魔王軍秘密会議
「それで、俺はいつどこで誰と戦えばいいんだ?」
真はシャルロッテに聞いた。
「それは、これから決める。ちょうどこれから魔族の秘密会議がテレビで生中継されるから、その話次第じゃ」
「秘密会議をテレビで生中継って、それは全然秘密じゃねーじゃねーか」
真は軽くツッコんだ。
「そうなのか? いつもそうしているから気がつかなかったが、普通はそういうものなのか?」
「はあ。まあいい。とにかくその秘密会議とやらを早く見せてくれ」
「うむ。それでは誰かテレビと妾を写すテレビカメラを用意せよ」
シャルロッテが周囲に立っていた侍従たちと思われる人間にそう命じると、真とシャルロッテの目の前に巨大な画面のテレビが用意され、カメラマンとおぼしき人間が肩にテレビカメラを担いでシャルロッテと真にカメラのレンズを向けた。
──もう、何でもありだなこの世界は、早く俺も順応しないと。
真は内心にため息をつきそうな気持ちで、そう思った。
「さて、そろそろ時間だな」
シャルロッテはテレビに持ったテレビのリモコンを使ってテレビの電源をつけた。
画面の中には額から一本の角を生やした、耳が尖っていてTシャツを着た小学生くらいと思われる少年が写し出されていた。
少年は肩を落としてうなだれている。
「あー。僕もたくましくなりたいなー」
少年は誰にともなく呟いた。
すると、突如少年の隣にボンという音とともに小さな爆発が起こり煙が立ち込めた。
煙が晴れるとそこには、額に7本の角を生やした黒い色のマントを羽織った青年が現れた。
「あ! 魔王様だ!」
少年は嬉しそうに目を輝かせて魔王と呼ばれた青年を見上げた。どうやらこの青年が魔王コワルスキージュニアなのだろう。
「少年よ。君はたくましくなりたいのかい?」
「うん! でもどうやったらたくましくなれるのかわからないんです」
「そうか。そんな時はこれ!」
そう言うと魔王はマントの中から牛乳パックのような紙パックを取り出して画面に向かって、それを勢いよく差し出した。紙パックには“魔王印のハッピー牛乳”と書かれていた。
「さあ、このたんぱく質、カルシウムたっぷりの“魔王印のハッピー牛乳”を飲めば、君も魔王軍の精鋭のようにたくましくなれるぞ!」
魔王は満面の笑みを浮かべながらカメラ目線でそう言った。
「うん! ありがとう魔王様!」
少年はさっきまでのうなだれた様子が嘘のように、笑顔を浮かべている。
場面が切り替わると魔王と少年が並んで左手を腰に当てて胸を反り返らせながら、牛乳がつがれているコップを口に当て一緒にその牛乳を一気飲みしていた。
二人は同時に飲み終わると「プハー。おいしいー」と言った。
魔王は再びカメラ目線になると、笑顔で画面に向かい「さあ、君も魔王印のハッピー牛乳を飲んで元気モリモリだ!」と言った。
「えーと、この茶番劇は何なんだ?」
頭が混乱している真はシャルロッテに尋ねた。
「CMじゃ。魔王は様々な事業に手を出しており、魔王印という物をブランド化して、国費を増やそうとしているのじゃ」
「はあ」
真はそれしか言えなかった。
CMが終わると一瞬画面が暗転して、次に画面上に『生放送! 魔王軍定例秘密会議』という文字が現れた。スピーカーからは、重厚な音楽が流れてくる。
画面の中では、長いテーブルが設置されてありそのテーブルを囲むように10数人くらいの人間というか、魔族というかわからない者たちが座っているようだが、部屋の中は暗くて様子がよくわからない。
突如長テーブルのお誕生日席に座っていた人物の上に光(ライト?)が当たった。光の中から浮かび上がったその人物の姿はさっきCMで見た魔王コワルスキージュニアであった。
「それでは、これより魔王軍秘密会議を始める」と魔王が言うと、周囲から一斉に拍手の音が聞こえてきた。
「まずは、前回の会議の議題『2次元の妹は実の妹と義理の妹どちらが良いか』について少し振り返ってみよう」
周囲からオーという声が聞こえてきた。
「私の意見としては、やはり物語を最終的に二人が結ばれるハッピーエンドで終わらせるためには、血の繋がらない義理の妹が良いという意見であったのだが、それに対する反論などがある者はあったか?」
魔王が周囲に問いかけるようにそう言った。
「魔王様は、わかってないですねー。血が繋がりながらもお互い想い合い、決して結ばれない二人の禁断の関係が心をくすぐるんじゃないですか」
会議に列してしていた魔王軍の幹部の1人と思われる者がそう反論した。
