじめるのが、本当に好きですねー。もしかして男の子が好きな女の子をついじめちゃうっていうアレじゃないですかー?」
「い、いや。断じて私はそんなことは思っていないぞ! ただ私は魔王軍の頂点に立つ者として人間どもが苦しむ姿を見るのが楽しみなのだ」
「魔王様。ヒュー」
と魔王軍の幹部が一人が魔王に向かって冷やかすように言うと、他の幹部たちも魔王を囃し立てるように各々声をあげた。
「やーめーろーよー。この話はこれでおしまいだ。それではこれより真面目に魔王軍対人間軍対抗戦についての会議を始める」
魔王が、突然真面目な顔をしてそう言うと周囲の幹部たちも真剣な態度になり沈黙した。まあ、今さらどんなに真剣な雰囲気を出そうとしても手遅れだと思うが、と真は思った。
「それで、アルバトロス王国王城との中継は繋がっているのか?」
「はい、魔王様。アルバトロス王国のテレビクルーがシャルロッテ姫の前で準備しております」
「よろしい。では、中継を繋げ」
すると、画面が切り替わりシャルロッテの姿が写し出された。
「これはこれは、シャルロッテ姫。ご機嫌はいかがかな?」
魔王はシャルロッテが大写しになっている画面の隅のワイプから慇懃にシャルロッテに語りかけた。
「ふん。良いわけがなかろう。特にお主と話していると思うだけで虫酸が走るのじゃ」
「相変わらず身体同様心まで小さいと見受けられる」
「うるさい! 妾はまだ成長期なのじゃ! これから数年後にはナイスバディーの大人の色気ムンムンのレディーになるのじゃ!」
「そのような成長期の身体の発育を促すためには、魔王印のハッピー牛乳をオススメするぞ」
「うるさい! 誰がそんなものを飲むかそれに牛乳なら毎日飲んでいるのじゃ」
「いや、魔王印のハッピー牛乳は他の牛乳は他の牛乳とは違う。何しろたんぱく質とカルシウムが豊富に入っていて、しかも飲みやすい普段牛乳が苦手というお子さまたちにも好評だ。特に姫のように短気な人間には魔王印のハッピー牛乳でカルシウムを多量に摂取すれば良いと思うがな」
「ふん。口を開けばまた魔王印の商品の宣伝か。親の七光り男は色々苦労が絶えないようじゃな」
「なんだと! 私のことを親の七光りだと。また言ったな。私が一番言われたくないことを言いおって」
魔王は言葉のはしに怒りをこめてそう言った。
「事実じゃろうが」
どうやら魔王は親の七光りとか言われるのが嫌なようだ。
「それを言うなら姫の方こそ親の七光りではないか! 一国の王女という立場を利用して好き放題やっているのではないか? そんなことでは民心が離れていくぞ」
「なんじゃと! 妾はお主のように無駄にテレビに出たりラジオに出演したりして必死に存在感を示そうなどとはしておらん。お主はそうしなければ前代の魔王の存在感を超えられないと焦って必死になっているのではないか?」
「ぐぬぬ」
魔王は悔しそうに歯ぎしりしている。
「どうやら図星だったようじゃな」
「やはり、我々はお互いに分かり合えずに、争い合う運命にあるようだ。よろしい次の魔王軍対人間軍対抗戦でまた人間軍代表戦士を叩きのめして、いつものようにお主を泣きっ面にしてやろう。それで、人間軍の代表戦士は用意できているのか? そろそろ人材も尽きているころだと思うが、もしも出場することに意味があるだなんてことを考えているならやめておけ、時間の無駄だ」
「フフフ。次回の戦いの戦士は既に決まっている。人間軍の切り札にして救世主! まだ見ぬ強豪“地獄の暴君”ことプロレスラー、デストロイ早乙女じゃ!」
シャルロッテが言うとカメラは、胸を張りながら腕を組んでいる真を写した。
真は“まだ見ぬ強豪”という甘美な響きを耳にして、気分が高揚しながら、唇を歪めて不敵に微笑んだ。ここはあえて何も言わずに無言で通すことで“まだ見ぬ強豪”としてミステリアスな雰囲気を出すことができるという真なりのセルフプロデュースであった。
「ほほう。どうやら今までの雑魚とは少しは違うようだな。それならば我々魔王軍も少しばかり本気を出してみようか」
「ふん。このデストロイ早乙女は逃げも隠れもしない。どんな敵でも相手になるぞ」
シャルロッテがカメラに向かって言った。
「よろしい、ならば皆の者誰か次の対抗戦に名乗りをあげる者はいないか?」
魔王は会議に列している幹部たちに向かって言った。
「魔王様。その役目は私にお任せください」とそう言って立ち上がったのは、長身で細身の体をした耳が尖った美しい容姿をした青年だった。
「ほう、“魔風の貴公子”ベルナデッドか、そなたほどの者が出るまでもないと思うが、良いだろう軽く相手をしてやれ」
「はい。必ずや魔王様のご期待に添えるように人間軍の代表戦士を敗北させてみせます」
「うむ。今度こそあのシャルロッテの心を折り、屈辱の極みを味合わせて二度と私にあの小娘に生意気な口を聞けなくさせてやるのだ!」
そう言って魔王はドンと手で机を叩いた。
「どうやらそちらの方の話はまとまったようじゃな。まあ、相手が誰でも構わんぞ。それで、対決の日時はいつにする? こちらはいつでもよいのだがな」
シャルロッテが魔王に向かって言った。
「その自信は、どこから来るんだ? 言っておくが今までの魔王軍対人間軍対抗戦の結果はこちらの12連勝中で全勝しているのだがな」
「ふん。プロレスこそ最強の格闘技、プロレスラーこそ最強の格闘家、そしてデストロイ早乙女はプロレスラーなのじゃ! どう考えてもこちらに負ける要素などないのじゃ」とシャルロッテは昭和のプロレスファンのようなことを堂々と言いきった。
「よかろう。日時はいつでも言いというなら、早速明日の午後8時に行うことにしよう」
「それで、場所は?」
「闘いの聖地“豪羅苦炎ホール”だ」
「わかった」
とシャルロッテが真の意見なども聞きもしないで、勝手に話を進めていく。まあ、真にとっても闘えれば日時や、場所などどこでも良いのだからこの話は願ったり叶ったりであった。最悪DDTのようにどんな場所でも闘う覚悟ができていた。
テレビの画面には『緊急決定! 魔王軍対人間軍対抗戦 “魔風の貴公子”ベルナデッドvs“地獄の暴君”デストロイ早乙女 “豪羅苦炎ホールにて午後8時開催”』という文字が大きく写しだされた。
真はその文字を見ながら“豪羅苦炎ホール”とは『魁! 男塾』の作者か、中二病の患者か、ケロちゃん並みのネーミングセンスだな、と心の中でツッコミを入れていた。
それにしても、真はこの世界に来てからというものツッコミたいことばかりだと思った。早く誰でもいいからこの今の真の強靭な肉体から繰り出すツッコミを入れたいという強い思いを抱いた。