「いや、私としてもそこら辺の禁断の関係が醸し出すインモラルなシチュエーションの良さについては理解しているつもりだ。その決して越えてはいけない一線をいつ越えるかどうかを視聴者や読者に期待させてやきもきした経験が私にもあるのは認める。だが、結局結ばれずに最終回を迎えた時の虚無感には、強靭な精神力を持つ私にも耐え難いものがある」
「だ・か・らー。魔王様はそこが間違っているんですよ。血の繋がった兄妹の禁断の愛! 気持ちが通じ合ってもお互いに触れ合うことすらできない。これこそが究極の純愛であり、プラトニックラブなんですよ。例えば最終回にお互いに気持ちを伝え合わなくても、お互いに一瞬だけ心が触れ合い、真の愛を確かめ合い、お互いに別々の道を歩み始める。そこに感動が生まれるんですよ」
「だが、深夜アニメなどを見ているときに『もうそこまでいっちゃったなら最後までいっちゃえよ』と何度も血が滲むほどに拳を握り締めたことか、やはり私としては血が繋がっているなら、いや、だからこそ禁断の一線を越えて欲しいという期待を拭い切れない。まあ、成人向けの創作物にはそういうものが大量にあるがな」
「あー。魔王様それはアウトですぅー。この秘密会議は良い子のお友達も見てるんですよ。成人向け創作物の話は深夜のラジオでしてください」
別の魔王軍の幹部が魔王に言った。
「それもそうだな。今の発言はカットしてくれ」
「魔王様この秘密会議は生放送ですよ」
「そうかそれなら、これを見ている良い子のみんなはお父さんお母さんに『せいじんむけそうさくぶつってなに?』なんて質問してお父さんお母さんを困らせないようにしてくれ」
「魔王は深夜のラジオの番組のパーソナリティーをやっていて、そこで昼間では話せないようなエッチな話をしているらしいのじゃ。そんな下劣な手段を使って民衆の人心を掌握しようとしているのじゃ。全く卑劣な奴じゃ」
テレビを見ていたシャルロッテ吐き捨てるように言いながら真に説明した。
テレビ画面の中では、魔王軍の秘密会議が続いている。
「それにしても、魔王様はまだ若いですなー。やはり若いうちは早急に即物的な展開に飛びつきたくなる気持ちはわかりますが、やはり一周すると純愛こそが至高と思わずにはおれませんな」
また、別の幹部が言った。
「いや。私は魔王様の意見に賛成です。最終回でお互いが永遠の愛を誓い合い、物語が終わった後も一生この二人は幸せな人生を歩んでいくんだろうな、という余韻を漂わせるラストこそが良いと思います。例え物語が終わった後も二人は手を取り合いどんな苦難も二人で力を合わせて乗り越えていくのです! だから、私も義理の妹の方が良いという魔王様の意見に賛成します」
「いや、私としては実の妹か義理の妹かどうかは、どうでもいいです。重要なのはその妹がツンデレかどうかだということだけです」
「それを言うならクーデレの妹の方が良いと思いますぞ」
「私はやはりデレデレのお兄ちゃん大好き
っ子が好みです」
「ベタですがヤンデレの妹を私は支持します」
「それなら、本当はお兄ちゃんのことが大好きなのに、素直になれずについお兄ちゃんに冷たい態度をとってしまい、1人で部屋にいる時にベッドの中で自己嫌悪に陥って枕に顔を埋めて足をパタパタさせている妹というのはどうでしょう?」
その後も、魔王軍秘密会議は侃々諤々の様相を呈してきて収拾する様子を見せなかった。
「もう良い! 誰か今からこの会議を放送しているテレビ局にシャルロッテからの伝言だと言って電話をかけろ! 次の人間対魔王軍のことについて話せと伝えよ! イタズラ電話と思われないように関係者専用の回線を使え!」シャルロッテはテレビの画面を睨み付けながら側にいた侍従に言った。
数分後、テレビ画面の中では相変わらず魔王軍の面々が、果てしなく下らないことを言い合っている。
すると、画面の中の魔王は何かに気がついたようにカメラの方を見た。
「何だ? ADからカンペが出ているぞ。何々? 神聖アルバトロス王国のシャルロッテ姫から次回の人間対魔王軍対抗戦について話をしろと苦情の電話が来ているだと? まだ懲りないのかあの小娘は、我々はこれより今回の議題『美少女仮面優等生の本当の素顔を知ってしまって二人だけの秘密の関係になったときにどうすべきか?』について話し合おうと思っていたのだが、仕方がない今回は急遽企画を変更して次回の魔王軍対人間対抗戦について話し合うことにしよう」